外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん

穴の空いた靴下

最終話 忙しくも充実した日々

「次の方どうぞー」

 ドクターとして働いているユキミが次の患者さんを呼んでくれる。

「あああ、ダイゴロー様どうかうちの娘を助けてください!」

「お父さん落ち着いてください。ダイゴロー様はちゃんと診てくださいますから」

 フィーが興奮した父親をなだめてくれる。
 父親の後ろからおずおずと女性が現れる。
 猫型獣人のシャム柄だ。可愛い。

「いっつ!」

 ユキミが思いっきり足を踏んできた。いかんいかんだらしない顔になっていたか。

「診てくださいこの赤いコブを!!」

 お父さんがガバッと女性の上着を持ち上げる。あまりに勢いが強いからお腹の出来物よりもその上に腫れている2つのものに目が「ぶべぇ!!」

 ユキミにひっぱたかれた傷をさすりながら診察を開始する。

「ちょっと触りますから楽にしてくださいね」

 見た目は……悪いな……赤く隆起していて軽く押しただけで周囲に発赤を呈した。
 ダリエ兆候……肥満細胞腫の典型的な反応だ。
 そのまま診察をしていく。間違いない、皮膚型肥満細胞腫、悪性の腫瘍だ。
 そのまま全身を丁寧に診察していく。
 幸運にも局所発生だった。この大きさでは幸運と言うしか無い。

「これは悪い腫瘍で肥満細胞腫と言います」

「悪い……腫瘍……」

 お父さんがぶっ倒れたが、フィーに任せて話をすすめる。

「それでも安心してください。全身には影響を与えていないし、ここだけを取れば十分治療効果が期待できます!」

「ほ、ホントですか……?」

 真っ青だった顔色がほのかに色めく。

「このまま処置に移りたいと思いますので、そちらに横になってください」

「こ、このままですか?」

「大丈夫です。痛くも痒くもない、皆さんそうお話だったでしょう?」

「え、ええ……でも、切るんですよね?」

「正確には魔法で分離する。です。まぁ、あそこのアラセス様の御神像に祈りを捧げていてください。
 すぐに終わります」

 俺は横たわった患者さんの幹部に手を当てる。
 正確に腫瘍細胞の辺縁を把握する。細胞単位の腫瘍細胞だろうが見逃さない。
 着実なマージンを把握して、感覚を魔法で麻痺させる。
 そして細胞間を分離させる。すべて魔法でだ。
 血は一滴も出ない。いともたやすく腫瘍は完璧に切除される。
 傷の縫合はもっと出鱈目だ。
 さっと手をかざせば傷口一つなく回復している。
 回復魔法を皮膚の組織レベルで精密に行えばこういう芸当も可能だ。

 この治療方法は、俺以外でも分業制で行うことが出来る。
 腫瘍の位置を正確に把握することが出来る者、情報を共有できる者、腫瘍を分離することができる者、感覚を麻痺させる者、傷口を綺麗に癒やす者。
 それぞれ細かく修行することで、俺でなくても患者を治すことが出来る。
 そういう組織を作り上げた。

 その名も、アラセス教魔法医療大学。

 素質のある魔道士による医療魔法の勉強を始め、魔力に頼らない公衆衛生知識や、幅広い薬学、外科学、内科学などの勉強を行える。
 学長は俺だ。
 もう隠すこと無くアラセス神の使いとして医療・獣医療を皆に広めている。
 フェリカ王国のお墨付きもあるし、アラセス教の総大司教でもある影響力でフェリカ王国を中心にアニモルトの世界により進んだ医療を広げている。

 そう言えば、アニモルトの世界は3000億年続いているが、なぜか医療が現代地球の中世くらいなのは、ある程度以上文明が発達すると大きな争いが起こり、滅亡しては復活してと繰り返しているそうだ。
 獣人なんかが出てきたのもそんなに大昔では無いそうだ……
 俺がいる間はできれば大きな争いがないといいななんて思ってる。
 それでも人の業ってものは深いのかもしれない……

 閑話休題。
 そんなわけで、俺は毎日、教育、診療、司教としての仕事、国の公衆衛生の責任者としての仕事に追われている。
 べグラースの魔石や魔道具に込められた莫大なエネルギーを利用して、国家規模のプロジェクトもいくつも動かしている。
 アニモルトのいろんな国へと政治交渉して医療知識も提供している。
 カナイン帝国は残党の魔物刈りが終わった後は自治区として事実上フェリカ王国の属国になっている。
 まぁ、その責任者もキンドゥだから、間違いなくいい国になっていくだろう。
 大量の優秀な息子、娘達が急ピッチで復旧作業を急いでいるようだ。

「はーーーーー、やっと終わった。
 今日は珍しく診察が日が沈む前に終わったな……」

「若い先生もどんどん実力をつけてくれてますから」

 フィーがお茶を出してくれる。
 フィーは俺の奥さんとしていつもそばに居てくれる。
 秘書としても大変優秀で、俺がこのハードスケジュールをこなせているのは彼女のおかげだ。

「ふー、こっちも終わったニャ!」

 途中から一般診療を手伝ってくれていたユキミも戻ってくる。

「はいユキミおねーさま。お疲れ様です」

「フィーは気が利くねぇ……鼻の下伸ばして診療してる誰かさんとは違うニャ!」

 べーーっと舌を出されてしまった。

「オーっす! 今日は早く終わったらしいな! 飲みに行こうぜ!」

 学長室にドカドカとキンドゥが入ってくる。
 一応高齢で冒険は引退したが、まだまだ元気だ。あっちの方も。

「キンドゥ、ノックぐらいしろよー。でも飲むって話は賛成だ!
 よーし、皆行くぞー!!」

 俺は荷物をまとめて街へ繰り出す準備をする。

「ナツミとアキヨも終わったら来るように伝えといてー。フェートとファーガは部活か……ま、声はかけておくか……」

 ナツミとアキヨは俺とユキミの娘だ。美人だぞー。メッチャかわいいぞー。
 キンドゥは見境ないから二人も口説いてくるから目が離せない。
 フェートとファーガはフィーとの息子だ。
 二人共、文武両道で頑張っている。大学ではファンクラブまで出来ているらしい。

 ……ただ、悲しいことに俺らの子供は普通の人間だ。
 いつの日か、先に旅立たれてしまう。
 残酷な現実はいつの日か訪れるが、その日まで後悔の無いよう楽しんで生きていく。
 俺とユキミとフィーはそう決めている。
 愛する我が子やその子どもたちが幸せに暮らせる世界を作る。
 俺達の共通した目標だ。

「にゃーん」

「げ! ……きこえなーいニャ……」

「ユキミおねーさま。バレてますよ。聞こえないじゃないぞユキミ! だそうです」

「ふぇェェェ……んで、アラセス様はなんて?」

「えーっと1週間以内に北のセレスタンにバグホールが開く可能性が高いから出来る限り早く処理するように。だそうです」

「はぁぁぁぁぁぁ、人使いが結構荒いよねアラセス様……」

「仕方ないニャ、今新世界の準備で大忙しニャ!
 ラーニャ様もこないだ愚痴ってたニャ!」

「にゃーん」

「あ……うふふ……アラセス様が、今日ぐらいは思いっきり楽しんできても大丈夫だから行って来いだそうです。p.s.いつもの店にヘスティアんとこの酒置いとくぞ」

「こういう気遣いがあるから、あの人の部下はやめられないんだよなぁ……」

「あの酒がはいるのか!? あいつらも呼んでやろう飛んで来るぞ!」

「よっしゃ、今日は朝まで飲むぞ!!」






 こんな感じで、忙しくも楽しく。俺は生きている。
 異世界で獣医師として。
 幸せに生きています。

 俺は、この世界に転生して、最高に幸せです。

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コメント

  • コーブ

    令和元年5月11日
    読みやすくて面白い作品でした♪有り難うございました♪

    0
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