外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん

穴の空いた靴下

69話 対面

 目の前で起きていることは現実感がなかった。
 異形の化け物が、ナニカを食べていた。
 いや、分かっている。あれは『人だった物』だ。
 どこだここは……?
 そこら中、血や食べかすで汚れているが、作りとしては立派な……神殿や王宮を思わせる。
 だが、光景との矛盾が大きすぎて、脳みそが受け付けない。
 固まっていた口が動き、肺が空気を吸い込む。
 思わず戻しそうになる。血と臓物の濃い匂い。

「フィー……見るなよ……皆、無事か……」

 あまりの出来事に、ここでようやく仲間への声が出る。
 迂闊だった。
 声を上げたことで、異形の者達が一斉にこちらを向く。
 ギラリと光る巨大な瞳が次の獲物を捉えた瞬間を目の当たりにする……

「ヒッ……な、なんなんニャ……」

 ユキミの怯えた声がする。
 声をする方を確認し、思わず手を握った。

「ユキミ、離れるなよ! 絶対にだ!」

「わ、わかったニャ!」

 俺は全方位に最大限の威圧を放つ……俺自身の強化を受けていなければ殺されたと錯覚するぐらい強烈な奴だ。
 しかし、周りの奴らは気にした様子もない。
 恐怖というものを感じる器官がどうかしてしまっているんだろうか……
 そうでもなければ、この環境で普通にしてられるわけがない……

 むせ返る死臭で気分が悪くなる。これは全員同じだろう。
 周囲を観察して、やはりここが王宮などの立派な作りの成れの果てであることを確認する。
 少しづつ警戒しながら移動して壁際まで移動していく。
 皆、今の食事に興味が行ったのか反応しない。

 壁沿いを慎重に移動して扉へとたどり着く。
 施錠はされていない。
 ゆっくりと扉を開けて内部を確かめる……
 不思議と動く気配は感じない。

「ネズラース、この中を探ってもらえるか……」

「……動いているものはいないが……なるほど、ここは王の間なんだろうな……」

「とりあえず、あの化け物たちがいなさそうなら、そっちへ行こう。
 ユキミ、大丈夫か?」

 繋いだ手は汗でじっとりと濡れている。俺の汗なのかユキミの汗なのかわからない。
 さっきから全身から嫌な汗が吹き出て止まらない。

「大丈夫ニャ……でも、この奥……いや、行くニャ!」

 扉から隣の室内へと侵入する。
 王の間、たしかに美しい装飾が凝らされた、少し華美な気もするが……
 ただ、死臭は隣の部屋の比ではない……
 あの惨劇はまず、ここで起きたんだろう。
 そして、もっと大量のヒトがここにいたんだろう……
 こびりついた血やナニカで物語っている。

「ぐう……」

 ユキミの嗚咽が聞こえる。
 俺もギリギリで耐えているが、これは……酷い……

「誰かいる……」

 玉座に何かがいる。
 目を凝らせば、人だ。
 王冠を被り、立派なマントを羽織った獣人がいる。

「……アラセス……様……?」

 その人物の顔を見て、俺は口から溢れるように言葉を発していた。

【アラセスだと……? 今、貴様はアラセスと言ったか?】

 地獄の底からの響く音のような、人間に恐怖を与える声と言うものがあったら、こういう声なのだろう。聞くだけで心臓を鷲掴みされたような気分になる。

【……そうか、貴様らがアイツの道具か……くっ……クカカカカカカカカ!!
 喜べ! お前らは今から餌としての役目を持ったぞ!
 俺から役目を与えられる名誉に震えるがいい!】

 その人物は歓喜に震えていたが、目の前に立っている俺は恐怖に震えるしか無い。
 魂が恐怖している。
 手を繋いでいるユキミの体温がみるみる下がってガタガタと震えだしている。

【どうした? もっと喜ばんのか?
 お前たちはアラセスを呼び寄せる餌として生きる権利を得たのだぞ?
 すべてが壊れていくこの世界の最期まで生きることを許された。
 こんなに素晴らしいことは無いではないか?】

「ふむ、貴殿は魔神殿か?」

【うん……鼠風情が人の言葉を話すのか?
 カカカカカカ! 愉快愉快!
 褒美に答えてやろう。ここは帝都、人共が享楽を貪っていた都よ……
 すでに我が同胞によって血と肉の狂乱に包まれた、最初に滅んだ都だ!
 ようやく手に入れた力、最期のピース。
 ここからこの世界の破滅、そして神々の滅亡が始まるのだ!!
 カカカカカカーーーーッッカカカカカカカカカ!!】

「世界の破滅……?」

【なんだ、話せるのか木偶?
 そうだ、この世界、忌々しき世界。
 のうのうと安寧に包まれた平和な世界。
 くだらなき世界、神に愛された世界……
 そんなもの、つまらないだろう? だから滅ぼす】

「な、ニャんの権利があって……」

【権利!? 権利と言ったか貴様!!??
 創造主が創造物を壊すのに何の権利が必要なのだ……!?
 俺が作ったものを俺が壊そうとしただけだ、ただそれだけであやつらは……!!
 だからあやつらも、この世界も滅ぼすんだよぉぉ!!】

 振り払われた腕からものすごいエネルギーがユキミに向かって飛んでくる。
 俺は全力でそのエネルギーを振り払う、圧倒的なエネルギーの塊を全力の魔力を込めた拳で叩き落とす!

 ビリビリと宮殿を揺らし、俺らの左後方の地面は巨大なクレーターを作ってえぐられた。
 右腕からはボタボタと血が垂れるがなんとか弾けた。
 ユキミは無事だ……
 右腕は複雑骨折を起こしていたが、自己再生と言っていい治癒力でミチミチと治していく。

【ほう、木偶のくせにやるじゃないか……
 ほこりを払うようなものだが、それを防ぐとは、忌々しいアラセスとつながっているだけはある……
 そうだなぁ、お前らを餌にアラセスを呼ぶのはいいが……
 どう餌があることを知らしめるか……
 そっちの人形を使うか……】

「ユキミに何をするつもりだ?」

【何をしようが勝手だろ?
 俺が作った世界では俺が何をしてもいいんだよ。
 それが嫌なら、アラセスが出てくればいい……それだけだ……】

「俺が作ったと申されるが、貴方は何者なのだ?」

【鼠、一度なら許すが二度許した憶えはない。
 まぁ、今から消えていく存在に名乗ってやるのも王としての懐を示すか……
 我が名は、レディオウス! この世界を作りし神、今は神をも越えた存在 レディオウスである!】


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