外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん

穴の空いた靴下

70話 作戦

【レディオウスである!】

 高々と名乗りを上げた、自称神、いや、神を超えた存在レディオウス。
 その発言に不遜はないほど、強大な力を持つことは間違いない。

『名乗りを上げたのなら間違いない。ダイゴロー、目の前の人物が魔神レディオウスだ』

『ま、魔神なんて……もう、お終いニャ……私たちになんてどうにも出来ないニャ』

『ネズラースは知っているのか? レディオウスって魔神を……』

『ああ。ダイゴロー。頼みがある。どうにかして、私をレディオウスに触れさせてくれ……』

『どうにかして……って……』

『困難なのは承知している。その上で頼む。それが俺の役割だ』

『無理ニャ! 神と戦うなんて……』

 俺も生唾を飲む。
 目の前に神がいる。
 そして、これから神と戦おうというのだ……
 こんな、馬鹿な話があるだろうか?
 俺はただのしがない獣医師でしか無い……

「それでも、世界が滅びるのをただ見ているのは嫌なんだよな……
 ユキミ……フィーを頼む」

 フィーをユキミへと託す。
 俺は頬を叩いて気合を入れる。ガクガクと震える膝を叩いて震えを止める。
 改めて魔神レディオウスを見る。
 最初はアセルス様ににていると思っていたが、柄も違ければ、あんなに濁った瞳はしていない。
 アセルス様はキラキラとそして優しさに満ちた瞳をしている。

【どうした木偶よ、頭でも狂ったか?
 まるで俺に文句でもあるような目つきだが?】

「世界を滅ぼされるのは嫌だ。俺はこの世界が好きなんだ」

 魔力を回す。全身を巡らす。丹田に意識を込める。
 魔力が高まる暖かさが、俺に勇気を与えてくれる。

【……しかし、なぜか貴様の魔力は俺を苛つかせるな。
 ま、餌としては肉塊でも構わん。この空間では生殺与奪は俺の思うがままだ。
 暇つぶしの余興だな、こいつらとじゃれついておるがいい】

 魔神レディオウスは毛を抜き取り、フッと息をかける。
 空中に舞う毛がもりもりと肉を受け異形の化物に姿を変える。
 ゲームで見たことがあるぞ、ベヒモスとかいう魔物だ……
 虎やライオンのような肉体に牛のような角……
 巨大な身体が筋肉の要塞のようだ……

「俺は動物園の獣医師じゃないんだけどね……」

 怖い……はっきり言って恐ろしい。
 でも、直感が告げている。
 今、退けば、世界の終わりだと。
 キンドゥから貰った剣にも体内をめぐる魔力を流し込む。
 大量の魔力を受けて剣が煌めき出す。
 ミスリル合金を用いた超高級品らしい、昔キンドゥが使っていたお下がりだが、その剣の輝きは全く色あせていない。今、俺の魔力を受けてその輝きは何倍にも増している。

 その巨体からは信じられないほど凄まじい速度でベヒモスは飛びかかってくる。
 振り下ろされる爪は禍々しい黒いオーラを帯びている。

(見える……)

 極度の集中力と極限の強化で俺の能力が飛躍的に高まっているのか、その超高速の攻撃もはっきりと視認できている。
 目の端でレディオウスが終わったな、としたり顔で見ているのが見える。
 そうは問屋が降ろさないんだよ!
 振り下ろされる爪の一番外側の爪に狙いを合わせて剣を切り上げる。
 軽い抵抗感があった後に、爪に剣が入り込んでいく。

 俺とベヒモスの影が交差する。

 ひゅんひゅんと空気を割いて俺が切り落とした爪が地面に突き刺さる。

【なん……だと……?】

 爪をまとっていたオーラが霧散すると爪は灰になって消えていく。

【何者だ貴様……? どうして穢を切れる……?
 神を殺すために俺が数千億年かけて作り上げてきた物だぞ……
 人間風情が……】

 怒りのオーラが伝わってくるだけで死にそうになる。
 ユキミたちへも強化は忘れていないが、失神してもおかしくない。
 それでも、俺は作戦のために虚勢を張らないといけない!!

「少しでかいけど、動物の爪切りは獣医師の仕事だからな?」

【減らず口を……貴様のタネ……暴いてやろう……】

 レディオウスが俺を睨みつける。こ、怖すぎる……
 それでも、レディオウスの意識を俺に貼り付けておかないといけない。
 再びベヒモスが襲いかかる。
 先程の前掛かりな舐めプではなく、獲物を確実に仕留めるための牽制の一撃。
 先ほどとは比べ物にならないほどの速度で爪が迫る。
 しかし、俺にはちゃんと見えている。
 根本からバッサリは無理だが、先端部の鋭い部分を剣で切り裂いていく。

【魔力か……そんなもので……】

 レデゥオウスは目論見どおりに俺に夢中になっている。

 しかし、ベヒモスの攻撃は疾い。
 いくら強化しても防ぎ切るには限界がある。

つうっ!」

 太ももから鮮血が舞う。オーラが傷にこびりつく。

【終わったな……】

 俺は激しい攻撃を受けながら傷口に大量の魔力を回し続ける。

【なに!?】

 レディオウスの言葉でベヒモスが距離を取ってくれた。
 傷を確認すると黒いオーラが俺の魔力に霧散されその後から傷口が治っていく。

【馬鹿な!? それはなんだ!!
 俺が作り上げたソレを打ち破るものなぞ、この世界に無かったはずだ!!】

 なんであんなに慌てているんだろ?

「神聖魔法でも回復するらしいから、別におかしくないんじゃないのか?」

【木偶が!! 知ったふうな口を利くな!
 それは今、外にあるまがい物などとは違う!
 それは俺が作った『完成品』神殺しを成す最後のピース!!
 俺の全てを込めた世界を壊し、アセラスを壊す道具なんだ!!
 くそ!! まだ、ダメか……はぁ、くだらん。
 とんだ興ざめだ……止めだ止め、俺はまた潜る。
 貴様らが瞬きほどの間で死んでいくのを見て、また事を起こせばいい……
 あー、つまらん……】

 本当に、本当に言葉通り、何の興味も失ったようにレディオウスは振り返り大きな穴を作る。
 漆黒の穴。

「もう、逃がさないんだよな。レディオウス。
 哀れな愚兄よ」

 ネズラースがレディオウスの足元でレディオウスに触れた。
 散々煽った甲斐があった。
 俺とネズラースの作戦が実を結んだ瞬間だ!!
 

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