外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん

穴の空いた靴下

71話 計画

「もう、逃がさないんだよな。レディオウス。哀れな愚兄よ」

 ネズラースがレディオウスまでたどり着けた。
 今まさに漆黒の穴へと入ろうとしたレディオウスの足元にちょこんとネズラースが触れている。

【おのれ! 下等な鼠風情が俺に触れるなど!!】

 先程のエネルギー弾を振りかぶるレディオウス!
 何か策がある風だが、ここからだと助けるのは不可能だぞネズラース!

【ぐがっ! なんだ!! 何だこれは!!】

 バリンっと空中に開いた漆黒の穴が砕け散る。
 レディオウスは頭を抱えて悶絶している。しかし、そんなことより、ネズラースが光っている。
 煌々と輝いている……そして……浮いてる……

「ダイゴロー、よくやったぞ。
 間違いなくこいつはレディオウス本人だ!」

「ね、ネズラース??」

「……アラセス様ニャ!!」

【なん、だと……ぐぐ、糞! 貴様、また……俺の邪魔を……オボェェェェ……】

「ほい、返してもらうぞ。ほれ、我が娘よこれを返すぞ、あとダイゴローこれな」

 ネズラースが、いやアラセス様がレディオウスの吐き出した珠をこちらに飛ばしてくる。
 俺は……反射的に避けた。

「おい、二人共なに避けてるんだ触ればもとに戻る、奪われたお前らの力だぞ!」

 アラセス様は光り輝く鼠の姿のまま少し焦っている。
 ネズラースは常に冷静沈着だったのでちょっと新鮮で可愛い。

「い、いや、目の前であんな風に吐き出されたものはちょっと、抵抗が……」

「うう、なんか嫌ニャ……」

 それでも指先で軽くツンツンしてみる。
 その瞬間ズルリと指から珠が身体に吸い込まれる。

「おっ! おお? おおおおお……!!」

 失われたべグラースの記憶や魔導回路が俺の魔導回路と絡み合い以前とは全く異なる形態を作り出したことが、今の俺にははっきりと分かる。

「やったニャ! ユキミちゃん完全復活ニャ!!」

 スイーーーーっとアラセス様が空中を滑るように近づいてきて、俺の頭にちょこんと乗る。

「ここまでやっておいて馬鹿馬鹿しい話だが、直接俺はレディオウスに物理的な攻撃が出来ない。
 二人にあの実体を壊して欲しい。
 神魂だけになったら、矯正施設に送る。
 それで、長きに渡る俺の憂いも晴れる!」

【忌々しい! 人間ごときに神の器を壊せるはずもないだろ!
 何をやったか知らんが……馬鹿にするなよ! 毎度毎度貴様は……!!】

「まったく、数千億年たっても反省という文字を知らん愚兄を持つとため息しか出ない。
 いつまでも根暗に俺への復讐など考えずに研鑽していれば、もっとまっとうに上に行けただろうに……
 地国へ行っても体育会系気質が合わないとか言って逃げ出して、やれば出来るとか言って努力はしない、悪いことは全て他人のせい、俺は悪くない。
 もう、聞き飽きた。
 天国にも地国にも話は通してある。
 レディオウス! 我が兄弟子よ! 汝は矯正施設送りだ!
 そこで自らを見つめ直し反省できぬなら、神権を剥奪と決まった!
 ついでに、いつもの逃げは打たせないぞ! 気が付かれないように世界ごと閉鎖して少しづつ狭めた結界! もう逃げ場はないぞ!!」

【ぐああああああああ!!
 お前はいつもそうだ!!
 偉そうに上から!!
 俺のほうが先に生まれたのだぞ!!
 お前が俺に指図する資格など無い!!
 アイツラに勝手に俺の力を自由にされてたまるか!!
 カカカカカカカカカカカ!!!
 見るがいい、まだ完全ではないようだが、この数千億年の成果を、俺が使えば!!】

 レディオウスは両腕を祈るように空中に掲げる。
 頭上に穴が空き、底から大量の黒い液体がレディオウスへと降り注ぐ。
 ボコボコとレディオウスの体表から液体が入り込んでいく。
 アラセス様と似た猫型の獣人の姿をしていたレディオウスは、その液体が入り込むごとに膨れ上がり、禍々しい異形の魔物の姿へと変わっていく。
 変化していく途中で、乱暴にベヒモスを掴むとバリバリと貪り食べ始めている。
 まさに、化物へと変貌していく。

「おお、でかいな。ここでは戦いにくいな」

 アラセス様がパンッと手をたたくと、一瞬で場所が移動する。
 広々とした草原、輝く太陽、気持ちのいい風。

「な、なんか……最終決戦の場としては……何ていうか、その……」

「ん? そうか、まぁ確かに雰囲気は大事だな……」

 もう一度パンと手をたたくと巨大な王座の間のような場所、左右には荘厳な巨大像が立ち並び、赤絨毯がレディオウスへと続いている。

「おお! これぞ最終決戦! 漲ってきた!」

「かっこいいのニャ! 私もやる気出たのニャ!!」

【調子に乗りおって!! 貴様らの力など俺にとっては大した足しにもなっておらんかったわ!!
 見よ、この力!! 貴様が浄化する隙など与えずにバラバラにしてやる!】

 大魔王っぽく変化したレディオウス、獅子の顔に龍の鱗、巨大な腕にするどい爪、太くたくましい脚にも爪が光る。
 脈動する漆黒の衣を身にまとい、爪にも牙にもまとわりついて不定形に動いている。
 あれが変化して襲ってくるのは想像に容易い。

「確かに『穢』は厄介だ。だがな、俺もずっと待っていたんだ。その『穢』に対抗できる手段が出来るのを、そして、俺は見つけたんだ。ダイゴローの持つ魔力を、『穢』を払う力をな。
 これで、世界を守る最後のピースが見つかった。
 だからレディオウス、貴方が罠にハマるのをじっと待っていたんだよ」

「え……俺は偶然の事故じゃないんですか?」

「ああ、すまんな。きちんと埋め合わせはする。
 こればっかりは運頼みでしか無かったから、初めてダイゴローを見つけた時は別世界でがっかりしたもんだよ、いろいろと相談してなんとか道筋を作って、ホントに大変だったよ……」

「アラセス様は最初っからこのために?」

「そうだ、このレディオウスは自分の作った世界にちょっかい出すだけならともかく、こっちもあっちもいろんな世界にちょっかいを出して……弟弟子として、恥ずかしい……
 しかも神だからなんでもしていいなんて超初歩的な間違いをいい年してずっと引きずって……
 注意しても聞きもしないし……
 なんか腹たってきた。
 ダイゴロー、ユキミ、やっておしまい!」

【うるせーーーー!!
 俺は神だぞ! 今は神も越えた存在だ!!
 貴様らを処分したらアラセス!! お前をバラバラにしてひき肉にしてやる!!】

「まったく……本当にいつまでも子供で……」

「あ、あのーアラセス様……そろそろよろしいでしょうか?」

 二人が口喧嘩を始めるといつまでも闘いが始まらない……

「ああ、すまんすまん。それじゃぁ思いっきりやっていいぞ、ここは閉鎖された空間だ、世界に影響は与えないようになっている!
 ユキミも封印解除してあるから思いっきりやっていいぞ!」

「よっしゃー! 全開戦闘ニャ!!」

「魔神レディオウス!! いざ覚悟!!」

 俺は魔導回路へと魔力を回す。
 以前とは比べ物にならないほどの魔力が溢れ出す!
 全身を魔力が駆け巡り、オーラとして溢れ出す!
 ユキミも俺の魔力が駆け巡り白銀のオーラを纏っている。
 魔法も手に取るように理解している、空を駆けることも大気を切り裂くことも思いのままだ!

 最終決戦だ!!

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