外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん
64話 人間工場
水の中でうごめく黒い粉たち、俺はコレを見たことがある。
『ネズラース、これ、穢だよな?』
『……ああ、そうだ。確かに穢だな。
ということはこの病気の原因は穢を粉状にしたものか……』
『……ということは、帝国の黒幕は俺らを襲った穢となにか関連があるかもしれないってことか……』
『そうなるな……』
『やっぱり、神殿地下を調べないといけないな……』
今回の病気の裏に大きな敵の影を知った以上、相手をよく知らずに挑むのは危険すぎる。
『原因がわかったし、治療も考えないとなー……』
魔法に関する知識はどうにも現代獣医学は役に立たないことが多い、穢に関してはユキミに聞くのが一番だろう。
俺は急いで村へと帰ることにする。
獣道を掻き分けて村へたどり着いた頃には、日はそれなりの高さに上がっていた。
「ダイゴロー、収穫はあったか?」
朝食を終えたようでお茶を飲んでいたキンドゥたちに、出かけていた時に手に入れた情報を伝える。
そして例の穢をユキミに見てもらう。
「……間違いなく穢だニャ。
あんまりこのままにしておくと周囲から陰の力を集めて力を持ってしまうニャ。
もしよければ滅ぼしたほうがいいニャ……」
「どうすればいいの?」
「回復魔法でも当てればコレだけ小型なものは消えると思うニャ」
「狂い人病は回復魔法で治らなかったんだよね?
コレが原因なら治りそうなもんだけどね」
「回復魔法は相手の魔力回路を利用しているから、そこがメチャクチャだとうまくいかないニャ。
だから変な感じがしたんニャ……」
「魔力の流れが狂っているのはわからなかったんだ……」
「ダイゴローが異常なのにゃ! 他人の体内の魔力の流れなんて、本人でも把握出来ないニャ!」
「でも、もし魔力回路にその穢とやらが入り込むのが原因なら、エーテルで治せるんじゃないか?」
「マジさん、エーテルっていうのは?」
「ダイゴローは魔力切れと無縁だから知らないだろうけど、魔力回復薬ニャ!
魔力回路に働きかけて周囲の魔力を取り込みやすくするニャ!」
「つまり、魔力回路内に作用できると、それに穢をやっつける成分を乗せれば……」
「ああ、理論的には可能性があるな」
マジさんはそう答えてくれるが、苦い顔をしている。
「ただ、エーテルかぁ……」
キンドゥが空を仰ぐ。
「エーテルに何か問題が?」
「高すぎるんだよ……
エーテルは精霊の力を借りて俺も作れるけどよぉ、魔力の結晶みたいなものだから……
俺の全魔力を使っても一ヶ月に一本作れるか……」
「そんなに……」
「ねぇ、ダイゴローちゃんに強化してもらいながらやれば?」
全員がルペルの方を向く。
「それだ! ダイゴローちょっとやってみてくれ!」
俺はマジさんの肩に手を当ててマジさんに強化をかける。
ものすごい魔力を消費すると脅されたので自分自身で魔力を励起させて活性化させる。
「大地の守り主である精霊を汝が力を借りて魔なる力を満たす雫を造りたもう……」
祈りを捧げるようなきれいなマジさんの声が部屋に響く。
普段は絶対しないけど木製のコップにエーテルの抽出を試みる。
「ん……、あれ? ……え?」
「マジさんどうしたの?」
「えーっと、その、バケツある?」
「ん? バケツニャ? ここにあるニャ」
「ちょっとそこにおいて」
「はいニャ」
「ほい……」
狐につままれたような顔をしてマジさんが手をかざすと……
バシャーーーーー
大量の液体がテーブルに降り注ぎ、バケツからも溢れ出す。
「だ、ダイゴロー止めていいぞ」
マジさんの指示で俺は強化を止める。
「マジ、まさか……コレ……」
「あ、ああ……信じられないが……エーテルだ……はは、ははははははは……」
「ダイゴロー……お前ってやつは……」
キンドゥが嬉しいような呆れたような微妙な表情で見つめてくる。
「なぁ、ダイゴロー。その、どうやってるんだ?」
「え? いや、マジさんの魔力回路全体に魔力を回しながら、自分の体内で魔力をこうガーーって回転させて増幅させて……」
「待て待て待て、色々言いたいが、魔力回路にピンポイントで魔力を回してるのか?
自分の魔力を回路に自分の意志で動かしてるってことか?
回すと増幅???」
「ダイゴロー、お前は自分で何を言っているか分かっているのか?」
マジさんもキンドゥも顔が怖い……
「え? なにかおかしいこと言ってるの?」
「まず、他人の魔力回路に魔力を流すなんて不可能だ!
他人の魔力と混じり合うはずがない、強化は魔力を纏わすものなのかと思っていたぞ!」
「それに、自分の魔力回路内の魔力を回す? 魔力を操作できるのか?
しかも、一番おかしいのは増幅だと?」
「う、うん。こう魔力回路内を魔力を巡らせてそうすると丹田辺りが熱くなるからぐわーーーって感じでほら、魔力が高まるでしょ?」
「もうダメだ、ついていけない。
ダイゴローが異常だってことしかわからない……」
「で、でもコレでエーテルの大量生産が可能ニャ!
あとは神殿で神官の浄化魔法で治療薬が作れるニャ!」
「……はぁ……考えるだけ、無駄か。
治せりゃそれでいいな……
ついでにダイゴロー、その強化、何人同時に出来る?」
「やったこと無いけど5人は出来たよ!」
「ははは、知り合いの精霊術師全員集めてくるわ、はははは……」
それから、キンドゥが手配したエーテル用の簡易製造工場で精霊術師8人に強化をかける仕事に従事することになった。
取り敢えず地下を調べるにしても今ある病気への対策を講じれるなら当然それが優先される。
1週間もすれば王国内に行き渡るほどのエーテルが完成した。
飲んでよし、かけてよしだ。
驚くことに、神官の浄化さえいらなかった。
俺が励起した魔力は最初から穢を浄化する力を持っているそうだ。
俺は何も悪くないのに、まぁ色んな人から化物を見るような目で見られて、昔を思い出して目頭が熱くなった。
いいさ、病気が回復するならそれでいいのさ……
帝国内の動きは逐一キンドゥに連絡が来ていたが、今のところ東の戦線に注力しているそうだ。
どうやら背後をつかせないための病気の散布だったようだ……
東の国は神道という魔法とも違う独特の技術があって、魔物たちとの相性が悪いらしく、帝国としても非常に手を焼いているようだった。
「さて、予定はだいぶ変わったが、神殿を調査に行くぞ」
いろいろと準備が整い、とうとうあの地下神殿の探索が実行に移される。
キンドゥの指示の下に突入する俺達、地上でバックアップする人員、チームとなって動き始める。
夏の気配が感じられる、そんな快晴な日だった。
『ネズラース、これ、穢だよな?』
『……ああ、そうだ。確かに穢だな。
ということはこの病気の原因は穢を粉状にしたものか……』
『……ということは、帝国の黒幕は俺らを襲った穢となにか関連があるかもしれないってことか……』
『そうなるな……』
『やっぱり、神殿地下を調べないといけないな……』
今回の病気の裏に大きな敵の影を知った以上、相手をよく知らずに挑むのは危険すぎる。
『原因がわかったし、治療も考えないとなー……』
魔法に関する知識はどうにも現代獣医学は役に立たないことが多い、穢に関してはユキミに聞くのが一番だろう。
俺は急いで村へと帰ることにする。
獣道を掻き分けて村へたどり着いた頃には、日はそれなりの高さに上がっていた。
「ダイゴロー、収穫はあったか?」
朝食を終えたようでお茶を飲んでいたキンドゥたちに、出かけていた時に手に入れた情報を伝える。
そして例の穢をユキミに見てもらう。
「……間違いなく穢だニャ。
あんまりこのままにしておくと周囲から陰の力を集めて力を持ってしまうニャ。
もしよければ滅ぼしたほうがいいニャ……」
「どうすればいいの?」
「回復魔法でも当てればコレだけ小型なものは消えると思うニャ」
「狂い人病は回復魔法で治らなかったんだよね?
コレが原因なら治りそうなもんだけどね」
「回復魔法は相手の魔力回路を利用しているから、そこがメチャクチャだとうまくいかないニャ。
だから変な感じがしたんニャ……」
「魔力の流れが狂っているのはわからなかったんだ……」
「ダイゴローが異常なのにゃ! 他人の体内の魔力の流れなんて、本人でも把握出来ないニャ!」
「でも、もし魔力回路にその穢とやらが入り込むのが原因なら、エーテルで治せるんじゃないか?」
「マジさん、エーテルっていうのは?」
「ダイゴローは魔力切れと無縁だから知らないだろうけど、魔力回復薬ニャ!
魔力回路に働きかけて周囲の魔力を取り込みやすくするニャ!」
「つまり、魔力回路内に作用できると、それに穢をやっつける成分を乗せれば……」
「ああ、理論的には可能性があるな」
マジさんはそう答えてくれるが、苦い顔をしている。
「ただ、エーテルかぁ……」
キンドゥが空を仰ぐ。
「エーテルに何か問題が?」
「高すぎるんだよ……
エーテルは精霊の力を借りて俺も作れるけどよぉ、魔力の結晶みたいなものだから……
俺の全魔力を使っても一ヶ月に一本作れるか……」
「そんなに……」
「ねぇ、ダイゴローちゃんに強化してもらいながらやれば?」
全員がルペルの方を向く。
「それだ! ダイゴローちょっとやってみてくれ!」
俺はマジさんの肩に手を当ててマジさんに強化をかける。
ものすごい魔力を消費すると脅されたので自分自身で魔力を励起させて活性化させる。
「大地の守り主である精霊を汝が力を借りて魔なる力を満たす雫を造りたもう……」
祈りを捧げるようなきれいなマジさんの声が部屋に響く。
普段は絶対しないけど木製のコップにエーテルの抽出を試みる。
「ん……、あれ? ……え?」
「マジさんどうしたの?」
「えーっと、その、バケツある?」
「ん? バケツニャ? ここにあるニャ」
「ちょっとそこにおいて」
「はいニャ」
「ほい……」
狐につままれたような顔をしてマジさんが手をかざすと……
バシャーーーーー
大量の液体がテーブルに降り注ぎ、バケツからも溢れ出す。
「だ、ダイゴロー止めていいぞ」
マジさんの指示で俺は強化を止める。
「マジ、まさか……コレ……」
「あ、ああ……信じられないが……エーテルだ……はは、ははははははは……」
「ダイゴロー……お前ってやつは……」
キンドゥが嬉しいような呆れたような微妙な表情で見つめてくる。
「なぁ、ダイゴロー。その、どうやってるんだ?」
「え? いや、マジさんの魔力回路全体に魔力を回しながら、自分の体内で魔力をこうガーーって回転させて増幅させて……」
「待て待て待て、色々言いたいが、魔力回路にピンポイントで魔力を回してるのか?
自分の魔力を回路に自分の意志で動かしてるってことか?
回すと増幅???」
「ダイゴロー、お前は自分で何を言っているか分かっているのか?」
マジさんもキンドゥも顔が怖い……
「え? なにかおかしいこと言ってるの?」
「まず、他人の魔力回路に魔力を流すなんて不可能だ!
他人の魔力と混じり合うはずがない、強化は魔力を纏わすものなのかと思っていたぞ!」
「それに、自分の魔力回路内の魔力を回す? 魔力を操作できるのか?
しかも、一番おかしいのは増幅だと?」
「う、うん。こう魔力回路内を魔力を巡らせてそうすると丹田辺りが熱くなるからぐわーーーって感じでほら、魔力が高まるでしょ?」
「もうダメだ、ついていけない。
ダイゴローが異常だってことしかわからない……」
「で、でもコレでエーテルの大量生産が可能ニャ!
あとは神殿で神官の浄化魔法で治療薬が作れるニャ!」
「……はぁ……考えるだけ、無駄か。
治せりゃそれでいいな……
ついでにダイゴロー、その強化、何人同時に出来る?」
「やったこと無いけど5人は出来たよ!」
「ははは、知り合いの精霊術師全員集めてくるわ、はははは……」
それから、キンドゥが手配したエーテル用の簡易製造工場で精霊術師8人に強化をかける仕事に従事することになった。
取り敢えず地下を調べるにしても今ある病気への対策を講じれるなら当然それが優先される。
1週間もすれば王国内に行き渡るほどのエーテルが完成した。
飲んでよし、かけてよしだ。
驚くことに、神官の浄化さえいらなかった。
俺が励起した魔力は最初から穢を浄化する力を持っているそうだ。
俺は何も悪くないのに、まぁ色んな人から化物を見るような目で見られて、昔を思い出して目頭が熱くなった。
いいさ、病気が回復するならそれでいいのさ……
帝国内の動きは逐一キンドゥに連絡が来ていたが、今のところ東の戦線に注力しているそうだ。
どうやら背後をつかせないための病気の散布だったようだ……
東の国は神道という魔法とも違う独特の技術があって、魔物たちとの相性が悪いらしく、帝国としても非常に手を焼いているようだった。
「さて、予定はだいぶ変わったが、神殿を調査に行くぞ」
いろいろと準備が整い、とうとうあの地下神殿の探索が実行に移される。
キンドゥの指示の下に突入する俺達、地上でバックアップする人員、チームとなって動き始める。
夏の気配が感じられる、そんな快晴な日だった。
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