外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん

穴の空いた靴下

57話 侵入者

 ウーズ村の発展に尽力した日々は飛ぶように過ぎていった。
 村の建物は木造のしっかりとした物にすっかり変わっている。
 水路も村の内部まで引くことが出来た。今では誰でも川から導かれた水を簡単に利用ができる。
 もちろん同じように口に入れる水は、必ず煮沸して利用するように徹底している。
 まだまだ実りは出来ていないが、農地も整備されてきている。
 食糧問題は周囲からの採取や狩猟で格段に改善されている。
 村人たちも食が満たされ、さらに住む場所も改善し、狩猟によって毛皮なども供給されたことによって、文字通り衣食住が充実し、目に見えて健康状態が改善してきた。

「おお、雪かぁ……寒いもんねー」

「ダイゴロー殿、私は雪というものを憎しみと恐怖以外で見たことが無かったのですが、こんなにも美しいものだったのですね……」

 リヒトさんは手のひらに落ちた雪の結晶が溶ける様をじっと見つめている。

「今年は、初めて雪を楽しめるかもしれない……」

「でも、雪になる前にトットを返して良かった。雪道を行くのは大変だったろうから」

「送った二人も戻ってきている。ギリギリだったな」

 トットはトットの村へ戻ってもらった。
 色々と手伝ってくれて本当に助かったが、いい加減あちらの村も人が少ないから男で一人たらないのは大変だろうと寒さが本格化してきたので送り出した。
 戻ってきた二人の話を聞いてもあちらの村も少し人が増えて、発展しているらしい。

「それにしても、普段は寒さが本格化する前に商人が来るのだが……
 もしかしたら春まで来ないかもしれませんな……」

「まぁ、待ちますよ。食料貯蔵庫とか、結構時間が掛かりそうですから」

「何から何まで……本当にダイゴロー殿には感謝しか返せず申し訳ない……」

「俺が好きでやってるだけですから、工夫して快適な生活になるのが楽しいんですよ」

 例の身体が光って皆に信頼されるってのも最近は自分でも気がついていないのか起きていない。
 実は一度、試しに自分で狩猟をしたことがある。
 攻撃をすると思うと胸がムカムカしてくる。弓を放ち、命を刈り取ると、強い吐き気に襲われた。
 でも、ただそれだけだった。
 呪いの力は明らかに弱くなっている。
 まぁ、それでも狩りのたびに吐き気に襲われるのはしんどいのでオーバルさんにお願いしている。

「ネズラース……俺の呪いって、もう消えるんじゃないかな?」

「私は答えようがないな。つながっていても君の呪いを感じることは無いからな。
 ただ、もし呪いが消えたならたぶんこの繋がりも消えるんだろうなとは思う」

「まぁ、念話ができないくらいならそんなに不便じゃないかなぁ。
 ユキミとはどうなんだろう……はぁ……ユキミ元気かなぁ……」

「ダイゴロー……今日もはずした方がいいか?」

「ちょっ! や、やめてよ変な気の使い方恥ずかしいじゃん!」

「ダイゴロー殿、狩りの準備ができました! ……顔が赤いですが大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫!! さぁ行こう!」

 オーバルさんが狩猟に誘いに来てくれたので助かった。
 ユキミの事を思い出すと、流石に少し辛い……
 この世界で人のぬくもりを教えてくれた大切な存在だもんね……
 でも、キンドゥと一緒にいるんだろうなぁ……
 考えないようにしてるけど、もうだいぶ時間も経っているし、俺に一時幸せな時間を与えてくれただけでも感謝しないとな……

「はぁぁぁぁ……」

「ダイゴロー殿どうかされましたか?」

「あ、いや、何でもないよ! 大丈夫!」

 いかんいかん、今は狩りに集中しないと……
 さすがに村の近くはなかなか獲物を見つけるのが難しくなってきた。
 少し遠方まで足を伸ばす。
 今は、ネズラースが捉えた反応を追って、森の入口の方に来ている。
 もうしばらく進むと森が切れて帝国領の草原丘陵地帯になる。

「ダイゴロー、帝国側から集団が来るぞ!」

 いつも通りの狩猟はネズラースの発言で急変する。

「だ、ダイゴロー殿、どうしますか!?」

「取り敢えず、その集団が何者かわからないと……」

 現状、森の中へ入ってくるのはこっそりと物を流してくれる商人達か森への逃亡者、ただ、一般的に逃亡者が厳しい冬に来ることは珍しい。もう一つの可能背が……帝国の兵士だ。

「ダイゴロー多分7・8人の集団だ。向かっている方向はまっすぐとウーズ村へ向かっている」

 これで商人の可能性が低くなる。

「……オーバルさん。すぐに村へ引き返して村人を全員避難場所へ移動させてください。
 俺はこれから相手の正体を確かめて必要なら……足止めします……」

「ダイゴロー殿……それでは……」

「早く行ってください! 避難にも準備が必要です!
 それと、決して応援をよこすなんてことは考えないでください。はっきり言って邪魔です」

「……わかりました。どうか無理をなさらないでください」

 大急ぎで村へと戻るオーバルを見送り、気配を消して偵察へと向かう。
 森の入口からオーバル村へと続く獣道を通って森へと侵入してきているのは間違いない。
 ある程度距離を詰めると俺にも視認できた。

『8人か……、帝国の正規兵ではなさそうだが……』

『商人って動きじゃないね、かなり、やる』

 姿はフードをかぶっているので分からないが、振る舞いや足さばきから只者ではないのはわかる。
 しかも、たぶん手練が6人はいる……

『特に先頭のでかいやつがやばいな……少しでも気を抜けば、この距離でも気が付かれる』

 隠形は森での狩りでは必須なのでかなり自身があったが、その集団から発せられる警戒感は俺の隠形をいとも簡単に見破ると予感させる。特に先頭の巨体の人物は隙が全く無い。
 これ以上距離は詰められない。

『仕方ない、いざとなったら闘いも覚悟に入れて目的を聞くしか無いな』

『準備もできないが、リスクが高いんじゃないのかダイゴロー?』

『少しでも時間を稼がないと……いざとなったらネズラースだけでも逃げてくれ』

『……分かった』

 俺は覚悟を決めて弓を番える。
 後は、相手との交渉次第だ……
 祈るように矢を放つ。

 カッ

 集団の前方の木を狙い放った矢は、軽い音ともに深々と突き刺さる。
 集団はさすがというしか無いが全方位に警戒を飛ばし、俺も補足されている。

「何者だ!? この先には小さな村しか無い! 用がなければ立ち去れ!」

 隠れていてもすでに意味がない。俺は木々を渡り集団の前へと降り立つ。
 一応最大限に威圧を乗せているから、ある程度の力量は伝わるはずだ。
 まぁ、たぶん、相手の方が上だから意味は無いだろうけどな……

 先頭の人物がフードを、外す……

「やはり、生きていたな!」

 その姿、声、それを感じた時、俺の視界は歪み。
 弓も剣も放り投げて走り出していた。

「キンドゥ!!!!!!」

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