外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん

穴の空いた靴下

45話 ファジア鳥

 その日はそのままトットの家に泊めてもらうことになった。
 夜は食べられる山菜や俺が集めていたキノコなどをただ煮ただけの鍋だが、人と囲う食事の温かさが最高のスパイスとなってお腹だけでなく心も満たしてくれるような気がした。
 ネズラースもフィーも一緒に食事を囲んだ。フィーも心なしかいつもより美味しそうに食事を取っている気がする。
 筵の布団や、きちんとした小屋のもとでの睡眠は本当に快適だった。
 普段隙間風から守ってくれるように首に巻き付くフィーもこの夜は胸の上で丸くなって寝息を立てていた。

 いつもの癖か、日の出ぐらいに目をさましてしまった。
 トットは気持ちよさそうに寝ているので起こさないようにそっと外へ出る。
 うっすらと日が出てきている程度なせいで、まだ山の空気は少し冷たい。
 村の他の住人の迷惑にもならないようにそっと川に沿って森へ入る。
 一宿一飯の恩義ではないが、少し狩りをしてみようと思う。
 とどめはいつものネズラースさんにお願いするのだが。
 しばらく歩いていると雉に似た野鳥の気配を感じる。
 注意深く目を凝らすと木の上で自らの羽根の手入れをしている。
 心のなかで手を合わせ、威圧をぶつける。
 だいぶ指向性をもって放てるようになってきた。
 これでネズラースやフィーを気絶させることもない。
 突然の強力な精神波攻撃を受けた野鳥はビクリ身体を震わせて落下する。
 ガバガバな呪いのおかげで、威圧だけならノーリスクだ。
 落下した雉はまだ息があったためにネズラースに頼む。

「いつも悪いけどお願い」

「うむ、これも野生の掟。すまない」

 ネズラースが魔道具を起動すると音もなく風の刃が雉の首を落とす。
 逆さまにして血抜きをしながら帰路につく。俺の知ってるキジは1キロぐらいだったと思うが、この鳥は10キロはゆうにある。これは喜んでもらえそうだ。
 ついでに食べられる草やキノコなども目についたものを回収して帰る。
 気配察知と言うか、周囲のことを探る能力は本当に向上していると自覚している。
 あっという間にそれなりの量を確保できた。

 太陽がようやく姿を表わすことには村に帰ることが出来た。
 トットの家の扉を分けて入ると、その気配でトットが目を覚ます。

「なんだ、ダイゴローずいぶんと早起きなんだな?
 ん……? それはファジア鳥か!? 警戒心が強くてめったに捕れないんだぞ?
 お前が取ったのか? すごいな!」

「運が良くてな、あとはちょっと山菜やらキノコやら。
 このあたりは川も近くて良いところだな……」

「い、いやそりゃふらっとこれだけ食料が集められれば良いかもしれないが、その日暮らしの日々はきついもんだぞ……って、釈迦に説法か。
 いや、ありがたい! もう野草やキノコにも飽き飽きしていたんだ!」

 ついでに水瓶にも魔道具で作り出した水を満たしておく。
 それを同じく魔道具で加熱してタオルを浸して身体を拭く。
 ネズラースもフィーの身体もキレイに拭いてやる。

「なんというか、魔道具はやはり便利だな……
 ダイゴロー、厚かましいお願いなんだが、その鳥。この村の皆で食べちゃだめか?
 その、俺も、みんなも、そんな良い物は何年も食べてねーんだよ……」

「ああ、全くかまわないよ。そしたら肉にしてしまおう」

 石材をおいただけの台所、グツグツと煮立てたお湯で熱湯消毒をしておく。
 同時に沸かしたお湯をだいたい60度位にしてその中にファジア鳥を入れる。
 こうしておくと羽根が取りやすくなる。そうしてファジア鳥の羽毛をキレイに取り除く。

「ありがたい。この羽毛は非常に高く買い取ってもらえるんだ」

「やっぱり森林内にも商人が来るんですね」

「ああ……物々交換だが運良く手に入れた魔石や宝石、こういった獲物と交換に塩やそういったものを手に入れるんだ。
 ふらっと現れるんだが、なかなかこっちから提供できるものも無くてな……本当に助かる!」

 そんな話をしていると羽毛が取り切れる。
 取った羽毛は乾燥させて交換材料にしてもらおう。
 次は火で炙るんだけど、これは魔道具で出来ないので竈で火をおこし炙るように表面の産毛を燃やしていく。ちょっといい匂いがしてきてしまって腹の虫が騒ぎ出しそうだ。

「ついでに包丁みたいなものって有る?」

「そこにおいてある物なら……」

 うーん、刃がガタガタで切れ味は非常に悪そうな包丁が一本。

「これだと厳しいな。やっぱこっち使うか」

 外科剪刀を取り出す。
 結構酷使して外科手術に使えるかは微妙だが、料理には使える相棒だ。

「ハサミか……なんだそれ、鉄じゃないよな?」

「合金だね、本来は手術に使うものだ」

「……やはりダイゴローは医者なのか?」

「一応ね、今はただの遭難者だよ」

 脚を根本から外して、肩から手羽を外す。
 胸肉、ささみ、内臓をはずしてせせりやぼんじりなどを丁寧に外していく。
 雉に似てるけど中身はでかい鶏っぽくて助かる。
 飛べるらしいけど、重くないのかこいつ……

「す、すごい切れ味だな……」

「俺が魔法で強化しているのも有るけどね」

 そうか、魔法の可能性もあるよな。
 例えば風の魔法で揚力を得るとか、強化で羽根を動かす力を向上させるとか、なんにせよ、こいつにぎっしりと詰まっていてくれるおかげでたっぷりの肉にありつける。
 以前獲った鳥はもっと細身でしゃぶるように食べた。
 あれもたまらなかったけど、これは本当に素晴らしい。
 生の肉を見ているだけでよだれがやばい……
 内臓も一通り部位ごとに取り分けて並べおわる。
 ガラは煮込んでスープだな。

「ふぅ、見事な量だな。心よりの感謝を……」

 俺は手を合わせる。
 この食事をくれたファジア鳥に最大限の感謝を示す。

「す、すげぇ……俺、みんな呼んでくるよ!」

 その間に俺はいくつかの内臓や、刺し身で食べられる物を刻んでサラ代わりの木の板に並べていく。
 勝手に漁って悪いけど、鉄串をみつけて肉も焼きやすく準備する。
 ホントは塩を振りたいけど自分のストックはすでにない。
 勝手に使っていいものではないので食材を持って外に出る。

「ほら! 見てみろよ!! 敵がこんなもの準備するかよ!
 文句があれば食わなくていいぜ! 俺はダイゴローの好意に甘えるぜ!」

 トットは興奮気味に村人たちに話しかけている。
 以前見た老人、猫族の女性、犬族の男性、それに鳥顔、鷲っぽいかな? の獣人。
 鶏肉はやばかったかな?

「なんだ、その顔は、俺を動物と同じに見るのか? 失礼だぞ!
 その証拠にそれを食ってやらんでもないぞ!」

 表情に出ていたみたいで鳥人の人に怒られてしまった。

「バルド! なんだかんだ言って食べる気満々じゃないか!
 さぁ、みんな準備を手伝え! 火をおこすぞ!」

 それから村の真ん中に、焼石方式で調理する場を作る。
 薄く板状に近い石を下から火で熱してそこで鶏肉を焼く形だ。
 石を支えながら支えにもなるように火をおこす空間を作る。
 キャンプみたいでワクワクしてしまう自分がいる。

「なんだトット、お前背中はいいのか?
 飯のためなら動くのか?」

 老人のツッコミで俺はトットの状態や動きが昨日と変わっていることに気がつく。
 体がこわばっているかのような動きが無くなっている。

「ちょっと、トット診せて……」

「あ、ああ……そういや今日は全然引きつらねぇ……」

 診察すると恐ろしいことがわかる。
 トットの背中の死亡組織の下に見事な肉芽が盛り上がり、周囲からも急速な上皮化が起きている。
 死亡組織が剥がれたことで背中の引きつりはほぼ改善している。
 ついでに強化の応用の回復魔法を上皮化する辺縁部に丁寧にかけておく。

「すごいな、たぶん明後日くらいには背中のかさぶたはがせるぞ」

「そ、そんなに早くか!? ダイゴローはどんな魔法を使ったんだ!?」

「簡単に言えばトットの傷は治す力を失っていたから、邪魔していたものをどけて治す力を高めただけだよ」

「な、なんで今までの医者は治せなかったんだ!?」

「うーん……死んだ組織とかの治癒過程を知らないから……? 
 治しにくいのは確かだから、たまたまうまく行っただけかもしれないし……」

「な、なんか自信ないな、ダイゴロー……
 でもいいや、俺はお前を全て信じる!
 こんなに動けるのは何年ぶりだ! しかも、こんなうまいものを今から食えるんだ!
 お前が神様だって悪魔だって俺は信じるぜ!」

 トットのおかげで俺は村の人々に受け入れてもらえることが出来た。
 最初に助けたのが明るいトットで助かったよ。
 隻腕の犬族の男性なんかはほとんど話すこと無く黙々と火の番をしてくれている。
 この人だったらこんなに早く打ち解けてないよなぁ……

「う、う、う、旨い!!」

「こ、この刺し身って食べ方、こんな美味いもの生まれてこの方食べたことがねぇ!」

 準備ができて焼けるまでの間に皆に刺し身で鳥を味わってもらう。

 正直俺もこんなに旨い物を食べた記憶がない。
 それくらい旨い。
 ヤバイ。
 塩だけ、だが、逆にそれがいい。
 肝臓のとろけるような甘さが塩で引き立ち、ちょっと石に油代わりで使った鶏皮から溢れ出す油を塗ってみたら気絶するかと思った……日本でもこんなにうまい鶏レバーは食べたことがない。
 ササミもササミとは思えないほど旨味がギュッと詰まっており、まさに噛めば噛むほど味が出る。
 もも肉の圧倒的な鳥の力強さ、胸肉とは思えない旨味の固まり、砂肝の弾力、すべてが自然のチカラを取り込んだ野鳥だからこそかもしれないエネルギーに満ち溢れていた。
 野草やキノコも鶏皮から溢れ出す油をつけるだけで相乗的に旨くなる。
 皆が家から食材を持ち寄ってあっという間に鳥を平らげてしまった。

「み、皆さん豪勢に食材を持ってきてましたが、貯蓄は大丈夫なんですか?」

 俺の問に皆目をそらして答えない。
 知らないぞ……
 それでも、本当に年単位で久々な豪勢な食事に皆が喜んでくれたのが本当に嬉しかった。
 ボワっと俺の身体が光った。
 ああ、治療だけじゃないんだな。
 獣人に認められること、それが俺の呪いを解くきっかけのようだ。
 十二分に満たされた村人が、一人づつ俺に話しかけてくる。

「なぁ、ダイゴローさん。何も返せるものはないが、俺の相談にも乗ってほしい」

 老人の犬族の男性。名をゴルデと言う。
 それでは診療開始だ。




 

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