外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん

穴の空いた靴下

30話 油断大敵

 取り合えず。
 感染症の覚え方でも読み上げよう。
 『ぎゅうぎゅうのくちのくるったたんそくのデブがけつようぴにあばれあそびにでんとあふりかにスイスイこられペットにさるをもらったらくさった』
 これは法定伝染病の覚え方だ。

「ひゃん!」

 耳に頬ずりをされて変な声が出た。

「ふふふ……ダイゴロー変な声ニャ……」

「さ、囁きながら耳に息を吹きかけないで……」

「えー……なんでニャー……」

 ユキミの両腕がさらに後ろから絡みついて俺の胸板をなぞる。
 まずい! 心臓がバクバクなのがばれる!

「ゆ、ユキミ冗談は、やめよう」

 俺はユキミの腕を持ち上げて立ち上がろうとすると、スルッと目の前にユキミが滑り込み膝の上に座ってくる。
 そのまま俺の胸に顔をうずめてくる。

「あー、ダイゴロードキドキしてるニャ―……なんでかニャー?」

 掌をピタッと胸に置かれてしなだれかかるからだが温かくて柔らかい……
 なぜだ、どうしてこんな状態になっているんだ……
 もう、思考回路はショートす、いや、このネタは危ない。

「ダイゴロー……なんだか私もドキドキしてるニャ……確かめて……?」

 少し朱が差した顔色で恥ずかしそうに胸元からの上目遣いでのおねだり。
 確殺コンボだ。
 そっと触れらる手は優しく誘導され、ユキミの胸元へと抵抗する気力を奪われ当てられる。
 ドキドキドキドキドキドキドキ……
 ユキミの鼓動は俺と同じくらい高まっていた。
 そして、同時に初めて掌で触れる柔らかな部分、服越しでもその柔らかさが伝わってくる。

「ど、ドキドキしてるね……」

「ダイゴローはやっぱり人形はいや?」

「に、人形?」

「私は結局獣神様に作られた存在、言ってみれば人形……やっぱり、そんな私じゃダメ?」

「お、俺は最初からユキミを人形だなんて思ったことないよ!」

「……嬉しい……」

 すっと目を閉じるユキミ……
 こ、これは、いくらなんでも、もう戻れない……
 いいのか俺、よく考えろ?
 ユキミは可愛い、とても可愛い。
 スタイルもすでにかなりすばらしいが将来性も抜群だ!
 絶世の美女になる。確定済みだ。
 猫耳にしっぽだぞ!? 日本では絶対に不可能だぞ?
 少しアホなところもあるが根はすごく素直でいい子。
 猫みたいな気分屋なところもあるが、今を見てみろ、どっちにも転ぶってことだ。
 冒険者としても超有能、獣医師としても非常に頼れる相棒だ。
 あれ? なにも躊躇する理由がないぞ……?

 すっと目を閉じてユキミのうなじに手をまわし……
 そっと顔を近づける。
 生まれて初めて触れ合う女性の唇は驚くほどに柔らかかった……

「これで、ユキミはダイゴローの物にゃ……」

 ずっとその感覚を味わっていたかったが、すっと唇が離れてしまった。
 目を開くと満面の笑みのユキミ。

 あ、俺。ユキミのことが大好きなんだ。

 ストンと心に落ちてきたような気がした。

「ダイゴロー、ユキミは一緒にいてもいいかニャ?」

 首をかしげて問いかけるユキミ。
 ああ、なぜこんなにかわいい子を残念扱いしていたのか自分を殴りたくなる。

「ああ、こちらこそお願いします」

「はは、変なダイゴロー。でも、不思議ニャ……
 別になんとも思ってなかったのに、ダイゴローと離れると思ったら急に……
 なんか、恥ずかしくなってきたニャ……キャっ」

 俺はまた赤くなるユキミが可愛すぎて思わず抱きしめてしまった。

「俺も、さっきちゃんと自覚した。
 俺はずっとユキミのことが好きだったみたいだ」

「……どうやら、私もなのニャ……」

 それからもう一度、今度は少しだけ大人のキスをした。


 チュンチュン。
 朝の陽ざしが差し込む部屋に窓の外から朝を告げる鳥のさえずりが聞こえる。
 俺は、記念すべき日をとてもさわやかな気分で目覚める。
 そして気が付く。

「……オーマイガッ!」

 取り合えず誰にも気が付かれないように下着を取り換えて手早く汚れた下着を洗う。
 30過ぎにもなって、まるで中学生のようだ。
 仕方がない、昨日ユキミとお互いの気持ちを確かめた俺だが、そっからスムーズに事を運ぶなんてできるはずもなく、なんだかお互いにドギマギしながらお休みのあいさつをして、それぞれの寝室に戻ったのだ。
 こうなっても仕方がないんだ。
 こっちに来てから自分でもしたりしてなかったし、仕方ないんだ。

 俺は誰にも気が付かれないようにそっと寝室へ戻って二度寝する。した振りをする。
 しばらくするとコンコンと部屋がノックされる。

「ダイゴロー様、朝食のご用意ができました」

 お手伝いさんが呼びに来てくれる。
 これで俺は何食わぬ顔で食堂へ行けば完全犯罪の完成だ。
 着替えの中に先ほどの証拠をまぎれさせ、漬け置きの桶の中へ放り込む。

 完璧だ。

 俺はスキップしそうな気分を抑えていつもと変わらないように優雅に食堂へと入る。
 今日の朝食はまるで世界が変わったかのようだ。
 すでにユキミが先に食堂にいる。
 俺を見ると、まるで恋する乙女の様に少し照れながら……

「おはようニャ、ダイゴロー♪」

 これが、猫のいいほうに傾いた効果だ!
 たまらん! 最高すぎる!!

「おはようユキミ!」

 俺は思わず大きな声で返事を返してしまう。
 それさえもユキミにとってはうれしいらしく少し照れ笑い、なにこれ、何この可愛い生物!
 あり得る? この子、俺の彼女……マイ彼女!
 天にも昇るっていうのはこのことだ!
 俺は今最高に幸せだ!!

「若さが『あふれてほとばしって』いいことだな」

 忘れていた。
 俺の部屋には、ネグラ―スのベッドもある。
 つまり、すべて、こいつには、ばれているのだ……
 俺はぞの頭上からの声を聴いて、この世の地獄を味わったようだった……
 魚が死んだような目をしながら、朝食の味もわからない。

「ダイゴロー、今日もお仕事頑張ってニャ♪」

 彼女の笑顔、これが全ての暗雲を吹き飛ばす事実を、この日初めて知った。
 彼女って最高!!

 遅咲きの男はこれ以上ないほどに浮かれまくるのでありました。

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