外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん

穴の空いた靴下

26話 恋バナ

「兄貴! 凄いじゃないですか!
 パリトンの街の病院と言えば地方から患者も集まる大病院ですぜ!
 そんなとこから認められたなら兄貴の成功も間違いなしだぜ!」

「いやー……これはそういう歓迎ムードじゃないと思うよー」

 俺はため息をつく、その理由は宛名にある。

「『山賊のような粗野な輩をしたがえ、夜な夜な若い医師に怪しいことを吹き込み、診療の真似事のようなことをしているにも関わらず、この地域の先輩でも有る我が病院に挨拶の一つもない名も知らぬお方』って宛名だもんね……」

「あ、兄貴の名前ってそんなに長いんですか!?」

「皮肉だよ皮肉!!」

「しかし、わかりやすい権力からの圧力が来たな」

 ネズラースはこう言う時は饒舌になる。
 なんでも変わってしまう前に自分が大変とても凄く優れた魔術師だったからこの手の嫌がらせがたくさんあったそうだ。

「ネズラースはどうしてたの?」

「ん? 無視した」

 そうね、人付き合いしないならそれでいいよね。
 でも、俺はそういうわけにはいかない。
 この世界の獣人を助けるのが俺の大願だ。
 なんか、人の医療にも中途半端に手を出しているようで、そこは非常に恐れ多い……

「ま、とりあえず招待してくれると言うなら行くしか無いね。
 ところでユキミは?」

「また鶏舎じゃないのか?」

「本当に好きだなぁ……」

 畜産も初めて鶏舎を作った。
 浄化魔法が有るなら卵かけご飯も問題ないねーって軽い一言からユキミの熱意に火がついた。
 醤油は無いから味塩で食べた卵かけご飯。
 俺的にはやはり醤油が最高だが、濃厚な卵の美味さも相まってすっかりユキミは虜になった。
 そして、日々鶏舎で鶏達に愛を注いで美味しい卵づくりに余念がない。

「ほーらピコちゃん、美味しいご飯ニャー。あーダメニャーピロちゃんピナをいじめたら~。
 ん~何かなピトちゃん私をつついても美味しくないニャ~ご飯をたくさん食べて陽の光をたっぷり浴びて、た~くさん運動して美味しい卵をお願いするニャ!!」

 案の定鶏舎の前の運動場で鶏たちとダンスをしていた。

「おーいユキミー! 出かける準備してくれー!」

「ちょっとダイゴロー! 急に大きな声出したら皆がびっくりするニャ!」

「あ、ああ……うん……」

 いずれその鶏達も食卓に上がるのだが……この溺愛っぷりで大丈夫なんだろうか……

「と、とりあえず、パリトンの街へ行くことになった。
 時間的にそろそろ出て向こうでも少し準備しないといけないから」

「それ私も必要かニャ?」

「あのさぁ……俺達の目的忘れてない?」

「究極の卵かけご飯のための卵を作る……」

「違う! 獣神の使いだろユキミは! 救いの声が街であった時にユキミいなかったら困るだろ!」

「……おお! そうだったニャ!
 すっかりここで一生を終える気になってたニャ!」

 パリトンという大都市の、しかも多分権威を振りかざしてくるような相手に会う。
 今の俺達の村人丸出しな格好で行けば当然馬鹿にされてしまう。
 少し考えがあったのでパリトンの服屋さんに図面を引いて街にいる仲間へ伝書鳩を飛ばしておいた。
 約束の時間まで酷く間のない悪意たっぷりな指定だが、なんとか間に合うだろう。
 それから大急ぎで準備を終わらせて村を後にする。

 診療所が出来たお陰でユキミが作ってくれた診療道具のうち、複数あって外に出しておいても時間経過で劣化しないものを施設に閉まって置けるようになった。
 そのお陰で結構な容量を旅の道具やらをしまえるようになった。
 これでこれからの旅はだいぶ楽になる。

「それじゃぁ留守を頼む!」

「兄貴いってらっしゃいませ!!」

「ダイゴロー先生が不在の間は私が出来る範囲で対応しておきます。お気をつけて……」

 村に流れ着いた人の中に、学者くずれみたいな人がいてくれたおかげで、留守の時でも簡単な処方なんかをお願いできるようになった。
 優秀なんだけど人とうまく話せない性でうまく行かなくなったらしく、ひどい虐めにあって逃げ出すように放浪生活をしていたという話だ。
 この村では山賊たちの先生みたいなことをしてくれて、みんなにすげーすげー言われている内に人としての心を取り戻してくれたようで、今では明るく、そしてあのエイスを殴りつけた新人、パトラと腕を組んで仲よさげに手を振って送り出してくれた。
 来たときは山姥みたいな格好だったんだけど、小奇麗にしたら驚くほど美人で華奢な山賊たちとは無縁な感じの女性で、パトラが一発で惚れ込んで、まぁ不器用ながらも一生懸命、それでいて優しく優しく接し続けてついには彼女のハートを射止めたのだ。
 見ていてキュンキュンするような純情で、暫くの間、村の皆の酒のツマミだった。
 ちょっと、恋っていいなぁ……って思いました。はい。

「ニャー! パトラとメリナラブラブニャー!」

「ねー、見ていてこっちが恥ずかしくなっちゃうよ……」

「なんだ、羨ましいのかダイゴロー」

「い、いや、まぁ……少し……?」

「何ニャ、ダイゴローは前の世界ではもてなかったのニャ?」

「もてるとかもてないとかいうレベルじゃないよね……まず人間扱いされてなかったし……」

「……」

「……」

 な、なんだ。沈黙が痛い。
 止めてその可哀想な物を見るような目!
 ネズラースも変に優しくぽんぽんしないで!
 気にしてないから! やめて、視界が歪むから止めて!

「ま、まぁダイゴローはこっちの世界では普通より少し強い程度ニャ!
 相手をぶっ壊すこともないのニャ! そ、そのうちきっとたぶん……いい大猿族の相手が出来るニャ!」

「なんで種族決めてるのかなー!? それに俺、に ん げ ん! 人間ですから!
 別に種族とか気にしませんけどねー!」

 こんな風にじゃれながら進んでいるが、魔法で強化して馬よりも早く走っているのですれ違う人や抜かされた馬車の人達にはギョッとされている。

 半日ほどそれなりに急いで走って、途中で休憩も入れながら、ようやくパリトンの街の門へと到着する。さすがの交易都市、門へと入る列は荷物を大量にもった行商人などすごい行列だ。

「商売の者はこちら! 冒険者、そのた推薦状などがある者はこちらへ並ぶように!」

 列を整理している衛兵さん達も忙しそうに働いている。

「一応これが推薦状でもあるらしいし、あっちに並ぼうか、冒険者でもあるしね」

 俺らは推薦状の列に並ぶ、並んでいる間に手続きをスムースにするために衛兵が冒険者の証や推薦状を確かめに来る。

「それではギルドの証明書か推薦状をお願い致します」

「はい、こちらになります」

「ぺっ……」

 うん、衛兵さん犬型獣人ね。いま俺の声聞いた瞬間つばを吐いたけど、うん。仕方ないね。

「失礼、拝見します」

 父親の下着を嫌そうに箸でつまむ娘みたいにギルド証と招待状を受け取ってくれる。
 目頭熱くなるぜ……

「……こ、これは……少々お待ちを……」

 招待状を確認すると何やらあったらしくその衛兵さんは詰め所に戻っていった。

「何が起きたニャ?」

「いや、わからん……なんか嫌な予感がするけど……」

 衛兵さんは少し装備のいい人と一緒に戻ってくる。

「失礼致した。私はこの街の南門を任されている部隊長だ。
 こちらの招待状をお持ちの方は馬車が用意されている。
 どうぞこちらへ」

「にゃんだ。歓迎されてるのニャ!」

 それにしては妙に周りの衛兵がピリピリしているし、俺達を囲むようについてくる気がする。

「いやー、高名なお医者様が来ると聞いており緊張しております。ご容赦ください」

「いやー、そんなーそれほどでも無いニャ、ハハハ」

 まぁ、お前じゃないしな! 気のせいか。
 馬車もなかなか立派な作りをしている。

「ん? 何ニャこれ……? 鉄格子?」

 中に入ると板打ちの粗末な作り……

 ガシャーン。
 すぐ後ろで乱暴に扉が閉められる。

「ニャ! 魔封じの結界ニャ!!」

「おとなしくしろ詐欺師共! これから領主様の元まで連れて行く!
 全く、この国で医者を語ることが重罪なことは子供でも知っている!
 人の弱みに付け込む極悪人どもが! 引っ立ってい!!」

 バラバラと周囲の豪華な外装のハリボテが剥がれ落ちて、むき出しの鉄格子の馬車が現れる……

「だ、だ、騙された(ニャ)ーー!!」

 俺達の悲鳴が防壁に木霊する……





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