外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん

穴の空いた靴下

24話 山賊達

 コツコツコツ、室内に靴音が響く。

「どうだぁ、ガキの様子は!?」

「ああ、そうか。大事な金づるだ。ぶっ壊すなよ?」

「あーあー、わかったわかった。うまく行ったら、な! しっかりやれよ!」

 その大男はなぜか一人で話し続けて何もなかったかのように部屋の外へ出ていってしまう。

『幻術ニャ』

『流石ユキミ!』

『えへへへ、照れるニャ、でもうまく行ったニャこれでさっきの男から情報が貰えるニャ』

 念話で『情報』がユキミから流れてくる。
 別の人間の視点をモニターしたような映像、映像だけじゃない、すれ違う男からの挨拶なんかも聞こえる。

『あいつが見たものを盗み見ているニャ』

『凄いな、こんな魔法が使えるのか……』

『前だったらこんな面倒なことしないでも、アジト全域を把握して外から全員を無力化もお茶の子さいさいだったのにゃ……』

『ははは、いや、それでも凄いよ……
 そんなにもう人数いないんだな……
 とりあえず、人質助けて帰るか、山賊を全滅させるか……』

『あ!』

 選択肢は亡くなった。どうやらさっきの男は山賊の親分だったらしく、その人物に今、外の見張りが捕まっていたという報告があった。

『よし、全滅ルートで!』

『この部屋の前が行き止まり、そこで迎え撃つニャ!』

 俺は少年をそっとさせるために室外での戦闘を決心する。

『あれ? 女の人……? 子供……?』

 送られてくる映像ではこっちの牢屋には向かわずに全員で入口に向かって進んでいる。
 奥さんと子供を連れて逃げ出すようだ。
 こちらにとっては好都合だが……さてさて……

『ダイゴロー……』

 ユキミがなぜか残念そうな声を出している。

『どうしたの? 戦わなくていいならそれでいいじゃん?』

『違うニャ……あの子供から救いの声がするにゃ……』

 話が変わった。
 俺は少年を背負って入り口へと急ぐ。

「な、何だ貴様らは!? それにそのガキ!
 てめぇらの仕業か!」

 グルグルに巻かれた蔦がなかなか外せないで四苦八苦していた盗賊たちの集団の前に躍り出る。
 普通に考えれば無謀な行動だ。
 それでも仕方ない。

「お前が山賊のボスだな!」

「なんだてめぇ!! 質問に答えやがれ!!」

「その赤ちゃん、病気だろ?」

 厳ついゴリラみたいな山賊のボスの顔つきが、凄まじい怒りから俺の言葉で一気に辛そうな悲しそうな顔に変化する。

「な、なんで……なんでわかった……?」

 さっきまでの威勢はどこか遠くへ行ってしまったようだ。
 周りの山賊たちも悲しそうな顔でうつむいている。
 赤子を抱く母親もその顔を歪ませている。

「俺は医者だ。その子を助けられるかもしれない。診察させる気はないか?」

「う、うるせぇ! 医者には見せた! 
 恐ろしく高価な薬を飲ませなきゃいけないのはもうわかってんだ!
 俺は、俺はそのためにこんなことやってんだよ!!」

 怒りと悲しみが入り交じったような叫びだ。

「病名もわかっているのか?」

「ああ、骨無し病……
 原因不明だが、貴重なキノコを干して日光を当てて作る薬が効果が出ることが有る……
 だが、その薬が目玉が飛び出るほどの値段なんだ!
 ああ、くそ!!」

「お母さんとお子さんはいつも洞窟の中で?」

「ええ……」

 スラリとして真っ白い肌の猿型獣人の女性が答える。

「お母さん、魚とか肉嫌いですか?」

「は、はい。どうにも好きではなくて……」

「な、なんでわかるんだよ?」

「その病気の原因を知っているかもしれないからだよ!」

 俺は自信を持って答える。
 こっちの医者の名前的にもたぶん、あれだ。

「危害は加えない、お前らと違って俺は子供に乱暴はしない」

「貴方……たぶん、私たちはどうせ捕まるわ……もし、この子が助かるなら……」

「う……な、なんか嫌なんだよあいつ見てると! あと声が……!」

「それは私もおんなじよ……」

 もうこのパターン慣れた。もう慣れたもん。頬を伝う液体なんて無いんだもん。

「ダイゴローに任せるニャ、あの『病付き』も元気にしたほどの医者ニャ」

 10名ほどの盗賊、その中でも獣人たちはざわつく。

「本当だな……信じるぞ……同じ種族の仲間として「俺は人間だ」……嘘だろ?」

「本当だ!」

 『病付き』を治したという時よりも人間も一緒に驚くからざわついた。
 大猿族じゃないのか? まさか!? とか口々に言っている。
 うん、別にこれは効かない。
 よくゴリラって言われてたし。

「わかった。何かしたら命をかけてお前を殺すからな」

「治すだけだよ……」

 山賊のボスは恐る恐る奥さんから子供を受取り、俺に近づいてくる。

「今何ヶ月?」

「もう……1歳半だ……サンはずっと寝たままだ……手足は身体を支えられない……」

「じゃぁ、見るぞ」

 俺はそっとその赤ちゃんに触れる。
 うん、予想通りだな。
 しかし、名前はサンか。太陽……太陽に当たっていれば……

------No6 サン------------

年齢 1才6ヶ月
人種 大猿族
症状 骨の脆弱性、関節の発達不良、運動不耐性

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「わかった」

「ほ、本当か!? 治るのか!?」

「完全に治るかはこの子の今後の成長次第だけど、それでもかなりいいとこまで行けると思う。
 まず、その薬はほんの少し合っているけど、全然足りない」

「そ、そうなのか!?」

「ついでにお母さん、この子も肉や魚は苦手なの?」

「いえ、その医者が言うには穢れたものが原因の一つかもしれないから、神の祈りを捧げた白米だけを……その子も私も、だんだん食事を嫌がるから……」

「逆効果だよ……お母さんだって身体だるかったりしたでしょ?」

「そ、そうです。もう辛くて……」

「治療法は、太陽にしっかりと当たって、肉や野菜を食べること。
 もし苦手なら鳥の卵の黄身とか、後はきのこ類を多く食べる。それだけ」

 ビタミンD欠乏症、くる病だ。
 現代日本でお目にすることはまず無いだろう。
 栄養状態がよほど悪く、ほとんど太陽に当たらないと言う要素が重ならないと起こらない。
 栄養学的な知識がなければ、不治の病になってしまうんだろうな……

「……馬鹿にしてるのか……?」

「馬鹿にしてると思うなら、その簡単な方法をまずはやってみろ。
 こんな穴蔵にいないで外に出て。
 ここいい場所じゃないか、ここを切り開いて農業でもすればいい!
 少なくとも、山賊をやって高い薬をあげるよりサンちゃんにとってそのほうが何倍もいいに決まってるだろ!」

 皆うつむいてしまう。
 背負っていた少年の状態が安定していることを確認して、点滴などを外し、最後の仕上げにユキミに回復魔法をかけてもらう。
 胸部の傷も綺麗サッパリ無くなっている。
 すやすやと寝息を立てている少年に診察をして異常が完全に治ったことを確かめる。

「ユキミ、悪いんだけどこの子連れて先に帰って衛兵止めてきてもらえる?
 こいつらに労働という名の罰を与えておく」

「わかったニャ」

「な、なんだと!?」

 まだ口答えするのかこいつらは……
 イラッとした。

「うるせぇ! 口答えするな! 
 山賊で稼いだ金で高い薬貰って子供が喜ぶと思うのか!」

 ついつい叩きつけた拳が、洞窟の脇にあった巨大な石を粉々にしてしまった。
 なんか身体も光りだしているし。
 なんか、全員が土下座してるけど、そんなに怖かったかな?

「ダイゴローは化物だな」

 ネズラースまでひどい言葉を……
 ちょうどよく石器を作りやすく粉々になった石を使って、斧やら鍬やらを作って開拓作業に全員を従事させる。
 妙に俺の言うことを聞くようになって、わかってくれたみたいで俺は嬉しい。
 こうして山賊たちの村作りも指導することになった。

 なんか、村を作ってばっかりだな……

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