外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん

穴の空いた靴下

19話 病付き

「ふむふむ、長男がバルト、次男がダイマ長女のセルネに三男カルラ、末っ子のメリナと……」

 俺はカルテを作り始める。
 なんとなくいつもどおりやらないと落ち着かないとララの時に思い立った。
 ユキミのデータベースも表示でき、記入したデータも保存できる。
 魔道具を用いた電子カルテ的なものを作った。
 作ったと言ってももともとある記録用の魔道具を転用している。

 No3は瘴気病だけど、あれは俺が治したわけじゃないからな……

------症例 No4 バルト、ダイマ、セルネ、カルラ、メリナ、+α------

 年齢 18、16、15、13、12
 人種 猫型獣人
 症状 結膜の炎症、眼脂(ベタつき+ 臭気+)、涙量増加(血の交じる個体もあり)
    鼻汁(水状~粘液状)、くしゃみ、調子が悪いときは発熱も認める。
    口腔内に強い歯肉炎がある個体もいる。

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「この5人はこんな感じか、ところで他にその『病付き』って呼ばれてる人達はいるのかい?」

「家にはかーさんが居るよ!」

 俺の声を聞くと嫌悪感が出るらしく、俺は頭にいるネズラースに喋ってもらっている。
 あいては気が付かないだろうけど……
 てか、猫型獣人にネズラースを見せたらまた大騒ぎになる……
 まぁ、こんな小細工をしてもなんとなく俺のことは嫌な感じがするようで、後ろを向いて質問するというなんともおかしい方法を取っている。

「馬鹿! カルラ! なんで答えちゃうんだ! 飯につられやがって!」

「なるほど、そのお母さんのために食事を奪っていたのか……」

「こないだ街の方から瘴気を含んだ風が吹いて、森の動物が怯えてしまって狩りもうまく行かなくて……」

 セルネちゃんは利発そうな子だなぁ。
 状況をしっかりと伝えてくれる。
 話を聞くと、また責任の一端が俺にありそうだ……

「お母さんはこういう症状はないの?」

「かーさんが、最近状態が悪くて、いつもは食事を食べて安静にしていれば良くなるのに……」

「だからカルラ! ベラベラ喋るな!」

「バルトだっけかニャ? ダイゴローはいやな感じするだろうけど君たちの病気を治してくれるニャ。
 そもそも、この状況で声高に反抗して、いいことが起こると思うのかニャ?」

「そ、それは……」

「そしたら今から拘束を解くから暴れないでくれ。
 食事も渡そう。君たちの症状を和らげる事もできる薬もだそう。
 だから、君たちの家へ連れてってほしい」

「……分かった……」

 ここまで来るのに結構時間がかかった。
 それでもなんとか診察を出来るまでになったのはありがたい。
 魔法による診察もすでに済んでいる。
 あとは、生活環境を改善させて治療をしてあげれば……

 鬱蒼と茂る森を5人について歩いて行く。
 なるほどこれだけの森でありながら小動物を見かけないし、気配もない。
 動物に嫌われる俺だから余計に会えないんだろうなぁ……

「ここだよ」

 小さな小川の畔の少し開けた場所に、枝を蔦で縛ったような簡素な建物、こんなところで寝泊まりしているのか……

「かーさーん!」

 皆がその建物に入っていく、中を除くと土の地面に枯れ葉を敷き詰めた、衛生的とはとてもいえない状況だ。その中に子供5人と、母親であろう獣人が身体を起こして座っている。
 俺が与えたお弁当を皆食べずに母親に渡している。

「誰?」

 覗いていた俺の気配に気がついて母親が声をあげる、少し不快感が混じっているが、以前の耐性がある俺はもう泣かない。

「俺はダイゴロー、こっちがユキミ、君たちの診察に来た医者だよ」

「医者? 我々は『病付き』医者にかかっても治せない追放者よ……」

 忌々しく吐き捨てるように話す。
 その間にも視診はしっかりとする。
 なるほど症状は一番強い、慢性的な目の周囲の汚れが皮膚にも炎症を起こしている。
 栄養状態も悪くひどく痩せている。
 鼻からは血の混じった鼻汁が出るのだろう、口元にかけてただれている。

「確かに、完治は出来ない」

 俺は今までの診察結果からわかっていたことをはっきりと口に出す。
 子どもたちの悲しそうな表情は辛いが、まだ話には続きがある。

「だが、今よりも遥かに症状を軽くすることが出来るし、何よりもここの環境を良くすることが出来る」

「うちにお金なんて……」

「あいにく、俺はこれが使命でね。金はいらない。俺がやりたいからやるだけだ」

 ネズラースが念話で言ってて恥ずかしいのだが、と伝えてくる。
 あとでチーズを上げるからと取引をする。

 さて、やることはたくさんあるな。

『ユキミちょっといいかい?』

 掘っ立て小屋の外で周囲を観察していたユキミにやってほしいことを伝える。
 以前の力はなくても、ユキミはほぼすべての魔法をそれなりのレベルでは使える。
 とんでもない能力だけど、回復魔法は特に使える人が少ないのでギルドでは僧侶扱いだ。

『ちょ、ちょっと……こき使いすぎニャ……』

 要望を伝えるとユキミがブーブーと文句を言うが、皆を助けるために協力して欲しいとお願いすればやってくれる。こういうところはとても良いやつだ。

「『病付き』と呼ばれる人はたくさんいるのかい?」

「『病付き』はあまり長く生きられない……同時期に追放された仲間は散り散りになってもうわからないわ……」

「そうか、できればここにその『病付き』の人達の村を作ってやりたいと思っている。
 確かに治せない病気だけど、きちっと管理すれば短命というわけじゃない。
 まずは持ってきた食事でも食べてゆっくり休んでてくれ」

「そーだよかーちゃんご飯食べてよ!」

「いいのよ私は、皆食べなさい……私は食欲がないから……」

 お母さんはすでに結構長い間この症状が発症し続けていて、鼻が効いてないのだろう。
 猫型獣人は特に匂いによる食欲刺激が大きいからな……
 俺はマジックバックからいくつかの魔道具を取り出す。
 それに薬品も入れて稼働させるとポコポコと泡状になり、煙が発生してくる。
 それをマスク状のアタッチメントに集めて送気できる用になっている。
 ネブライザー治療器だ。

「これを吸うといい、しばらくすると鼻水が出てくると思うから、しっかりと排出して、鼻が通ったらなるべく鼻から吸い込むといい」

 おっかなびっくりマスクを口につける。しばらく呼吸をしていると呼吸の喘鳴音も和らいでくる。

「お母さんの息の音が静かになったー!」

「鼻水はこれで拭くといい」

 ちり紙をお母さんに渡す。俺は外でやらないといけないことが有る。

 生活環境の改善。これがこの病気と付き合っていくための、何よりの必須条項だ!


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