外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん

穴の空いた靴下

17話 本当の始まり

「絶対にそいつを抑えていろよダイゴロー!」

「も、もう大丈夫ニャ。わたっ! 私も冷静になったニャ!」

 パンパンの尻尾をビクンビクンと震わせながらの発言は説得力が皆無だ。
 完全に体勢は飛びつく前の猫のそれだしね……

「次飛びついたら補綴ほていするからね」

「と、飛びつかないニャ!」

「……もういいか? それでは改めて……」

 喋りだすとその調子に合わせてねずみさんの尻尾がくねんくねんと動くために、ユキミが暴走する。
 仕方がないので俺はユキミと肩と腰を押さえて補綴をしながらそのネズミさんの話を聞くことにする。

「う、動けないにゃ……にゃーん、許してニャ、もうしないニャ」

 無視だ無視。俺は目でネズミさんに合図を送る。

「はぁ……すまないな、ダイゴロー。そして初めましてだな。
 私は『ベグラースだったもの、だったもの』とでも言えばいいかな?」

 俺の中で■■■■■だったものが、霧が晴れたように認識できる。

「そ、そうだ! 俺はベグラースの中に転生したんだ!
 そして、べグラースとしての記憶が……記憶が……ない……?」

「落ち着くのだ。順を追って説明する。
 まず、君たちが知っている害悪の悪魔べグラースは、私であって私ではない。
 私はあるものに『変えられた』のだ」

「あるもの……?」

「そうだ! 古き神、人の神でも有数の神格を持ちながらくだらない嫉妬から堕天し、その責任を他者に押し付けて今この瞬間も堕ち続ける魔神によって!」

「ば、馬鹿ニャ……そんな神なんて聞いたことないニャ!」

「私がその名を口にしてもお前らには認識できないだろう。
 その魔神の名は■■■■、禁じられた名だ」

「……聞こえないというか、認識できない……?」

「……? ダイゴロー何言ってるのニャ? 何の話ニャ?」

「ふむ、一時期とはいえ、私の身体に入ったダイゴローは名前以外は認識出来るんだな。
 普通はそっちのバカ猫と同じような反応になる」

「誰がバカ猫ニャ! そもそもベグラースだったものとか言って、何ニャその魅惑的なボディーは!?」

「ふむ、私の封じられた魂、そして汚された魂は一度獣神アラセスによって滅ぼされた。
 しかし、滅ぼされたおかげで私は本来の魂が軛から解き放たれた。
 そして、魔力と一緒にダイゴローが収まった身体を流れて身を潜めていたのだ。
 『奴』に見つかるわけには行かなかったのでダイゴローと一緒にいたが、『奴』は異常に気が付き私を、正確には私が築いてきた獣人の知識を回収しに来た。
 このままでは私は完全に消滅してしまう。そこでダイゴローを助けたのだ」

「あの時の声は貴方だったんですね」

「そうだ、そして、そこのバカ猫を穢と引き離す際に少し力を分けてもらってこうして受肉したのだ!」

「な、なんてことするニャ! その力はアセルス様からもらった……」

「あのまま全てを支配されてよかったのか? 
 私が助けなければ今頃ふたりとも穢まみれで消滅しているぞ?」

「そ、それは……」

「本当に心から感謝する。ありがとう」

「うむ、素直が一番だ。ユキミ嬢も見習うように。
 まぁ力をもらったと言っても今のこの身体には何の力も魔力もない。
 見ての通りただのちょっと賢く品のあるネズミでしかない。
 私は自分の人生を奪った『奴』に復讐したいだけだ……
 そして、ユキミ、お主の力が『奴』に渡ったことで、『奴』は計画を早めるだろう。
 このままだと、この世界の獣人は滅びるぞ」

「にゃ、にゃんだってーー!!」「な、なんだってーー!!」

「獣人の滅びを止める必要はただ一つ!
 このダイゴローの功徳によって呪いを解き放ち、ユキミの力を取り戻し『奴』を倒すしかない!」

「……? すみませんベグラースさん、そこのつながりがわかりません」

「私もさっぱりニャ?」

「ああ、話してなかったな。
 私は『奴』が『私』の情報を喰らう時に罠を仕掛けた。
 獣神アラセスによって構成された呪いを利用して、獣人を助けるほどにユキミの力を『奴』からこっそりと引き剥がすという罠をな。
 ユキミの獣神アラセスからもらった膨大な処理能力を借りればその程度の偽装は造作もなかった。
 『奴』がこの仕組みに気がつく可能性はない!!
 強大な力を手に入れ、調子に乗っている『奴』がまんまと姿を表したら、呪いを解いていつでもユキミの力を取り返せる我々が力を取り戻し、そのまま『奴』を打ち倒す!
 今まで一切表舞台に出ること無く隠れ逃げ続け、そのくせ周到に準備を重ねて復讐の機会を待ち続けていた『奴』を罠にはめてやるのだ!!」

「……うーん……わかんないけど。まぁ、獣人を助ける旅は続けるってことでいいんですかね?」

「あ、ああ。とりあえずはそうなる。
 あの空間は思いっきり壊した上に思いっきりぶっ飛ばしたからそれなりに時間は稼げるはず!」

「ちょ、ちょっと待つニャ!」

「なんだねユキミ嬢?」

「サラッと言ってるけど、やっていることが神業に近いことがちらほら混じっているニャ!
 そんなことを一介の人間魔術師に出来るはずはないニャ!」

「そりゃそうさ、私は協力者だからな」

「協力者?」

「そうだ、こんな絵図私がかけるはずもないだろ。
 そんな事情を知るはずもなくサクッと支配される程度のへっぽこ魔術師だぞ私は?
 さすがバカ猫だな」

「ニャ、にゃにおー!」

「ああ、うるさいうるさい! 
 とにかくユキミ嬢はダイゴローをしっかりとサポートして獣人を救っていくのだ。
 私は偉そうなこと言ってるがなんの力もないただの可愛くて品があるだけのネズミ。
 あとは時が来たことを君たちに伝える役目ぐらいしかない。
 そういうわけだ。頑張ってくれたまえ。
 ところでダイゴローお腹が空いたから、ちょっと酒場へ戻ってチーズの一つでも取ってきてくれないか?」

「全ッ前質問に答えてないニャ! ちゃんと答えるニャ!」

「だめだ。もう限界だ。
 『奴』の耳、『奴』の目が回復する。
 もう、何を聞いても私はしゃべらん。諦めろ」

「ぬぐぐぐぐぐ、何ニャ、妙な迫力とこれ以上聞いてはいけない強制力が……
 不愉快ニャ!! このネズミ食ってやるニャ!!」

「おっと、ダイゴロー、ユキミ嬢から私を護るのも君の仕事だ。
 任せたぞ!」

 ささっと俺の頭の中に隠れてしまう。
 正直、話の半分も理解できなかった。
 とりあえず、獣人を助ける旅が続くということだけははっきりと理解できた。

「呪いを利用したってことは、もしかして俺は動物や獣人から嫌われないで済むんですか?」

「以前よりはだいぶましになる。
 罵声などは食らわないさ、陰口を叩かれて、近づくとやんわりと距離を取るぐらいに弱まってるぞ。
 よかったな!」

「あ、ああ……ハハハ、ヨカッタナー……」

 その後、ネズミのベグラース、ネズラース(命名:ユキミ)の話で、べグラースとしての記憶をなくした俺は魔法などの行使もできなくなっていることを知った。
 ユキミさんもさらに能力が低下しており、駆け出しの僧侶の才能がある人ぐらいらしい。

 俺は生前といったらおかしいが、地球での身体能力は維持しているし、魔力も人よりは多い程度。
 さらに装備はあの一瞬の時間稼ぎの魔力を絞り出して全て使用不能に近かった。
 簡単に言えばただの服になってしまっている。

 唯一残ったのは俺のマジックボックス。
 前のユキミの作った大変なすぐれもの。
 獣医療に必要となりそうな道具をユキミが作って入れておいてくれていた。
 俺がこの世界で獣医師として働くためのこれ以上ない相棒だ。

 そして、なによりもあのデータベースは生きていた。
 この世界の獣人を癒やす上でこれ以上ない力になる。
 チートな魔法能力は無くなったが。
 それでも俺は、この異世界で獣医師として生き続けていく。

 謎の敵。
 協力者。

 わからないことだらけだが、俺は自分にできることをやっていく。
 ユキミとネズラースと共に……

「それじゃぁ、まずは酒場へ戻ろうか!」

 俺は歩き出す。
 この異世界の地面を踏みしめて!!

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