外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん

穴の空いた靴下

16話 謎の人(?)物

 俺は今起きたことの半分も理解していない。
 館へ戻ったらとんでもない物に襲われそうになって必死に逃げた。
 ソレくらいの理解だ……
 とりあえず、身体を起こして抱きしめているユキミを見る。

「か、髪の色が……というか小さい?」

 抱きしめているユキミは以前の輝くような銀髪から黒髪、少し灰色がかっているが、明らかに黒くなっている。
 そして、あのグラビアアイドルのような美しい女性が、20歳にもならないような女の子に見える。
 かわいいは、かわいい。うん、凄いかわいいなこりゃ。
 ああ、成長したらあの姿になるよね、って感じでかわいい。
 でも、こんな猫耳ついてなかったよね……
 今はその黒髪の上からぴょこんと白い猫耳が立っている。
 よく見ると白い尻尾も見えている。

「本物だよね……?」

 俺は少しワクワクしながらその耳に触れると、パタパタと迷惑そうに動く。
 尻尾も触ると同じように嫌そうにくねくね動く。

「本物だ……」

 あんまり考えなしで尻尾をいじくり回す。

「……ん……め……辞めるニャ! シャー!!」

 バチコンとユキミさんにひっぱたかれてしまった。
 綺麗に4本の爪痕がついた……自業自得だ。

「何するニャ! 馬鹿ゴロー!!」

「ユキミさん無事だったんだね!?」

 俺は飛び退いてフーフーと威嚇してくるユキミさんに少し安心する。

「無事って……無事……? ……!!
 あいつは!!? あいつはどうなったニャ!」

 ユキミがあの一瞬のことを思い出したようで周囲の様子を注意深く見渡す。
 最大警戒で尻尾も膨らんでいたが、周囲に脅威がないことを確かめると落ち着いたようだ。
 しかし、すぐに自分の身体の異変に気がついたみたいでワシャワシャと自分の身体を確かめ始める。
 前の姿よりは控えめとは言え、十分すぎるものをワシワシと弄る姿に思わず目をそらしてしまう……

「どういう事ニャ!! アセルス様から与えていただいた力が殆ど残っていない!
 ラーニャ様のお力もかなり削られている!!」

 俺は自分の知りうる情報をユキミへと伝える。
 ユキミは真剣に俺の話を聞いてくれて、しばらく何かを考えるような様子で目をつぶる。

「嫌な予感がするニャ……教会へ行くニャ!」

 俺とユキミは教会へと急ぐ。
 街は相変わらず平和そのものでうっすらと明るくなって来た町並みには泥酔者が何体か転がっていた。

「おお、こんな朝早くからダイゴロー殿。どういたしました? そちらの女性は……?」

 朝のお勤めをしている協会関係者の方に軽く挨拶をして、祈祷台の前で祈りを捧げ始めるユキミ。
 俺も真似して祈りを捧げる。

「熱心なことですね。我々も見習わなければ……」

 神父様の言葉とは裏腹にユキミの顔色は悪くなっていく……

「……だめニャ……神界に問い合わせ出来なくなってるにゃ……」

 泣きそうな顔でそうつげる、ユキミの美しく悲しげな表情に、思わずドキリとしてしまう。

「それってどういう……」

「たぶん……私の力は『アレ』に食われたニャ……
 ダイゴローが『アレ』に食われた私を力ごと分離してくれたから、今私は生きてるニャ……」

「そ、そうだ! あのベグ■■スの館でみたのは何なんだ?」

 あれ?

「あ、あれ!? べ■ラ■スの館で……?」

 言葉が、出てこない? いや、なんか削り取られている……?

「まさか!? ダイゴロー! 君はなんでここにいるニャ?」

「へ? 何言ってるのユキミさん……ふざけてる?」

「いいから答えて!!」

「は、はい! えーっと、俺は日本で獣医師をしていて、事故で魂をべ■■■■の中へ……転生……してしまって……その■■■■■は害悪の魔術師で……獣人を救うために……」

 おかしい、いくら思い出しても、記憶が探れない……
 ■■■■■の記憶が……

「だめだ、思い出せない。俺は大鳥 大五郎。この世界で獣人を救うために来たのは間違いないけど……
 どうしてそうなったんだ……?」

「そうか、『アレ』は彼の存在を喰いに来たのニャ……」

「そ、そうだ! 『アレ』はなんなの!?」

「『けがれ』そう呼ばれているニャ。
 非常に強力な力を持った、神さえも喰らう存在。
 魔神の使いとも言われている。
 強力な神が堕天した魔神、それらが使う神を恨み、憎しみ、神を殺すために作り出したものと言われているニャ……
 それが、どうしてあんなところに……」

『ダイゴローとか言ったな。人目の付かないところに移動しろ』

 いきなり耳元に話しかけられる。
 バッと周囲を見渡すが周りに人はいない……

「どうしたニャ? ……まさか、また!?」

「人目のつかないところに移動しろって……」

 俺はヒソヒソとユキミさんに言われたことを告げる。

「……従うニャ。その声のお陰で私たちはギリギリ生きていられてるニャ。
 それが何かいいたいのなら聞く価値があるニャ」

 俺達は昨日の町外れに移動する。
 すっかり日も出て明るくなっている。
 少し小高くなっている丘から見下ろす街は、復興には時間がかかりそうなものの、最初に来た瘴気に溢れた薄暗い雰囲気はどこかに消え去っていた。

「ここらへんでいいのかな?」

『ああ……ここでいい……』

 またも耳元で声がする。
 それでも、あの館で聞いたような魂に響くような声とは何か違うような気がした。

「一応はじめましてになるな、ダイゴローふぎゃ!?」

 バッとユキミさんが俺の肩口に飛びかかって何かを奪い取っていた。
 あまりに突然のことに俺は呆然としてしまう……

「やめ! 止めさせろダイゴロー!
 やめ、痛い! 止めてください! お願いします!
 なんでもしますから~~~!」

 我に返った俺は急いでユキミがじゃれついている物を取り上げる!

「何するニャ!! ……って私何してたニャ?」

 正気を失っていたユキミさんが我に返る。パンパンに膨らんだ尻尾も落ち着きを取り戻す。

「いたたたたた……バカ猫め……」

 声は明らかに今取り上げた手の中からする……
 恐る恐るその手を開くと……

「あら、かわいい。ハツカネズミかな?」

 灰色の身体にピンクのお鼻。ヒクヒクさせている鼻の先っちょにちょびっと傷がある。

「鼻を擦りむいたぞ……全く……それでは改めまして。
 私は、!! ダイゴローそのバカ猫を止めろ!」

 すでにユキミは空中にルパンダイブしている。
 狙いはこのネズミさん。
 俺はとっさにユキミの顔を手で押さえる!

「ノー! ユキミ!! ノー!」

「止めるニャダイゴロー! 獲物ニャ! ……!? また、私は、ニャニを?」

 その後何度か見せては飛びつきソレを止めてを繰り返し。
 やっと慣れたユキミと、それでも目は爛々として尻尾は小気味よくピクンピクンと振りながらだが、そのネズミの話を聞くことが出来たのであった。

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