外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん

穴の空いた靴下

9話 ダンジョンの街 ファイラント

 俺が正座でユキミのお説教を食らっていると集団が近づいてくる気配がする。
 流石に派手にぶっ放した性で魔物たちが一斉に襲い掛かってきたのかと身構える。

「もう馬鹿ゴローの大馬鹿!」

「ごめんて、反省したよ……」

「動物や獣人の助けも聞こえないんだよ? 分かってるニャ? 本当にわかっているニャ?」

「も、申し訳ありません……」

「誰か居るのかー!?」

「なんだ今の閃光は!?」

 集団は魔物の群れではなく人間だった。
 周囲を警戒しながらこちらへと向かってくる。
 大男が猫の前に正座している姿に警戒しながら向かってくるとも言える。

「君は冒険者か? 今の閃光は君がやったのか!?」

「き、貴様はベグラース!! 害悪の魔術師!! 我が部族の恨みを今ここで晴らす!」

 いきなりうさぎ耳の獣人が矢を放ってきた。
 俺はその矢をむんずと掴む。身体強化しているとこんなことも可能だ。
(実はしていなくても可能だ)

「ばっ!? いきなり何やってるんだラットン!!
 この人のどこがベグラースなんだ!? どう見ても戦士かモンクだろ??」

「離せ!! 俺にはわかるんだこいつは獣人の敵べグラースだ!!」

 後ろから羽交い締めされてそれでも俺を凄まじい目つきで睨みつけて今にも射らんとしている。

「すまない、大丈夫か君? あいつは冷静なやつなんだが、街がこの有様で気が立っていたのかもしれない。俺はこのパーティ緑の風のリーダーをしているマスタフと言う。
 君は一体……?」

「いや、自分たちはここについたばかりで……」

「ああ、君もダンジョンで一旗あげようと夢を持ってこの街を訪れた勇敢な冒険者なんだな……
 しかし、不幸にも今この街はこの有様でね……」

「これは一体どういう状態なんですか?」

「今このダンジョンの街ファイラントは、ダンジョンから溢れた魔物と瘴気で死の街へと変わっているところなのさ、俺達みたいな冒険者は高台の教会を中心に必死に抵抗しているところ……
 ゆっくり話すのは教会に戻ってからにしよう、どうやらお客さんのようだ!」

 街の小道からゾロゾロと魔物化したゴブリンやオーガが出て来る。
 パーティが来た方にやや少数、反対側からは結構な大群がズルズルと歩いてくる。

「引くぞ! あっちの小集団を蹴散らす! 
 って……ラットンはどうした?」

 見るとラットンと呼ばれた獣人は大柄な戦士に担がれている。

「その人がべグラースだってどうしても聞かないから魔法で眠らしたわ。これで戦力は二人減ったわね」

 魔法使い風の女性がそう告げる。ラットンを抱えている戦士風の男性も流石にそれでは戦えない。

「仕方ないウォーはそのままラットンを運んでくれ、俺が切り込む!」

「あ、お、俺も行きます!」

 ほとんど俺のせいだ。俺も一緒に戦わないと。

「すまん、さっきの技を見るにかなりやるみたいだし、頼む!」

 パーティをさっと紹介される。
 リーダーでナイトのマスタフ、人間の男性。
 戦士でラットンを担いでいるドワーフのウォー、男性。
 そして担がれている狩人のラットン、うさぎ型獣人の男性だ。
 ラットンを眠らせた魔法使いのセレナ、人間の女性。
 全体に補助魔法をかけているのが僧侶のバシー、ホビット族の男性だ。
 最期がレンジャーのカレナ、人間の女性だ。

「とにかく、オーガを何とかするぞ!」

 行く手を阻む魔物の中でも異質な大きさを誇るオーガ、大鬼のような風貌で身長は3mをゆうに越えている。大きな木の棒を振り回しながら近づいてくる。

「馬鹿ゴロー、あいつをやっつけて恩をうって情報を集めるニャ」

 背中のフードに隠れていたユキミが耳打ちをしてくる。

「マスタフさん、俺がオーガをやります!」

「お、おい! 一人で飛び出すな! いくらなんでも一人じゃ無理だ!」

 俺は忠告を無視して敵の集団に走り出す。
 魔法禁止と言われているので生身の力だが……なんか、こんなに早く走れたっけ……?
 思ったよりも急速に敵に近づいて自分でも焦ってしまう。

「わわわ……ええい! 当たって砕けろ!」

 そのままオーガに向かって肩から体当たりをかます。
 オーガは木の棒を振り下ろしてくるが俺のほうが早い!
 あ、今ゴブリン引っ掛けた気がするけど突っ込めー!

 文字通り、砕けた。

 オーガが。ついでのように引っ掛けたゴブリンも……

「……つ、突っ込めー!!」

 マスタフ達が突入してくる。
 すでに集団の中心であったオーガを吹き飛ばし、更に引っ掛けたゴブリンを失って恐怖に支配された魔物の集団は緑の風によって蹂躙される。

「す、すごいな君は、そしたらこのまま坂を登るぞ! そこが教会だ!」

 マスタフさんに背中をバンバン叩かれる。
 あ、結構力強い。というか、動物絡みモードじゃない俺に触れても怪我をしていない!

「この世界の人間、しかも冒険者ニャ。馬鹿ゴローが普通になら殴っても死にはしないニャ!」

「おおおお!」

 人との触れ合い。文字通り久々の触れ合いに感動してしまう。
 ……いや、仕事中はほんの少しはあったよ?

「見えてきた、あそこだ! というか、早いな君は!!」

 遅れがちなラットンさんを担いだウォーと僧侶のバシーさんを抱えて全速力で教会へとなだれ込む。

「あ……ここは瘴気が薄い……」

 二人(三人)をそっと地面に置いて周囲を見渡す。

「ああ、ここは結界に守られている。見てみろ」

 マスタフさんの言うとおり背後から迫ってきた大群は教会へと続く道の途中で身体から火を発したりして撤退していく。

「教会の中で僧侶たちが結界を維持してくれているんだ。
 冒険者たちも協力して少しづつ結界を広げているんだが……
 ダンジョンからはどんどん魔物が湧いてきていてね……」

「助かったよ、ありがとう! えっとぉ……」

 担いで走ったバシーさんが握手を求めてくる。まだちょっと怖かったけど握手し返しても手を握りつぶしてしまうようなことはなかった。

「あ、すみません。俺は大五郎です。大鳥 大五郎」

「そっかダイゴローか、よろしく。それにしても君は凄いな」

「ああ、やるじゃねぇか人間の! ウォーだ! よろしくな! ってなんで涙ぐんでるんだ? そんな怖かったのか?」

 俺は普通に人とのふれあいが出来ることに少し涙ぐんでしまっていた。

「マスタフ、ラットン起こす?」

 色っぽい声の主はセレナさんだ。

「いや、ラットンは少し疲れているみたいだ。寝かしておこう」

「あー……そのことでお話が……」

「私から話すニャ、それよりも教会の中に早く入るニャ。そのほうが早く力を取り戻せるニャ」

 ユキミがフードから出てきてその場を仕切ってくれた。
 正直どう話すのがいいかわからなかったので非常に助かった。

「ちょっとダイゴローは外で待ってて、教会の中にも獣人とか動物がいると思うから先に説明してくるニャ」

 俺が考えなしで教会に入ったら、今頃大変なことになっていただろう。
 頼りになりますユキミさん!

「良かった……ユキミさんからもずっと馬鹿ゴローだったら寂しすぎるよ……」

 俺はもう一つの懸案も解決したことに胸をなでおろしたのだった。


 

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