外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん

穴の空いた靴下

7話 小さな一歩

 光が広がっていく。
 ユキミに告げられたことも突然起きた現象にビックリしてしまい
 理解に時間がかかる。

「ありがとうダイゴロー君がこの村を救ってくれたんだ!」

 いきなりがっしりと隊長のガオが俺の両手を掴んでブンブンと振っている。
 さっきまで俺に向けられた、なんだか嫌なものを見るような目つきは消えて満面の笑みだ。

「いやー、何故君をベグラースなんかと間違えたのか全くわからん、しかし、本当にありがとう!
 腰もそうだし、この村を救ってくれて!」

 村長もバンバンと俺の背中を叩きながら満面の笑顔でハグしてくる。
 村長のぶにょんぶにょんの耳が顔に触れてウザ気持ちいい。
 バセットハウンドとかビーグルの耳って気持ちいいよね。

「なんで、急に……」

「それが功徳を積むってことニャ、この村はアセルス様の呪いから開放されたニャ。
 外に出て見るニャ!」

 ユキミに言われるがままに詰め所から外に出る。
 そこに広がる光景を俺は生涯忘れない。

「ダイゴローありがとー!」

「ダイゴロー膝が痛いの治ったよ!」

「ダイゴローこれからは好き嫌いせずになんでも食べるよありがとー!」

 村人たちが笑顔で俺のことを歓迎してくれている。
 そのまま皆集まってきて握手を求められたり、抱きつかれたり、グシャグシャにされた。
 子犬の群れの中に横たわったような至福の時間。
 最高だ!
 なんというご褒美!!

「ありがと、ありがと!」

 俺もお礼を返しながらユキミのもとへと戻る。

「この村の人々は貴方をべグラースだとは思わないニャ。
 貴方はダイゴローってちゃんとわかってくれたのニャ!」

 ズガーンと稲妻が落ちたような衝撃だった。
 え、なに? これ、呪いを解くとこんな天国のような状態になるの……?
 毎回獣人にこんなモフモフしてもらえるの!?

「すっごくだらしない顔になってるニャ……」

 おっと、いけないいけない。動物には紳士でいないと。
 はっっはっはー!! さ~て村に出てもう一度あの至福の時間を味わってこようかなぁ!!
 俺は踵を返して村へと飛び出そうとする。

「さて、次の依頼ニャ。館へ戻るのニャ!」

 俺を天国から叩き落とすような無慈悲な宣告がユキミからもたらされる。

「え……? もうちょっとゆっくり……」

「無理ニャ、ララほどじゃないけど緊急ニャ。すぐに館へ戻って出発するニャ」

 すでにララは転移の鏡を呼び出している。

「おお、ダイゴロー殿今宵は村総出で祭りをしようと思っておったが……」

「え、モフモフ祭り?」

「しかし、そうじゃな……ダイゴローほどの医者をこんな小さな村に引き止めてはいかんな!
 ダイゴローどの! この御恩は一生忘れない! 
 これからも貴方の力でたくさんの人々を救ってあげてください!!」

「いや、嫌だ……モフモフ……もふもふ祭りがぁ……」

「未練がましいニャ、ほら、さっさと入る!」

 ユキミの小さい体からは想像もつかないほどのパワフルなドロップキックで俺は鏡の中に放り込まれてしまう……

「ああああああああああ……もふもふーーーーーー!!! カムバーーーーーーック!!」

 上下がわからない空間を進んでいるんだか落ちているんだかわからない状態で俺は叫んだ。
 魂の叫びを……

 そして気がつくと最初の館の部屋に戻ってきていた。

「全く、まだうじうじしてるのニャ? ちょっとかっこいいと思った私がアホだったニャ……」

 ふかーいため息をつかれる。
 しかし、ため息をつきたいのはこっちだ……

「ユキミはわからないんだ、あの汚物を見るような目、汚いものに触られるような態度、黒板を引っかく音を聞いているかのような表情……あれが満面の笑みで近づいてきてくれるんだぞ……
 酷いよ……」

「まぁ、そこはほんの少し同情してあげるから、次ニャ次!
 ただ、この館は時間の流れがゆっくりだから少し休めるニャ!
 ダイゴローは気がついてないだろうけど、かなり体力を消耗してるニャ!
 汗を流して食事を取って一眠りするニャ!
 明日の朝起こしてあげるニャ! そしたら次の動物を救う旅に出るニャ!」

「動物を……救う旅……」

 俺は両の手で自分の頬をピシャリと叩く。
 ちょっとドゴンっていう変な音が出たけど。

「そうだね、助けを待っている獣人や動物がまだまだたくさんいる!
 頑張らないとね!」

「そうニャ、それでこそダイゴローニャ!」

 やる気を出した瞬間に俺のお腹もやる気を出したらしく、グルルルルルルルルと唸り声をあげる。

「そういやこっちに来てから何も食べてなかった……」

「私は何も食べないで平気だけどダイゴローは魔法を使うと特にお腹が空くニャ。
 腹減らずの指輪みたいな魔道具もありそうだけど……」

 ごそごそと棚を探し始めるユキミ、俺はそれを止める。

「いや、食事は大事だ。とりあえず先にお風呂に入ってくるよ。
 その後御飯作るかな……」

 人との触れ合いに乏しい俺の趣味は料理だ。
 一人黙々と料理を作っているとよい気分転換になる。
 自覚しているけど、こうやって文字に表すとなんとも……寂しいな……
 しかし、べグラースの館のお風呂は不満点が多い。
 まず、浴槽が狭い。浅い。カビ臭い。
 記憶を探ると、こいつほとんど魔法で浄化してやがる……
 いかん、いかんよ!
 風呂は魂の浄化! 俺はすぐに魔法を発動する。
 浴室全体の構造を大きく変化させる。
 魔法を用いた道具でシャワーや浴槽へのお湯の供給、仮想空間なのをいいことにかけ流しの温泉にしてやろう……
 ちょいちょいと魔法で木の湯船を作成して、防腐加工やら何やらも全て魔法だ。
 魔法って素晴らし---!!

「ふいーーーーーーーー……」

 日本人ならこの魂から出るため息をわかってもらえるだろう。
 様変わりした浴室で十二分にさっぱりする。
 風呂上がりは前の家と同じようにささっと作務衣を作り料理に取り掛かる。
 冷蔵庫なんて無くても魔法でいくらでも食材が調達可能だ、蓄えもたっぷりあるが、ベグラースはなんだか乾いたパンだの果物食べる程度で、ほとんど腹減らずの魔法とかを使いながら研究に没頭するタイプだったらしい。
 キッチンも非常に使いづらい、ま、今の俺はそれを一瞬で変える力がある。
 キッチンもリフォームしてしまう。
 一口しか無いコンロを4つ口に、オーブンも別に用意、洗い場も拡張して、作業場は憧れの大理石敷の広いエリアを確保する。
 魔法って素晴らしい。

「な、なんか凄いことになってるニャ」

 ゴトゴトとリフォームを激しく行っていると物音を聞いてユキミがやってくる。

「なんかやけにいろいろな魔法を行使していると思ったら……」

「ユキミさんのお陰で好き放題出来ます。本当に有難うございます」

 せっかく大きなオーブンがあるなら日本で作りたかった料理を作る。
 魔法倉庫にストックしてある食材からスズキに似た白身魚と各種ハーブ、オリーブオイルに似た油、その他様々な野菜類を取り出す。
 まぁ、本当の名前は違うけど、慣れてる呼び方でやっていこう。
 調理道具も魔法であっという間に作り出せる。
 魔法加工で焦げ付かないフライパン、なんという素敵アイテムだろうか!

「まず、オリーブオイルにニンニクを刻んで香りを移して……
 その間にスズキの内臓を取って鱗を処置して、塩を振って臭みを取る……
 ん~~~ニンニクのいい香り、両面を軽く上げてパリッと仕上げる。
 そしたらアサリと各種野菜を並べて白ワインを入れて蒸し煮にしてっと……
 各種ハーブと塩をブレンドした物で味を整えて、全体に火が行き渡っったら!
 スズキのアクアパッツァの完成だ!」

 お腹の音が大暴れだ!
 ストックには大量のパンがあるからそれを軽く温める。
 バターやらも一緒に並べて、凄い!
 まるでレストランみたいだ!!

「な、なんかダイゴローは見た目と違ってこだわるんニャね」

「まぁね、仕事しかしてなかったから、こういうのには凝ってたかもね、いただきまーす!」

 パリッとした皮目にフォークを入れるとホロッっと身が解ける。
 オリーブオイルとハーブソルトだけの単純な味付けだが、魚介類の旨味が溶け出して、ホックホクの白身の魚を極上の一品に仕立て上げてくれる。柔らかく口の中で溶けていくスズキの味わいは筆舌に尽くしがたい。
 周囲に置かれた野菜も旨味の溶け込んだスープを吸って旨味の爆弾の様に味覚を楽しませてくれる。
 少し温めたパンも柔らかく、このスープを吸わせると……たまらない……

「ダイゴロー、わざと口に出してるニャ……」

 ユキミがダラダラとよだれを垂らしている。

「食べる?」

「食べるニャ!!!」

 すぐにもう一品作りユキミにも出してあげる、魔法ですぐに再現可能だ。
 でも、やっぱり料理は自分で作るのが楽しい、次からは最初っから二人分作ろう。そう俺は誓った。

「食事は必要ないとは言え、それは栄養的な問題だけニャ……
 この幸せな気持ちは何物にも変えられないニャ……
 ダイゴローは料理の天才ニャ……」

 ソファーの上で文字通り溶けるようにだらけているユキミ。
 やっぱり人に(?)美味しいと言ってもらえるのは嬉しい。
 以前もよく職場に料理やらお菓子を作って持っていって、喜んでもらえるのは嬉しかった。

「そしたら、少し仮眠取るね。次の動物を救う旅への充電してきます!」

 ユキミは尻尾で返事してくれる。
 よく考えると、こんな風に誰かと会話しながら過ごす家での生活なんて、何年もなかったな……

 寝室も納得がいかなかったので魔法で大改造して、フッカフカの布団で眠りに落ちていった。

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