外道魔術師転生から始まる異世界動物のお医者さん

穴の空いた靴下

6話 死の黄肌

 ノックされた扉を開けてドーベルマン顔の隊長が入ってくる。

「村の皆には何かあれば我らが背後からダイゴロー殿を伐つということで話してある。
 それでいいんだな?」

 俺に迷いはない。

「ええ、こちらも準備は万端です」

 気分でしか無いんだけど、落ち着くので着ていたローブを魔法で白いケーシーと白衣へと変える。
 肩にはユキミが乗っている。
 直接俺と言うかベグラースの気配に怯えてしまう人に対してはユキミに話してもらうつもりだ。

「それでは我々はここにいさせてもらうぞ」

 背後に自警団の二人と隊長が立つ。たぶん武器が背中に向けて構えられているんだろう。

「それじゃぁ始めよう、最初の方どうぞー」

---症例 No2 ララの村の人々---

年齢 0~84
性別 男女
人種 犬型獣人

村に起きる『死の黄肌』の謎を解明しよう

--------------


 先天性の門脈シャント、正確には門脈体循環シャントは遺伝的な要素が絡んでいる可能性が示唆されている。
 ここは森林内の小さな村、たぶんだが、血統的にあまり多彩に混じり合ったりすることがなく、ずっとその遺伝子が受け継がれており、それが時折『死の黄肌』という難病として村人に襲い掛かってきたのではないか? 
 俺はそう推理した。
 ならば、その病を起こしたことが有る家族を過去に持つ人々と、そうでないものを比較して、問題となりうる遺伝子の特定が出来るんじゃないか? 
 そう考えた。
 さらに俺にはベグラースの『実験』を解析して得られた無数のデータが有る。
 それらを組み合わせれば……

「あなたの先祖で『死の黄肌』が起こったことがある人はいますかニャ?」

 結局は全員ユキミが話しかけることになった……
 最初の数名に話しかけると震えて話しにならなかったり失禁されたりと散々だった……
 ここまでワンコの顔した人達に拒否されると傷つく……

 ユキミが質問している間に魔法で村人の体内を精査する。
 最初の数名は何の問題も見つからなかった。
 そして血縁に黄肌を発病した人もいなかった。

「うちの曾祖母の3人目の子がそうだったと聞いています」

 ラブラドールレトリバーに似た顔つきの女性の時、家族性のシャントの可能性のある人物に当たる。
 魔法による精査でもこの女性にも微細なシャント血管が存在していた。
 細く本数も無いために何の症状もなく暮らしてこれたようだった。
 ユキミの問診を聞いていても臨床症状は全く無い。
 血液科学的に見ても異常なし、肝臓のサイズなども正常範囲だ。
 日本で診察をしていたら無処置で経過観察となるが……
 俺はユキミに伝える。

「今からダイゴローがあなたのお腹に触れます。
 でも、絶対にあなたに危害は与えないし、ほんのりお腹が温かく感じるだけです。
 もし少しでも不愉快に感じたら言ってください。
 背後の兵士がダイゴローの心臓を一突きにするニャ」

 真面目な調子で説明するユキミ。ニャが少ない。
 怯えた目で俺の背後に立つ兵士と隊長に目で訴える。
 たぶん背後で大丈夫と頷いたんだろう、その女性怯えた表情で頷く。
 俺は怖がらせないように出来る限りゆっくりと手をお腹に向ける。

「大丈夫ニャ、リラックスするニャ」

 ユキミが優しくその女性に声をかけてくれる。
 そっと女性の肌に触れ、より精密に魔力による探査を行う。
 そしてシャント血管を処置する。
 やぱりスムーズに行える。これがユキミのサポートか。
 同時に遺伝子を念入りにチェックする。
 すでに怪しい点は洗い出している。

「やっぱりか」

「ヒッ……」

「大丈夫ニャ! ダイゴロー! 喋っちゃだめにゃ」

 ペコペコと頭を下げる。
 思わず声が出てしまった。
 この女性にはシャントがある個体に共通する遺伝子の違いが存在する。
 もしかしたら、この人が子をなせばその子に発現する可能性が出てしまう。
 俺はイメージする。
 遺伝子を非シャント群と同様の物に変化するように、塩基を置き換えていく。

「温かい……」

「今、ダイゴローが貴方の病気を治療しているニャ、痛くも痒くもないニャ」

 その処置はすぐに終わる。
 あっさりと、あまりにあっさりと終わる。
 俺は、今自分が行った偉業にガッツポーズを上げそうになるがぐっと堪える。
 ユキミに言葉を伝える。

「これで大丈夫ニャ、貴方の子孫に黄肌が出る可能性は殆ど無くなったニャ」

 背後の兵士たちが驚いている。

「原因がわかったのか!?」

 隊長も思わず声を荒げる。

 喋ってもいいか目で訴え、俺は口を開く。

「死の黄肌は、遺伝する病気なんだ。
 その原因は把握した。だから治せるんだ。
 この村から死の黄肌は減るはずだ」

 扉が空いているので外に並んでいた村人にも今の話が伝わっている。
 どんどん話は広がっていき、皆我慢して俺の話を聞いてくれるようになる。
 それからの診療はスムーズだった。
 もちろん健康相談もされたりもしたが、丁寧に話せば皆ちゃんと話を聞いてくれる。
 調査の結果村全体の20%ほどの人に遺伝子上の変異が存在し、それは治療した。

「この村の他に犬型獣人の村は無いのかな?」

「いや、いくつかの村落はある。どうしてだ?」

「なんというか、あまり、その、濃い血脈はお勧めしない……
 できれば別の村などから嫁や夫を探すこともした方がいいと思う……」

 なんだか獣人にこういう説明をするのは飼い主様に説明するのとは勝手が違うのでソワソワしてしまう。

「そうすることで死の黄肌のような病気が減るのか?」

「減る。あまりに血縁が近いところで子孫を作っていくとあまりよろしくない」

「そうなのか……それは俺の一存では何とも言えないが……」

「もうええじゃろガオその者はどうやら本当にべグラースではないようだ」

村長むらおさ……」

 さっき診療した最近腰が痛むって言っていたバセットハウンドに似たおじーさんだ。
 腰の骨の変形による腰痛だったので石灰化して固まった関節を魔法で改善させて痛み止めの薬も出した。魔法で作ればおいし~薬も作りたい放題だ。

「長年悩んだ儂の腰も、ほれこの通りじゃ!」

 大きく背伸びをする村長、それはよほど凄いことらしくガオと呼ばれた隊長さんも驚いていた。

「それにな、ほれ、ちゃんと前に出てきなさい」

 村長に言われて前に出てきたのは、ララちゃんだった。
 少し顔を赤くしてもじもじしている。

「ララ、言うことが有るだろ?」

 隣には父親であるバウが立ってララちゃんの背中を押している。
 おずおずと前に出てくるララちゃん、俺にあまり恐怖を感じていないようだ。

「あのね……」

 おずおずと両手を前に出すと、小さな手のひらの上に木の実が結ばれた紐のような物が置かれている。
 そっと受け取るとそれは首かざりだった。俺はその素朴な首かざりを首にかける。
 嬉しそうに微笑んだララが話し出す。

「お礼に作ったの、あんなに美味しい料理ははじめて食べられたの。
 気持ち悪くないことがこんなに素敵な気分だってはじめて知ったの。
 いくら走っても疲れないの。
 ぐっすり寝たのも、気持ち悪くて起きることもないのも全部ダイゴローのおかげってパパに聞いたの。
 ありがとうダイゴロー」

 そのまま俺のほっぺにちゅっとキスをしてバウの後ろに隠れてしまった。
 バウは途中までスンスンと鼻をすすっていたが、ララがほっぺにキスした瞬間に般若のような表情になって唸っている。
 しかし、オレの心はその少女の優しい気持ちで一杯になっていた。

 その瞬間、俺の身体から優しい光が周囲へと広がっていく。
 光は部屋だけじゃなく開かれた扉からも周囲へと広がっていっているようだった。

「おめでとうダイゴロー、この村を救ったわ。
 功徳を積んだのよ」


 俺の長い長い功徳の旅のその第一歩が刻まれた瞬間だった。

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