終わりゆく世界の代英雄

福部誌是

補う知識


――死の上に立っている


多くの死の上に俺は立っている。これが何を表すのかは理解出来ていない。

多くの死体が積み重なり、死体の山の上にただ茫然と立っている自分が居る。


これは一体何なのだろうか?

これから先、自分が辿るであろう未来を表しているのだとすれば俺はこれから先何人殺すのだろうか?

十や百といった数などでは決して足りない。千、万・・・・・・いや、そんな数でも表す事が出来ないほどの死体で辺りは埋め尽くされる。

死体の山の上から見下ろす景色。視界の中に入ってくる情報は

死体

死体
死体
死体
死体
死体

死体



死体から溢れ出る独特の臭いに身を包み俺はただそこに立ち続ける。

――きっと、俺の未来は・・・・・・未来の俺が歩いた道の上には死体が山ほど積み重なっているだろう。



突如、辺りが暗くなる。完全な闇に飲み込まれ、徐々に明るくなる。


死体は全て消え、何も無い真っ白な空間に雨が降り出す。


目の前に転がるひとつの死体に目を見開き、膝を折り地面に膝を衝突させる。

軽い衝撃が全身を伝うがそんな事はどうでもいい。


両眼から涙が溢れ出て目の前の遺体を抱き上げる。

確かな重みと冷たい感触はもう彼女の魂が何処にも無いことを俺に悟らせる。


金髪でショートヘアの笑顔の眩しい・・・・・・愛おしい彼女を俺は護ることが出来なかった。


死体となった彼女を強く抱き締め俺は天に向かって吼えた。






――パキ

空間にヒビが入る。

ヒビは徐々に広がり空間全域に広がる。

そして、その空間は音を立てて崩れた。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ぐっ・・・・・・がはぁっ!」

最初に感じたのは痛みだった。


ベットの上から転げ落ちた衝撃よりも強い痛みが全身を襲う。


頭痛、首痛、肩痛、腕痛、胸痛、腹痛、腰痛、脚痛・・・・・・

あらゆる体性痛が陽人を襲う。


「・・・・・・ぅぁ・・・・・・ぃっ!」


痛みを堪える為に身体に力を入れる・・・・・・が、それで痛みが収まることなく、息が漏れる。


少しして身体から痛みが引いていく。

はぁ、はぁ、

と息を切らして四つん這いになる。汗が頬を伝い、床に落ちる。その汗を手で拭ってからゆっくりと立ち上がる。


今、自分がいる場所を確かめてから痛みの原因を突き止める。

「・・・・・・なるほど、戻ってきたって事か」


陽人がこの世界に戻って来るのは数日ぶりだ。


陽人の体感時間ではそうなのだが・・・・・・

陽人は机の上に置いてある、日付け付きのデジタル時計を確認して今日の日付けを確かめる。


その日付けは陽人が数日前に最後にこの部屋で確認したものと全く一緒だ。

というか、時間すら全く変わっていない。

つまり、この世界の時間とあの世界の時間は全く別物。


陽人があの世界で過ごした時間はこっちの世界には影響されないという事の確認を再び済ます。

以前から知っていた事だが、こればかりは何度も心配になり確かめてしまう。


このデジタル時計は秒刻みなので、この時計が止まっている心配は無いのでやはり、時間は影響されていないということに・・・・・・


そこで、まず陽人の頭に浮かんだのは先輩の顔だった。

あの後、少し気まずくなり、疎遠になってしまった後、俺は先輩と一度も会っていない。

「何とかして、先輩に上手く説明出来ないか?・・・・・・・・・・・・無理か?」

と独りで呟く。


そして大きく溜息を吐いたあと、半分程学校に行く準備を済ませた後、今日が休日だということに気が付く。


「・・・・・・マジかっ」

着かかった制服を脱いでクローゼットの中に戻す。


「・・・・・・図書館にでも行くか」

考えた末に出した結論に従って図書館へ行く為に着替えてから家を出た。




家から図書館までの道を自転車に乗ってペダルを回しながら進んでいく。

今やネットで色んなことが調べられる時代。

それでも、陽人が図書館に行く理由は調べ物がしたいからではなく・・・・・・いや、結論を言えば調べ物だが異世界物の小説を借りる為だ。

ライトノベルだっけか?

その辺の知識には乏しいが、現実世界での今日と明日。

休日の二日間を使ってなるべく情報を集めたい。

異世界というもの

種族

エルフ



剣術

身体の鍛え方

等、陽人が調べたいものは山ほどある。ネットと本を使って情報を集めたいと思っているが、図書館で借りられる本の数には制限ある。

図書館が開いている時間帯でなるべく多くの本を読んで・・・・・・数冊借りて、夜はネットを使うか

などと頭の中でやる事を整理して自転車のペダルを回す。



図書館に着いてから何冊もの本を片手に持ち、近くの空いている席に腰を下ろす。


異世界転生、異世界召喚といったジャンルの本を片っ端から読み進める。

意外とスラスラと読み進めることが出来た。

エルフなどの種族について詳しく書かれている神話などに関する書籍を読む為に本を探していた時、見知った顔が目に入り不意に声が出てしまった。


その声に本に集中していた意識が逸れてこちらに顔を向けた彼女。


「・・・陽人君」

と彼女は驚いた表情で陽人の名前を口にする。

「先輩」

と、陽人の方も彼女の事を指し示す言葉を口に出す。







休日の昼

そんな時間帯に男女が共に歩く姿を見て他人からはカップルだと思われてるに違いない。

当の本人達に会話は無く、気まずい空気の中一定のペースで歩く。

カップルだと勘違いされる状況で彼女は俺なんかと歩いていて大丈夫なのだろうか?


と気にしつつも隣の彼女の貴重な私服姿を彼女に気付かれないようにそっと眺める。


清楚系で水色のシャツにベージュ色で膝下までのスカート。

すれ違う男性が2度見するようなルックス

自分とは釣り合わない筈の美少女。


などと考えている陽人の横で彼女は少し頬を赤く染めながらも下を俯いて陽人と同じペースで歩き続ける。


彼女にとっては

休日なのに1番会いたい人に会えて、こんな事ならもう少しだけオシャレとかしてこれば良かったなと少し後悔しつつも、これで「あの件」が無かったら間違いなく最高の休日になったのに

と、嬉しさと後悔の狭間で悶々としている。


そんな事を知る由もなく陽人はやっと言葉を口にする。

「・・・・・・まさか、休日に会うなんて偶然ですね」

と笑いながら何とか切り出してみる。

「う、うん。そうだね」

と彼女は何とも微妙な笑顔で答える。


その笑顔にかなりのショックを受けた陽人はまた黙り込んでしまう。



彼女が微妙な笑顔になったのには理由がある。

好きな異性と休日バッタリ出会って、その後彼から「少し街を歩きませんか?」と折角誘ってきてくれたのに、彼女は平然を装いたいのだ。

嬉しさに飛び跳ねたいのだが、この気持ちを直ぐにでも誰かに伝えたいのだが・・・

彼以外からの誘いなら即断るであろう彼女。


もし、これが少し気まずくなってしまった後でないのなら結果は少し違っていただろう。




陽人は考える。このままではダメだから。

しっかりと自分の言葉で自分の意思を伝えたいから。

偶然にも会うことが出来たのだから。


「あの!」

と勢いよく切り出す彼の言葉に彼女は顔をこちらに向ける。

「・・・あの件なんですけど」

と陽人の言葉に玲奈先輩は察したように

「・・・私も君と話したかったの」

と俯いて呟いた。


本当の事を話せる訳が無い。先輩の事を思えば胸が痛い。打ち明けたくても、絶対に出来ない。

全てを打ち明ければ今度こそ彼女との関係は崩れてしまう。

異世界の存在も、自分の手が汚れていることも


でも、陽人は自分の欲を押さえ付ける事が出来ない。

このままで終わりたくない。陽人の心の支えになってくれた存在。

心の底から尊敬できる存在。

そんな恩人とも言えるような先輩との仲のいい関係を戻したい。

自分勝手で汚いその感情に

陽人は抗うことすら出来ない。


目の前の彼女からすれば、陽人は不気味な存在なのかもしれない。

一瞬で怪我が治るなんて普通は有り得ない。



「・・・・・・俺、誰にも話せない秘密があるんです。それはあの、傷が治った事と関係があるんですけど詳しくはまだ話せなくて」


「うん」

陽人の言葉に彼女は頷く。


「・・・誰にでも他人には話せない秘密があるよ。私にだってあるもの」

と優しい言葉で返してくれた。


「・・・・・・先輩からしたら俺は恐ろしい存在かも知れません、が、もし許されるのなら俺は先輩と・・・・・・また、仲良く話せるように、なりたいです」


全力で言葉にした陽人に対して彼女は少し間を置いてから


「・・・・・・私、陽人君のこと恐ろしいなんて思った事ないよ。確かに、最初は驚いたし戸惑ったけど、それよりも陽人君のいい所沢山知ってるから、そ、そんな事で陽人君を避けたりしない。・・・・・・だから、謝りたかったの。逃げた事に対して」


と彼女は再び間を置いてから

「ごめんなさい」

と歩みを止めて頭を下げた。

その行動に陽人は奥歯を強く噛み締めた。

情けない

「頭を上げてください」

と慌てて先輩に言った。

「・・・その、うれ、しいです」

と付け加える。

その言葉に彼女は勢い良く頭を上げて陽人の顔を見る。

陽人は目を逸らして指先で頬をかきながら赤面で少し恥じらいながら言うその表情に玲奈は目の前の少年の愛しさが最高点まで達しそうになっているのに気が付く。


今までにないくらい心臓が高鳴る。



玲奈は急いで身体の向きを180度回転させる。

陽人は玲奈先輩の背中に視線を送る。

「・・・待ってるから」

「・・・えっ?」

彼女が呟いた言葉に声が漏れる。

「・・・・・・いつか、詳しい事話してくれるまで」

と彼女は振り向いて初めて見る飛びっきりの笑顔でそう言った。

その笑顔に目も心も奪われた陽人。

「じゃあ、私はこれで。今日はありがとう」


と彼女の言葉に「こちらこそありがとうございました」と慌てて返事をする。

彼女は「バイバイ」と手を振りながら小走りで離れていく。

陽人はその背中をそっと優しく眺めていた。




・・・・・・・・・・・・・・・


その夜、陽人は図書館で借りた本を全て読み終えてからベットの上で横になった。


ある程度の知識を本やネットで補う事ができ、更には先輩とも話し合う事が出来た。



陽人の意識は少しずつ何かに吸い込まれるかのように消えていく。


目が覚めるとそこは何も無い真っ白な荒野だった。


「夢の世界」


迫ってくる足音にハルトは身体の向きを変える。

ちょび髭男────レーヴさん。

最初は関わり合うことが苦手で正直嫌いだったが、ハルトに道を指し示し剣と願いを託してくれた人。

本人は無茶な事を自分のやり方で押し付けてしまったと言っていたがハルトはそんな事は思っていない。

ゆっくり思い返してみると謝らなきゃいけない事、お礼を言うべき事が沢山ある気がする。

所々敬語じゃなかった場面もあっただろうし


と心の中で反省していると


「今日は少しだけ長くなりそうだ」

と前置きしてから

「ハルト君。あの世界について私が知っている事を話そう」

レーヴは笑みを浮かべそう言い放った。



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