終わりゆく世界の代英雄

福部誌是

迫る脅威


よく考えるとハルトに誰かに剣を教える程の知識も力もない。

「・・・・・えっと、リゼッタ」


「はい?」


とリゼッタはこちらを見上げる。


「俺はただ、ナサ流剣術が扱えるって事でそれも無意識にやってるし、教えることは難しいかなっと・・・・・思ってるんだけど」


「・・・・・元々記憶喪失ですし、そんな事は期待してませんよ?」


とリゼッタの言葉を聞いてハルトは首を傾げる。


「私はただ、ハルトが剣を振るったり、ナサ流剣術を使う所をしっかりと観察したいんであって」

と続く言葉に納得する。


「あーなるほどね」


「それでは行きましょうか」

とリゼッタが1歩後方に下がる。

ハルトが呆然と立ち尽くしていると


「なにしてるんですか?」

とリゼッタはハルトの手を取る。

「え?」


リゼッタは小走りで進み出し、手を引かれてハルトも走り出す。


「ちょっと、まっ・・・・・どこへ」


「決まってるでしょ!皆の所です」

とハルトの問にリゼッタが答える。


きっと、他の2人にも同じ事を謝らないといけない。でも、同じような事を言わせてはいけない。

彼女は今のを学習して私の目の前で実践してみせろというのだ。

背中を押される。いや、手を引っ張られる。


「・・・・・ありがとう」

ハルトは小さく呟く。

その言葉に

「いえ、仲間ですから」

とリゼッタは前を向いたまま呟く。




エルフの村に入り、ラメトリアとアデルータを捜す。

ラメトリアは森の奥で剣の鍛練ということなので走って森の奥へ向かい、アデルータは部屋で銃の手入れをしていたので、ラメトリアを連れてそのまま部屋に押しかけた。


「二人共、話がある」


とハルトの言葉に2人は静かに耳を傾ける。


「俺は今回、皆に相談せず勝手に突っ走って皆に迷惑をかけた。本当にすまなかった」

と頭を下げる


「でも、俺は今回の件で他の種族の助けにもなりたいと思った。これから先、誰に何と言われようともそれは揺らがない。それでも、俺に付いてきてくれるか?」


顔を上げて2人の顔を見る。

「・・・・・はい」

「付いていきますよ」

2人の答えに「ありがとう」と再び頭を下げた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


その頃、〈プーロ森林〉内を静かに歩く怪物いた。

全身に傷を負い、ゆったりとした歩みでエルフの村に近付く脅威。


右手には漆黒の棘付きの鉄棒を持ち頭には2本の立派な角を生やす。


息を切らし、足を引きずりながら前へと進む。


体力を回復させなければ

・・・・・人を喰わなければ

口からポタポタとヨダレを垂らして歩く。





森の中で薬草を採取していたエルフが異変に気付いたのは村を出てしばらくのことだった。

まだ、明るい時間帯。普段なら小鳥や鹿などエルフの傍に寄ってきてもおかしくはない。

だが、森全体が異常な程に静寂である。

森全体に異様な気配が漂う。


「・・・・・可笑しいわね・・・・・なんだか嫌な感じだわ」


と独り呟きながら森の奥へと向かう。



だいぶ森の奥へと来てしまった。不安を胸に抱えながらも籠の中に薬草を詰めていく。


「だいたいこんな感じかしら」

とエルフは立ち上がりながら呟く。

額に滲み出る汗を手の甲で拭き取る。


――ポタ

と右肩の上に水滴が落ちる

「なにかしら」

とそれを指で取り、眺める。

――ポタ

と今度は頭の上に水滴が落ち、エルフは背後に気配を感じる。


その瞬間、悪寒が全身を襲う。

全身に鳥肌が立ち、汗が沸騰する感覚に襲われる。


恐る恐る後ろを振り返る。

そこにはエルフの何倍も大きな巨体があり、怪物が口から液体を落としていた。

大鬼

その怪物に


きゃあああああああああ


と森全体に悲鳴が響く。


エルフは尻もちを付き後ずさる。恐怖に身体を震わせ、尿を漏らし、下の草に広がり湿る。


大鬼は右手に持つ棘付きの鉄棒で頭を殴り、エルフの身体を軽々と吹き飛ばす。

周りの木々に赤い液体が飛び散り、籠が宙に舞い薬草が零れ落ちる。

エルフは頭を潰し、数メートル吹き飛び、地面に身体を打ち付けて弾み、転がる。

大鬼は静かにそのエルフに近寄る。

左手で眼の前に転がる肉、女体を持ち上げる。


もう、彼女が悲鳴を上げることは無いし動くことも無い。


そのまま左手を口元へ運ぶ。口を開け、閉じる。

歯で柔らかい肉を噛みちぎって血が飛び散る。

口に広がる肉の芳醇な香り。赤い液体と共にそれを呑み込み、夢中で肉を頬張る。


口から今はもう存在しないエルフの血を垂らし、草の上に落ちて赤く染まる。


怪物は身体の向きを変えて再び歩き始める


その進路の先にあるエルフの村へと

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