終わりゆく世界の代英雄
エルフVS傭兵団
「彼のお陰で今私達は生きています」
詳細を話し終えてエルミアがそっと呟いた。
仲間たちもその話を受け入れた様子だ。ハルトもこの村の英雄の話に心を奪われた。
「種族同士の壁意識を覆す実話、英雄譚。やっぱりどの時代にも存在しているんですよ種族の差を関係なしと主張する者達が」
とリゼッタが興奮した口調で口を開く。
「そう・・・・・ですね」
とマレートが何処か暗く、それでも笑顔でリゼッタに答えた。
「・・・・・・・・・・」
ラメトリアもアデルータも無言のまま俯いていた。
「出来ればその当時の事をもっと詳しく教えてくれませんか?」
とリゼッタがエルミアに詰め寄る。
「はい!いいですよ」
エルミアが笑顔で答えたその時、木の扉が勢いよく開けられる。
「村長!」
と慌てて入ってきた若い男のエルフが村長の傍に駆け寄り大声で叫ぶ。
「傭兵の軍団を確認しました。恐らく、あと30分程で戦闘になります」
「・・・・・分かった。スグに戦闘準備を・・・・・・・・」
とハルラスの命令に従って若いエルフは家を出て行く。
「すみません。皆さんも早く準備をお願いします」
「分かりました」
頭を下げるハルラスにハルトが立ち上がって答える。
人間を裏切りエルフに味方する。
この行動がどんな意味を持つのかこの時、ハルトは分かっているつもりだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「北方より多数の人間。その数およそ60・・・・・」
若い男性の声が森の中に響く。
幼いエルフは森の奥に避難し、熟練の兵士達が森の外側で傭兵団を向かい撃つ形になった。
ほとんどのエルフが弓や杖を持って戦うが中には短剣を装備している者もいる。
森の中は殺気立っていて空気が少し気持ち悪い。
戦えるエルフの数はおよそ40。
「数は向こうが上か」と村長のハルラスが口を開く。
マレートが静かにリゼッタに近寄り「・・・・・リゼッタ様は森の奥へ。ここは危険です」と言った。
「・・・・・なっ、何を言ってるの?マレート?」
「これはもう戦争みたいなものです。魔獣討伐の戦いとは訳が違います」
と言ってマレートは横目でハルトを見た。
「ハルト!私も一緒に戦えます」
視線に気付いたリゼッタはそう叫んだ。
ハルトは黙ってリゼッタを見詰める。
リゼッタの目には強い覚悟のようなものが宿っているのを感じた。
「分かってるよ」
と笑いかけるとリゼッタも笑い返してくれた。
その笑顔に胸が苦しくなるのを感じる。
「ハルト・・・・・」
と低い声でマレートが睨んでくる。
「大丈夫だ。俺もマレートも簡単にリゼッタを殺させはしない。そうだろ?」
「・・・・・はい」
ハルトの問い掛けにマレートは軽く目を閉じて答えた。
「傭兵団来ます!」
と高い声が響く。
「戦闘準備!」
と緑髪の男性エルフが叫び、右手を軽く上げる。
土煙の中、馬で掛けてくる60の団体を狙ってエルフ達は弓を構えて弦を後ろに引く。
傭兵団の団体が叫びながら突進してくる。
杖を持ったエルフ達が魔法詠唱を始め「ウィンド・ウォール」と唱えて風の壁を創り出す。
「放て!」
と出された号令に従いエルフ達が矢を放つ。
放たれた矢は空を切り裂き、風の壁で脚の止まった馬を目掛けて飛んで行く。
矢は馬に刺さり、乗っていた傭兵団の人が地面に放り出されるように転がっていく。
「くそ!」などと叫びながら各々の武器を取り出し、走って迫ってくる先頭の傭兵団。
先頭の十数人の舞台を短剣を持ったエルフを中心に迎え撃つ。
杖を持って魔法で支援をするエルフが後方に、弓と矢を持つエルフは木の上に登って上から後方の馬に乗った傭兵団を狙う。
「放て!」
再び発せられた号令に矢の雨が降り注ぐ。
「ウィンド・ショット」
「ウィンド・ボム」
風の玉が戦場の中を走り、傭兵に炸裂する。
体制を崩した傭兵に短剣を持ったエルフが攻撃を仕掛ける。
戦場の空気がエルフ側のものになりつつあったその時、数人のエルフがボロボロの状態で宙に浮く。
まるで誰かに操られているかのように宙に浮いた意識の無いエルフは急に加速を始めて木の上で矢を放っていたエルフと衝突する。
突然、右の方でエルフの悲鳴が鳴る。
「死ねぇー!」
と叫びながら棘のついた鉄球を振り回す灰色の長髪の男が周りのエルフを吹っ飛ばしていく。
長い髪の間から見える眼には物凄く殺気が篭っている。
一言で言うと「気持ちの悪い男」は簡単にエルフを倒し、更に追い打ちを掛けて倒れたエルフの息の根を止めようと顔面に鉄球を振り下ろす。
二、三度それを繰り返して頭蓋骨が割れるような鈍い音が響く。完全に息の根を止めると次の獲物を探すかのように辺りを見渡す。
異様過ぎる光景に息を飲み、その場に立ち尽くす。
他の場所でも次々とエルフの悲鳴が上がり、エルフが劣勢になってきている。
「・・・・・何とか立て直さないと」
ハルトは独り言を呟く。
左の戦場では双剣使いの鎧を着た傭兵が獅子奮迅の如く双剣を振るっている。
「行けぇー!舞鬼!」
「やっちまえ!」
などと周囲から声援が上がっている。
舞鬼と言うのはあの双剣使いの事だろうか。鎧兜を装着していて性別が判断出来ないが、あの動きは男性だろうか?
「ハルト!」
と言って近寄って来るラメトリア。
「どうした?」
「私は鉄球使いの方へ行きます」
「分かった。そっちは頼む」
と言ってラメトリアと別れてハルトは双剣使いの方へ向かおうとしてアデルータに止められる。
「ん?」
「そっちは私が行きます」
と言ってアデルータは銃を抱えて走り出す。
アデルータを見送るとマレートに肩を叩かれて振り向く。
「ハルト!この戦いを終結させるには傭兵団を率いている者を捕るしかないです」
「・・・・・そうだな。エルミア!」
と呼び掛けに応じてエルミアが木の上から降りてくる。
「なんですか?」
「傭兵団の隊長らしき人物を捜してくれ」
「やってみます」
とだけ答えて再び木を登る。
「マレートはリゼッタを」
「言われなくても分かっています」
とだけ言うとマレートは走って恐らくリゼッタのいる場所へと戻って行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ラメトリアはエルフと傭兵団の攻防する中を「鉄球使いの男」を止めるために走り抜ける。
少し走った後、少し視界が開けた。
途端に異様な臭いを感じて立ち止まる。
それは思わず鼻を押さえたくなるほどの「死臭」だった。
目の前には丁度女性のエルフの頭を潰す男の姿。
辺りにはエルフの死体だけでは無く人間の死体も混ざって積み上がっている。
周りの傭兵団は目の前の男を恐れて距離をとっている。
ラメトリアは目の前の男を睨みつける。
これほど人を殺したいと思ったのは随分と久しぶりだ。
ラメトリアの殺気に気付くように突然男が振り向き目が合う。
「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す」
ブツブツと独り言を呟いて少しずつ近付いてくる。
「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す・・・・・・・・・・殺ーすぅぅぅぅぅぅ!」
男は地面を蹴って腕を引き、思いっきり鉄の柄を握る右腕を振る。
それに伴い棘の鉄球が旋回して物凄い速度で迫って来る。
ラメトリアは素早く低い姿勢で前転してそれを避け、剣を引き抜いて地面を一蹴する。
棘の鉄球が地面にドスッ!っと落ちるのを横目で確認しつついっきに距離を詰めて水平に剣を振るう。
男は軽く後ろに飛んで剣を避けて両手で鉄球の鎖を引いて鉄球を操り、ラメトリアの背後を鉄球が襲う。
ラメトリアは咄嗟に反応して体を回転させて剣で受け止めようと試みるが鉄球の重さに体制を崩して吹っ飛ばされてしまう。
軽く意識が飛びそうになるのを堪えて少し離れた場所に着地する。
「死ねぇ!」
着地した瞬間、突如視界に鉄球が現れて次の攻撃がラメトリアを襲う。息をつく間もなく迫る鉄球を弾こうと体を捻って鉄球の下半分を狙って剣を振り上げるが、逆に剣が弾かれラメトリアの軽装の鎧に鉄球がめり込む。
棘が鎧ごと体を貫き血液が付着する。
鎖が伸びきり、鉄球の勢いが止まるとラメトリアの体は数メートル吹き飛び地面の上を滑るように転がる。
口の中に広がる鉄の味。口から赤い液体が垂れる。
そして意識が薄れていく中、近付いてくる足音と共に「殺す、殺す、殺す」などと物騒な声を耳にする。
やがて足音がラメトリアのすぐ近くで止まり、鎖の音だけが耳に響いた。
詳細を話し終えてエルミアがそっと呟いた。
仲間たちもその話を受け入れた様子だ。ハルトもこの村の英雄の話に心を奪われた。
「種族同士の壁意識を覆す実話、英雄譚。やっぱりどの時代にも存在しているんですよ種族の差を関係なしと主張する者達が」
とリゼッタが興奮した口調で口を開く。
「そう・・・・・ですね」
とマレートが何処か暗く、それでも笑顔でリゼッタに答えた。
「・・・・・・・・・・」
ラメトリアもアデルータも無言のまま俯いていた。
「出来ればその当時の事をもっと詳しく教えてくれませんか?」
とリゼッタがエルミアに詰め寄る。
「はい!いいですよ」
エルミアが笑顔で答えたその時、木の扉が勢いよく開けられる。
「村長!」
と慌てて入ってきた若い男のエルフが村長の傍に駆け寄り大声で叫ぶ。
「傭兵の軍団を確認しました。恐らく、あと30分程で戦闘になります」
「・・・・・分かった。スグに戦闘準備を・・・・・・・・」
とハルラスの命令に従って若いエルフは家を出て行く。
「すみません。皆さんも早く準備をお願いします」
「分かりました」
頭を下げるハルラスにハルトが立ち上がって答える。
人間を裏切りエルフに味方する。
この行動がどんな意味を持つのかこの時、ハルトは分かっているつもりだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「北方より多数の人間。その数およそ60・・・・・」
若い男性の声が森の中に響く。
幼いエルフは森の奥に避難し、熟練の兵士達が森の外側で傭兵団を向かい撃つ形になった。
ほとんどのエルフが弓や杖を持って戦うが中には短剣を装備している者もいる。
森の中は殺気立っていて空気が少し気持ち悪い。
戦えるエルフの数はおよそ40。
「数は向こうが上か」と村長のハルラスが口を開く。
マレートが静かにリゼッタに近寄り「・・・・・リゼッタ様は森の奥へ。ここは危険です」と言った。
「・・・・・なっ、何を言ってるの?マレート?」
「これはもう戦争みたいなものです。魔獣討伐の戦いとは訳が違います」
と言ってマレートは横目でハルトを見た。
「ハルト!私も一緒に戦えます」
視線に気付いたリゼッタはそう叫んだ。
ハルトは黙ってリゼッタを見詰める。
リゼッタの目には強い覚悟のようなものが宿っているのを感じた。
「分かってるよ」
と笑いかけるとリゼッタも笑い返してくれた。
その笑顔に胸が苦しくなるのを感じる。
「ハルト・・・・・」
と低い声でマレートが睨んでくる。
「大丈夫だ。俺もマレートも簡単にリゼッタを殺させはしない。そうだろ?」
「・・・・・はい」
ハルトの問い掛けにマレートは軽く目を閉じて答えた。
「傭兵団来ます!」
と高い声が響く。
「戦闘準備!」
と緑髪の男性エルフが叫び、右手を軽く上げる。
土煙の中、馬で掛けてくる60の団体を狙ってエルフ達は弓を構えて弦を後ろに引く。
傭兵団の団体が叫びながら突進してくる。
杖を持ったエルフ達が魔法詠唱を始め「ウィンド・ウォール」と唱えて風の壁を創り出す。
「放て!」
と出された号令に従いエルフ達が矢を放つ。
放たれた矢は空を切り裂き、風の壁で脚の止まった馬を目掛けて飛んで行く。
矢は馬に刺さり、乗っていた傭兵団の人が地面に放り出されるように転がっていく。
「くそ!」などと叫びながら各々の武器を取り出し、走って迫ってくる先頭の傭兵団。
先頭の十数人の舞台を短剣を持ったエルフを中心に迎え撃つ。
杖を持って魔法で支援をするエルフが後方に、弓と矢を持つエルフは木の上に登って上から後方の馬に乗った傭兵団を狙う。
「放て!」
再び発せられた号令に矢の雨が降り注ぐ。
「ウィンド・ショット」
「ウィンド・ボム」
風の玉が戦場の中を走り、傭兵に炸裂する。
体制を崩した傭兵に短剣を持ったエルフが攻撃を仕掛ける。
戦場の空気がエルフ側のものになりつつあったその時、数人のエルフがボロボロの状態で宙に浮く。
まるで誰かに操られているかのように宙に浮いた意識の無いエルフは急に加速を始めて木の上で矢を放っていたエルフと衝突する。
突然、右の方でエルフの悲鳴が鳴る。
「死ねぇー!」
と叫びながら棘のついた鉄球を振り回す灰色の長髪の男が周りのエルフを吹っ飛ばしていく。
長い髪の間から見える眼には物凄く殺気が篭っている。
一言で言うと「気持ちの悪い男」は簡単にエルフを倒し、更に追い打ちを掛けて倒れたエルフの息の根を止めようと顔面に鉄球を振り下ろす。
二、三度それを繰り返して頭蓋骨が割れるような鈍い音が響く。完全に息の根を止めると次の獲物を探すかのように辺りを見渡す。
異様過ぎる光景に息を飲み、その場に立ち尽くす。
他の場所でも次々とエルフの悲鳴が上がり、エルフが劣勢になってきている。
「・・・・・何とか立て直さないと」
ハルトは独り言を呟く。
左の戦場では双剣使いの鎧を着た傭兵が獅子奮迅の如く双剣を振るっている。
「行けぇー!舞鬼!」
「やっちまえ!」
などと周囲から声援が上がっている。
舞鬼と言うのはあの双剣使いの事だろうか。鎧兜を装着していて性別が判断出来ないが、あの動きは男性だろうか?
「ハルト!」
と言って近寄って来るラメトリア。
「どうした?」
「私は鉄球使いの方へ行きます」
「分かった。そっちは頼む」
と言ってラメトリアと別れてハルトは双剣使いの方へ向かおうとしてアデルータに止められる。
「ん?」
「そっちは私が行きます」
と言ってアデルータは銃を抱えて走り出す。
アデルータを見送るとマレートに肩を叩かれて振り向く。
「ハルト!この戦いを終結させるには傭兵団を率いている者を捕るしかないです」
「・・・・・そうだな。エルミア!」
と呼び掛けに応じてエルミアが木の上から降りてくる。
「なんですか?」
「傭兵団の隊長らしき人物を捜してくれ」
「やってみます」
とだけ答えて再び木を登る。
「マレートはリゼッタを」
「言われなくても分かっています」
とだけ言うとマレートは走って恐らくリゼッタのいる場所へと戻って行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ラメトリアはエルフと傭兵団の攻防する中を「鉄球使いの男」を止めるために走り抜ける。
少し走った後、少し視界が開けた。
途端に異様な臭いを感じて立ち止まる。
それは思わず鼻を押さえたくなるほどの「死臭」だった。
目の前には丁度女性のエルフの頭を潰す男の姿。
辺りにはエルフの死体だけでは無く人間の死体も混ざって積み上がっている。
周りの傭兵団は目の前の男を恐れて距離をとっている。
ラメトリアは目の前の男を睨みつける。
これほど人を殺したいと思ったのは随分と久しぶりだ。
ラメトリアの殺気に気付くように突然男が振り向き目が合う。
「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す」
ブツブツと独り言を呟いて少しずつ近付いてくる。
「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す・・・・・・・・・・殺ーすぅぅぅぅぅぅ!」
男は地面を蹴って腕を引き、思いっきり鉄の柄を握る右腕を振る。
それに伴い棘の鉄球が旋回して物凄い速度で迫って来る。
ラメトリアは素早く低い姿勢で前転してそれを避け、剣を引き抜いて地面を一蹴する。
棘の鉄球が地面にドスッ!っと落ちるのを横目で確認しつついっきに距離を詰めて水平に剣を振るう。
男は軽く後ろに飛んで剣を避けて両手で鉄球の鎖を引いて鉄球を操り、ラメトリアの背後を鉄球が襲う。
ラメトリアは咄嗟に反応して体を回転させて剣で受け止めようと試みるが鉄球の重さに体制を崩して吹っ飛ばされてしまう。
軽く意識が飛びそうになるのを堪えて少し離れた場所に着地する。
「死ねぇ!」
着地した瞬間、突如視界に鉄球が現れて次の攻撃がラメトリアを襲う。息をつく間もなく迫る鉄球を弾こうと体を捻って鉄球の下半分を狙って剣を振り上げるが、逆に剣が弾かれラメトリアの軽装の鎧に鉄球がめり込む。
棘が鎧ごと体を貫き血液が付着する。
鎖が伸びきり、鉄球の勢いが止まるとラメトリアの体は数メートル吹き飛び地面の上を滑るように転がる。
口の中に広がる鉄の味。口から赤い液体が垂れる。
そして意識が薄れていく中、近付いてくる足音と共に「殺す、殺す、殺す」などと物騒な声を耳にする。
やがて足音がラメトリアのすぐ近くで止まり、鎖の音だけが耳に響いた。
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