終わりゆく世界の代英雄

福部誌是

反撃

今まで異世界転移をしたら負った傷を回復してきた。

何故そんな能力が自分にあるのかは分からないけど、その能力に救われた場面が幾つかある。

だが、今その能力を恨んでいる自分がいる。その能力に追い詰められている。

「・・・・・・・・」

返す言葉が見つからない。

「・・・・・私が言ったことが分からないの?」

「え、いや・・・・・」

言い訳を探している自分がいる。

「・・・・・なんで傷がなくなってるの?答えられないの?」

何かに恐怖した表情を向けてくる。何に恐怖しているかは明白だ。恐らく玲奈先輩から見て陽人の負っていた傷が一瞬で消えたことに恐怖を抱いている。

何故、あのタイミングで異世界転移したのか・・・・・


「・・・・・そう・・・・ですね。答えられません」

顔を先輩から逸らしてそう言った。

もう本当のことを話してしまおうかとも思った。

異世界転移を繰り返していることを。その度、傷が癒えることを。異世界で傭兵をしていることを。

・・・・・人を、殺したことも。

異世界での出来事を全て吐き出してしまいたい。

頭のおかしい奴だと思われるかもしれない。それでも自分1人でずっと抱えているよりは楽になるかもしれない。

きっと、先輩なら理解してくれるに違いない。


・・・・・でも、話せない。話せるわけない。

それはなんとなくだった。こっちの世界の人をあの世界に関わらせたくない。自分の知っている人に関わって欲しくない。

そう・・・・・玲奈先輩には絶対に関わって欲しくない。

「・・・・・そうなんだ」

先輩は悲しそうな声でそう言った。顔を逸らしているから先輩がどんな表情なのか分からないけど恐らく悲しい表情をしているだろう。

「・・・・・・・・・・」

また言葉に詰まる。

「・・・・・ごめんね。やっぱり陽人君は優しいね」

涙声で先輩は囁いた。

最初は自分の耳を疑った。咄嗟に顔を上げて先輩の顔を見る。先輩の頬を伝って床に落ちる一滴の涙。

謝られた?なんで?しかも涙声だし。訳が分からない。てか涙?

先輩は体の向きを変えるとそのまま小走りで去っていく。

陽人はその後ろ姿を見ていることしか出来なかった。遠ざかって段々小さくなっていくその背中はどこか悲しさを帯びていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

家まで歩いて帰る途中、玲奈先輩の悲しそうな表情を思い出しながら先輩の涙の理由を考えていた。

でも、いくら考えてもその答えを自分で見つけることは出来なかった。


あっという間に家の前に着いてしまった。家の扉を開けて2階にある自分の部屋で着替えを済ます。

その後、晩ご飯の麻婆豆腐を食べて風呂に浸かる。風呂から出た後異世界での疲れもあるからかすぐに寝てしまった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日

朝、校門で玲奈先輩に会った。先輩も陽人に気づいたが話し掛けてくる気配がなく、こっちから話し掛けようかとも思ったが先輩は小走りで陽人の横を通り過ぎて行った。

教室には壺坂を中心とするメンバーがいなかった。どうやら欠席らしい。


昼食の時間。屋上に行ったが先輩の姿はなく、その後も先輩が屋上に現れることはなかった。

5時間目の化学の時間に化学室まで移動する時に玲奈先輩を見かけた。先輩はセミロングの女子生徒と楽しそうに会話をしていた。


6時間目が終わって帰りの支度をしていた時、平井浩太に呼び止められた。

「・・・・・あ、あの、は、陽人君。この後少しいいかな?」


「・・・・・う、うん。大丈夫だけど」


「場所は何処でも良いんだけど・・・・・ここでいいかな?」

「ああ」

と短く返事をする。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

放課後

教室には陽人と平井浩太、大峯奈津が残っていた。

「・・・・・・・ちょっといいかな?」

静寂の時間が少し流れ、沈黙を破ったのは陽人だった。

「なに?」

と答えたのは大峯奈津だった。

「なんで大峯さんがいるの?」

「なにそれ、まるで私がここにいちゃいけないみたいね」


「いや、そうじゃないけど」

「・・・・・あの、そろそろいいかな?」

と、ようやく平井浩太が口を開く。

「うん、いいけど」

「・・・・・あの日、帰った後直ぐに母さんに抱きしめられた。母さんは泣きながら僕を抱きしめてくれたんだ。それまで助けなんて要らないと思っていた。心のどこかで余計なお世話だと。陽人君、君のせいで母さんに僕がイジメられていることがバレた。ずっと隠してきたのに。だから君が憎かった。」


平井浩太は自分の心境を語り始めた。

「・・・・・」

「・・・・・」 

平井浩太の言葉を陽人と大峯奈津は黙って聞く。 

「でも、母さんに抱きしめられた時、目から涙が流れたんだ。母さんに心配をかけたくなかった。でも、母さんの涙に僕の凍りついた心が少しずつ溶けていくような感じがした。そこで、はじめて君に救われて良かったと思えた。
でも、僕は君を救えなかった。本当にごめん」


最後の言葉は陽人の机がなくなっていた時の事だろう。

「・・・・・全然気にしてないから」

どんな表情で言ったらいいか迷った。それでも陽人は笑顔でそう言った。

「それでさ、聞きたいことがあるんだけど・・・・・陽人君はどうしてそんなに強いの?どうして壺坂に立ち向かっていけるの?」


「あ、それ私も知りたい」

と大峯奈津が口を開く。

その質問に対する答えに少し困った。正直言うと、陽人が壺坂に立ち向かっていけたのは異世界での事が1番影響していると思う。

壺坂より凶暴な魔獣との戦闘。命の奪い合い。

だが、そんな事を言えるはずもなく。

次に浮かんで来たのは玲奈先輩の顔だった。

「・・・・・うーん、そうだな、俺は自分の事を全然強くないと思ってる。それでも俺が自分より強い相手に立ち向かっていけたのは俺を支えてくれた人がいるからだと思う。それに、あんな所で子供の時の夢を捨てる訳にはいかなかったからだと思う」


「子供の時の夢?」

と、大峯奈津が聞いてくる。

「・・・・・笑わないと誓うなら教える」

と顔を逸らして言う。

「・・・・・誓うよ。ね?平井君」

「え?あ、うん誓うよ」

「・・・・・・・・英雄になりたかったんだ」

顔が熱い。

少しキョトンとした2人は一緒になって笑い出した。

「・・・・・笑わないって誓っただろ?」

「ごめんごめん」

「・・・・・英雄、か」
  
本当の事を言った自分が恥ずかしい。

「じゃあ、陽人君は僕の英雄だね」

平井浩太は笑顔でそう言った。

「・・・・・ありがとう」

「・・・・・もう一ついいかな?」

と大峯奈津の確認に対して

「うん」

と答える。

「陽人君を支えた人って高杉先輩の事でしょ?」

「・・・・・え?なんでそれを――」

言葉の途中で悟った。玲奈先輩はある人から陽人が壺坂を殴った理由について聞いたと言っていた。

あの日、イジメの対象が陽人に移って心が折れそうになったとき、屋上の扉の前に来てくれた玲奈先輩。

「・・・・・大峯さんが玲奈先輩を呼んでくれたんだね」  

その言葉だけで全てを把握したように笑う。

「そうだよ」


陽人は思う。

俺は思っていたよりも沢山の人に支えられていたんだな。

「ありがとう」

大峯奈津に感謝の気持ちを伝えた。

「・・・・・それで玲奈先輩と不仲になってるよね?」

「・・・・・う、うん」

「私がなんとかしてあげようか?」

「いや、大丈夫。自分でなんとかしてみるよ」

大峯奈津の言葉に対して即答する。

「・・・・・男の子だね。頑張ってね」

と大峯奈津は小さく呟いた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。


陽人は1日中考え事をしていた。

陽人は魔獣の恐怖で凶暴な魔獣を前にすると動けなくなる。

でも、次にいつあの世界に戻れるか分からない。戻ったらリゼッタの命が危ない場面だ。

そう予感する。陽人が動かないとリゼッタは無事では済まない。

俺がやらないと・・・・・大丈夫だ。

昨日の大峯奈津と平井浩太から少しだけ背中を押された気がする。

授業の内容なんて頭に入ってこない。異世界に戻ったとき、自分が取るべき行動について考えている。

昼食の時間。教室で1人でサンドイッチを食べながら、午後の授業。全てをサボって。


「俺がみんなを守らなきゃ」

ボソッと誰にも聞こえない声で呟く。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


その日の夜

ハルトは眠りについて直ぐに何もない空間――夢の中の世界に転移した。

目の前には黒のシルクハットを身につけ、ちょび髭を生やし、眼鏡をかけたスーツ姿の茶髪の男性

――レーヴが浮いた椅子に腰を下ろしていた。

「・・・・・やあ、ここに来るのは2回目だね」

「そうだな」

「・・・・・どうやら何かあったようだね。顔つきが前と全然違う。・・・・・では、問おう」

「・・・・・ああ」

ハルトは笑みを含めてそう言った。

「自分が傷つくのが怖いか?」

「・・・・・ああ。怖いね」

「・・・・・人を殺したことに罪悪感があるのだろう?」

「ふん、当たり前だ」

「君はあと何人、人を殺すのかね?」

「そんなことわからねぇ」

「君は何によって殺されると思う?」

「殺されるのはごめんだな」

「・・・・・魔獣が怖いのだろう?」

「・・・・・・・・正直言うと物凄く怖い。出来れば戦いたくない」

「・・・・・では、どうする?」

「・・・・・乗り越えてやるよ。俺に、俺たちに与えられる試練、その全てを。確かに魔獣は怖いし、人もこれ以上殺したくない。でも、俺は戦うよ。大切な人達を守るために」

陽人の脳裏に浮かぶ沢山の人達。仲間、友達、親、先輩、・・・・・そしてリゼッタ


「――あの世界を救ってくれるかい?」

「・・・・・あくまで俺が救うのは仲間だ。その過程に世界を救ってやるよ」

傲慢だと自分で思う。でも確かに強く思う。

「・・・・・今の君なら大丈夫だろう」

レーヴは少し笑ってそう言った。

「目の前の現実と向き合え。結果から、痛みから逃げるなと、貴方に言われた」

「・・・・・・・・・・」

「痛みからは逃げたくなるし、結果からも逃げたいと思うこともある。それでも目の前の現実からは目を背けない!」

「・・・・・そう。それでいい。そろそろ時間だね」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・君の活躍に期待してるよ」

「・・・・・ああ。任せろ!」

笑って言った。そこで視界が暗くなり、狭まる。

やがて完全に視界は閉じられて・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


呼吸が荒くなり、心臓に痛みを感じる。視界が開けてくる。

異世界に戻って来た。そう感じた瞬間、剣の柄を強く握る。

脳裏に焼き付いているギガントサウルスの牙の恐怖。ホーンバダクの角の痛み。

角が貫通したはずの左腹に痛みは感じない。

ハルトは脚に力を入れて地面を蹴る。

動いた!

視界にはリゼッタと彼女に迫る魔獣の姿。

走りながら剣を握る右腕を後ろに持っていき

「気斬術・アーク」の形をとる。

ハルトはリゼッタとホーンバダクの間に入り、剣を腕ごと後ろから前に振る突進水平斬り。


剣をホーンバダクの角に衝突させる。

キン!と金属音が鳴り響く。

ハルトは全身の力を抜く。ハルトは最近、普通の剣術と「ナサ流剣術」の違いや使い方、剣の振り方のコツについて理解してきた。

「ナサ流剣術」は全身の力を抜いて、集中。余分な力を入れないで相手の衝撃を吸収するイメージ。そして自分自身の剣の威力と合わせる感覚。

「気斬術」から「ナサ流剣術」に移行してホーンバダクの突進の威力を吸収。更にハルト自身の剣に威力を乗せて・・・・・ホーンバダクを弾く。

ホーンバダクの体制が崩れる。その隙を狙って

「二重気斬術・ヴァーティカル」力強い垂直斬りを二重に重ねて、ホーンバダクの右頭を狙って発動。剣を振り下ろす。

ホーンバダクの硬い皮膚を剣先が切り裂く感触。魔獣の肉を断つ力。

ホーンバダクは右頭から血を大量に噴き出した。

ブォォォォォォ

と吼えてハルトから距離を取るホーンバダク。

「リゼッタ大丈夫か?」 

と直ぐ後ろにいるリゼッタに確認するべく声をかける。


「・・・・・はい。大丈夫です」

とリゼッタは立ち上がる。


「さあ、ここから反撃だせ!」 

とハルトは更に剣を強く握りながら笑みを含めてそう言った。

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