終わりゆく世界の代英雄

福部誌是

異世界転移

昔、闇の魔獣と呼ばれる魔獣によって人間の国が壊滅状態になりました。人間達は戦うことを諦め、自分達の刃を折ったとき、たった一つの光が人間の国を包みました。そして、魔獣に立ち向かう一人の青年が現れました。圧倒的な光の力で魔獣を倒した青年はこの世界で最初の英雄になりました。人々は彼をこう呼んだ。初代英雄、光の英雄と。

これは後に伝説となる英雄の物語。

黒髪で短髪のどこにでもいるような高校生紅月陽人は、自分が通っている高校の隣にあるコンビニで今日の昼食を選んでいた。手にしたのはサンドイッチ2袋と緑茶のペットボトル1本。それらを購入し、コンビニから出た。今日の気温は春にしては暑く、とてもまだ5月とは思えないような気温だった。自宅から徒歩で30分。今年の4月に入学した1年生だ。
「暑いな」
そう呟き、学校までの短い距離を歩く。校門を跨ごうとしたとき、急に心臓が苦しくなった。
「なんだこれ」
右手に持っていたコンビニ袋を地面に落とし、右手で自分の左胸を握る。呼吸が苦しい。意識が暗くなる。...
気がつくと目の前には巨大な樹木が立っていた。
「あれ?」
呟きながら周りを見渡す。知らない風景。辺りには草原が広がっていた。
「ここどこだ」
突然、知らない場所に...異世界に
「召喚された...のか?」
反対側から何かの音が聞こえてきた。音のした方を振り向くと、男性を乗せた馬車が走ってくる。男性の特徴は一言で表すと丸い。青色のシルクハットを頭に乗せ、目が細い。男性を乗せた馬車は目の前で止まる。
「あの、馬車にのせてくれませんか?」
と聞いてみる。
「別に大丈夫ですよ」
と男にしては高い声が返ってきた。馬車の男性の名前はヘルビと言うらしい。
「ヘルビさん。この馬車は何処に向かっているのですか?」
とハルトが聞くと
「ここから一番近い国、オルティネシア王国ですよ。ところでハルトさんはあんな所で何をしていたのですか?」
「いや、なんか気が付いたらあそこに立ってたんだけど、前の記憶がないと言うか」
ここは記憶喪失で誤魔化そうと決めて、答えた。
「ということでいろいろと聞いても大丈夫ですか?」
と訊ねてみる。
「では、オルティネシアについて簡単に説明しますね。オルティネシアは最近、隣国ペテシリアとの戦争を行っています。その割には国は豊かな方で、国内は平和な方です。なんでも両国の王様がどちらの国の方がよりいい騎士や傭兵を持っているか競い合おうという話し合いから戦争が始まったとかで、国に住んでいる民には危険は無いみたいです」
「そんな理由で戦争していいのかよ」
とツッコミをいれる。
「なるほど。結構分かった気がする。ありがとうございます。」
「はい。記憶が無いということは魔獣についても説明しといた方がいいですか?」
「魔獣?」
まあ、その単語を聞く限り想像は付くけど、
「人間の敵みたいなものですか?」
「はい。そうですね。この世界で一番最凶の種族とされていて、唯一人間では勝てない生物と言われています」
国の事や魔獣の事について、もっと詳しく知りたいと思ったけど、目の前にはもうオルティネシア王国が見えていた。「これ以上迷惑かける訳にはいかないしな」と思い、
「ありがとうございます」
と言った。馬車が国の門をくぐり抜けた所で馬車を降りる。
「また縁があればどこかで会いましょう」
と言ってヘルビさんと別れる。
建物の外で物を売っている人や建物の中で物を売っている人、通行人など様々な人が行き交う大通りを歩く。
「それにしても、今からどうすればいいんだ?」
と独り言を呟く。
「そこの兄ちゃん。珍しい服装をしているな」
と声を掛けられる。振り向くと、どうやら服屋らしい。「制服の姿がこの世界で珍しいとすれば、売れば結構お金になるんじゃね?」と考える。幸い制服の下には白の半袖シャツに黒の半ズボンを着ている。制服を脱ぎ、半袖シャツ、半ズボンになり、制服を店員のオッサンに差し出す。
「これ、売ります」
制服を売って、1ゴールド。金の価値が分からん。
「腹減ったな」
と呟くと、芳ばしい香りが漂ってきた。右奥の店が香りの発生源だと気付き、駆け込む。そこは肉屋だった。とりあえず、美味そうな肉を注文して、肉にかぶりつく。 
「90シルバーになります」
と女性の店員に言われ、恐る恐るさっきの金貨をだす。返ってきたのは10枚の銀貨。つまり、1ゴールドは100シルバーということになる。「これからどうしよう」と考えながら歩いていると、女性の悲鳴が聞こえた。
「今のは!」
気が付くと、悲鳴のした方をに走り出していた。路地を右に曲がると、1人の少女が3人の男に腕を掴まれていた。
「離して」
と少女が叫ぶ。
「やめろー」
と叫びながらグーパンチを男1人にくらわせる。男が吹き飛び、地面に倒れる。
「大丈夫か?」
「うん」
「てめぇ、なにしやがる!」
と残りの男2人が剣を取り出し、迫ってくる。
「やべえ」
振り下ろされる剣を必死にかわして、男の腹にグーパンチをいれる。男は地面に崩れる。
「このクソ野郎!」
最後の1人も剣を振り上げ、走ってくる。咄嗟にさっきの男が持っていた剣を拾い上げ、男の攻撃を防ぐ。
「クッ...」
と声を漏らす。
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
男の剣を弾き、腹に一撃をいれる。嫌な感触がした。鈍い音剣が男の肉を斬る音、斬る感触。男は腹から大量の血を出し倒れた。
「初めて人を殺した。殺しちまったのか俺」
震える手を見ながら呟く。
「クソッ」
最初に倒した男が起き上がり、逃げる。
「あっ、待て!」
と叫び、追いかける。逃げる男の前に金色の短い髪の少女が歩いていた。
「やべー逃げろ!」
と少女に向かって叫ぶ。次の瞬間なにがおこったのか理解出来なかった。男が吹き飛ぶ。地面に男が倒れた。少女が男の顔面を殴ったのだ。目の前の少女を見る。黒と白の少し高級感のある服に、黒と赤のチェック柄のスカート。背丈はハルトよりも少し小さい。おそらく歳の差もひとつかふたつだろう。少し幼さが残った可愛い顔。
「貴方はこの人の仲間?」
と少女に聞かれる。
「いや、違う。さっきその男から少女を助けたところで」
「そうなんだ。私の名前はリゼッタ。よろしく」
「お、俺はハルト。よ、よろしく」

2人の少年と少女が今出会った。この出会いは偶然か、それとも必然か。この出会いから伝説は始まる。

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