負け組だった俺と制限されたチートスキル

根宮光拓

第三十七話 時間

「そ、それで、初めに何をしたら……?」

 美月は不安げな顔でそう尋ねてきた。
 そうだな……まあ正直に言って俺には何も策がない。
 ただ美月という一時的な味方が出来たというだけで好ましい状況に多少は動いただけだ。
 だからといってそれが勝利に直結するとは限らない。
 奴らのような化け物を倒すためにはそれだけではきっと足りない。
 なら弱者は何をすべきか、そんなことは決まっている。

「まずお前の力とあいつらの力について知っている範囲で教えてくれ」

 まずは情報だ。
 きっと美月という女は今すぐにでも助けに行きたいと言い張るだろうが、知ったことか。

「え!? すぐに助けに行かないと……!」
「失敗しても良いのか、お前が一番知っているはずだろう? あいつらの力を」
「う、分かった」

 でも正直聞かなくても鑑定すれば済む話でもある。
 だが、もしもということもある。

名前  ミツキ・キサラギ
スキル 勇者 治癒 不明

 このように不明が現れるのは想定済みだ。

「お前がエルフの魔法を防ぐときに使った力は何だ?」
「えっと、聖域っていうスキル」
「聖域……」

 それを認識した上で鑑定をかけてみると、

名前  ミツキ・キサラギ
スキル 勇者 治癒 聖域 不明

 となった。
 これは結構良いことを知った。
 にしてもまだ不明があるとは、勇者というのは底知れない。

 だが今はこれ以上聞かなくてもよいか。
 こちらが鑑定を持っているという情報も知られたくない。
 下手な事を言うのは止めておいたほうが良いだろう。

 続いて俺はあの高慢な男を鑑定した。

名前  ユウト・トドロキ
スキル 勇者 強化 不明

 またか。

「じゃああの男の力は分かるか?」

 なら聞くしかなかった。

「えっと、確か強化だったような……」
「そうか」

 つまり勇人とか言う男はこの女にも力を隠していると考える方が妥当だろう。
 ただ単に戦闘向きではないスキルの可能性もあるが。

 最後にあの無口の男だ。

「……なに?」

 思わず声が漏れた。
 なぜなら、あの無口の男のステータスが見えなかった、いや読めなかったからだ。
 どういうわけか文字がぶれて見えている、文字が二つ重なったような具合に。
 これではいくら鑑定をしていようとも見えない。

「ど、どうしたんです?」

 美月がそんな俺に反応する。

「いや、なんでもない、で、あの男の力は分かるか?」

 鑑定が使い物にならない以上、美月を頼るしかない。
 正確性は落ちるが、何も知らないよりは幾分かマシだろうから。

「えっと……ごめんなさい」

 しかし美月はそう呟いた。

「どういうことだ?」
「私も分からないんです、久坂君の力は」
「あいつは力を明かした事はないと?」
「そもそも久坂君と一緒に行動したのも今日が初めてで……」

 嘘は言っていない。
 なるほど、こいつらは共に行動するパーティーではなく、この美月と言う女の行動を見る限りでは、多分あの勇人とかいう男に無理やり連れてこさせられたのだ。だからあの久坂という男と美月は直接的な関係はない。

 情報を得られないのは厄介だが、あえてこの事情を利用させてもらうとしよう。

「お前の聖域は何に対して防ぐものなんだ?」
「あ、はい、私が来ないでと思ったものです」

 来ないで……
 つまり害だと思ったものを妨げる力か。

「ならあの男を足止め出来るな?」
「え……」

 美月とあの久坂という男には直接的な関係は無い。
 それなら少なくとも友情はあの勇人という男より薄いはず。ならばその聖域が作用する可能性もあの直接的な接点があるであろう勇人とかいう男と比べるとずっと高くなるはずだ。

「出来るな?」

 そもそもこの女に出来ることなどそれくらいしかないのだ。

「やらないとあいつらは死ぬ」

 美月は押し黙ったままだ。
 裏切りに協力すると言ったが、それは不参戦のみに徹し、自分は直接関わるとは思っていなかったとでも言うのか。
 もしそうならこいつの頭はきっとお花畑が広がっていることだろうな。

「……分かった」
「じゃあ頼んだぞ」
「はい」

 これで戦いの下調べは終わった。
 しかし結論として何一つ解決していないというのが本音だ。

 あの久坂という男のステータスは読み取れずスキルも不明、そして勇人という男のスキルは分かったものの、あれに対応できる手段がこちらにはないということ。
 この二つの懸念があるのだ。
 少なくともあの久坂という男は美月の聖域で何とかなるとして、問題は高慢男の勇人の対処。
 間違いなく俺が相手取らなければならない。

 アルトにもボコボコにされたばっかりだってのに、またそうなるかもしれないとは、我ながらマゾヒストの資質があるのかもしれない。

 まとめると準備不足である。

 しかし時間的にはギリギリと言ったところだった。
 見ればもうリーフの体はボロボロ。
 もう意識も混濁している頃だろう。

 だが良く耐えたと言わざるを得ない。

 お前があっさりと言わなかったからこそ、美月を説得する時間があったのだから。

 小さきエルフに小さい敬意を覚える。
 ただ単に頑固だったというだけかもしれないが。

「行くぞ」
「は、はい」

 美月と目を合わし頷き合う。
 算段はこうだ。
 まず美月が久坂に近づく。

「ね、ねえ」
「……なんだ?」

 第一段階成功。
 久坂は怪訝そうな顔で美月を見ているが、もう遅い。

「ごめんなさい、【聖域】!」
「なっ……!」

 美月を中心に聖域が張られ久坂を勇人、ミリル、リーフ、俺のいる空間から弾き出した。やはり勇人が弾き出されていない。
 いくら行為を止めたくとも、自分の害とまではいかなかったのだろう。

「何をしているんだ美月?」

 勇人が美月に問う。

「俺が頼んだ」

 その問いには俺が答えた。
 ギロッと目が俺を向く。

「なんだと?」
「聞こえなかったのか?」
「誰だ、テメエは」
「見て分からないか?」

 俺は今フードも何も被っていない。
 そりゃあ見た目が変わっていて俺が、高月光助だとは思わないだろう。
 俺が言ったのはそういう意味ではない。

「……なるほど、こいつらの仲間か」

 思ったより頭は回るらしい。
 流石はあの学校の生徒だ。

「で、お仲間を助けたい美月を誑かしたのか」
「違うな」
「なんだと?」

 美月も驚いた顔でこちらを見ている。
 だが残念ながらその理由ではないのだ。

「俺はお前達が目的だよ」
「どういう意味だ?」
「それくらい分からないのか、勇者様ともあろう者が」
「おまえ……!」

 本当に気づかないものらしい。
 これだけはこの見た目になったことで得られた恩恵だな。

「殺す!」

 勇人が剣を抜いた。
 やはり早い。
 アルトに匹敵するくらいに。
 だがそれは織込み済みだ。

「っち!」

 勇人が身を反らした。
 俺があいつより早く剣を投げたからだ。

 そしてその隙は逃さない。

 俺は勇人に接近した。

「来るんじゃねえ!」

 勇人は剣を振りかぶる。
 俺はその腕を両手で止め、押さえる。

「こ、この野郎……」

 思った以上に重いな……
 これが勇者の力、いや強化スキルの力か。

「はあっ!」

 これ以上は力負けする。
 そう思った俺は勇人の胴体に蹴りを放つ、がこいつはよろめきすらしなかった。

「っつ、……その程度かよ」
「っち」

 笑みを浮かんで言い放つ勇人。
 しかし顔が歪んでいるのは気のせいじゃない。

 ダメージがなさそうに見えるが、どうやら痛みは感じているようだった。

「次はこっちからだ!」

 勇人が剣を振るう。

 その剣筋は早すぎて目で追いきれない。

 気が付けば左腕の皮膚が斬られていた。
 ポタポタと血が流れる。

「は? なんだその腕」

 勇人は怪訝そうな顔で俺の左腕を見る。

「生憎この腕は当の昔に失っててな」
「義手ってやつか」
「ご名答」

 危なかった。
 これが右腕ならばこの程度の傷では済まなかっただろう。それだけでも幸運と言うべきか。
 ただ腕を狙う辺り、まだ戦い慣れしていない。
 あのアルトは素手だったが、問答無用で顔面に拳を入れてきたからな。

「なら顔だ、そこは流石に機械仕掛けってことはないだろ」
「さあどうだろうな」

 相変わらず判断力だけはあの学校の生徒だけあって優秀だ。
 それは思い知っていることではあったが、こういう場面で改めて知ると本当に厄介である。

 しかし俺の手には武器がない。
 こんなやつに素手で挑むのは無茶である。
 だが剣はさっき投げたせいで、やつの背後の木に突き刺さって……

「おらあああっ!」

 勇人が剣を振るう。
 やはり早すぎる。
 避けきれない。

 右頬、左脇腹、右耳、右腕、首、と次々に切り傷が生まれる。

 これは……かなりキツイ。

 だけど――

 俺の口元には笑みがあった。

「後方注意ってな」
「なんだ――とっ!?」

 ミシミシと音を立て倒れてきたのは勇人の背後にあった大木。
 あの大きさならば、勇人にはまず届くだろうし、俺にも届く。

「クソッ!」

 勇人はすぐさま振り返り木を切るべく構える。

 だからお前は慣れてないんだ。
 敵に背を向けてどうする。

「はあっ!」
「なにっ……がっ――!」

 俺の左拳が勇人の後頭部に直撃し、その直後大木が俺たちを押しつぶした。

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