負け組だった俺と制限されたチートスキル

根宮光拓

第三十四話 不穏な足音

 少年リーフによってエルフの里とやらに案内してもらうこととなった俺たちは、リーフの案内の元森の中を歩いていた。

 エルフの里に行くことになった理由は簡単だ。
 情報収集ただ一つ。
 俺達には圧倒的に情報が足りないのは痛いくらい思い知っている。

 それにただ単純にエルフという種族そのものに興味があったということも付け加えておこう。


 そのエルフの里とやらに向けて歩いている俺たち。
 するとガサ、ガサ、と誰かが歩いている音が聞こえて来た。こればかりは流石に露骨過ぎる足音なのでリーフという少年みたいに俺たちをつけているということはなさそうだ。
 だとすると他のエルフ族の見回りだろうか。
 もしそうなら、俺たちが魔人であることによって面倒事に巻き込まれてしまう可能性があるので勘弁したい。

 俺はリーフを見る。

 少なくともこいつが話をつけてくれれば丸く収まるのだ。
 ただ先ほどの弱腰の姿勢を見る限り、あまり頼りには出来なさそうなのが懸念材料だった。
 もし説得がダメなら、逃げるか殺すかだ。

 足音が続く。
 よくよく聞くとその足音が一人だけのものじゃない事に気が付いた。
 二人……いや、三人か。

「おい」

 やはり気になった。
 なのでリーフへと問いを投げる。

 だがリーフは返事一つよこさない。

「おい、聞こえないのか?」

 反応なし。
 流石に様子がおかしい。
 この距離で俺の声が聞こえないわけがないのだから。
 わざと無視を貫いているのなら分かるが、この状況で俺を無視するメリットがこいつにはない。

 なら一体どうしたのか。

 その原因に心当たりがあるとすると、この足音だろう。

 まあ足音は鳴っていた。
 そこまで離れていないが、近くもない。
 少なくともこの木々が生い茂る森の中では、視認出来るか出来ないかの距離だろう。

「リーフ!」

 俺はリーフの肩に手を置いた。
 ビクッと体を震わせて俺の方を向くリーフ。
 本当に、俺の声気付かなかったみたいだな。

「どうした?」

 リーフの顔色は先ほど俺が脅した時並みに良くなかった。

「多分……この足音、エルフのものじゃないんです」
「根拠は?」

 いくらこいつに確信があったとしても、その根拠がなければ俺たちにとってはただの妄言だ。
 そんなものを信用するほど落ちぶれちゃいない。

「足音が……」
「足音がなんだ?」

 それくらい聞こえている。

「エルフ族は滅多に地面を歩かなくて」
「だからこの足音はエルフのものじゃないと」
「は、はい」

 とりあえず注意をするという方針でいくしかなさそうだ。

「というより、お前は俺たちの後をつけてるとき、地面を歩いてなかったか?」

 思い出した。
 リーフは確かに木の上から出なく、下の草むらにいた。

「それは……僕はまだまだ未熟で」
「未熟ねえ」

 確かにその年齢で木の上を縦横無尽に移動できるとは思えない。
 むしろ俺でも出来る気がしない。
 それを考えると妥当な理由である。

「で? お前の推測は?」

 リーフに問う。
 この森に初めて入った俺なんかの考えより、現地人の考えを聞いた方がよっぽどの能無しじゃない限りマシなはずだと思ったからだ。

「多分、平人族だと思います」
「平人族?」

 何だそれは。
 平らな人?

「え?」

 リーフにもミリルにも驚いた顔をされた。
 ということは、平人族という名称は、この世界では誰でも知っていることらしい。
 何だか悔しい。

「コウスケ、馬鹿?」
「……教えてくれ」

 ミリルの暴言に俺は何も言えない。
 仕方がないのだ、多分この世界でいう平人族という単語の認知度とは、俺たちの世界で言う黒人、白人という単語並みの知識なのだろう。
 そしてそれすら分からない日本の高校生なんてほとんどいない。
 つまり俺は馬鹿に思われても仕方ないのだ。と自分なりに冷静に理解した。

「平人族は、あの人たちのこと」

 ミリルはごく簡潔にそう述べた。
 あの人といわれて、直ぐに分かる人などいるものか。
 そもそも見える範囲で俺たち以外の人なんていない。

「あの人?」
「あの里の人たち」
「ああ、なるほど」

 つまり平人族というのは、何も外見に特徴がない人たちのことを指す言葉らしい。
 平凡な見た目の人たちと言う意味で名づけられたのだろうか。
 安直な名称ではあるものの、同時に分かりやすいので文句は言わない。

 というより、俺たちの世界ではそれが当たり前だったのだから地球人は皆平人族ということになりかねない。

「で、何故その平人族と思うんだ?」

 先ほどの会話に戻る。

「ここに近づくエルフ以外の人は、平人族と獣人族しかいないから」

 獣人族?
 と思ったが、今度は口に出さない。
 またあの呆気にとられた顔で見られて、中傷されるのは勘弁だからだ。

 それに獣人族ぐらい、名前で察せられる。
 獣の特徴をした人たちという意味に決まっている。

「獣人族じゃない根拠は?」
「足音」

 またしても足音。
 足音で全て分かってしまうんじゃないか。

「獣人族の戦士は、あんまり靴を履かないから」
「へえ」

 もしかして動物の足だったりして、靴を作るのが面倒だから、とかいう理由だろうか。
 それとも、音を立てないために靴を履かないのか。
 いや、待て。

「エルフも靴は履かないのか?」

 リーフも裸足だった。

「え、あ、はい」

 気付かなかった俺も悪いが、最初から言わなかったこいつも悪い。
 最初からエルフが靴を履いていないと知ったら、木に登るかどうか関係なく、足音で全て分かっていたじゃないか。

 まあいい。
 この際だ、俺が様子を見てこよう。
 もしかするとそいつらは平人族でもなく、魔人の可能性だってあるのだから。

「俺が様子を見てくる」
「え……危ないですよ」
「危ないことには慣れてる」

 もういくつもの災難を超えてきた。
 今更恐れるものか。

「ミリルも待機だ」
「……うん」

 ついて来る気満々だったのはみえみえだ。
 だから釘を刺しておいた。
 隠密に二人も要らない。

「お前らも隠れとけ」

 こっちにも、もしものことがあったら色々と面倒だ。
 ミリルはともかく、リーフに何かがあった場合、俺たちのエルフのつては何一つなくなるのだ。それは今は避けておきたいところである。

 俺は剣を前方の足元に向けながら歩いた。
 こうしていると、剣に触れた葉や草などが黒く染まり音もなく歩けるからだ。
 それに道に迷った場合、この歩いてきた黒い道は道標にもなる。

 我ながら良いアイディアである。

 そんな感じで、少しばかり気分が良い状態のまま俺は進んだ。
 まだ足音は聞こえる。
 なので目指すべき場所は分かっていた。
 にしても、この足音の主はどこへ向かおうというのだろうか。
 この先はどれだけ進んでも、アルカナ連合領土。
 平人族が行くような場所はないはずなのだ。

「――くの?」

 そろそろ姿が見える頃だろうと思った時、足音の主であろう人の声が聞こえて来た。
 しかしまだ距離が離れているためか、話している内容までは聞こえない。
 分かる事といえば、一人は女だということぐらいだ。

「――だろ、いいじゃん」

 段々と足音が近くなるにつれて、会話の内容も段々と鮮明に聞こえてくる。
 女が心配そうに何度も一人の男へ尋ねているようだ。
 だがもう一人いるであろう人物の声はまだ聞こえてこない。

 また一歩近づき、

「でもここって勝手に入っちゃいけないって……」
「何言ってんだよ、ちゃんと許可も貰ったし、そもそも俺たちなら何でも許されるに決まってんだろ」

 完全に会話が聞こえる距離になった。
 女の方が男の方へ詰め寄っている、そんな感じの会話だ。
 内容からしてもめていることが伺えた。

 これだけはいえる。
 俺はこの男が嫌いだと。

 他人の忠告も聞かずに、調子に乗って突き進み周りを巻き込む。
 そしていざという時は他人のせいにして保身を図るのだ。

 本当に嫌いである。

 まあそんな俺の感想はどうでもいい。
 後は、姿を確認するだけなのだ。
 それで俺の対応は変わる。
 平人族ならこのまま様子見。
 魔人族なら同類面し事情を聞く。

 それ以外の何かならスルーだ

「いいからついて来い、俺はエルフを一度見てみたいと思ってたんだよ」
「だからって……」

 ただそれだけの理由で、他国に入ったのか。まあちゃんと許可を貰っているらしいが。
 呆れを通り越して尊敬する。
 とはいえ嫌いな事には変わりないが。

 にしてももう一人が一言もしゃべらない。
 男か女かだけでも確認しておきたいのだが。

「うるせえなぁ、俺に楯突くってのか?」
「ち、違う!」

 聞いてられない。
 何だこの男。

「はっ、ならグチグチ俺の言う事に口出しすんじゃねえよ」
「……分かった」

 女の声が消えた。
 可哀想な奴だ。
 こんな男についてきたばっかりに。

 これ以上この会話を聞いているだけでは、鬱憤がたまるだけだ。
 そろそろ姿を確認するとしよう。

 平人族か、魔人族か、はたまた別の何かか。

 俺は目の前にある茂みに黒い剣を触れさした。
 見る見るうちに黒く染まっていく。
 丁度良いくらいに染まったところで、その染まった部分を手で切り離す。
 すると見事な覗き穴が完成した。

 三人の後ろ姿が見える。
 頭は草が邪魔で今は見えないが、その背格好からして、男二人に女一人。
 しゃべらなかったのは男か。

 それに三人とも軽装ではあるが、武装している。
 ということは戦士か何かなのだろうか。

 俺は視線を脚から頭へと移動させていく。
 これで赤い髪なら魔人族、それ以外なら平人族、ないとは思うが金髪で耳が尖っていたらエルフ族、ふさふさしてたら獣人族。
 さて一体どれだろう。

 そうして俺は見た。

「なっ――」

 その黒髪を。

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