負け組だった俺と制限されたチートスキル

根宮光拓

第三十二話 これから

 あの隊長さんが去った後しばらく何もアクションが無かった。
 こちらはただただ待つだけ。
 何も出来ずに、未来の不安を抱えているその時間は、結構精神的に辛かった。

 ミリルと密着しているのも原因だ。
 熱いし、気まずい。
 この状態で長い事耐えられる自信はない。

 まだかまだかと待ち続けた。
 その時間は体感で数時間、ただ実際には数分程度のものだろう。
 いい加減出てしまおうか、そう考え始めた頃、ようやく事態が動いた。

 聞きなれたガチャガチャ音。
 それは気のせいでなければ、段々とこちらに近づいてきていた。

 やっぱりか。

 覚悟を決めるときがきたようだ。
 いくら善人ぶっていても人には悪の顔もある。
 合理的な判断を取る人間なら、情報を引き出した後の俺たちなど用済みなのだ。始末か拘束してしまったほうが、あちらはずっと利益が大きい。

 自分の考えの浅はかさに苛立っている中、その時は近づいてきていた。
 音だけで数は分からないが、恐らくこの里に来た騎士全員いるはずだ。
 勝ち目なんて端からない戦い。
 慎重に立ち回っても負ける可能性が高い。

 恐らくは死の宣告になるであろう、足音が段々と近づいていき、そしてとうとうすぐ傍に聞こえた。

 どうする、行くか……?

 悩んでいる暇などない。
 向こうはこちらから仕掛けてくるとは思いもしないだろうから、突然襲い掛かれば不意打ちになるはず。
 そうなれば最低限度の優位性を掴めるはずなのだから。

 俺は決意した。
 剣を握りしめ立ち上がろうとする。
 だがそれは、

「なっ……」

 ミリルによって阻まれた。
 ガッチリと腕を掴まれていたのだから。

「何のつもりだ?」

 あくまで小声で告げる。

 こんな時に駄々をこねている場合じゃない。
 お前まで俺の邪魔をするというのか。

 そう敵意を持って睨みつけた。

 だがミリルはそんな俺に一言。

「通り過ぎた」

 と告げた。

 確かに足音は俺たちの隠れていた家の前から離れていく。

 ダメだな、頭に血が上りすぎてしまっていた。
 この性格は少しでも直さないと。
 それにまたミリルに助けられた。このままでは彼女に返せないくらい恩を貰ってしまう。

「……すまん」

 こればかりは俺が悪い。
 勝手に勘違いして、自分達の身を危険に晒そうとしたのだから。

「いい」

 ミリル様様である。

 それから直ぐ、一つの足音が近づいてきた。
 落ち着け。
 これはあの隊長のはずだ。

「待たせてすまない」

 隊長だった。

 俺はミリルと目を合わせ苦笑いを浮かべる。
 全て彼女が正しかったのだ。

「いや、それでどう行けばいい?」
「その前に目的地を聞いていないのだが」

 ああ、確かに言っていなかった。
 だがどうする。
 さっきの隊長さんの話を聞いていなければ迷いなく王都へ向かっていたのだが、あいつらが固まって王都にいないとなると、王都に行くのは最善なのかどうか分からない。
 それに王都といえば、この隊長さんの本拠地。
 無警戒に俺たちのような怪しい奴を案内してくれるとは思えない。

 今の俺は無知に等しい。
 だから最善策なんて出るわけがない。
 ならば、

「俺たちのような奴でも安全に過ごせる国に行きたいんだ」

 俺よりもこの世界を知っているであろう現地人に聞くほかあるまい。

「そうだな……」

 隊長さんはしばらく思案に耽った。
 やはり魔人というのはどこでも煙たがれる存在なのか。
 これから結構ハードな旅になりそうだな。

「ある程度の地理は分かるのか?」
「一応は」

 さっき見た地図は何となくと頭に入っているし、実物も手にある。
 言われて分からないという事はないはずだ。

「では情勢は?」
「生憎とこれっぽちも分からない」

 こればかりは分かりっこない。
 知り合いもいない、新聞もない、テレビもない、そんな俺がこの世界の情勢を知りえるわけがなかった。

「そうか、では移動中にでもこれを見ておくといい」

 その口ぶりからして今は説明してくれないらしい。
 そりゃあ全て説明していては時間も食うから仕方ないのだが。

 と、その隊長さんは家の中に何かを放り込んだ。
 まるで狙ったかのように俺の目の前にそれが広がる。
 見て分かる、これは紙であることと、地図のような図に文字が書かれている事ぐらいは。

「これは?」
「今の大陸の勢力図になる」

 改めてその地図を見る。
 その地図と俺たちが見つけた地図の異なる点は、大陸北部が顕著だった。
 北部はほとんど黒く塗りつぶされており、元あったノートル神聖国とやらの領地は真っ黒でもう名前さえも見えないほどだ。

「この塗りつぶされているのは?」
「魔王が支配する勢力だ」

 素直に驚いた。
 まさかこんなにも支配領地を広めているとは思ってもいなかったからだ。
 俺がいままでいた場所には魔王の影響なんてこれっぽちもなかったのだから、魔王がそれほどまで脅威と呼ばれる存在だと聞いてもピンと来るわけも無かった。

 もう大陸の四分の一ほどは支配しているんじゃないか?

「それで俺たちはその魔王の地へ行けと?」

 皮肉を言ったつもりではなかったが、聞きようによってはそう聞こえるかもしれない。

「いいやまさか、君たちが目指すべき場所はシセイ魔連国だよ」

 シセイ魔連国?
 そんな国、拾った地図には無かったはずだが……

「大陸の北西、魔王領土の隣に位置する国だ」
「あった」

 先ほど渡された地図にはしっかりシセイ魔連国という国があった。
 国土としてはこの地図にある国の中で一番小さい。
 それに魔という名が付いているのは、やはり魔人の国という意味なのか。

「そこはつい最近、デイロスト魔帝国、つまり魔王の国から独立した国で、言ってみれば、魔王が魔帝国は過激派で魔連国は穏健派、その二つの勢力が分裂したことで生まれた国だ」

 何だか一気に固有名詞が出てきてややこしいが、とりあえずシセイ魔連国は魔王の支配地域ではないということだけは分かった。

「それで君たちが通る道は、西からアルカナ連合を通ってモンフ帝国と渡っていったほうが良いだろう」
「間違っても魔王領は入るなと」

 隊長さんが言ったルートだと、魔王の領地とは正反対になるからだ。

「そういうことになる、何しろ魔王領は戦争地帯だ、誰にもおススメは出来ない」
「なるほど」

 それなら納得できる。
 俺たちが魔王に新しい人員としてスカウトされないためにワザと正反対のルートを通らせるのかと思ったのだが、ちゃんと俺たちのことを気遣っての配慮らしい。

「ではそろそろ私は行かないといけない」
「助かった」
「いや、困った人を助けるのが騎士の役目、当然のことをしたまでだ」
「ご立派な事で」

 嫌味にも似た感想を告げると、隊長さん笑いを漏らし去っていった。

 さて、目的地だけじゃなく、ルートも決まった。

 ただ一つ気になる事を言えば、アルカナ連合に勇者となって各地に配属されたやつらはいるのかということ。

 もちろんいるにこしたことはない。
 いないと詰まらないということもある。
 だけどあの隊長さんから貰った地図を見る限り、このアルカナ連合とやらは大陸で唯一魔王領と領土が隣接していない国だ。そんな国に貴重な戦力である勇者を配置するだろうか。
 俺ならそんな勿体無いことはしない。

 それを考えると、これから行くアルカナ連合には復讐対象はいないということになる。

「まあ、いいか」

 慌てる必要はない。
 時間がかかればかかるほど、俺は技能創造によってスキルを増やせる。
 まだあいつらの力が不明瞭な今、無策に飛び込むのは辞めておいたほうがいい。
 それにアルトの事もある。

 慎重に行くに越した事はないだろう。

 そういえばミリルの意見を聞いていなかったな。

「ミリルはどう思う?」
「コウスケに任せる」
「そうか」

 まあ大方その答えは予想していた。

 それに俺がシセイ魔連国という魔人が安全に暮らせる国を目指す理由の一つが、ミリルでもあるのだ。
 それは俺の復讐が簡単に行くとは思っていないからだ。

 きっと勇者スキルなるチートスキルを手にしている奴らは、恐ろしい力を秘めている。それこそアルトのように。

 そんな戦いにミリルを巻き込むことは出来ない。
 何も心配という意味ではない。
 邪魔という意味でだ。

 誰かを守りながら戦うなど、そんな余裕、勇者を相手にしている俺にあるわけがない。
 だからといって、そこらへんに捨てていくのは後味が悪い。
 なので拾った責任としてミリルはシセイ魔連国に連れて行く。

 それが俺のこの世界での最後の善行なのだ。
 

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