負け組だった俺と制限されたチートスキル
第十七話 同じ境遇
今度こそカノスガは死んだ。
真っ黒に染まり、俺の目の前に転がっている。
終わった。
ようやく初めての復讐を成し遂げることが出来たのだ。
俺はゆっくりと息を吐きながら立ち上がった。
興奮するというよりは、何ともいえぬ達成感が俺を包み込む。
心地がよかった。
この行為が世間的に悪であり、禁忌であることは承知の上であるが、それを差し置いてもこの感覚はとてつもなく気分がよかった。
それが後いくつも控えているとなると、期待が膨らむ。
楽しみだ、と。
自然に笑みが浮かばせながら、俺はあの大扉へと向かった。
一応この剣を手に入れることが出来てはいたが、まだ色々と見て回りたいという思いがあったからだ。もし良いものが眠っていたら頂戴させてもらう。
俺はゆっくりとその大扉を開いていった。
今なら時間が山ほどある。
俺は余裕を持ちながらその扉を開きると、そこにいたのは当然ながら先に入っていたミリル。
「なんだ?」
ミリルはジッとこちらの顔を見ていた。
もはや彼女のこうした行動は慣れ始めていたので、同じように見つめ返し尋ねる。
しかし彼女は何も言わずにそのまま視線を外して部屋の奥へと進んでいった。
一体何なんだ? と困惑する俺を差し置いて。
まあ、いいか。
俺は気持ちを切り替えて探索を始める。
少々薄暗いが、見えないことはなく、博物館感覚で俺は色々物色した。
そこにあったのは、宝石から本にいたるまで様々なものが置かれていた。この剣が置いてあったのだから本当に色々なものが置いてあったことが伺える。
もちろんただの骨董品ではないだろう。
この剣だって不気味な力が宿っていたのもあるし、あのカノスガが無価値なものを趣味で集めるとも思えない。
ひとまずそれを承知していた俺は、見るだけじゃ分かるわけもないことを理解していたので、博物館では絶対に出来ない、触れるという行為もお構いなしに行っていた。
時には投げたり、開いたり、破ったり。
とにかくやりたいことは全てやった。
まあミリルから時々視線を送られた時はその手を止めたが、絶対に呆れてるだろうな、あの顔は。
それからもうほとんどの品々を見終わった頃、俺はこの部屋の一番奥へ来ていた。目の前には不自然にも空いた空間がある。この剣が収まっていた場所だ。
そしてその周りはいわゆる金属製品がたくさん置かれていた。ここはそう言った類の物を置く場所だったのだろう。
「ん?」
そこであるものに目がつき、それを手に取る。
それは短剣といえる代物で、剣先から柄まで白銀に輝いている。誰もがこれを見て同じ感情を抱くだろう。
美しいと。
まるでこの黒い剣と対になるような短剣だった。
それと同時にある思いも浮かぶ。
「ミリル」
俺は彼女の名を呼ぶ。
目的はただ一つ。
「これどうだ?」
俺は手に持った短剣を彼女の前に出す。
俺の意図が分からないミリルはコテンと首を傾げ、こちらの目を見つめた。
「お前に似合うんじゃないかってな」
「……私に?」
そうこの短剣を見て真っ先に思ったことがそれだった。
白銀のそれは、同じく白と形容できるミリルにこそ映えると感じたのだ。
我ながら意味の分からない感想だが、その直感は間違っていないはず。
俺はそう思い、彼女に短剣を差し出していた。
「でも……」
しかし彼女は渋る。
もしかして他人のものだから、受け取れないという理由なのだろうか。
「嫌なのか?」
そう聞いた結果、彼女はフルフルと首を振ったため、先ほどの予想がより可能性を帯びてきた。
俺にして見れば鼻で笑ってしまう理由だが、彼女にとってみればいわゆる良心が咎めるという奴なのだろうか。
だが次に放たれた言葉で俺はその予想を取り消した。
「私には似合わない」
俺にして見ればその言葉は予想外ともいえる言葉だった。
なぜならこの短剣が似合う者など、俺はミリルしか知らないと思うほどピッタリだったのだから。
「どうしてそう思う」
その思いのあまり俺は尋ねる。
「こんな綺麗な物……似合わない」
まるで自分がそれに吊り合わないかのようにそう言ったミリル。
俺には正直そう思う理由が分からなかった。
これほど綺麗な髪、肌、目を持っているのに、どうして卑下するのか。
「俺は似合うと思うが」
「……うそ」
首を振り俺の言葉を拒絶する。
初めて見せた彼女の感情。
しかしそれはあまりにも悲しいものだった。
俺は分かってしまったのだ。
彼女がどうしてそこまで自分を卑下しているのかを。
俺と同じ道を歩んできたからこそ分かる。
俺だって技能創造なんていうチートスキルを手に入れた今でも、自分はあいつらに劣ると考えているのだから。
彼女はそんな俺と同じなのだろう。
穢れた赤い瞳を持って生まれたがために、否定され続けた自分の容姿に自信が持てないのだ。
「似合わなくたっていいんじゃないか?」
「え?」
彼女が顔をあげ、俺を見る。
そうだ、他人の評価なんて気にする必要なんてないのだ。
人を殺すほど振り切った俺のようになれとは言わない、だが自分が生きたいように生きる権利は誰にだってある。
「似合う必要があるのか?」
「でも……」
「それに似合うに合わないは他人が決めることだ、だから俺が似合うって言ってんだから今はお前がどう思おうと似合ってるんだよ」
半ば強引な言い方ではあったが、口が上手くない俺にはこういうしかなかった。
「それに、似合わないって言ってくる奴は――」
殺せばいい、と言いかけるが、俺はその言葉を飲み込んだ。
流石にそれは狂人を極めすぎていると思ったからだ。
俺でもそこまではやらない……と思う。
「――無視したらいいんだ」
と、引き攣りながら無理やりに言い切った。
ポカンとするミリル。
そのまま俺たちは何も言わず、沈黙の時間が流れた。
その間引き攣った笑みを浮かべたままの俺。
正直顔が疲れてきたその時、ミリルの口元が緩み、そして、
「ふふふ」
笑った。
記憶が正しければ、俺が彼女の笑った姿を見たのは初めてだ。
やはり顔立ちが整っているだけあって、笑った顔は可愛い……って何を思ってんだ俺は。
そしてひとしきり彼女は笑いきり、俺から短剣を受け取った。
よかった、少し口が滑りかけたが結果的には上手くいって。
「ありがとう、コウスケ」
笑みを浮かべて俺にそう言ったミリルに、俺は小恥ずかしくなりながらも、
「まあ俺のじゃないんだけどな」
と軽口を発してごまかした。
ギュッと胸にその短剣を抱くミリル。
何はともあれ、気に入ってくれて何よりである。
ちなみに言っておくと、俺が彼女に短剣を渡したのは似合うと思ったから、という理由だけではなく、護身用はもちろんのこと、この黒い剣を持ってきてくれたお礼の意味もあった。
あれがなければ今頃俺はこんな爽快な気持ちになっていないはずなのだから、本当に彼女には助けられた。
俺の方こそ、ありがとう。と言いたいものだ。
まあ口には出さないが。
そうしてもうこの部屋には特に用がなくなってしまった。
カノスガがいっていたとおり、ここには出口がなさそうだったからだ。
だが悲観することはない、カノスガたちが突然現れたということは、まだ隠し部屋があるということだからだ。
俺はミリルといつものようにアイコンタクトを交わし、部屋を出て、再びこの施設の探索を始めた。方法はもちろん壁に手を当てるという原始的な方法ではあるが、実績はある。
俺たちは歩き続けた。
そしてとうとう行き止まりというところで、一つ見慣れない扉があるのを発見する。
もしかしなくてもその扉はカノスガたちがいた扉だろう。
きっと扉を隠す暇はなかったため、こうして丸出しなのだろう。
つまり俺たちがやってきた行為は無駄だったと言うことだ。
気まずそうに俺はミリルと視線を交わすが、彼女は対して気にしないとばかりにただ頷いて、先を促した。
確かにここでいつまでもいるわけにはいかない。
俺はその扉の先へ向かう。
出口だろうが新たな部屋だろうが、関係ない。
後はカイン、お前を殺せば区切りがつくんだからな。
真っ黒に染まり、俺の目の前に転がっている。
終わった。
ようやく初めての復讐を成し遂げることが出来たのだ。
俺はゆっくりと息を吐きながら立ち上がった。
興奮するというよりは、何ともいえぬ達成感が俺を包み込む。
心地がよかった。
この行為が世間的に悪であり、禁忌であることは承知の上であるが、それを差し置いてもこの感覚はとてつもなく気分がよかった。
それが後いくつも控えているとなると、期待が膨らむ。
楽しみだ、と。
自然に笑みが浮かばせながら、俺はあの大扉へと向かった。
一応この剣を手に入れることが出来てはいたが、まだ色々と見て回りたいという思いがあったからだ。もし良いものが眠っていたら頂戴させてもらう。
俺はゆっくりとその大扉を開いていった。
今なら時間が山ほどある。
俺は余裕を持ちながらその扉を開きると、そこにいたのは当然ながら先に入っていたミリル。
「なんだ?」
ミリルはジッとこちらの顔を見ていた。
もはや彼女のこうした行動は慣れ始めていたので、同じように見つめ返し尋ねる。
しかし彼女は何も言わずにそのまま視線を外して部屋の奥へと進んでいった。
一体何なんだ? と困惑する俺を差し置いて。
まあ、いいか。
俺は気持ちを切り替えて探索を始める。
少々薄暗いが、見えないことはなく、博物館感覚で俺は色々物色した。
そこにあったのは、宝石から本にいたるまで様々なものが置かれていた。この剣が置いてあったのだから本当に色々なものが置いてあったことが伺える。
もちろんただの骨董品ではないだろう。
この剣だって不気味な力が宿っていたのもあるし、あのカノスガが無価値なものを趣味で集めるとも思えない。
ひとまずそれを承知していた俺は、見るだけじゃ分かるわけもないことを理解していたので、博物館では絶対に出来ない、触れるという行為もお構いなしに行っていた。
時には投げたり、開いたり、破ったり。
とにかくやりたいことは全てやった。
まあミリルから時々視線を送られた時はその手を止めたが、絶対に呆れてるだろうな、あの顔は。
それからもうほとんどの品々を見終わった頃、俺はこの部屋の一番奥へ来ていた。目の前には不自然にも空いた空間がある。この剣が収まっていた場所だ。
そしてその周りはいわゆる金属製品がたくさん置かれていた。ここはそう言った類の物を置く場所だったのだろう。
「ん?」
そこであるものに目がつき、それを手に取る。
それは短剣といえる代物で、剣先から柄まで白銀に輝いている。誰もがこれを見て同じ感情を抱くだろう。
美しいと。
まるでこの黒い剣と対になるような短剣だった。
それと同時にある思いも浮かぶ。
「ミリル」
俺は彼女の名を呼ぶ。
目的はただ一つ。
「これどうだ?」
俺は手に持った短剣を彼女の前に出す。
俺の意図が分からないミリルはコテンと首を傾げ、こちらの目を見つめた。
「お前に似合うんじゃないかってな」
「……私に?」
そうこの短剣を見て真っ先に思ったことがそれだった。
白銀のそれは、同じく白と形容できるミリルにこそ映えると感じたのだ。
我ながら意味の分からない感想だが、その直感は間違っていないはず。
俺はそう思い、彼女に短剣を差し出していた。
「でも……」
しかし彼女は渋る。
もしかして他人のものだから、受け取れないという理由なのだろうか。
「嫌なのか?」
そう聞いた結果、彼女はフルフルと首を振ったため、先ほどの予想がより可能性を帯びてきた。
俺にして見れば鼻で笑ってしまう理由だが、彼女にとってみればいわゆる良心が咎めるという奴なのだろうか。
だが次に放たれた言葉で俺はその予想を取り消した。
「私には似合わない」
俺にして見ればその言葉は予想外ともいえる言葉だった。
なぜならこの短剣が似合う者など、俺はミリルしか知らないと思うほどピッタリだったのだから。
「どうしてそう思う」
その思いのあまり俺は尋ねる。
「こんな綺麗な物……似合わない」
まるで自分がそれに吊り合わないかのようにそう言ったミリル。
俺には正直そう思う理由が分からなかった。
これほど綺麗な髪、肌、目を持っているのに、どうして卑下するのか。
「俺は似合うと思うが」
「……うそ」
首を振り俺の言葉を拒絶する。
初めて見せた彼女の感情。
しかしそれはあまりにも悲しいものだった。
俺は分かってしまったのだ。
彼女がどうしてそこまで自分を卑下しているのかを。
俺と同じ道を歩んできたからこそ分かる。
俺だって技能創造なんていうチートスキルを手に入れた今でも、自分はあいつらに劣ると考えているのだから。
彼女はそんな俺と同じなのだろう。
穢れた赤い瞳を持って生まれたがために、否定され続けた自分の容姿に自信が持てないのだ。
「似合わなくたっていいんじゃないか?」
「え?」
彼女が顔をあげ、俺を見る。
そうだ、他人の評価なんて気にする必要なんてないのだ。
人を殺すほど振り切った俺のようになれとは言わない、だが自分が生きたいように生きる権利は誰にだってある。
「似合う必要があるのか?」
「でも……」
「それに似合うに合わないは他人が決めることだ、だから俺が似合うって言ってんだから今はお前がどう思おうと似合ってるんだよ」
半ば強引な言い方ではあったが、口が上手くない俺にはこういうしかなかった。
「それに、似合わないって言ってくる奴は――」
殺せばいい、と言いかけるが、俺はその言葉を飲み込んだ。
流石にそれは狂人を極めすぎていると思ったからだ。
俺でもそこまではやらない……と思う。
「――無視したらいいんだ」
と、引き攣りながら無理やりに言い切った。
ポカンとするミリル。
そのまま俺たちは何も言わず、沈黙の時間が流れた。
その間引き攣った笑みを浮かべたままの俺。
正直顔が疲れてきたその時、ミリルの口元が緩み、そして、
「ふふふ」
笑った。
記憶が正しければ、俺が彼女の笑った姿を見たのは初めてだ。
やはり顔立ちが整っているだけあって、笑った顔は可愛い……って何を思ってんだ俺は。
そしてひとしきり彼女は笑いきり、俺から短剣を受け取った。
よかった、少し口が滑りかけたが結果的には上手くいって。
「ありがとう、コウスケ」
笑みを浮かべて俺にそう言ったミリルに、俺は小恥ずかしくなりながらも、
「まあ俺のじゃないんだけどな」
と軽口を発してごまかした。
ギュッと胸にその短剣を抱くミリル。
何はともあれ、気に入ってくれて何よりである。
ちなみに言っておくと、俺が彼女に短剣を渡したのは似合うと思ったから、という理由だけではなく、護身用はもちろんのこと、この黒い剣を持ってきてくれたお礼の意味もあった。
あれがなければ今頃俺はこんな爽快な気持ちになっていないはずなのだから、本当に彼女には助けられた。
俺の方こそ、ありがとう。と言いたいものだ。
まあ口には出さないが。
そうしてもうこの部屋には特に用がなくなってしまった。
カノスガがいっていたとおり、ここには出口がなさそうだったからだ。
だが悲観することはない、カノスガたちが突然現れたということは、まだ隠し部屋があるということだからだ。
俺はミリルといつものようにアイコンタクトを交わし、部屋を出て、再びこの施設の探索を始めた。方法はもちろん壁に手を当てるという原始的な方法ではあるが、実績はある。
俺たちは歩き続けた。
そしてとうとう行き止まりというところで、一つ見慣れない扉があるのを発見する。
もしかしなくてもその扉はカノスガたちがいた扉だろう。
きっと扉を隠す暇はなかったため、こうして丸出しなのだろう。
つまり俺たちがやってきた行為は無駄だったと言うことだ。
気まずそうに俺はミリルと視線を交わすが、彼女は対して気にしないとばかりにただ頷いて、先を促した。
確かにここでいつまでもいるわけにはいかない。
俺はその扉の先へ向かう。
出口だろうが新たな部屋だろうが、関係ない。
後はカイン、お前を殺せば区切りがつくんだからな。
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