負け組だった俺と制限されたチートスキル
第十三話 研究施設
俺は少女を連れて研究所の中を彷徨っていた。
「えっと、ミリルだっけ、ここってどこに何があるのか分かるか?」
「ぁ、ううん」
ミリルは俺が名前を呼んだとき、一瞬ピクッとしたが、すぐに首を振った。
ああ、そうか、俺に名前を言い当てられたことを……
俺は頭をポリポリと掻いて、告げる。
「あぁ、俺も鑑定スキルを持っているんだ」
「そう、なの?」
「ああ」
出来るだけ優しく、傷つけないように告げた。
すると彼女は、その綺麗な赤い瞳をこちらに向け、興味深そうにこちらを見つめる。
なんだか、彼女は俺の顔の部位に注目する癖があるような気がするのだが、気のせいだろうか。
まあ気になったら聞いたほうがいいよな。
俺は聞いた。
「なあ俺の顔に何かついてるか?」
「えっと……私と同じ色だから」
「色?」
一瞬何のことか言っているかわからなかった。
だが次の彼女の言葉を聞くと、その疑問はストンと胸に落ちる。
「目の色が」
「あぁ、なるほどな」
そういえば俺の瞳は真っ赤になっているということを忘れていた。
そりゃあ自分で自分の瞳を見るには鏡が必要だから、忘れるのも仕方ないだろう?
とはいえ彼女にとっては自分と同じ赤い瞳を持つ俺が物珍しいのだろう。もちろん俺も彼女の瞳は珍しいものだと思っている。
確か……アルビノだっけ?
遠い記憶を呼び起こすとそんな名称が思い浮かぶ。
だがそれはチラリと見ただけで、肝心の中身をあまり詳しくは知らないので、それが何だという話なのだが。
しかもここは異世界、向こうの常識が通じるとも限らない。あまり向こうの常識で考える癖は今のうちに直しておいたほうがいいのかもしれない。
という特段重要ではないことを、考えながら俺たちは施設の中をさまよい歩いた。
そうしてあることを思いつく。
「ミリル、一つお願いしてもいいか?」
出来るだけ優しく、一歩引いた位置にいるミリルに話しかける。
そこからまだ俺を完全には信用していないことが分かった。
いくら助けに来た人だからといって、そう信用される者じゃないことは知っているし、俺だって警戒する。それがこの世界を生き抜くためには必要なことであるのも。
「……なに?」
潤んだ赤い瞳でこちらを見つめ、そう口にするミリル。
俺はそんな彼女に多少申し訳なく思いながらも、壁に手を当て口を開いた。
「壁をこうやって触りながら歩いて欲しいんだ」
コテンと首を傾げて俺を見るミリル。
確かに説明をしないと意味が分からないだろうな。
俺はこの施設の設計者のある性格を思い出していた。
それは入り口の件から考えられること、つまり何か特別な場所は何かしら隠されている可能性があるということだ。
そこで思いついたのが、
「もしかすると壁に隠し扉があるかもしれないと思ってさ」
だった。
その言葉を聞くと、ミリルはコクリと頷いて言ったとおりに壁に手を当ててくれた。
文句を言わないでくれて本当に助かる。
そうして俺たちは壁に手を当てながら研究所を歩き回った。
それからしばらく歩いていると、ミリルの方から小さな声が上がった。
「あ……」
「どうした?」
間違いなく何かがあったのだろう。
そう判断した俺は、ミリルの言葉を待つまでもなく彼女の方へ歩みよる。
ササッと身体を引いたミリルは、それでもある場所を指差して俺に見せた。
少しだけ傷ついたのは言うまでもない。
「これは……」
ミリルが見つけたのは小さな穴。
入り口のカモフラージュになっていた岩にも同じような穴があったことから、これがこの鍵を入れるための穴であることは間違いなさそうだ。
早速俺はその穴に鍵を差し込む。
その様子を少し引いたところで見るミリル。やはり少しは気になっているようだ。
「入った」
鍵は見事に穴に入り、そのまま鍵が回る。
カチッという明らかに何かが解けた音がした。
後はこの壁を押しさえすれば良さそうだ。
俺はチラリとミリルを見る。
もしこの奥で職員たちが待ち構えていないとも限らない。
もしそうなら彼女を守って戦うのは正直言って面倒だった。
「少し下がっていてくれ」
なので俺は彼女にそう告げた。
こう言えば彼女は断らないことも知っている。
現にミリルは大人しく俺の後ろから少し離れた位置で俺の背中を見守っていた。
さて準備は整った。
俺は壁を押し込んだ。
壁は思いのほか重く、ゆっくりと開いていく。
ゴゴゴという音を鳴り響かせながら扉が開き、その中の部屋の光景が目に飛び込んでくる。
「ここは……」
中にあったのは檻、檻、檻、いくつも並べられた檻だ。
そしてどこか見覚えのあるここは、俺がここで初めて目を覚ましたときにいた場所であることが分かる。
そうか、ここに繋がっていたのか。
俺はミリルに目配せして、今しばらくそこにいるように指示する。
今のところ人の気配はないが、やはり油断は禁物なのだから。
檻の中には魔物の姿。
以前は何の生物なのか分からなかったが今は分かる。あれだけ魔物に追いかけられていたのだ、こいつらの持つ真っ赤な瞳は忘れるわけがない。
まあその真っ赤な瞳を俺も持っているんだけど。
そこで理解した。
この魔物と同じ真っ赤な目を持つことの意味を。
そしてこんな目を持って生まれたミリルという少女の人生を。
少なくとも喜ばれはしなかったはずだ。
魔物と同じ目を持つ者など常識を持つ者なら、その者も魔物と思うに違いない。
そう考えると彼女の人生は決して楽ではない。むしろ他人から歓迎されること無く、生きてきて、その行き着いた先がここ。
まるで俺と同じ、いや俺以上に辛い過去を持っている。
「だからなんだよ……」
ボソリと呟く。
そうだ、いくら俺と同じ境遇にあってたとしても、彼女の面倒をこれから先も見ていくなんて絶対に出来ないしやらない。俺には復讐という目的があり、彼女にはそれがないように見える。まだ幼いからか、それとも復讐という発想に至らないほど虐げられてきたのか、俺にはわからない。
ただ一つだけ言えること、それは彼女と俺の歩んできた道は似ていたとしても、それは決して同じではないということだ。
復讐に駆られて破滅する道、反抗せずにただ運命の赴くままに生きていく道、はたまた勝利を勝ち取り栄光を歩む道、人には色々な道がある。だが全てが同じではない。
いくら同じような道を歩んだとしても、行き着く先は全く別の結果になることだって普通にあるのだ。
今は偶然彼女と俺の道が重なっただけであって、彼女が復讐を望むとは限らない。
「……はぁ」
何を俺は真剣に考えているのか。
自分の人生なのだから赴くままにやればいいというのに。
「よし」
俺は気持ちを入れ替えるように、顔を自分の手で叩く。
その際左手が義手であることを忘れていたので、多少力加減をミスって顎を痛めたのは反省点である。
とまあそんなこともあって、気持ちも紛れ、俺は再び何か手がかりが無いか探し始めた。
目に付くものは檻以外では、触れたくないような触れたいような精密機械のような物と、今にも壊したい怪しげな薬品、そして大きな扉である。
まあこれだけ大きな扉なのだから、何かしらに通じていることは確かではあろうが、いかんせんこの施設を設計した人が捻くれていることは分かったため、こうも堂々と扉があるのは違和感しかなかった。
だがまあここに危険はなさそうだったので、俺はミリルへここに来るように告げるべく、彼女の方を振り向くと。
「……ん?」
そこにいたはずの彼女の姿はどこにもなかった。
おかしい、そう感じるのは何ら不自然ではない。
あの彼女が俺の目を離れて、どこかに一人で行くようには思えなかったからだ。
今はいくら警戒していても俺という存在が彼女の安心材料になっていると思っていたのだが、実はそうでもなかったのか?
俺の思い違いなら、まあそれはそれでいいのだが、そうじゃなければ最悪、あの考えしか思い当たらない。
ここで俺は悩まされる。
彼女を探すか、この大きな扉を開いてみるか。
結局のところ、彼女と別れる言い訳を探していたのでこの展開は有難いともいえた。
だがもしも、彼女が自分の意思でどこかに行ったのではなかったら?
ここの職員かもしくは協力者に連れられていたら?
その考えがある限り、俺は迂闊に行動できない。
一度救ってしまった、希望を見せてしまった。
それも俺と似た境遇の人の。
それから希望を奪うなんてこと、やってしまえば俺は奴らと同じになってしまう。
それだけは最後の良心として出来なかった。
「仕方ないよな」
誰に言い聞かせるわけもなく俺はそう呟き、彼女が消えたその場所へと戻った。
「えっと、ミリルだっけ、ここってどこに何があるのか分かるか?」
「ぁ、ううん」
ミリルは俺が名前を呼んだとき、一瞬ピクッとしたが、すぐに首を振った。
ああ、そうか、俺に名前を言い当てられたことを……
俺は頭をポリポリと掻いて、告げる。
「あぁ、俺も鑑定スキルを持っているんだ」
「そう、なの?」
「ああ」
出来るだけ優しく、傷つけないように告げた。
すると彼女は、その綺麗な赤い瞳をこちらに向け、興味深そうにこちらを見つめる。
なんだか、彼女は俺の顔の部位に注目する癖があるような気がするのだが、気のせいだろうか。
まあ気になったら聞いたほうがいいよな。
俺は聞いた。
「なあ俺の顔に何かついてるか?」
「えっと……私と同じ色だから」
「色?」
一瞬何のことか言っているかわからなかった。
だが次の彼女の言葉を聞くと、その疑問はストンと胸に落ちる。
「目の色が」
「あぁ、なるほどな」
そういえば俺の瞳は真っ赤になっているということを忘れていた。
そりゃあ自分で自分の瞳を見るには鏡が必要だから、忘れるのも仕方ないだろう?
とはいえ彼女にとっては自分と同じ赤い瞳を持つ俺が物珍しいのだろう。もちろん俺も彼女の瞳は珍しいものだと思っている。
確か……アルビノだっけ?
遠い記憶を呼び起こすとそんな名称が思い浮かぶ。
だがそれはチラリと見ただけで、肝心の中身をあまり詳しくは知らないので、それが何だという話なのだが。
しかもここは異世界、向こうの常識が通じるとも限らない。あまり向こうの常識で考える癖は今のうちに直しておいたほうがいいのかもしれない。
という特段重要ではないことを、考えながら俺たちは施設の中をさまよい歩いた。
そうしてあることを思いつく。
「ミリル、一つお願いしてもいいか?」
出来るだけ優しく、一歩引いた位置にいるミリルに話しかける。
そこからまだ俺を完全には信用していないことが分かった。
いくら助けに来た人だからといって、そう信用される者じゃないことは知っているし、俺だって警戒する。それがこの世界を生き抜くためには必要なことであるのも。
「……なに?」
潤んだ赤い瞳でこちらを見つめ、そう口にするミリル。
俺はそんな彼女に多少申し訳なく思いながらも、壁に手を当て口を開いた。
「壁をこうやって触りながら歩いて欲しいんだ」
コテンと首を傾げて俺を見るミリル。
確かに説明をしないと意味が分からないだろうな。
俺はこの施設の設計者のある性格を思い出していた。
それは入り口の件から考えられること、つまり何か特別な場所は何かしら隠されている可能性があるということだ。
そこで思いついたのが、
「もしかすると壁に隠し扉があるかもしれないと思ってさ」
だった。
その言葉を聞くと、ミリルはコクリと頷いて言ったとおりに壁に手を当ててくれた。
文句を言わないでくれて本当に助かる。
そうして俺たちは壁に手を当てながら研究所を歩き回った。
それからしばらく歩いていると、ミリルの方から小さな声が上がった。
「あ……」
「どうした?」
間違いなく何かがあったのだろう。
そう判断した俺は、ミリルの言葉を待つまでもなく彼女の方へ歩みよる。
ササッと身体を引いたミリルは、それでもある場所を指差して俺に見せた。
少しだけ傷ついたのは言うまでもない。
「これは……」
ミリルが見つけたのは小さな穴。
入り口のカモフラージュになっていた岩にも同じような穴があったことから、これがこの鍵を入れるための穴であることは間違いなさそうだ。
早速俺はその穴に鍵を差し込む。
その様子を少し引いたところで見るミリル。やはり少しは気になっているようだ。
「入った」
鍵は見事に穴に入り、そのまま鍵が回る。
カチッという明らかに何かが解けた音がした。
後はこの壁を押しさえすれば良さそうだ。
俺はチラリとミリルを見る。
もしこの奥で職員たちが待ち構えていないとも限らない。
もしそうなら彼女を守って戦うのは正直言って面倒だった。
「少し下がっていてくれ」
なので俺は彼女にそう告げた。
こう言えば彼女は断らないことも知っている。
現にミリルは大人しく俺の後ろから少し離れた位置で俺の背中を見守っていた。
さて準備は整った。
俺は壁を押し込んだ。
壁は思いのほか重く、ゆっくりと開いていく。
ゴゴゴという音を鳴り響かせながら扉が開き、その中の部屋の光景が目に飛び込んでくる。
「ここは……」
中にあったのは檻、檻、檻、いくつも並べられた檻だ。
そしてどこか見覚えのあるここは、俺がここで初めて目を覚ましたときにいた場所であることが分かる。
そうか、ここに繋がっていたのか。
俺はミリルに目配せして、今しばらくそこにいるように指示する。
今のところ人の気配はないが、やはり油断は禁物なのだから。
檻の中には魔物の姿。
以前は何の生物なのか分からなかったが今は分かる。あれだけ魔物に追いかけられていたのだ、こいつらの持つ真っ赤な瞳は忘れるわけがない。
まあその真っ赤な瞳を俺も持っているんだけど。
そこで理解した。
この魔物と同じ真っ赤な目を持つことの意味を。
そしてこんな目を持って生まれたミリルという少女の人生を。
少なくとも喜ばれはしなかったはずだ。
魔物と同じ目を持つ者など常識を持つ者なら、その者も魔物と思うに違いない。
そう考えると彼女の人生は決して楽ではない。むしろ他人から歓迎されること無く、生きてきて、その行き着いた先がここ。
まるで俺と同じ、いや俺以上に辛い過去を持っている。
「だからなんだよ……」
ボソリと呟く。
そうだ、いくら俺と同じ境遇にあってたとしても、彼女の面倒をこれから先も見ていくなんて絶対に出来ないしやらない。俺には復讐という目的があり、彼女にはそれがないように見える。まだ幼いからか、それとも復讐という発想に至らないほど虐げられてきたのか、俺にはわからない。
ただ一つだけ言えること、それは彼女と俺の歩んできた道は似ていたとしても、それは決して同じではないということだ。
復讐に駆られて破滅する道、反抗せずにただ運命の赴くままに生きていく道、はたまた勝利を勝ち取り栄光を歩む道、人には色々な道がある。だが全てが同じではない。
いくら同じような道を歩んだとしても、行き着く先は全く別の結果になることだって普通にあるのだ。
今は偶然彼女と俺の道が重なっただけであって、彼女が復讐を望むとは限らない。
「……はぁ」
何を俺は真剣に考えているのか。
自分の人生なのだから赴くままにやればいいというのに。
「よし」
俺は気持ちを入れ替えるように、顔を自分の手で叩く。
その際左手が義手であることを忘れていたので、多少力加減をミスって顎を痛めたのは反省点である。
とまあそんなこともあって、気持ちも紛れ、俺は再び何か手がかりが無いか探し始めた。
目に付くものは檻以外では、触れたくないような触れたいような精密機械のような物と、今にも壊したい怪しげな薬品、そして大きな扉である。
まあこれだけ大きな扉なのだから、何かしらに通じていることは確かではあろうが、いかんせんこの施設を設計した人が捻くれていることは分かったため、こうも堂々と扉があるのは違和感しかなかった。
だがまあここに危険はなさそうだったので、俺はミリルへここに来るように告げるべく、彼女の方を振り向くと。
「……ん?」
そこにいたはずの彼女の姿はどこにもなかった。
おかしい、そう感じるのは何ら不自然ではない。
あの彼女が俺の目を離れて、どこかに一人で行くようには思えなかったからだ。
今はいくら警戒していても俺という存在が彼女の安心材料になっていると思っていたのだが、実はそうでもなかったのか?
俺の思い違いなら、まあそれはそれでいいのだが、そうじゃなければ最悪、あの考えしか思い当たらない。
ここで俺は悩まされる。
彼女を探すか、この大きな扉を開いてみるか。
結局のところ、彼女と別れる言い訳を探していたのでこの展開は有難いともいえた。
だがもしも、彼女が自分の意思でどこかに行ったのではなかったら?
ここの職員かもしくは協力者に連れられていたら?
その考えがある限り、俺は迂闊に行動できない。
一度救ってしまった、希望を見せてしまった。
それも俺と似た境遇の人の。
それから希望を奪うなんてこと、やってしまえば俺は奴らと同じになってしまう。
それだけは最後の良心として出来なかった。
「仕方ないよな」
誰に言い聞かせるわけもなく俺はそう呟き、彼女が消えたその場所へと戻った。
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