負け組だった俺と制限されたチートスキル

根宮光拓

第三話 異世界召喚

 意識を失うと、目の前が再び真っ白になり、次に視界が回復した時には見慣れぬ広間だった。
 そこらへんにはクラスメイト達が寝転がったり、座り込んだりしている。

  そういえば召喚されたのは俺だけじゃなかったんだった。

「痛っ!」

 起き上がろうとすると、体に激痛が走る。

 そうか、体はあの暴行を受けた教室の時のままか。
 打撲程度だとは思うが、しばらくは安静にしておきたい。 

 俺はしばらく周りを観察しておくことにした。 

 見る限りでは、この場に召喚されているのはクラスメイト達だけではないらしい。多分、この人数から考えると学校にいた生徒丸ごと転移させたのかもしれない。
 そこまで必要とするほど、この国は人が不足しているというのだろうか。

「ッチ、どこだここ?」

 真っ先に舌打ちをしながら立ち上がる男子がいた。大将だ。
 それを確認すると、俺は条件反射で目を反らした。
 今まで受けてきた恐怖心が俺の体を動かした。
 生物として正しい反応なのかもしれない。敵わない相手には関わらないのが命を繋ぐ鉄則なのだから。

「おい、誰かいねえのか!」

 大将は大声を張り上げ、ここに呼び出してであろう異世界人を探す。

 高2の大将が全校生徒の前で、あれだけ堂々としているのには理由がある。それは俺達の学年がこの学校の浅い歴史において、一番の天才たちを呼べたと言われている代であることも起因していて、それだけでもこの代が助長するのは無理もない。良くも悪くもこの学校は実力主義なのだから。
 対して、3年生は不作と言われている代だった。そのことからも今の力関係が成り立っているのだ。そしてその中でも特に幅を利かせているのが学年一の運動成績を誇る大将だった。

「おい! 誰か出て来い!」

 イライラがピークに達したのか、大将は喚き倒す。このままだと俺にも被害が来るかもしれない。
 そう思うと体が震えてくる。情けない。
 だがその心配は杞憂に終わる。その声を聞いてか、大きな階段の上に何人もの男たちが現れたからだ。

「お待たせして申し訳ありません。勇者様方」

 その中でも一番の服に装飾を施した老人が一歩前に出てきてお辞儀をする。
 どうやら彼らが俺たちを召喚した異世界人ということらしい。

「いいから早く案内してくれ」

 てっきり媚びへつらうと思っていた大将だったが、あくまで強気の態度でいくらしい。正直予想外だった。
 彼は偉ぶる相手を選ぶのだ。それゆえ先生たちの間ではそこまで悪い評価は受けていなかった。
 その大将がここでは強気でいったのだ。何か意図があるのだろうか。

「すいませんが、皆様を案内する前に勇者スキルを確認するよう王からお達しがあるのです」
「そうか、なら俺から見てくれ。間違いなく持っている」
「では早速」

 大将が率先して男たちの方へと歩みを進める。
 しかし今は大将の行動などどうでもよかった。
 何故なら俺の心の中には、

 勇者スキルって何?

 という疑問と焦りが渦巻いていたから。
 大将の態度からするに間違いなく持っている。あそこでハッタリを言うような奴じゃないことは分かっている。
 それに老人の言葉からすると、勇者スキルは持って当たり前のスキルのように聞こえた。それは周りの連中が俺のように焦ってないことからも伺える。

 何故俺は持ってない? しかも神も何で言ってくれなかった?

 疑念は尽きない。
 そんなことを考えている内にも大将は調べを終えたようだ。

「紛れもない勇者スキルの持ち主よ、さあこちらです」
「いや、皆が終わるのを待っている」
「左様で、では皆さまこちらの方でスキルを確認しますのでいらっしゃってください」

 生徒たちは若干の戸惑いを見せるが、大将が率先して行ったのを見てか、一人、また一人と立ち上がるものが増えていった。
 対して俺は未だに冷や汗を流したままだ。

 そうだ、大将のスキルを……『鑑定』

名前  山中大将
スキル 勇者 強化 突破 不明

 スキル数だけで言えば俺と同じ。だが不明の文字がとても不気味に感じる。もし俺の技能創造スキルメーカー並のスキルだとしたらまず勝ち目がない。

 とりあえず今はその勇者スキルとやらを創造させるべく、あのスキルを発動させる。

【経験不足、スキル『勇者』創造不可】

 そうだった……なんでも創造出来るんじゃなくて、経験したものだけだという制約があったんだった。

「……どうする」

 焦りが上限を達し、思わず口に漏れる。そんなことを考えている間にも時間は刻一刻と過ぎているのだ。
 後、どれくらいで俺に順番が回ってくるだろうか。
 そう思って、顔を上げると、

「おい! お前で最後だよ!」

 もうすでに周りに人はなく、段の上から大将から叱責が飛んできた。
 もう手遅れのようだ。
 力なく俺は老人の元へと向かった。歩いている間にも何か策がないか、必死に考えを巡らせるが、もう目の前に老人がいる距離になってしまっていた。

「では失礼します」

 老人がこちらをジッと見据える。
 その行動からその老人も鑑定かそれと似たスキルを持っていることが予想できる。だがそんな予想、今はどうでもいい。
 大将が皆をこの場所に待たせたままなので、最後である俺にはほぼ全校生徒の視線が注がれていた。
 冷や汗が頬を伝う。

――神様、どうかお願いします。

 藁にもすがるような思いでそう願い、拳をグッと握り締める。
 そして宣告とばかりに老人が言葉を発した。

「あなたは……隠蔽スキルしかありませんね、どういうことですか?」

 今まで温和な顔をした老人が、眉間にしわを寄せてこちらに尋ねてくる。
 そんなことを言われたって俺には分からない。

 むしろ勝手に呼び出しておいて、そんな態度を取られる筋合いはないのだ。
 だがそう言いたくても、この場では言えるわけもなく、俺は口を結び、無言のまま下を向いた。
 途端にこの場に爆笑が起こる。

 発端はもちろん大将だった。

「アッハッハッハ、お前、落ちこぼれに加えて勇者にさえもなれねえのかよ!」

 そんな大将の罵声を始まりとして、次々と同じ学校の生徒たちから罵声が飛ぶ。

「だせえ」
「やっぱそうだよな」
「あの人って何で入学できたの?」
「場違いなんだよ」

 俺は何も言えなかった。
 顔が物凄く熱かった。とてつもなく恥ずかしい、ただただそう思う。
 そしてあの女子生徒と目が合った。

 結城沙良ゆうきさら。俺が密かに恋心を抱いていた同学年の女子生徒である。彼女は学校ではほとんどいない、俺に対しても対等に接してくれる人だ。
 そんな彼女がいたからこそ、俺は苦痛だった学校生活も何とかやってこれた。彼女がいなければ俺は耐えきれなかっただろう。

 勝手な片思い。
 そんなことはもちろん知っていた。
 そして彼女がこの場から俺を助けるなんて選択を取るわけがないことも。
 彼女が和を乱すようなことをするわけがないのだ。

 そんな何とも言えない表情の沙良と目が合ったのは一瞬だった。
 その後すぐに、彼女は俺から目を離し、老人に促されるようにして奥へ去っていった。
 知ってはいたが、やはりキツイ。

「では勇者様方は奥の部屋へ」

 そうしてほとんどの生徒たちは奥の部屋へと歩いて行った。

 やっぱり変わることは出来なかった。
 俺みたいな凡人が、こいつら天才と同等であるはずがなかった。
 傲慢だった。

 老人が最後に宣告を下した。

「おいお前たち、この者を捉えよ! 隠蔽スキルを保有しているということはどこかのスパイかもしれない」

 その言葉と同時に老人の周りにいた男たちが、瞬時に俺の背後にまわり、倒して腕を拘束した。

 その出来事に残っていたほんの数名の生徒たちがポカンとする。
 だが今だ残っていた大将の言葉によって、再び笑いが巻き起こった。

「そうだったのかコウスケ! 道理で、お前が入学できた理由が分かったよ」

 先ほどの老人のスパイという言葉に関連付けて大将は俺を罵倒し笑う。そしてそれにつられるように笑いが伝染していき、最終的には笑いながら、その残った生徒たちも案内されるがままに俺を気にすることなくこの場から去っていった。

 一人残された俺は、男たちに拘束されたままだ。

「お前はどこの手の者だ? もしや魔王軍のスパイか?」
「違う、知らない!」

 俺は否定する。
 まさか隠蔽スキルがこんな結果を生み出すなんて。
 神はこれを知っていたのだろうか。勇者スキルの事も言わなかった。

 さっきまで好感を持っていた神にさえも猜疑心が芽生え始める。
 騙したのか?
 そう思ってしまう、自分が嫌だった。

「おいこいつをどうするか聞いてないか?」
「さあ?」

 男たちが俺の殊遇を決めかねている。だが俺には関係ない。もう何もかも遅いのだ。

「じゃあとりあえず拷問から」

 そんな不穏な言葉を皮切りに、俺の後頭部に足を乗せる。

「で? お前は何者なんだ?」
「ただ――」

 俺が答えようとすると、男は俺の後頭部に思い切り足を踏みつけ顔を潰してきた。

「おいおい、答えようとしてたじゃねえかよ」
「っは、まともに答えるわけねえだろ」

 はなから俺の証言なんて聞く気がないらしい。

「おらっ、最近のうっぷん晴らしにでも付き合ってくれ」
「ゲホッゴホッ、ガハッ」

 そう言い、男は俺の鳩尾を蹴り飛ばす。

 ――なんだ、世界が変わったって人の本質は変わらないのか。

 痛む身体に耐える中、あきらめの気持ちでそんな考えが脳裏に流れた。

「おいおい今殺すのは不味いだろ」

 男の一人が俺を蹴り続ける男に抑制の言葉をかける。

「はあはあ、そうだな」
「ひとまず地下牢にでもぶち込んでおくか」

 その男の言葉を最後に、俺の意識はなくなった。

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