オモテ男子とウラ彼女
エピローグ 『希望〜ヒカル〜』
誰かが、マンションの部屋の扉をノックする。
ヒカリがそのドアを開けると、そこにいたのは良であった。
「おう、ヒカル。元気か? これ、誕生日プレゼントな」
良はそう言いながら、商店街の紙袋をヒカリに見せる。この日は、ヒカリが二十二歳になる日であった。その袋を受け取ったヒカリは、
「ありがとう」
と嬉しそうに、良に対して礼を述べた。
「……上がってもいいか?」
良に尋ねられ、ヒカリは良を部屋の中に入れることにした。
ヒカリは良をリビングに案内した。リビングのソファーのすぐ近くには、揺り籠がある。その中には赤ん坊が眠っており、良は中を覗きながら赤ん坊に声をかけた。
「おう、大きくなったな、お前。元気か~?」
そこにヒカリも来て、
「いつもありがとう、高塚君」
と言いながら、良の隣に座った。
「そう言えばさあ……この子の父親って、この子が生まれる少し前にいなくなったきり、行方不明なんだっけ」
良が、気になることをきいた。良の質問に、ヒカリも頷く。しかし、ヒカリはこう言うのだった。
「だけど……何故かあまり覚えてないんだ、その人のこと。顔も……、出会った時のこととかも……」
ヒカリは、不意に窓の外を見つめた。白い羊雲が、どこかへ急いでいるように忙しなく流れていくのが見える。
「不思議だよな……俺もそいつと仲が良かったはずなのに、何も覚えてないや。何だったんだろ、ほんとに」
良も、そんなことを言いながら赤ん坊の寝顔を見つめている。
「そう言えばお前、卒業研究、進んでるのか? 提出、来月だろ?」
不意に、良が話題を変える。
「うん。何とかって感じ。そっちはどう?」
ヒカリがきき返した。
「俺も今、切羽詰まってる感じだな。これから、図書館行くんだよ。いや~、ほんと時間ってやつはせっかちだよな~。あっという間に過ぎるんだから」
「ほんとだね……」
ヒカリは、そう言って微笑んだ。すると、眠っていた赤ん坊が突然泣き始めた。ヒカリは、それを優しく抱きかかえる。
「じゃあ、俺、そろそろ帰るわ」
突然、そう言いながら良は立ち上がった。
「もう帰るの? もう少しいればいいのに……」
「いや、早めに行った方がいいと思ってな。じゃあ、また来るからな」
「うん、気をつけてね」
良が帰り、ヒカリは一歳になったばかりの赤ん坊を抱きかかえると、マンションの外に出た。外は晴れている。
ヒカリは、ずっと前に何かを失ったような気がしてならなかった。それを思い出そうとしても、記憶が蘇ってこない。しかし、どうしても気のせいだとは思えなかったのである。今、自分が抱えている子を見る度に、そのように思うのだった。
ヒカリは近くの歩道橋を歩きながら、その下を流れる川を眺めていた。幸せは、その辺に転がっている――そんなことを川の流れる音が教えてくれているようだった。そして、ヒカリは立ち止まって空を見上げる。
そこに見えたのは、美しい秋晴れの空であった。
ヒカリがそのドアを開けると、そこにいたのは良であった。
「おう、ヒカル。元気か? これ、誕生日プレゼントな」
良はそう言いながら、商店街の紙袋をヒカリに見せる。この日は、ヒカリが二十二歳になる日であった。その袋を受け取ったヒカリは、
「ありがとう」
と嬉しそうに、良に対して礼を述べた。
「……上がってもいいか?」
良に尋ねられ、ヒカリは良を部屋の中に入れることにした。
ヒカリは良をリビングに案内した。リビングのソファーのすぐ近くには、揺り籠がある。その中には赤ん坊が眠っており、良は中を覗きながら赤ん坊に声をかけた。
「おう、大きくなったな、お前。元気か~?」
そこにヒカリも来て、
「いつもありがとう、高塚君」
と言いながら、良の隣に座った。
「そう言えばさあ……この子の父親って、この子が生まれる少し前にいなくなったきり、行方不明なんだっけ」
良が、気になることをきいた。良の質問に、ヒカリも頷く。しかし、ヒカリはこう言うのだった。
「だけど……何故かあまり覚えてないんだ、その人のこと。顔も……、出会った時のこととかも……」
ヒカリは、不意に窓の外を見つめた。白い羊雲が、どこかへ急いでいるように忙しなく流れていくのが見える。
「不思議だよな……俺もそいつと仲が良かったはずなのに、何も覚えてないや。何だったんだろ、ほんとに」
良も、そんなことを言いながら赤ん坊の寝顔を見つめている。
「そう言えばお前、卒業研究、進んでるのか? 提出、来月だろ?」
不意に、良が話題を変える。
「うん。何とかって感じ。そっちはどう?」
ヒカリがきき返した。
「俺も今、切羽詰まってる感じだな。これから、図書館行くんだよ。いや~、ほんと時間ってやつはせっかちだよな~。あっという間に過ぎるんだから」
「ほんとだね……」
ヒカリは、そう言って微笑んだ。すると、眠っていた赤ん坊が突然泣き始めた。ヒカリは、それを優しく抱きかかえる。
「じゃあ、俺、そろそろ帰るわ」
突然、そう言いながら良は立ち上がった。
「もう帰るの? もう少しいればいいのに……」
「いや、早めに行った方がいいと思ってな。じゃあ、また来るからな」
「うん、気をつけてね」
良が帰り、ヒカリは一歳になったばかりの赤ん坊を抱きかかえると、マンションの外に出た。外は晴れている。
ヒカリは、ずっと前に何かを失ったような気がしてならなかった。それを思い出そうとしても、記憶が蘇ってこない。しかし、どうしても気のせいだとは思えなかったのである。今、自分が抱えている子を見る度に、そのように思うのだった。
ヒカリは近くの歩道橋を歩きながら、その下を流れる川を眺めていた。幸せは、その辺に転がっている――そんなことを川の流れる音が教えてくれているようだった。そして、ヒカリは立ち止まって空を見上げる。
そこに見えたのは、美しい秋晴れの空であった。
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