オモテ男子とウラ彼女
第十九話 『雪也』
俺は逃げるようにして、中庭までを走り抜けた。奴らも、まさかここまで追いかけてきたりはしないだろう。五時間目までには、まだ時間がある。俺はいつものように、中庭をブラついていた。そしたら、声をかけてきた奴がいた。
「真宮君?」
優しい声だった。俺はもしやと思ってふり返り、そいつを見た。そこには、やはり夏希が立っていた。俺は気まずくなった。雪也のやつが、夏希に向かって勝手なことを言ったばかりに、夏希と顔を合わせ辛くなっていた。
「あ、あの……」
「えっ、何?」
「さっき言ってたことなんだけど……」
思った通りだ。夏希も、雪也の話を真に受けていたらしい。
「あ、あぁ、雪也の勘違いってだけだ」
「……そう」
夏希はそう言うと、また優しく微笑んだ。それを見たら、俺は顔が熱くなった。やばい、可愛すぎだろ……。
「ねぇ、少し話さない?」
夏希が突然、そう言ってきた。
「え、なんで……」
「私も、ちょっと君にききたいことがあったから」
これはまさか……。いやいや、そんなことあるはずがない。じゃあ、どんな話だ? 考えれば考えるほど、妄想がおかしな方向へ行ってしまう。その時、また顔が熱くなってる気がした。落ち着け、これはチャンスかもしれない。そう思って、俺はその話を受け入れることにした。それにしても、夏希はなんでいつも中庭なんかにいるんだろうか。
あの日、夏希と話をした木の下のベンチに、俺は腰かけた。夏希も隣に座り、しばらくの沈黙が流れた。幸い、近くに生徒はいなかったが、それでもかなり気まずかった。俺はそっと夏希の方に目をやると、夏希は向こうの校舎の方に、しきりに視線を送っている。いや、お前から誘ってきたんだから、お前から何か言えや。なんで、俺が話すのを待っている感じになってるんだよ。そう思ってたら、ようやく夏希が話し始めた。
「夏になったら、ここに野鳥が来るんだよ」
「そうなんだ……。で、それを待ってるのか?」
「そう言うわけじゃないけど、ここにいるとなんだか落ち着くの。私、冬よりも夏の方が好きなんだ。夏ってほら、賑やかじゃない。冬になると、虫たちはみんな冬眠しちゃうし。私の両親も、夏のように清々しく育ってほしいって願いを込めて、名前をつけてくれたの」
夏希は、恥ずかしそうに話した。それでも尚、夏希は笑顔を保っていた。本当にこれが、夏希の言いたかったことか。たしか、俺にききたいことがあるって言ってたな。その時、俺は夏希に質問した。
「それより、ききたいことって何だ?」
「あ、うん。斎藤君……、雪也君のことで」
「雪也がどうした?」
その時、俺は嫌な予感がした。まさか、雪也のことが気になってるなんて言い出さないよな。すると、夏希が言った。
「最近、喧嘩でもしたの?」
「いや、喧嘩ってほどでも……。って、どうしてそんなこときくんだ?」
「前までは、よくカップルを見かけては追い回したり、悪口を叫んだりしてたじゃない。でも、最近は何だか大人しくなったなあって思って。てっきり、君と喧嘩でもしたのかと思ってた」
「あ……、うん」
雪也のことだから、まだ続けているものだと思っていたが、夏希の言う通り、あれ以来奴の愚行はまだ見ていない。それでも俺は、雪也が何を考えているのかイマイチまだ理解出来ていなかった。あぁ、確か昔からそうだったな。
去年のクリスマスの日、あいつのリア充退治につき合わされた。クリスマスや、バレンタインといった日はリア充が街に蔓延る日だから、駆除しに行かなければならないとかいう、意味不明なことを言われて強制的に参加させられたのだ。その時は、まだ俺以外にも仲間がいた。
「おら、街にいるリア充共に告ぐ! 今すぐ立ち去れ! ここは、お前らのいていい世界などではない!」
雪也は、そんなことを言いながら俺たちの前を歩いていた。正直、雪也以外はリア充に対し、そこまで敵対心を抱いているわけではなかった。だから、ちょうど良い恥晒しだ。街の人々からの視線が、妙に冷たく感じた。それでも雪也だけ、そんなことはお構いなしに仲良さそうに歩いているリア充に対し、罵詈雑言を浴びせかける。
その愚行に嫌気がさし、他の奴らは皆、離れていった。最初は同じように相手がいないことから仲良くなったのだが、どうやら雪也の行動にはついていけなかったらしい。正直、俺も今すぐにでも抜け出したい気持ちはあった。けど、そうやって雪也を一人にさせてしまうと、あいつは正真正銘の一人ぼっちになってしまう。俺も本人から泣いて懇願され、断ることが出来なかった。それにしても、ちょっとやりすぎるところがあるのは、昔から変わらなかった。顔は普通どころか、平均よりも遥かに上だと思うのになぁ。
俺は思い出していると、休み時間終了のチャイムが聞こえ、我に返った。
「じゃあ、私もう行くね。真宮君も、授業遅れないでね」
夏希は立ち上がると、俺にそう言った。俺はまだ戸惑っていた。すると夏希が少し先に行って、ふり返ると言った。
「大丈夫。真宮君カッコいいから、きっとすぐにいい人見つかるよ」
そして、夏希は校舎の方へと走っていく。今の発言は、俺の心を読んでるようだった。
思えば、俺は今までついていないことが多かった。そんな俺なのに、夏希と同じクラスになれた。それだけではなく、学級委員まで一緒にやれることになった。挙句には、二人きりで話す機会も多くなった。これは、神様から俺に対しての贈り物なのか? その時の俺には、そうとしか考えられなかった。
授業が終わり、俺は担任に頼まれ、学級委員の仕事をしていた。
「いやあ、すまんね。高田は具合が悪いって言うから、今日はもう帰ったよ」
「は? 昼は元気そうだったけど……」
「どうも、五限目あたりから急に具合が悪くなったらしいんだ。まあ、いつもあいつに任せている分、今日はお前には働いてもらうぞ!」
担任の小谷は言った。こいつ、なんで放課後になるとこんなにテンション上がるんだ? 俺は理科室まで、頼まれた器具を取りに行った。明日、授業で使うためだ。
俺はそれを抱えて、廊下を歩いていると、無意識に傍の窓から外を見下ろした。すると、信じがたい光景を目にした。それを見て、俺はまた無意識に足を止めた。
下を見ると、昼休みに夏希と話した場所に夏希が立っている。中庭にある、一本の木の木陰だ。その横には、同じ高校の制服を着た男子生徒がいた。俺は三階の窓から目を凝らし、そいつをよく見た。間違いない、それは雪也だったのだ。何してんだ? 俺はそう思いながら、しばらく同じところから二人の様子を見ていた。
しばらくして、二人は同じ方向に向けて歩き出した。そして、やがて見えなくなった。あれは一体何だったんだろう。俺は器具を教室まで持っていき、急いで校舎を出て、あの場所へと向かった。いるはずがないとはわかっていたが、それでも気になった。俺は二人を探したが、やはり帰ってしまったようだ。
あれは、確かに雪也だった。その時、俺はやはり雪也の行動は安心して見ていられないと思った。見つけたら、何が何でも質問攻めにしてやらないと気がすまない。しかしもう帰ってしまい、追いかけようにもどこにいるのかもわからない。仕方ないから、俺もその日は諦めて帰ることにした。
俺はいつもの道を通って駅に向かった。しばらくすると、少し向こうに俺と同じ制服を着た、周りを見渡しながら歩いている奴が見えた。俺は、一目で誰だかわかった。そして俺は、そいつに近づくと声をかけた。
「雪也?」
思った通り、それは雪也だった。雪也はふり返ると、
「あれ、ヒカルじゃん。遅かったな、今帰るのか?」
などと、ノー天気に言いやがる。
「何言ってんだよ。お前、さっき高田と会ってただろ?」
「はい? 会ってないぜ? 第一、夏希とか見てないし。お前の見間違いじゃね?」
「でも、さっき中庭で……」
「だから、会ってないって! それより、帰ろうぜ! あ、寄り道して映画見てかない?」
なんだ、見間違いだったのか。でも、確かにあれは雪也に見えたんだけどな……。雪也じゃなかったら、あれは誰だったんだ? まぁ、いいか。俺は気にするのを一旦中断し、雪也と一緒に駅に向かった。
「あ、そうだ。夏希、今日何か言ってたか?」
不意に、雪也が尋ねてきた。
「あぁ。お前が、最近大人しくなったってさ。俺と喧嘩したって思ってたらしいぞ」
「何だよそれ~」
「でも実際、お前あれからリア充を見かけても無視してるよな」
「あれ? そだっけ? まぁ、もう飽きたからな」
飽きたって何だよ。やっぱり、こいつにズル賢いことは出来ないよな。俺は呆れながら、前を歩く雪也を見た。考えすぎるのはよそう、と俺は自己暗示をかけるように自分に言い聞かせていた。
「真宮君?」
優しい声だった。俺はもしやと思ってふり返り、そいつを見た。そこには、やはり夏希が立っていた。俺は気まずくなった。雪也のやつが、夏希に向かって勝手なことを言ったばかりに、夏希と顔を合わせ辛くなっていた。
「あ、あの……」
「えっ、何?」
「さっき言ってたことなんだけど……」
思った通りだ。夏希も、雪也の話を真に受けていたらしい。
「あ、あぁ、雪也の勘違いってだけだ」
「……そう」
夏希はそう言うと、また優しく微笑んだ。それを見たら、俺は顔が熱くなった。やばい、可愛すぎだろ……。
「ねぇ、少し話さない?」
夏希が突然、そう言ってきた。
「え、なんで……」
「私も、ちょっと君にききたいことがあったから」
これはまさか……。いやいや、そんなことあるはずがない。じゃあ、どんな話だ? 考えれば考えるほど、妄想がおかしな方向へ行ってしまう。その時、また顔が熱くなってる気がした。落ち着け、これはチャンスかもしれない。そう思って、俺はその話を受け入れることにした。それにしても、夏希はなんでいつも中庭なんかにいるんだろうか。
あの日、夏希と話をした木の下のベンチに、俺は腰かけた。夏希も隣に座り、しばらくの沈黙が流れた。幸い、近くに生徒はいなかったが、それでもかなり気まずかった。俺はそっと夏希の方に目をやると、夏希は向こうの校舎の方に、しきりに視線を送っている。いや、お前から誘ってきたんだから、お前から何か言えや。なんで、俺が話すのを待っている感じになってるんだよ。そう思ってたら、ようやく夏希が話し始めた。
「夏になったら、ここに野鳥が来るんだよ」
「そうなんだ……。で、それを待ってるのか?」
「そう言うわけじゃないけど、ここにいるとなんだか落ち着くの。私、冬よりも夏の方が好きなんだ。夏ってほら、賑やかじゃない。冬になると、虫たちはみんな冬眠しちゃうし。私の両親も、夏のように清々しく育ってほしいって願いを込めて、名前をつけてくれたの」
夏希は、恥ずかしそうに話した。それでも尚、夏希は笑顔を保っていた。本当にこれが、夏希の言いたかったことか。たしか、俺にききたいことがあるって言ってたな。その時、俺は夏希に質問した。
「それより、ききたいことって何だ?」
「あ、うん。斎藤君……、雪也君のことで」
「雪也がどうした?」
その時、俺は嫌な予感がした。まさか、雪也のことが気になってるなんて言い出さないよな。すると、夏希が言った。
「最近、喧嘩でもしたの?」
「いや、喧嘩ってほどでも……。って、どうしてそんなこときくんだ?」
「前までは、よくカップルを見かけては追い回したり、悪口を叫んだりしてたじゃない。でも、最近は何だか大人しくなったなあって思って。てっきり、君と喧嘩でもしたのかと思ってた」
「あ……、うん」
雪也のことだから、まだ続けているものだと思っていたが、夏希の言う通り、あれ以来奴の愚行はまだ見ていない。それでも俺は、雪也が何を考えているのかイマイチまだ理解出来ていなかった。あぁ、確か昔からそうだったな。
去年のクリスマスの日、あいつのリア充退治につき合わされた。クリスマスや、バレンタインといった日はリア充が街に蔓延る日だから、駆除しに行かなければならないとかいう、意味不明なことを言われて強制的に参加させられたのだ。その時は、まだ俺以外にも仲間がいた。
「おら、街にいるリア充共に告ぐ! 今すぐ立ち去れ! ここは、お前らのいていい世界などではない!」
雪也は、そんなことを言いながら俺たちの前を歩いていた。正直、雪也以外はリア充に対し、そこまで敵対心を抱いているわけではなかった。だから、ちょうど良い恥晒しだ。街の人々からの視線が、妙に冷たく感じた。それでも雪也だけ、そんなことはお構いなしに仲良さそうに歩いているリア充に対し、罵詈雑言を浴びせかける。
その愚行に嫌気がさし、他の奴らは皆、離れていった。最初は同じように相手がいないことから仲良くなったのだが、どうやら雪也の行動にはついていけなかったらしい。正直、俺も今すぐにでも抜け出したい気持ちはあった。けど、そうやって雪也を一人にさせてしまうと、あいつは正真正銘の一人ぼっちになってしまう。俺も本人から泣いて懇願され、断ることが出来なかった。それにしても、ちょっとやりすぎるところがあるのは、昔から変わらなかった。顔は普通どころか、平均よりも遥かに上だと思うのになぁ。
俺は思い出していると、休み時間終了のチャイムが聞こえ、我に返った。
「じゃあ、私もう行くね。真宮君も、授業遅れないでね」
夏希は立ち上がると、俺にそう言った。俺はまだ戸惑っていた。すると夏希が少し先に行って、ふり返ると言った。
「大丈夫。真宮君カッコいいから、きっとすぐにいい人見つかるよ」
そして、夏希は校舎の方へと走っていく。今の発言は、俺の心を読んでるようだった。
思えば、俺は今までついていないことが多かった。そんな俺なのに、夏希と同じクラスになれた。それだけではなく、学級委員まで一緒にやれることになった。挙句には、二人きりで話す機会も多くなった。これは、神様から俺に対しての贈り物なのか? その時の俺には、そうとしか考えられなかった。
授業が終わり、俺は担任に頼まれ、学級委員の仕事をしていた。
「いやあ、すまんね。高田は具合が悪いって言うから、今日はもう帰ったよ」
「は? 昼は元気そうだったけど……」
「どうも、五限目あたりから急に具合が悪くなったらしいんだ。まあ、いつもあいつに任せている分、今日はお前には働いてもらうぞ!」
担任の小谷は言った。こいつ、なんで放課後になるとこんなにテンション上がるんだ? 俺は理科室まで、頼まれた器具を取りに行った。明日、授業で使うためだ。
俺はそれを抱えて、廊下を歩いていると、無意識に傍の窓から外を見下ろした。すると、信じがたい光景を目にした。それを見て、俺はまた無意識に足を止めた。
下を見ると、昼休みに夏希と話した場所に夏希が立っている。中庭にある、一本の木の木陰だ。その横には、同じ高校の制服を着た男子生徒がいた。俺は三階の窓から目を凝らし、そいつをよく見た。間違いない、それは雪也だったのだ。何してんだ? 俺はそう思いながら、しばらく同じところから二人の様子を見ていた。
しばらくして、二人は同じ方向に向けて歩き出した。そして、やがて見えなくなった。あれは一体何だったんだろう。俺は器具を教室まで持っていき、急いで校舎を出て、あの場所へと向かった。いるはずがないとはわかっていたが、それでも気になった。俺は二人を探したが、やはり帰ってしまったようだ。
あれは、確かに雪也だった。その時、俺はやはり雪也の行動は安心して見ていられないと思った。見つけたら、何が何でも質問攻めにしてやらないと気がすまない。しかしもう帰ってしまい、追いかけようにもどこにいるのかもわからない。仕方ないから、俺もその日は諦めて帰ることにした。
俺はいつもの道を通って駅に向かった。しばらくすると、少し向こうに俺と同じ制服を着た、周りを見渡しながら歩いている奴が見えた。俺は、一目で誰だかわかった。そして俺は、そいつに近づくと声をかけた。
「雪也?」
思った通り、それは雪也だった。雪也はふり返ると、
「あれ、ヒカルじゃん。遅かったな、今帰るのか?」
などと、ノー天気に言いやがる。
「何言ってんだよ。お前、さっき高田と会ってただろ?」
「はい? 会ってないぜ? 第一、夏希とか見てないし。お前の見間違いじゃね?」
「でも、さっき中庭で……」
「だから、会ってないって! それより、帰ろうぜ! あ、寄り道して映画見てかない?」
なんだ、見間違いだったのか。でも、確かにあれは雪也に見えたんだけどな……。雪也じゃなかったら、あれは誰だったんだ? まぁ、いいか。俺は気にするのを一旦中断し、雪也と一緒に駅に向かった。
「あ、そうだ。夏希、今日何か言ってたか?」
不意に、雪也が尋ねてきた。
「あぁ。お前が、最近大人しくなったってさ。俺と喧嘩したって思ってたらしいぞ」
「何だよそれ~」
「でも実際、お前あれからリア充を見かけても無視してるよな」
「あれ? そだっけ? まぁ、もう飽きたからな」
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