イケメン被りの青春オタク野郎と絶対利益主義お嬢様

片山樹

29

 俺と薫乃は恋人同士だった。
それは事実だ。そして消せない過去でもある。
 別段、薫乃と付き合ったことが嫌なわけじゃない。
ただ、あの時僕と彼女が付き合っていないという選択肢をしていれば、誰も後悔をしない未来が待っていたのではないかと思うのだ。
 今、思えばどうして俺と薫乃が付き合い始めたのか謎だ。どうして俺達は付き合い始めたのか。
 思い返せば、思い返す程謎になってくる。
 クラス一の嫌われ者とクラス一の人気者。こんなデコボコ過ぎる二人が付き合い始めた理由。
 誰かが決めたとしか言いようがない結果。
そして最悪の結果を巻き起こした。

 翌日。俺と風華はゲーセンへと足を運んでいた。俗に言うデートというものらしい。果たして妹とのお出かけはデートに含まれるのか謎である。
 でも風華がいつもよりもはしゃいでいるので来てよかった。やっぱり、こいつも外に出たかったのだろう。
 幸いなことに天気予報で日曜日は雨となっていたのだが、当たることはなかった。
 俺は雨男なので風華が晴れ女だったのかもしれない。
本当に助かったぜ。

「お、おにぃー。一緒にこれしよっ!」
 風華が俺にゲームを仕掛けてくる。

「あぁ、いいぜ。ふぅ〜ん、なるほど。レースゲームか。負ける訳にはいかないな」
 レースゲームはかなり単純な某ゲームメーカーのアーケード版だった。
 椅子に座る。座席が硬く、ケツが痛い。

「おにぃー。絶対に負けないから!」

「ふぅ〜ん。そうか。じゃあ、俺に勝てたらなんか奢ってやるよ」

 最初から全部奢るつもりだけどな。

「や、やったぁぁぉー! 絶対に勝つから!」
 何時にも増して今日は本当に機嫌が良い。
ゲーセンに来て良かったぜ。
風華が社会復帰できればいいのだが……そう上手くはなるまい。

十分後。
 レースの結果発表。
俺は五位。風華は一位だった。
ゲームは昔から風華は強いが、今回も圧勝だった。それに一位を取れたことよりも「おにぃーの奢りだぉぁー!」と喜ぶなんて、可愛い奴だ。

「クッソー負けちゃったぜ……」

 俺は今日も良い兄貴のフリをする。

 その後風華と共にアイスクリームチェーン店でトリプルを買ってあげた。

「おにぃー、ありがとう」と風華が恥じらいながら言ったのが印象に残る。
 だが俺は妹と一緒に出かけているというのに、薫乃のことが気がかりで仕方なかった。

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