イケメン被りの青春オタク野郎と絶対利益主義お嬢様

片山樹

28

「まぁ、良いから座ってて」と薫乃に言われ、俺達は床に腰を下ろした。
彼女の家はかなりシンプルなものだった。
ソファーが1つと椅子が1つ。
そして椅子とセットになっていると思われるテーブルが1つ。それと冬場にはコタツに変身すると思う簡易的なテーブルが1つだけだ。
普通の人の家にあるようなテレビなどは無かった。床には所々に小説が無造作に置かれている。

「ちょっと、なに!? チラチラ見ないでくれる? 恥ずかしいからっ!」

「いやユカは見てねぇーよ!」
 確かにユカの大きくも無ければ小さくも無い何というか、絶妙なバランスを遂げた胸に興味は抱くよ。だけどね、チラチラ見るほどじゃねぇーよ。俺はいつもガン見だよ。
男は黙ってガン見と相場は決まってんだよ。

「じゃあ……何見てんのよ!」

「あまりにも物が少な過ぎるってか」
 ユカに近づき、耳打ちする。
ユカの白い肌が赤く染め上がるのがすぐに分かった。案外分かりやすい奴だ。
それと綺麗だった。きめ細やかだった。
モチモチ肌というやつだ。
どこの洗顔使ってるんですかって今度聞いとこ。

「確かに……」
 ユカが探偵振っているのか顎に手をやる。
様にはなっていない。寧ろ、違和感がありすぎた。まだまだワトソン君のようだ。
どうやら探偵になる洞察力は無いらしい。

「どうかした?」
 薫乃がコップの破片を新聞紙に丸めながら言った。丸めて、っぽいと。
薫乃がゴミ箱に破片を捨て、俺達の方に寄ってくる。

「いや、何もないよ」

「そう……」
 薫乃はソファーに座り込む。
そして俺を見下しながら口を開いた。

「あのさ、悪いんだけど……ユカちゃんは出ていって貰っていいかな?」
 明るいトーンだが、物凄くおぞましい声だった。女子の怖さってのが良く分かったぜ。

「わ、わかった……」
 ユカは何かを察したのか、素早く鞄を持ち、部屋を出て行く。
 ドンという玄関の音が軽快に鳴る。

そして薫乃が口を開く。

「ねぇー空。貴方、覚えてる? 私の言葉」

あぁ、覚えてる。
忘れるはずが無い。

「もう二度と私の前に現れないで……だろ?」
 その言葉を言われ、俺がどれほど辛かったか。どれほど苦しかったか。どれほど悔やんだか。それを彼女は知らない。
そして俺も彼女の気持ちを理解していなかった。

「そう……それよ。だけどね、私誤解してたわ。貴方、あの時……」
 そこで言葉を止める。
これ以上、言うのを躊躇っているのか。

「ごめん……俺も悪かったよ。俺もめちゃくちゃ後悔してる。あの時……俺が」
 本当の事を言っていれば、事態が変わっていたのでは無いかと。何度も何度も悔やんだ。
だけど……悔み切れなかった。

「いいのよ。あの事故は私の自業自得。だけどね、時々思うの。あの時、貴方が居てくれたらって」
 どうなっていたのだろう。
それは有り得なかった過去だから何も言うことはできない。
ただ、俺が言えることは「ごめん……」
こんな言葉しか無かった。
これが俺に残された言葉であるかのように。
こんな言葉が俺の為にあるかのように。
俺はそんな弱い言葉を吐いた。
彼女の視線から逃げるように。

「謝らなくてもいいの。私は別にいいの」

 彼女の声が徐々に小さくなっていく。
身体がやけに細く、肌白いと思っていたが、言葉も弱々しい。
以前はもっと健康的な女の子だったはずだ。
俺のせいだ。俺の……せいだ。
だけど楽になりたい。
自分のせいにしたくない。
彼女は謝らなくても良いと言ってくれた。
自分のせいだと言ってくれた。
それなら許しを貰ったということだ。
もう、楽になろう。

「い、いいのかよ……。俺のせいだろ?」
 だけど俺の口から出たのはこんな言葉だった。多分だが、俺は自分に酔っているんだと思う。自分が悲劇の主人公だと思いたいんだと思う。だからこんな言葉が出たのだ。
自分に責任を押し付けて、自分一人で解決する。全ての責任を持ち、彼女のやり場の無い怒りを俺に向けて欲しいと。
あの時の事故は俺のせいだと。
そう言ってほしいのだ。
そう思ってほしいのだ。
そして少しでも楽になってほしい。
俺はそんな事を思ってしまう自己犠牲野郎だったようだ。

「ねぇー、前から思ってたんだけど……そろそろ嘘はやめた方がいいんじゃない? 私を舐めないで。全てお見通しなんだから猫被りさん……」

 猫被りさん……俺の正体がバレている。
いや、そんなわけはない。

「全てお見通しってどういうことかな?」

「ふぅ〜ん。しらばっくれるんだ。まぁ、いっか。でもね、そんなことを続けてるといつか身を滅ぼすよ。絶対に」

 彼女は真剣な顔で。
そしてどこか呆れた顔で。
彼女は俺に最大限の忠告した。

だけど俺が返す言葉はいつもと変わらない。

「そ、そうだねぇ〜」

 しらばっくれるだけだった。

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