イケメン被りの青春オタク野郎と絶対利益主義お嬢様

片山樹

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 注文していたメニューは思っていたより早く来た。これが人気喫茶店の秘密かとか思いながら手を合わせる。

ーーいただきます。
 クルクルとミートソースパスタをフォークで巻きつけ、ぽぽいと口の中に入れていく。
甘みの強い中しっかりとした塩加減のあるソースは流石と言う他ない。
これが喫茶店の美味さか!?
俺は改めてそれを実感した。
パスタから目線を離し、顔を上げてみるとユカも幸せそうな顔でケーキを口に頬張っていた。

「おいしぃ〜。もう最高ぅ〜、私はこの為に生きてきたんだぁ〜」

 どうやら頭の中がハッピーセットになったらしい。こうなってしまったら、俺はどうすることもできない。なので俺はちまちまとパスタと水を食べたり、飲んだりしたのであった。

 パスタを食べ終わり、コップに二杯目の水を入れようとした時、彼女もケーキを食べ終わった様で満足そうな顔をしていた。
今日来て良かった。
ユカのこんな顔を見れただけも良しとしよう。
と、思っていたが彼女は店員を呼ぶ。
ん? お手拭きか?

「あの……ストロベリーパフェとショコラケーキ、えぇっ〜と、後ねぇ〜レモンケーキもお願いします!」

えぇっ!?

「お、おい……それってまじで食うのかよ?」

 彼女がニヤッと笑った。

「ふふっ、もちろん! だって、ソラの奢りじゃん!」

うっ! 痛い所を突きやがって。
今月のラノベ代が失くなったらどうすんだよ。
バイト多くするしかねぇーじゃんか。

「た、確かに……言ったけどさ」

「ん?」

 目を真ん丸くして、俺を見てくる。

「どうした?」

「いやぁ〜、イケメン被りってこと皆にバラしてもいいんだよ」

「すいませんでした!」
 頭を下げ、誠心誠意謝る。

「まぁまぁーうそうそ。私もバレたら嫌なことあるし」

「あぁービッチなことか!」

「だ、だからぁー! ビッチじゃない!」
 ユカの顔が赤くなる。可愛い。
こんな姿を見れるなんて幼馴染の特権だ。

「あ、そうだった。あのね、言わなければならないとずっと思ってたんだけど……実は薫乃ゆきのちゃん退院したんだってさ」

「へぇ〜そっか」
 俺は素っ気なく答える。
薫乃ーー冬野薫乃。
俺の初恋相手であり、復讐相手だ。
彼女は俺と別れた日。
つまり、俺が彼女を拒絶した日に交通事故にあった。頭を強く打ったらしく、意識は重体。
一命を取り留め、中学三年生時に一度退院。
その後、俺と同じく早慶高校に入学。
ちなみに彼女はたった3ヶ月の受験勉強で早慶高校に合格した。俺とは違うクラスの所属しているので滅多に会う事は無い。それに今は今で精神的な病気になっており、学校をサボりがちだ。
しかし早慶学校は実力主義な学校である為、実力のある冬野薫乃みたいな生徒は学校に来なくても進級が認められている。
ところで、そろそろ本題に戻るとしよう。

 俺の初恋相手であった薫乃が退院した。
それは即ち、奴が早慶学校に復活するという事を意味している。そして俺の人生がまた1つ面倒くさいことになることを意味している。
俺は冬野薫乃の事を嫌いではない。
というか、嫌いになったことは無い。
だが、彼女は俺に冷めているのだ。
圧倒的に。道端に落ちている石ころの様に感心が無いのである。だから俺は何もできないのだ。
何も言えないのだ。勿論、俺と薫乃の関係は拒絶したその日に終わりを告げている。
もうズタズタに引き裂かれた布切れの様に。
だからもう関係は戻せないのだ。

「それでね、ソラ。真剣にこれは聞いてほしいの」
 改まって、こんな前振りを持ってくるとはさぞかし凄い話が来るのだろう。

「どうしたんだ?」

「あのね、薫乃ちゃんがソラに会いたいんだってさ」
 薫乃が俺に会いたい。
そんなはずはない。
俺はもう彼女にとってどうでもいいような存在のはずだ。今更何を言うのだろう。
俺に謝れとでも言うのだろうか。
でも俺もそろそろケジメをつけた方がいいだろう。そうしないと自分の為にも相手の為にもならないだろう。キチンと真剣に話合えば通じるはずだ。今はどうかなんて分からないけど、俺が知っている冬野薫乃なら分かってくれるはずだ。

「ああ、いいけど……」
 俺はぼそっと呟き、コップに注いでいた水を飲み干した。氷はもう溶けていた。
それはもう時間切れと俺に暗示しているみたいだった。

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