イケメン被りの青春オタク野郎と絶対利益主義お嬢様

片山樹

18

 トントン。
生徒会室という一般生徒なら入ることができない部屋のドアを二回ノックする。それもリズミカルに。太鼓を叩くかの如く。
中から返事がした。
「入っていいぞぉー」という如何にも気怠そうな気質がプンプンと喋り方だけで伝わってしまうほどの声だった。まぁ、生徒会長は喋り方もだが、外見も中身もサボりである事に違いは無いけど。だって生徒会長はいつも服は乱れているし、髪は時々跳ねたままだし。
だけど、物凄く外見は可愛いんだよな。
会長の服が乱れてもそれは乱れとは呼ばず、流行ファッションと呼ぶみたいな風潮があるし。それはそれで困るんだけど会長パワーってのは凄くて、先生達でも止めることはできない。流石、生徒会長ってことはある。
俺はドアを開け、右足から部屋に踏み入れる。来るのをまだかまだかと待ち望んでいたかのように堂々とした振る舞いで生徒会長だけが座れることを許されたキングの座席オーダーメイドだとかに腰を下ろし、これもまた高そうな机の上に脚を乗せて俺を待ってくれていた。

「遅かったな……」
 生徒会長――八重楼やえざくら夏帆かほ。この学校の生徒会長キング。凛とした表情をいつもしていて儚い。学力は3年生トップ。但し、学校をサボりがち。
本人曰く『勉強は学校に行かなくてもできる。それに他にやりたいことが沢山ある。人生は有限だ』という自己論を正しいと主張していて学校の規則や社会の習慣、常識的なモノを簡単に覆す。近くのゲーセンに入り浸っており、謎の美少女達人としてかなり有名。だけど何故こんなサボりがちで考え方が逸脱している八重桜夏帆が生徒会長になっているのだろうと疑問が出てくるけど、理由は学校の規則にあるのだ。
俺の通う学校は何度目かと思うかもしれないけれど、自称進学校。他称超難関進学校だ。
だからこそと言うか何というか、生徒会長ってのは二年生の夏休み前にある定期考査の学年トップが生徒会長になるという仕組みになっている。要するに学年トップ。即ち、頭が良い奴が勝ちという学歴主義なのである。実力主義とも言うべきか。それで勿論、その権限を奪取したのが俺だったわけで今回俺もこの場所に来たのである。手を抜いてめんどくさい生徒会長という役目から逃げようとしたけれど、梅雨桜先生の厚い懇願のせい(難関大学の指定校推薦をくれるということ)で俺は本気で勉強して1位を取ったのであった。

「はい、そうですね。色々と梅雨桜先生に言われちゃってて……あ、そう思えば、会長はどこの大学に行くんですか?」
 これは以前から気になっていた。
この何でも超人、典型的な天才型の人間はどんな大学に行くのだろうか。

「大学? 私はそんな所には行く気は無いぞ」
 八重桜夏帆は笑ってそういった。
学歴なんてものは要らない。
自分は自分らしく生きたい。
そんなことなのだろうか。
というか、話に聞いたことがあるのだが、八重桜の親はどこかの大企業の社長だったはずだ。
それのお手伝いでもするのだろうか?
そんなことを考えていると八重桜夏帆から追い打ちをかけられた。

「逆にどこの大学に行きたい?」
 俺が生きたい大学。
そう言われるとどこに行きたいのか、はっきりと決まってはいなかった。できることなら上の大学に行きたい。もっともっと上の大学に行きたい。だからまだ大学なんてものは決めてはない。それに今はまだ決めたくない。
だって、自分の人生を自分で縛るのはあまりにも滑稽だから。もしかしたら八重桜夏帆の様に大学というモノを別に利用しなくてもいいのでは良いのでは無いかとは考えないとしても大学で何か学べるものがあるのかと不安に思っているのかもしれない。だって大学ってのは4年間だ。その4年間ってのは自分の人生にとって、寿命を80と換算すれば、20分の1だ。
それだけ貴重な時間なのだ。
そんな時間を大学に行って良いのか?
もっと他にやるべきことがあるのでは無いのか?
例えば、外国に行ってみるとか。
C言語を覚えてプログラミングをするとか。
そんな貴重な時間にするべきなのでは無いのだろうか。折角の人生だ。一度きりの人生だ。
二度とNEWGAMEもCONTINUEという文字も出てこない、そんな一度切りの世界なのだ。
そんな命なのだ。そんな一生なのだ。
それなのに大学に行って束縛され、社会に出て社畜になる。それの何が楽しいんだ?
働くという行為事態にとやかく言うつもりは無いが、朝早くから夜遅くまで会社で働く気は無い。というかそれよりも働かないとイケないという考え事態がオカシイのだろうか。
誰がそんなモノを決めた?
お偉いさんか? それとも社会か?
それとも時代か? それとも自分か?
どれだ? 答えは簡単だ。
――自分さ。自分で決めたのさ。馬鹿みたいに。働かないとイケないと自分で決めつけていたのだ。だけどそれは真っ赤な嘘だ。
真っ赤な真っ赤なトナカイさんみたいに赤鼻では無いけれど、顔が真っ赤になる程俺の頬は熱くなっていた。理由は明白だった。自分の心はどうやら夏影三葉によって洗脳されているのかもしれないと思ったからだ。洗脳されていると思うと三葉によって見透かされている気分になって胸が傷む。
そして自分が弱い人間であるかの様に思える。
俺はもっと強くならなければならない。
そしてもっと上を目指さないといけないんだ。
あの女に復讐する為に。

「目が怖いけどどうかした?」
 どうやら熱が入っていたみたいだ。
生徒会長が何かゴニョゴニョと言っていた気がするが、内容も分からずに適当に返事をしていた。

「でも、本当に安心したぞ。これで次期生徒会長も決まり、私は学校をまたサボれるよ」
 八重桜夏帆は嬉しそうに笑っていた。
えっ? でも不可解な事を言ったよな?
生徒会長が決まった?
またサボれる? どういうことだ?

「あ、あの……会長? どういうことですか?」

「だからな、空君。君が生徒会長になるってことさ」
 生徒会長はいたずらっぽく笑っていた。

「あ、ちなみにもう既に梅雨桜先生に許可は取ってある。それにこれは学校の規則だ。仕方ないさ」
 八重桜夏帆は当然の如く言ってのけた。
だけど俺には荷が重過ぎる。
それに俺は生徒会長になる立場の人間ではない。

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