イケメン被りの青春オタク野郎と絶対利益主義お嬢様

片山樹

9

「風呂にでも入るか……」
 俺は自分の目から流れる輝くモノを隠すように、いや逃げるように、階段を上って真正面にある時分の部屋で自分の服を適当に選び、脱衣所へと向かう。脱衣所には咲のモノと思われる下着が洗濯かごに入っていた。俺はその匂いを嗅いでとかは全く無く、普通に風呂場へと入る。
浴槽の蓋を開け、桶で自分を清める様にお湯をかける。そしてシャンプーをワンプッシュして最近伸びてきた髪を洗う。
前髪は余裕で目にかかっており、耳に覆い被さる程に髪は伸びている。
そろそろ髪を切らないと不味いな。
そんな事を思いながら身体を洗い、浴槽へと身を委ねた。

✣✣✣
 風呂から上がり、身体を拭き、服を着て、タオルを頭から被り、リビングへと向かう。
リビングには咲がソファーの所にちょこんと座っていた。

「咲、どうしたんだ? ぼっーとしちゃって」

しかし返事は無い。
俺はそのまま喉が渇いていたので冷蔵庫からコーヒー牛乳を取り出して飲む。
甘かった。激甘だった。
喉に潤いが戻ってきた所で今回の目玉であるアイスを取り出す。勿論、咲が頼んでいた雪見だいふくも一緒に。

「ほら、咲。アイス買ってきたぞぉ。一緒に食おうぜ」

「要らない……」
咲は小さな声でそう言った。

「何かあったのか?」

「何にも無い……」
 そんなはずはない。
何にも無いのなら、そんな小さな声になるはずは無い。何かあったか、という疑問が生じていた。どうしよう。でも俺は咲の兄だ。
勿論風華の兄でもある。
この二人は俺が確実に自分の命よりも大切な人だ。それに風華から頼まれていた。
『咲が困っている時も助けてあげて』
さっき言われた言葉を無視する事はできない。今もそしてこれからも。
シスコン野郎と言われてもいい。
だって俺は妹達が好きなのだから。
本当に幸せになって欲しいのだから。
だからこそ、俺は妹達が困っていたら助ける。
それに困ってなくても兄として最低限な行為をしたい。優秀な二人と並び立つ事ができる様に。


「お兄ちゃんに任せろ。俺はいつまでも咲の味方だ。勿論、風華の味方でもあるけど。
だから……俺に頼ってほしい。聞かしてくれ。
何かあったんだ? 咲」

 咲は突然立ち上がり、目を拭ってから俺の方へ歩み寄ってくる。目には涙痕があった。
そして俺からアイスをひょいっと取って、彼女は言った。

「うそなきでしたぁー。お兄ちゃんを困らせようと企んだ私のアイディアなのですぅー。
残念だったね、お兄ちゃん」
 彼女は明るかった。
だけどそれが著しく怖かった。
正しく、空元気と言った所だったからだ。
そしてそのまま部屋を出ようとした時、彼女はポツリと呟いた。

「でもさっきの言葉……嬉しかった」
 咲はそう言って、部屋を出る。

俺はその後何も言えず、ソファーに座ってスーパーカップを食べる事しかできなかった。

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