イケメン被りの青春オタク野郎と絶対利益主義お嬢様

片山樹

6

「って事でこれは何の冗談だ? 夏影さん」

「冗談ではありません。ただ私が偶然、通りがかった道に貴方と誰でしたっけ?」

「小春結花だ。学校じゃ有名人なのに知らないのか?」

「聞いたことあるわ。だけど別に知ってても利益メリットじゃないじゃない。そんな事を覚えるよりも英単語を1つでも覚えた方がましだわ」

ごもっともな意見だ。
俺達はまだ高校二年生だが、来年は受験生になる。もう受験はスタートしてるんだ。

「確かにそうだが……楽しい学園生活を過ごした方が良いだろ? だからこそ友達は」
 俺の言葉を夏影が遮る。

「友達? それは利益メリットがあるのかしら?」

「あるよ。友達が居れば学校が楽しくなるし、色々な知識を持っている奴もいるから勉強にもなるし。何より、社交性が身についていいと思うよ」

「へぇ〜。でも友達が居れば、休日は遊びに行かなくてはならないし。毎日の様にラインなどでやり取りをしなくてはいけない。おまけに時間があれば会話。会話。会話。会話。そんなに話していて話すネタが尽きないのか心配だわ」
 昔何かあったのだろうか?
そうしないとこんな考え方にはならないはずだ。まぁ、よく分からないけど。

「だから総合的に見て、不利益デメリットだと?」

「そうよ。私という人間が少しずつ分かってくれたかしら?」
 態度はいつもと変わらない。
だがどこか嬉しそうだった。
まぁ、人間色んな生き方があると思うけど夏影のやり方はかなり典型的なやり方なんだよな。
利益があるからする。
不利益ならしない。
やるかやらないかの二択な訳だけど、これってただの怠け癖なんじゃ?

「まぁ、少しは分かる。だけど理解はできない。それにしても困ったことになった……」

「どうしたの?」
 夏影が俺に近づいてくる。
心配でもしてくれているのだろうか。
もしくはからかっているのか、彼女の表情が変わらないので何とも言えない。

「ユカに彼女ができた事を伝えるか、どうかってこと。俺、一応夏影さんと付き合っているわけだし」

「そうね。確かに付き合ってるわ。貴方の不利益になるのなら言わなかったらいいんじゃないの? っていうか、彼女をできた事を一々報告するなんてどうかと思うけど……」

言われてみればそうだ。
なぜ、ユカに彼女ができた事を報告しなければならないのだろう。話す義理が無い。
だけど喜びを共有したいっていう気持ちもあるし。でもそんな事をしたら「自慢?」とか言われてボコボコにされそうだ。

「まぁ、そうだよなぁ〜。なら止めとく。それでわざわざ夏影さんが利益も何も無いのにこんな場所を歩いていたわけじゃないよな?」

「ふふっ、私の事を理解してきた様ですね。流石、イケメン被りのオ・タ・クさんですね」

「オタクは言うな! もし学校で言ったら……」

「言ったら?」

「………………」
どうするんだ? 俺は。

「私を貴方のモノにすると言うのはどうかしら?」

 絶対利益主義の癖にこんな提案を持ち込んでいるとは何か裏がありそうだ。
俺はそう察して、適当に誤魔化す事にした。

「そうだな……ジュースを一本ほど奢ってもらうよ」

「あら? そう? それなら思う存分、私は貴方がオタクだという事を皆に言うわよ。だってそれで貴方が苦しむ姿が見られるのなら」

「や、やめろ! これはただの軽いジョークなんだよ。アメリカンジョーク! まぁ、そういう訳だから言わないでください」

「お願いします、は?」

「お願いします」

「まだ、足りないわね。そうね……」

俺に何をさせる気だろう。
この女が考える事だ。
非常識な事に違い無い。

「私の名前を三葉と呼んでくれないかしら?」

「えっ? そんなことでいいのか?」

「も、勿論よ。だから私も貴方の事を空と呼ぶから」

「お、おう。まぁ、いいけど。夏影はそれでいいのか?」

「貴方に拒否権は無いの。それに間違っているわよ? 私の名前は三葉、でしょ?」

「分かったよ。三葉」

「どういたしまして、空」

 俺達は付き合い始めた初日。
お互いを下の名前で呼び合う仲になった。
これが早い方なのか遅い方なのか、俺は今まで女の子と付き合った事が無いから分からない。
女の子と付き合った事が無いと書かれているからと言って、男と付き合っていたみたいな事は無いから安心して欲しい。
今から先、どんな事があるかは分からない。
ただ、どんな事でも上手く行く気がする。

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