イケメン被りの青春オタク野郎と絶対利益主義お嬢様

片山樹

1

 中学一年生だった頃、俺は馬鹿だった。
大馬鹿者だった。周りの事を全く見てないただの馬鹿だった。馬鹿と何回言っても言い尽くせない程に俺は馬鹿だったのだ。

「俺と別れてほしい」
 それは俺にとって初恋だった。
そして初めての失恋だった。

「ど、どうして……?」
 彼女は涙を流しながら言った。
俺を鋭い目付きで睨み、両手の拳を握りしめながら。

「っっ……」
 言葉が詰まる。何も言えなくなる。
だけどもう嫌なんだ。
彼女だけは幸せになってほしい。
だって……俺はこの先、生きれるか分からないから。生まれ付きの心臓病が悪化して入院生活が続くらしい。

「俺がオタクだから……」
 本当の事を言っておけば他の道があったかもしれない。だけどこの時の俺は馬鹿だった。
だからこそ、こんな解答しか導き出せなかった。

「別に私はそんなの気にしない! だ、だから……」
 所詮、中学生の恋愛だ。
そんなものは将来的に見たら、青春だったと思うほどのものだ。懐かしいと思える程のものだ。
そんな風に大人は言うけれど、当時の俺にとってはそんな“青春“が大事だった。
でも、彼女を幸せにできるという保証は無かった。だから俺は彼女を突き放した。

「俺さぁー、元々××と遊びで付き合ってただけなんだよ。だからさぁーもうやめにしようよ。俺もお遊びは終わりっていうか」
 こんな言葉は全て嘘だ。
俺が生まれ付きの病気を持っていなければこんな結果は生まれなかったかもしれない。
でもそれを憎んだりはしない。
だって俺にとってこの世界に生まれ、彼女に逢えた事が幸せだったから。彼女の事が好きだった。
大好きだった。それなのに。それなのに。
何故、こんな終わりを迎えるのだろう。

「貴方って最低ね。もう二度と私の前に現れないで!」
そう言って彼女は俺の前から居なくなった。
そして俺も彼女の前から居なくなった。

「ふっ、神様って不公平だよな……」

✢✢✢
 高校二年生になった俺は昔と変わらず、まだ馬鹿だった。その日に限って教室の机の中にラノベを置いてきたのだから。本当に不味い。不味すぎだ。
リアルに笑えない。
クラスでは真面目系爽やかイケメンキャラを演じてる俺にとって、ラノベがバレるってのは学園生活が終わると言っても過言でも無い。
日頃から注意してるつもりだった。
でもその日だけ忘れてしまっていた。
こうして家の近くで忘れている事に気づき、ダッシュで学校に戻ってきた訳だけど、本当にツイテイナカッタ。
だって、俺の席には先客がもう居たのだから。
それもクラス内で孤高の存在として恐れられているお嬢様……夏影ナツカゲ三葉ミツハだというのはトコトンツイテイナカッタ。
 夏影は俺の机にちょこんと座り、俺の持ってきていたラノベ『ハーレムルート? そんなのありません! 貴方は私だけを見て!』を読んでいた。それも書店でいつも表紙を隠す為につけてもらっているをカバー外してというお嬢様っぷり。俺のラノベだというのに勝手にカバーを外すとは。でも夏影の目はとても真剣でラノベを読んでいたというよりも物色していたと言っていいだろう。それも興味津々で。
このラノベはヤンデレラブコメだ。
それもかなり酷い(褒め言葉)レベルのヤンデレモノ。しかし、ヤンデレと言ってもすぐに「あの雌豚……殺す」や「私だけを見てくれてるよね?」などという様な描写は少ない。
どちらかと言えば普通の女の子が徐々に狂っていく姿が面白い作品なのだ。
という雑談は終わりにして、夏影の元に行こう。僕はそう思い、少しずつ脚を動かす。

「本当に気持ち悪いわ……」

彼女から俺に喋りかけてきた。
自分から話しかけなくて良かったけど気持ち悪いと言われたからプラマイゼロと言った所か。
いや、普通に考えてマイナスだな。

「まぁ、その本を返せ。話はそれからにしようか?」
 俺が本を読んでいる彼女に問い掛ける様に言う。

「えぇっ? ええっ?」
 夏影は本を読むのを止め、辺りを確認。
右、左、右という風に小学生が横断歩道を渡る時にする仕草をしてから俺の方へ顔を向ける。
そして言った。

「あの……貴方の名前は?」
おぉ、どうやらこれは痛い。
ぼっち認定されている事は気づいていた。
けれども存在を認定されてないとは飛んだ誤算だった。

「俺の名前は秋月アキツキソラ
一応、夏影さんと同じクラスなんだけど……」
クラスに入ってから二度目の自己紹介になるとは思わなかったぜ。

「あ、あ、そうなの? 本当にごめんなさい。私、忘れっぽくて……」
そう言いながら、彼女はスマホを取り出した。

「あの、名前は秋月空さんでしたよね?」

「う、うん。そうだけど……どうして?」

「いいえ……私、忘れっぽいのでメモ帳にメモしておこうと思って……」

「なるほど。それなら助かるよ。クラスメイトだし、名前ぐらいは覚えて貰いたいものだし」

「なんでですか?」
夏影は首を傾げ、不思議そうな顔をしていた。

「だからクラスメイトに名前ぐらいはって……」

「いや、それは分かります。だけど名前覚えられたぐらいで何かメリットとかあるんですか?」
 彼女の意見は最もだった。
どうせ名前覚えられただけで何も変わりはしない。

「メリットかぁ……そんなモノは無いよ。困ったなぁ……何ていうか、こう言えばいいのかな? 夏影さんに名前を覚えて欲しかったから。これでどう?」

「全然意味が分かりません」

「ならこれでいい? 俺が夏影さんの事が好きだから。好きだから名前を覚えていて欲しい」
 彼女の表情は全く変わっていなかった。
無表情の中の無表情と言った所だ。
ロボットか何かと感じる程に表情の変化は無かった。こういう時は女の子は普通顔を真っ赤ににするはずなんだけど。
っていうかよくよく考えてみれば普通ってなんだ?
普通なんて無い。
だって普通の基準は無いのだから。

「すいません。無理です。これは新手の告白ですか? もしそうだったら丁重にお断りさせて頂きます」

「いや、告白っていう訳じゃ無いんだ」

「そうですか。それは安心しました。私みたいな女を好きになるのは異常デメリットですから良かったです」
異常か。それなら俺は異常かもしれない。
彼女に少しずつだけど興味を持ち始めている。
孤高の存在と恐れられている筈なのに全く違った。相手への先入観で人を判断したらダメだな、やっぱり。

「夏影が俺をどう思っているのかは分からない。だけど俺は夏影の力になりたい!」
自分でも何を言っているのかさっぱり分からない。興味を持ってしまったから力になりたい。そんなもんだろう。人間の探求心ってのは本当に怖いものだ。意図も簡単に一人の男子高校生にこんな事を言わせるのだから。それもとってもとっても恥ずかしい台詞を。

「丁重にお断りしときます」
ですよねぇ〜。そうなると思ってました。

「ですが、私貴方に利益メリットを感じてしまいました。だから……その付き合ってくれませんか? 一人の男性として私と……」
 彼女の表情は全くと言っていいほど変わってはいなかった。しかし少しだけ口元がほんの少しだけ緩んでいた。
それが素直に嬉しかった。
まぁ、言われた事もだけど。
実際見た目はかなりタイプだ。
白い肌に艷やかな唇。この世の物とは思えないほどの絹を織り込んだ様な黒い長髪。
とても細身で体型は申し分ない。
まぁ、胸は全く無いけど。
おまけに性格はかなり取っ付きにくいけど。

「そ、それは……告白?」
一応、聞いておくのが鉄則だろう。
中学生の頃に一度酷い目に遭った事があるからな。
「やぁ〜い、騙されたぁ〜とかはありませんから大丈夫ですよ。私の気持ちは本気です」

変わった奴だ。
まぁ、俺もそう言えないけど。

「あのさ、それよりもそろそろ本返してくれない?」

「あの……すいません。これ、私のなんですけど……」
 むっと表情をさせ、怒っている夏影の姿はとても可愛かった。

「そ、そんなはずは……」
俺は慌てて自分の机の中を確認。
しかしそこには俺のラノベは無かった。
その代わりと言っちゃ何だか……変なものが入っていた。
『果たし状』とネームペンでバリバリ書いたと思われる。
果たし状か……こんなの貰った事がある奴現代に何人いるのか分からないから本当に貴重な存在になれた事を光栄に思うべきだよな。
とりあえず果たし状と書かれた折りたたまれている紙を開き、文字を読む。

『お前の本は預かった! 明日の朝、屋上に来い! もしお前が来なかったら如何わしい本を読んでいる事を言いふらす』
 簡単な文章なのにとても俺を恐怖で怯えさせる程の文章だ。

「どうかしたんですか?」

「いや、別に何も無いよ。ただ、めんどくさい事になりそうってところ」
 俺は適当に誤魔化した。
ラノベはとりあえず誘拐されたって事らしい。
誘拐というのは語弊があるかもしれないけど一応人質だし仕方がない。
明日は少し厄介な事になりそうだ。

「今から家に帰るけど一緒に帰る?」
一応尋ねてみる。

「いいえ……大丈夫です。今日はもう少しで送り迎えの車が来ますから。それにそれは不利益デメリットですから」
 どこのお嬢様だよ。
だが仕方ない。夏影はいつも体育の時は見学か保健室で休んでいるし。それに行事なんてものには欠席しがちだしな。

「分かった。じゃあ、俺は帰るよ」
俺がそう言うと夏影は寂しそうな顔をしていた。そして口を開く。

「貴方を殺したい程に愛してる」

「えっ?」

「気にしないで。今のはただの言葉の文よ」

俺は釈然も納得も何もしないまま、学校に来た本来の目的を全く達成できないまま、靴箱へと向かった。

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