超越クラスの異世界談義が花を咲かせたようです! 〜愚かな国の異世界召喚術にて〜
1 異世界召喚
十人が集まる登校日。
既に前日、全員一度、顔を合わせている。
何故ならば、住むところが皆同じだからだ。
それには深い理由がある……
それは、この天才達は皆同じところで育った孤児であるからだ。
皆が五歳の頃、時期は違えど、この孤児院に預けられた。
はっきり言って、生活の安定した環境ではなかった。
むしろ経営難と言っても過言ではなく、経営する御老人夫婦も間もなく息を引き取り、この場所が売り払われる寸前だったのだ。
それを止めたのが若干五歳の紫蒼である。
「僕がこの土地を買い直すことにするよ」
そう言って、外に出ていくと一ヶ月は孤児院に帰ってこなかった。
いつも一緒にいた仲間が一ヶ月もいなくなると、当然同い年の少年少女は泣き出す。
そんな時に紫蒼は、ある紙を持って帰ってきた。
紫蒼の持つ紙にはこう書かれていた。
『土地所有権利者 水無月紫蒼』
と。
当然何のことかわからない孤児たちは、紫蒼に泣きつく子もいれば、首をかしげている子もいた。
「この皆の土地を守ったよ」
そう笑顔でみんなに言うと、自分たちの居場所が無くなると言われていたこの地を紫蒼が守ったと、言ったことを理解したのか、不安で固まっていた心が溶かされ、再び号泣を始めたのだ。
さて、紫蒼がどうしてこの土地を所有できたかと言うと、想像できるものできるものではない……
まず、来日していた世界最高峰の国際オケにわざと迷い込む。(警備をかいくぐって)
その次に、国際オケの指揮者に気に入られるため、クラシックの話で盛り上がる。
そして、オーケストラの皆さんに指揮者の口添えを兼ねて、一曲リハにもならない遊び感覚のつもりで紫蒼の指揮者で行う。
そこからは、紫蒼クオリティーだった。
オーケストラ三十人ほどの心を掌握して、一同のポテンシャルを最大限に引き出したのだ。
この光景を見た、指揮者の男性は呆然。
その後、弾けたように紫蒼に詰め寄るや否や「ヨーロッパで花を咲かせないか?」といい、それに同意した紫蒼はすぐにヨーロッパに飛び立ち、一週間の音合わせ後の、公開リハでの振る舞いで、誰もが知る指揮者へとなり得たのだ。
そうしてたった一ヶ月で土地を買えるまでに変化した紫蒼はこうして第一の天才『神の代行者』と呼ばれるようになった。
その後は、紫蒼がオケの指揮を執ることで稼いだお金を、自分の技能である掌握術を使ってそれぞれの孤児にあった教養を施した。
それがこの孤児院から天才を次々と産出させた根源に繋がっているのだ。
そんなこともあり、今ではその孤児院があった土地は拡大し、小さな五階建てのビルが並んで二つ立つほどになっていた。
このビルの各フロアに天才が一人ずつ住んでいる。
ビルは男女に分かれていて、その間に臨時の学校の教室みたいな一階建ての建物がある。
それこそが彼らの通う学校である。
そもそも彼らは中学校卒業時点で、既に大学までの教養は終えているのだ。天才児と呼ばれる所以はこういうところにもある。
そんな彼らにも、一応年相応にて世間に合わせてほしいという国家の願いにより、この教室が作られることになったのだ。
――
「おはよう……皆、早いな」
紫蒼が教室に入ると、既に他の天才たち九人は既に集まっていた。
紫蒼は集合時間の三十分前に来たので、本来ならば十分に早いのだが、既に紫蒼のことを知っている九人は紫蒼が集合時間を言ったら、その四十分前には集まると決めているのだ。
そんなことを知らない紫蒼は素直に驚いているのだが、九人はその顔を見たいがためにそうしているのだ。
九人は全員紫蒼のことを慕っている。
紫蒼がいなければ住む場所を失ったから
紫蒼がいなければ今の自分はいないから
こんな思いが、それぞれの心を満たしているのだ。
一部、尊敬が愛に変わっている者もいるが……
「おはようっ紫蒼君!!」
「おは、紫蒼……!!」
希咲と時雨である。
それぞれ紫蒼の右腕と左腕に抱きついた。
腕に抱きつかれた本人は苦笑い。本人は幼馴染みだからこそのじゃれ合いだと思っているのだ。つまり鈍感である。
「相変わらずだなッ紫蒼!!」
「本当にな、お前がいない時の時雨、おっかないわ……」
「あら、そうだったの? 私の方はそこのバカ武神がまたやらかしてくれたわよ……恨むわよ紫蒼君……」
上から、雅、煎杜、理緒である。
バカ武神こと雅は愉快な声を出し、煎杜は何故か遠い目をし、理緒は肩を落としながらジト目を向け、紫蒼の方に寄ってきた。
「二ヶ月ぶりだね、みんな。昨日は顔見せただけだったから、あんまり話せなかったけど……そうか、また雅は暴走したんだ」
紫蒼はそう言い、雅の方を向いた。
「し、しし、してねーし!! 嘘ほざくんじゃねーよ理緒!!」
紫蒼から顔を逸らして言う時点で雅はアウトだ。
「訂正しなくてもわかるね、紫蒼君」
「そうだね、よくわかったよ……雅、次やったらアレね」
理緒に頷いた紫蒼は、雅に忠告した。
「わかったわかったわかったッ!! なるべくそうするから、刺すような冷たい目をやめてくれッ!!」
すると一変、雅は必死に紫蒼に許しを乞う。
紫蒼はそんな姿を尻目に、再び今日に目を向けた。
紫蒼は空翔と目が合うと、彼は丁寧に紫蒼にお辞儀をする。本当に空翔はできたやつである。ただ職業柄故か、ちょっと畏まりすぎ感が否めないが。隣では彩葉もちょこんとお辞儀をしていた。
次に紫蒼は扉冴に目を向けると、相変わらずパソコンを凄まじい速度でタイプしている。あの様子では、紫蒼が来たことにも気づいていないのだろう。
そして最後の九人目、閃莉はというと
スピー、スピー
と机の上に腕を伸ばして、気持ちよさそうに寝ていた。
閃莉は、ちょっと時間があればすぐ寝る。「お寝んぼさん」とは、多分、紫蒼しか彼女に面と向かって言えないだろう。
ほかの人は「お寝んぼさん」と言ったが最後、自分の過去の黒歴史が世間に公開されるから。その点、紫蒼には言っても本人にダメージを与える情報が一つもないのだ。
よって反論することが出来ずに閃莉は項垂れる。
どんな交渉場においても余裕の顔を見せる悪魔《閃莉》をそんな顔に出来るのは、この世において紫蒼の一人だけだろう。
――
「じゃあ、ちょっと早いけど談義を始めようか!」
みんなの顔を見た紫蒼は、チョークで黒板に文字を書きながら言った。
チョークを置いた紫蒼。
黒板に書いてあるのは
『    第190回
                 異世界談義      』
これは、当時七歳であった皆が、孤児院に何故か置いてあったラノベを読んで異世界に憧れたことから始まった妄想会議である。
授業をやれよ、と思うかもしれないが、先も言ったとおり彼らは大学までの教養を終えている。そして仕事で世界の彼方此方に行っている彼らにとって、皆と集まれる貴重な時間に盛り上がれる事といったら、幼少期から続けているこの『異世界談義』が最適なのだ。
今回の議案は、
【異世界鉱物の活用法】
である。
この議案に、最ものめり込んだのは、言わずもがな、科学者である扉冴だ。
様々な意見を出し合った結果、魔力をよく通すと言われるミスリルなどを使えば、もしや魔法によってこの地球ではなし得なかった『恒久エネルギー』を望めるのではないか、という仮説が今回の話し合いを占めた。
――
談義終了後
「恒久エネルギーなんて作れたら本当に色々な事が出来そうね」
理緒がそう呟く。
「すっげー金儲けできそうだなっ!!」
その呟きに、閃莉は花のないことをケラケラと笑いながら言う。
その発言に閃莉以外の皆は呆れた表情を作った。
そこで雅は、今回の談義の内容には関係ないことを言った。
「なんか、第190回って、行くぜ!!って感じじゃね?」
その発言に、皆は再び呆れた表情を作ろうとした次の瞬間、教室に大きな魔法陣がっ!!
「「「「フラグだったのかよッ!!」」」」」
一同皆、口にした。フラグを立てた本人《雅》もだ。
「みんなメモマグ出して黒板に投げて!!」
紫蒼は、そう皆に言う。
メモマグとは、万が一、召喚された時のために、置き手紙として大きなマグネットシートに文を書いたものだ。しかも拇印付きで。
これで、誘拐されたとは思われないだろう。
第一、彼らが誘拐される訳なく返り討ちにするのだが……
この文を見て、警察は疑問を浮かべるだろうが、本当に用意のいい天才たちである。
皆が黒板に向かってメモマグを投げ貼り付けた瞬間、彼らの身体は光に包まれた。
その間に紫蒼は「向こうに着いたらステータスがあるかもしれないから確認してみて」と言い、一同は首肯した。
そして光が消えた後に教室に残ったものは、十人分の机と椅子だけだった。
既に前日、全員一度、顔を合わせている。
何故ならば、住むところが皆同じだからだ。
それには深い理由がある……
それは、この天才達は皆同じところで育った孤児であるからだ。
皆が五歳の頃、時期は違えど、この孤児院に預けられた。
はっきり言って、生活の安定した環境ではなかった。
むしろ経営難と言っても過言ではなく、経営する御老人夫婦も間もなく息を引き取り、この場所が売り払われる寸前だったのだ。
それを止めたのが若干五歳の紫蒼である。
「僕がこの土地を買い直すことにするよ」
そう言って、外に出ていくと一ヶ月は孤児院に帰ってこなかった。
いつも一緒にいた仲間が一ヶ月もいなくなると、当然同い年の少年少女は泣き出す。
そんな時に紫蒼は、ある紙を持って帰ってきた。
紫蒼の持つ紙にはこう書かれていた。
『土地所有権利者 水無月紫蒼』
と。
当然何のことかわからない孤児たちは、紫蒼に泣きつく子もいれば、首をかしげている子もいた。
「この皆の土地を守ったよ」
そう笑顔でみんなに言うと、自分たちの居場所が無くなると言われていたこの地を紫蒼が守ったと、言ったことを理解したのか、不安で固まっていた心が溶かされ、再び号泣を始めたのだ。
さて、紫蒼がどうしてこの土地を所有できたかと言うと、想像できるものできるものではない……
まず、来日していた世界最高峰の国際オケにわざと迷い込む。(警備をかいくぐって)
その次に、国際オケの指揮者に気に入られるため、クラシックの話で盛り上がる。
そして、オーケストラの皆さんに指揮者の口添えを兼ねて、一曲リハにもならない遊び感覚のつもりで紫蒼の指揮者で行う。
そこからは、紫蒼クオリティーだった。
オーケストラ三十人ほどの心を掌握して、一同のポテンシャルを最大限に引き出したのだ。
この光景を見た、指揮者の男性は呆然。
その後、弾けたように紫蒼に詰め寄るや否や「ヨーロッパで花を咲かせないか?」といい、それに同意した紫蒼はすぐにヨーロッパに飛び立ち、一週間の音合わせ後の、公開リハでの振る舞いで、誰もが知る指揮者へとなり得たのだ。
そうしてたった一ヶ月で土地を買えるまでに変化した紫蒼はこうして第一の天才『神の代行者』と呼ばれるようになった。
その後は、紫蒼がオケの指揮を執ることで稼いだお金を、自分の技能である掌握術を使ってそれぞれの孤児にあった教養を施した。
それがこの孤児院から天才を次々と産出させた根源に繋がっているのだ。
そんなこともあり、今ではその孤児院があった土地は拡大し、小さな五階建てのビルが並んで二つ立つほどになっていた。
このビルの各フロアに天才が一人ずつ住んでいる。
ビルは男女に分かれていて、その間に臨時の学校の教室みたいな一階建ての建物がある。
それこそが彼らの通う学校である。
そもそも彼らは中学校卒業時点で、既に大学までの教養は終えているのだ。天才児と呼ばれる所以はこういうところにもある。
そんな彼らにも、一応年相応にて世間に合わせてほしいという国家の願いにより、この教室が作られることになったのだ。
――
「おはよう……皆、早いな」
紫蒼が教室に入ると、既に他の天才たち九人は既に集まっていた。
紫蒼は集合時間の三十分前に来たので、本来ならば十分に早いのだが、既に紫蒼のことを知っている九人は紫蒼が集合時間を言ったら、その四十分前には集まると決めているのだ。
そんなことを知らない紫蒼は素直に驚いているのだが、九人はその顔を見たいがためにそうしているのだ。
九人は全員紫蒼のことを慕っている。
紫蒼がいなければ住む場所を失ったから
紫蒼がいなければ今の自分はいないから
こんな思いが、それぞれの心を満たしているのだ。
一部、尊敬が愛に変わっている者もいるが……
「おはようっ紫蒼君!!」
「おは、紫蒼……!!」
希咲と時雨である。
それぞれ紫蒼の右腕と左腕に抱きついた。
腕に抱きつかれた本人は苦笑い。本人は幼馴染みだからこそのじゃれ合いだと思っているのだ。つまり鈍感である。
「相変わらずだなッ紫蒼!!」
「本当にな、お前がいない時の時雨、おっかないわ……」
「あら、そうだったの? 私の方はそこのバカ武神がまたやらかしてくれたわよ……恨むわよ紫蒼君……」
上から、雅、煎杜、理緒である。
バカ武神こと雅は愉快な声を出し、煎杜は何故か遠い目をし、理緒は肩を落としながらジト目を向け、紫蒼の方に寄ってきた。
「二ヶ月ぶりだね、みんな。昨日は顔見せただけだったから、あんまり話せなかったけど……そうか、また雅は暴走したんだ」
紫蒼はそう言い、雅の方を向いた。
「し、しし、してねーし!! 嘘ほざくんじゃねーよ理緒!!」
紫蒼から顔を逸らして言う時点で雅はアウトだ。
「訂正しなくてもわかるね、紫蒼君」
「そうだね、よくわかったよ……雅、次やったらアレね」
理緒に頷いた紫蒼は、雅に忠告した。
「わかったわかったわかったッ!! なるべくそうするから、刺すような冷たい目をやめてくれッ!!」
すると一変、雅は必死に紫蒼に許しを乞う。
紫蒼はそんな姿を尻目に、再び今日に目を向けた。
紫蒼は空翔と目が合うと、彼は丁寧に紫蒼にお辞儀をする。本当に空翔はできたやつである。ただ職業柄故か、ちょっと畏まりすぎ感が否めないが。隣では彩葉もちょこんとお辞儀をしていた。
次に紫蒼は扉冴に目を向けると、相変わらずパソコンを凄まじい速度でタイプしている。あの様子では、紫蒼が来たことにも気づいていないのだろう。
そして最後の九人目、閃莉はというと
スピー、スピー
と机の上に腕を伸ばして、気持ちよさそうに寝ていた。
閃莉は、ちょっと時間があればすぐ寝る。「お寝んぼさん」とは、多分、紫蒼しか彼女に面と向かって言えないだろう。
ほかの人は「お寝んぼさん」と言ったが最後、自分の過去の黒歴史が世間に公開されるから。その点、紫蒼には言っても本人にダメージを与える情報が一つもないのだ。
よって反論することが出来ずに閃莉は項垂れる。
どんな交渉場においても余裕の顔を見せる悪魔《閃莉》をそんな顔に出来るのは、この世において紫蒼の一人だけだろう。
――
「じゃあ、ちょっと早いけど談義を始めようか!」
みんなの顔を見た紫蒼は、チョークで黒板に文字を書きながら言った。
チョークを置いた紫蒼。
黒板に書いてあるのは
『    第190回
                 異世界談義      』
これは、当時七歳であった皆が、孤児院に何故か置いてあったラノベを読んで異世界に憧れたことから始まった妄想会議である。
授業をやれよ、と思うかもしれないが、先も言ったとおり彼らは大学までの教養を終えている。そして仕事で世界の彼方此方に行っている彼らにとって、皆と集まれる貴重な時間に盛り上がれる事といったら、幼少期から続けているこの『異世界談義』が最適なのだ。
今回の議案は、
【異世界鉱物の活用法】
である。
この議案に、最ものめり込んだのは、言わずもがな、科学者である扉冴だ。
様々な意見を出し合った結果、魔力をよく通すと言われるミスリルなどを使えば、もしや魔法によってこの地球ではなし得なかった『恒久エネルギー』を望めるのではないか、という仮説が今回の話し合いを占めた。
――
談義終了後
「恒久エネルギーなんて作れたら本当に色々な事が出来そうね」
理緒がそう呟く。
「すっげー金儲けできそうだなっ!!」
その呟きに、閃莉は花のないことをケラケラと笑いながら言う。
その発言に閃莉以外の皆は呆れた表情を作った。
そこで雅は、今回の談義の内容には関係ないことを言った。
「なんか、第190回って、行くぜ!!って感じじゃね?」
その発言に、皆は再び呆れた表情を作ろうとした次の瞬間、教室に大きな魔法陣がっ!!
「「「「フラグだったのかよッ!!」」」」」
一同皆、口にした。フラグを立てた本人《雅》もだ。
「みんなメモマグ出して黒板に投げて!!」
紫蒼は、そう皆に言う。
メモマグとは、万が一、召喚された時のために、置き手紙として大きなマグネットシートに文を書いたものだ。しかも拇印付きで。
これで、誘拐されたとは思われないだろう。
第一、彼らが誘拐される訳なく返り討ちにするのだが……
この文を見て、警察は疑問を浮かべるだろうが、本当に用意のいい天才たちである。
皆が黒板に向かってメモマグを投げ貼り付けた瞬間、彼らの身体は光に包まれた。
その間に紫蒼は「向こうに着いたらステータスがあるかもしれないから確認してみて」と言い、一同は首肯した。
そして光が消えた後に教室に残ったものは、十人分の机と椅子だけだった。
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