超越クラスの異世界談義が花を咲かせたようです! 〜愚かな国の異世界召喚術にて〜

篝火@カワウソ好き

天才指揮者と天才女優

 
 三日後は久々の学校の登校日。

 水無月紫蒼みなづきしきは、現在国際オケの名門ウィーン・フィルサウンド管弦楽団で指揮者をしていた。彼の指揮するオケには神が降りると言われるほど楽団、そして客席、はたまたコンサートホールの付近を歩く全ての人の心を掌握し、恍惚とさせる。

 そんな彼の異名は『神の代行者』

 青くサラサラとした髪に、180はある身長、加えて全てを見通しているかのような空色の瞳。見るもの全てを魅了する彼の容姿に『神の代行者』という異名は、誇大されたものではなく、それそのものなのだ。

 今日も指揮を終え、客席に礼をすると、一瞬間を置いてからのスタンディングオベーションだった。そんな中、全方位に一回ずつゆっくりとお辞儀をすると、拍手は一生鳴り止まないのではないかというものになっていた。客自身は無意識に手を叩いているのだ。

 そもそも、ウィーン・フィルサウンド管弦楽団は世界最高峰のオケである。日本円で一席平均五万とする価値のある演奏に加え、紫蒼の指揮者だ。
 当然値段も跳ね上がる。それこそ、一人につき一万は上がる。
 基本キャパが三千席を超えるホールで演奏する楽団にとっては、紫蒼一人加わるだけで三千万が一回の指揮で変動するのだ。


 そんな彼、水無月紫蒼みなづきしきは絶賛困惑中だ。なんて言ったってフランス・パリ公演が終わった後、大統領主催のパーティーにお呼ばれを受け泣きつかれたからだ。

 多くの女性ファンに囲まれていた紫蒼が連れていかれた先で今の状態に至る。

「おぉ〜シキ・ミナヅキ〜国に帰らないでおくれ〜。そうだ生活費は私が用意しよう! 活動拠点をこのパリに置いてくれ!」

 とまあ、フランスの政治トップの拠点提供を受けている。

「申し訳御座いません、私は既に母国に身を置いています故、それはできません。しかし年に二、三度ならば此処パリに是非足を運ばせてもらいたいと願っています」

 困惑顔ながらも、自分の顔を引き締めつつ笑顔で、しっかりとした礼儀を弁えた上で、軽い会釈を加え返答する。

「やめてくれっシキ君!! 君に頭を下げさせていると周りの目が痛いのだよっ! おぉ、そうかそうか、五度はこちらが願えば来てもらえるとっ! ありがたい! 是非そうしてもらおう!!」

 とまあ慌てながらも、二、三度言ったはずが、確定五度と、そのようになっている貪欲さは忘れない大統領殿だったが、紫蒼はその後のパーティーを楽しんだのだった。

 ――

 同場所、パリにて希咲東雲しののめきさらは映画の撮影を終えていた。

「はいっ、以上で撮影を終わりますっ!!お疲れ様でしたー」

 ディレクターの声で長かった撮影期間も終わりを告げ、各俳優に大きな花束が渡された。

 希咲に渡した男性はこの映画の監督さんだった。
 周りは、名だたるハリウッドスターの人たちがいる中での希咲だ。当人の希咲は慌てたように困惑していたが、周りの俳優さん達は一同皆納得顔だった。

「お疲れ様、キサラ!! 本当に君を起用できて幸運だったよ!! これからも私の映画に出てくれると嬉しいな!!」

 とまあ、こちらも絶賛されていた。
 そんなわけで紫蒼と同様、同じ困惑顔を顔に張り付けていたが、そこは女優キサラは素晴らしい笑顔でその後を過ごした。

 東雲希咲しののめきさらは、国際的な主演女優賞を獲得した高校二年生の女の子だ。身長は女子では高く168もある。綺麗な黒髪をまっすぐ下に伸ばした姿は、身長と調和して日本の輝夜姫を彷彿とさせる。

 そんな彼女にも異名がある。

『激情の天使』

 なんともまあ、当人には不名誉極まりないものに聞こえるが、周りからしてみれば納得だった。

 一つ一つの感情作りが本当のシーンを最大限に引き上げるパフォーマンス。

 それを見た誰もが敬服せずにはいられない天才っぷりだからだ。


 そんな彼女、希咲は今猛烈に会いたい人がいる。

 それは、同じパリにいる紫蒼のことだ。

 希咲は紫蒼に恋をしている。
 昔、とある事件で助けてくれた紫蒼は、王子様的存在に彼女の中でデフォルメされているのだ。

「はぁ〜、明日まで長いな〜。これから紫蒼君の泊まってるホテルに乗り込んじゃおうかな!キャー、ヤダっ、私ったら!! 紫蒼君にはしたなく思われちゃう!!」

 独り言を発しながら身体をうねらせる希咲の姿は、本来変態そのものにしか見えないのだが、そこは希咲クオリティーによる補正で周りには美しいものに花が咲いたように見え、男女共に頬に朱をつけさせた。

 ――

 翌日、空港で待ち合わせをした紫蒼と希咲は、周りの目を引き付けていた。規格外の美男美女が二人並んで歩く姿に鼻血を流し気絶するもの多数続出。

 そんなことは露知らず、ファンに手を振り終えた二人は飛行機の機内に入った途端、希咲は紫蒼の左腕に抱きつき顔を赤らめて、それを見た紫蒼は呆れ顔を作りつつも微笑ましい顔をしていた。

 そうして席についた二人は、同じ着陸地である日本へ向け、仕事場であったパリを飛び立った。


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