魔法兵器にされたので女学園に入ります ~俺は最強の魔兵器少女~

八木山蒼

最終話 俺は魔兵器少女


 兄が俺の前に現れ、俺が魔科学兵器に改造されてからずいぶんと経った。

 色んな事があった。

 サブリナ魔法女学園に行き、学園長と出会い、オニキス寮を知り。

 大変なこともあった。元の体に戻りたいとも願っていた。

 だがセイナたちと暮らした学園生活は、幸福なものだったと思う。


 ルインとの戦いが終わった後、学園もなにかと大変だった。

 まず、ルインが封印されていた場所でもあり、俺らの戦場でもあった中庭の修復。

 それと同時に役目を失ったオニキス寮は解体され、所属していた生徒たちはそれぞれ通常の寮に振り分けられた。シルリアや俺の努力もあって、元オニキスの子らもだんだんと打ち解けつつある。

 学園長についてはルインと戦い散っていったということにした。その方が混乱がないだろうし、あながち間違いでもないだろう。新学園長にはパマディーテ教頭が臨時という形で就いた。

 また俺とミーシャが魔科学兵器であることが明るみに出て、魔法評議会の方でごたごたがあったようだが、それもユニコや先生たちの協力もありなんとかなりそうだ。評議会の方はルインの存在に最後まで気づかなかった弱みもあるしな。


 またそれぞれ片腕のない俺とミーシャは兄貴の研究所へ一度戻り、残されたデータに従って体を治した。

 俺らの体に関するものを除き、兄貴の研究所のものはその大半がすでに兄貴によって破棄されていた。

 魔科学が善か悪か。第二のルインが生まれるか否か――俺は、兄貴の遺志を尊重し、そのままにしておきたいと思う。ミーシャも同じ考えだった。


 兄貴は故郷にある両親と同じ教会に埋葬した。ちょくちょくミーシャといっしょに訪れて花を手向けてやるつもりだ。俺の力があれば行き来も簡単だ。

 葬儀の後、俺がこっそりと1人墓前で号泣してしまったことはセイナにもミーシャにも内緒だ。

 ちなみに俺は兄貴の残したデータで動物に嫌われる性質を取り外し、牧場生活に戻れるようになったのだが……せっかくなのでサブリナ魔法女学園は卒業まではがんばるつもりだ。


 そうして俺はサブリナ魔法女学園での学園生活に戻ったわけだが……

 ルインとの戦いのさなか、兄貴は俺に関する秘密を全て学園の皆に明かしている。それは決戦に協力してもらうためのことだったのだろうが……

 それにより、俺の日常は少し、いやかなり変貌していたのだった。



「おはようレイ、ミーシャちゃん」
「ああ、おはようセイナ」
「おはようございます」

 その日も俺はいつものようにセイナたちと合流して登校する。平穏を取り戻した学園だが、俺の日常は前のようにはいかない。
 教室に向かうべく廊下を歩く俺に、すれ違う生徒たちが挨拶する。そのほとんどが俺のことを『レイ君』と呼んでいた。
 とその時、リルリーンとシルフィのいつもの2人も合流する。

「おーっす王子様っ! 今日ももてもてだねえ」
「うふふ、羨ましいわあ」

 2人にはやし立てられ俺は苦笑いした。

「別に……俺の力じゃないよ。知ってるだろ、顔も体も能力も兄貴が作ってくれたんだよ」
「相変わらず欲がないねえ。男なんだから、女子にモテモテなら過程なんかすっ飛ばして結果だけ喜んどきゃいいの!」
「でもレイちゃんはそういうとこがカワイイのよねえー」

 この2人は相変わらずだ。正体がバレては敵いようもない。ちなみにシルフィは俺をおちょくるためにわざわざ『ちゃん』付けをしている。
 そう、いまや学園の全ての生徒に俺の正体――男であることがバレてしまっているのだ。てっきり俺はそのことで袋叩きに合うかと思ったが……いや実際少しは折檻を受けたりしたのだが、なんだかんだで俺は受け入れられている。

「てかこの学園の生徒はほんと変わってるよな。魔科学兵器で元男の俺なんて、学園から叩きだされることも覚悟してたのに」
「あらそれは大丈夫よ、私が保証するわ」
「あ、シルリア」

 後ろから歩いてきたシルリアも合流する。俺のことについては生徒会長の彼女がずいぶんと手を回してくれたらしかった。

「あなたは元々有名人だからどんな人間かは知れ渡ってるし、もうこれからずっと女性として生きていくそうだし……何より学園を救った英雄を無下に扱ったりはしないわ」
「そーですわ!」

 シルリアに言葉をかぶせながらどこからかユニコが生えてきた。いつものようにお供3人を連れた彼女は、俺が男と分かった今なぜか、より一層距離が近い。色々と吹っ切れたらしい。

「むしろレイはそれだからよいのですわ! ちなみにファンクラブにファンレター及びラブレター今日もたくさん届いておりますので後で部屋にお送りいたしますわ」
「またか、まだ前回の読み終わってないんだが……」
「こればっかりは貴方にがんばってもらうしかありませんわ、ファンクラブ会長として一応チェックはいたしますけれど。これもレイの人気ゆえでしてよ!」
「半分はお遊びだろーけど、な」

 前々から『男っぽい』という理由で、思春期の女生徒たちの標的にされていた俺。本当に男と分かった今、その熱はより一層高まっているらしい。見た目が兄貴謹製の美少女だから無理はないといえばないのだが……ユニコによるとファンクラブでは『体が女だから女派』と『心は男だから男派』、『むしろ両方おいしい派』とやらで日夜激しい論争が繰り広げられているそうだが――なんだか恐ろしい世界の話である。

「セイナが言ってた通りだ。この学園には、魔兵器よりもおかしな生徒が多いって」
「ねー。ま、家族公認なのは私だけなんだけどね!」

 セイナはセイナで廊下を歩く時も堂々と腕を絡ませてくるようになった。なんでも男の時より友達感覚でやりやすいのだとか。真面目に俺の将来のことを考えるといろいろ厄介なことだらけなのだが、ひとまずそこからは目を離すことにしていた。

「おっとセイナ。妹である私はまだ許可出していません。お姉ちゃんは私のものです」
「あ、ミーちゃんの意地悪。どっちかというとミーちゃんはレイのお兄さんの子供なんだから、レイは叔母さんなんじゃないの?」
「おばっ……ミーシャ、姉で頼む」
「ふふ、レイ公認ですね」
「むーっ」

 セイナとミーシャに両腕をとられる俺。もう二度と元の体には戻れないし、男としての生は捨てなければならなかったが――それでもよかった。
 何はともあれ、今日もサブリナ魔法女学園での1日が始まる。
 皆と話し、授業を受け、食事をとり、入浴し(これは色々難儀だが)、眠り、また明日が来る。

 兄貴は言っていた、俺の幸せを願っていた、と。

 今、俺は胸を張って言える。幸せだとも。

 魔兵器少女の体を誇れる。兄がくれた、大切な未来の象徴なのだと。

 俺は魔兵器少女。そしてレイ・ヴィーン、イルオの弟。



 俺の日々は続いていく。兄がくれた体、力、希望。そして俺の心と、大事な仲間たちと共に。

コメント

  • Tagayax99812

    めっちゃハマりました!!!
    本当に面白かった!
    (´༎ຶོρ༎ຶོ`)

    0
  • ノベルバユーザー248617

    面白い

    0
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