Creation World Online

かずみ

108話

 牢屋から出た俺とリーンは、屋敷の通路を駆けていた。

「それで、師匠。ゴロッザの居場所をどうやって探るつもりですか?」
「そりゃもちろん─」
「侵入者だ!排除しろ!」

 前方の曲がり角から現れた男が叫ぶと、ゾロゾロと数人の武装した男達が現れ、俺達に斬り掛かってくる。
 前方から迫る刃を、体を左に捻って回避し、そのまま右手で相手の頭を掴んで、俺の左膝とぶつけてやると、男は鼻から血を噴き出させながら崩れ落ちる。

「死ねッ!」
「『エア・プレス』」

 背後から斬りかかろうとした男を、横薙ぎの風の塊が襲い、壁に強かに打ち付けられた男が気を失った事を確認してリーンにこう言った。

「来る奴を片っ端から倒せばいい」
「うわ…師匠、発言がアホっぽいですよ」

 そう言いながらリーンは、2人の男を同時に斬り伏せる。

「へえ、『手加減』か。リーンがそんな技を使える日が来るとはな…」
「まあ、私も色々ありましたからね」

 ため息を吐きながら表情を陰らせるリーン。これ以上深くは聞かないでおこう。
 バタバタと足音が聞こえてくる、どうやら追加のようだ。

「リーン。まだまだいけるよな?」
「当たり前じゃないですか。任せてください」

 そう言ってリーンは剣を両手に持ち、構える。
 そうこうしているうちに俺達は沢山の男達に囲まれていた。

「いくぞ!」

 俺はそう叫ぶと男達の中へと突撃していくのであった。


  ☆

 屋敷の中をある程度探索し終えた俺達は、地下室の扉の前に立っていた。

「残る部屋はここだけみたいだな」
「ええ、おそらくゴロッザもキンキチ君のお姉さんもここにいるはずです」
「へえ…。ん?鍵がかかってるな」

 それなら、と扉を壊してしまおうと身体強化を発動して拳に力を込めた所で、リーンが俺の腕を掴む。

「なんだよ」
「感知系の罠が仕掛けられています。扉を壊したらバレますよ。別の場所から入りましょう」
「他の場所って…」
「簡単ですよ、こうすればいいんです」

 リーンはそう言うと、剣を取り出し壁に斬りかかる。
 弾かれるという予想とは裏腹に、リーンの剣は抵抗も無く壁を切り裂いた。
 更にリーンは横薙ぎに剣を振り、壁を足で押すと、壁が倒れ、扉の横に人が1人倒れそうな穴が完成した。

「さ、行きましょう」
「…は?」

 突然のことに困惑していると、リーンが不思議そうな顔をする。

「どうしたんですか?元々、微妙な顔が更に微妙になってますよ」
「サラッと暴言を吐くんじゃない。お前なにしたんだよ」
「なにって…斬ったんですよ、壁を」
「そんなバカな。そもそもこの壁は破壊不可能設置物なはず─」

 俺はそこまで言って気が付く。今しがたリーンが斬った壁、その壁の面だけ不自然な事に破壊不可能設置物ではなかった。

「これは破壊可能設置物…いや、違うこれは…!」
「その通りです。私は確かに壁を斬りましたが、それ以外にももう一つ斬ったものがあります」
「オブジェクトの設定だな」

 俺の言葉にリーンはこくりと頷く。
 オブジェクトの設定は、いくつかの設定をそれぞれ繋いで一つのオブジェクト設定として扱われている。
 そして、その繋ぎ目を破壊すれば、そのオブジェクトの機能が停止する事は1年前に【学者】のリグアロが発見していた。
 発見された初期は、その繋ぎ目を破壊する事に挑戦していたプレイヤー達だったが、繋ぎ目のポイントは毎秒ランダム変化する上に、1mmのズレも無いような精度で無ければ破壊できなかった為、いつしか挑戦するものは誰もいなくなっていた。
 俺は【世界介入】の力で破壊不可能であろうが無かろうが穴を開けられるため、この技術は身に付けていなかったが、まさかリーンがな…。

「何してるんですか、早く行きますよ」
「ん、ああ。行こうか」

 リーンの成長を噛み締めていた俺は、そう答えるとリーンの後を追って部屋の中へ入ったところである事に気づく。

「なあ、リーン」
「なんですか師匠」

 立ち止まった俺は、壁に手をつくと【世界介入】を発動させる。
 すると、壁はまるで意志を持った生物のように蠢き、人が1人通る事が出来そうな穴を開けた。

「俺のスキルでできちゃった…」

 俺がそう言ってリーンの方をゆっくり振り返ると、リーンは壁に両手をついて俯き、大きなため息を吐いていた。なんだかとても悪い事をしてしまった…。

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