Creation World Online

かずみ

107話

「おい起きろ!いつまで寝てるんだ!」

 ルドリーの大声と、鉄格子を蹴る音で目を覚ますと、ルドリーが俺達を見てニヤリと笑う。

「お前達は今からゴロッザの旦那の所に行く。いいな、抵抗するんじゃねえぞ!それじゃ、お願いします」

 コツコツと肩音を鳴らしながら、偉そうな男が部屋に入ってくる。

「ふむ…確かに確認した。では、これを受け取るがいい」
「ありがとうございます!」

 男はルドリーに金を渡すと、代わりに牢の鍵を受け取る。
 そして、鉄格子を開けるとこう言った。

「お前達、一人ずつ出てこい。まずはそこのお前からだ」

 男に指を刺された少年は、立ち上がると牢屋から出る。

「両手を出せ」

 少年は何も言わずに両手を差し出す。
 男は差し出された両手に手錠をかけようとした瞬間。

「誰が言いなりになんてなるか!」

 少年は男に体当たりをし、男の体勢を崩すと一目散に出口に向かって駆け出した。
 突然のことにルドリーも動けずにいると、男が少年に向かって掌を向ける。

「【ライトニング】」

 男の掌から放たれた雷が、少年の背中に直撃すると、辺りに肉の焼ける匂いが立ち込める。
 男は苦痛から呻いている少年の所々炭化した背中を踏みつけると、懐から鞭を取り出す。

「このクズが!逃げようなどと考えおって!こうしてくれるわ!」

 何度も何度も鞭を打ちつけ、罵倒する。
 少年は痛みで叫び声を上げ続けていた。リーンを見ると、ギリギリと歯を食いしばり、手をグッと握りしめて、今すぐにでも飛びかかりたい衝動を抑えているようだった。

「ハアハア…!二度と逃げようなどと考えるなよ!」

 鞭打ちが終わったのは、それから10分後の事だった。
 少年の背中はばっくりと割れ、背中から血液を流していた。

「よく耐えたな」

 俺はリーンにそう声を掛ける。
 リーンはカッと目を見開き、両の手からは握りすぎたのか、爪が皮膚を貫通し血が滴っていた。

「次はお前だ!」
「ひぃっ!?」
「グズグスするな!」

 次に指名されたのは、ラナだった。ラナは怯えた様子で動くことが出来ない様だった。
 俺はラナの肩に手を置くと、耳元で呟いた。

「任せておけ」

 こちらを振り向いたラナにニコリと笑いかけると、俺は立ち上がり牢の外に向かって歩き出す。

「何だ貴様?」
「なあ、先に俺にやってくれないか?さっきのであいつらビビっちまってるからさ」

 やれやれと大袈裟にアクションすると、男は顔を赤くしてこう言った。

「このワシに意見する気かァッ!」

 振り下ろされた鞭が俺の頭を直撃する。
 弾けるような音が鳴り響き、俺のHPが削られる。
 このゲームでは、実年齢より低いアバターを設定すると、ステータスに制限がかかるというシステムがある。そのため、現在俺のステータス子供化に伴いかなり低く、普段ならダメージを受けないような攻撃でもダメージが通ってしまうのだ。
 少しふらついたが、直ぐに顔を男に向けると、俺はこう言った。

「満足したか?」
「くっ…このッ!」

 男が鞭を再度振るおうとした瞬間、男の動きが止まる。

「はい。ええ、滞りなく。はい、直ぐにお届け出来るかと。はい、はい。失礼します」

 男がエアディスプレイを操作すると、一人で何かを呟き出す。どうやら上の立場の人間からの連絡らしい。
 通話を終えた男は、俺を睨むと強引に俺の手に手錠を掛ける。

「ふん…命拾いしたな。次!」

 男はそう言うと、牢の中にいる子供達を次々と指名していくのであった。

  ☆

「これで全員か。よし、全員ワシについて来い」

 それぞれの手錠を頑丈な鎖で繋がれた俺達は、男に家の外へと連れ出された。
 まだ日は登り切っておらず、周囲に人気は無いようだった。

「早く乗れ」

 男に促されるまま、馬車に全員が乗り込むと、ガタガタと音を立てて馬車が走り出す。
 すると、隣に座ったラナがこっそりと話しかけて来た。

「さっきはありがとう。えっと…」
「シュウだ。気にしなくていい」
「うん。そうだ、シュウあの子の事治してあげられないかな…」

 そう言ってラナが指差したのは、先程男に『ライトニング』を撃ち込まれた少年だった。
 スキルを封じられている可能性も考えたが、ひとまず鑑定眼を発動させてみる。特に、問題もなく発動したのでそのまま少年の傷を見る。

「炭化、裂傷、あとはシンプルなHPの減少か…」

 まあ、手持ちの薬でどうにかなるレベルだ。治してやる事にしよう。
 俺が少年の近くに行くと、少年は驚いたように体をびくりと動かした後、俺を睨む。

「…なんだよ」
「その傷を治してやる。背中を向けろ」

 俺がそう言うが、少年はこちらを警戒したように睨むだけで、後ろを向こうとはしなかった。

「ね、シュウに任せてみようよ。たぶん大丈夫だから」

 ラナがそう言うと、少年はジッと俺の顔を見た後背中をこちらに向けた。
 少年の背中にアイテムボックスから取り出した状態異常回復薬(極)とリジェネジェルと布を取り出す。
 まず炭化した肌に状態異常回復薬をかけてやると、ものの数秒で炭化した部位が剥がれ落ち、下からじくじくと湿った肌が現れる。
 更に、裂傷部位と先程の炭化した組織が剥がれ落ちた部分にリジェネジェルを塗って、布で覆って完成だ。

「痛みはどうだ?」
「さっきより楽になった。その、ありがとな」

 少年は少し照れながらお礼を言った。
 すると、突然馬車が停止し、男が顔を覗かせる。

「着いたぞ、一人ずつ降りてこい」

 馬車から降りて、すぐ目の前に大きな屋敷が建っていた。マップを確認してみると、どうやら街の郊外にある墓地の近くらしい。
 屋敷の中に入った俺達は、そのまま地下にある牢屋の中に入れられる。
 牢屋の中には、俺達以外にも子供達が捕らえられており、皆一様に不安そうな表情を浮かべていた。

「キンキチ、お前の姉ちゃんは?」
「…いない。ここじゃないみたいだ」
「そうか」

 俺はそう言って、隠蔽の耳飾MarkⅡを外す。途端に、低かった俺の身長が伸び、ステータスが元に戻る。

「え?シュウ、え?」

 ラナが困惑した様子で俺の袖を掴む。俺はラナの頭を軽く撫でると、転移アイテムを渡す。

「さ、これで逃げろ。転移先の屋敷にぺったんこな女の子が居るはずだから、そいつに助けてもらうんだ」

 そう言った俺は、転移アイテムをアイテムボックスから全員分取り出して、持たせる。

「いいか、キンキチ。お前が子供達を逃せ。それがお前の仕事だ」
「だけど、姉ちゃんが…」

 そう言って俯くキンキチの肩に手を乗せて言う。

「任せとけ、お前の姉ちゃんを助けた後、ゴロッザってやつにも地獄を見せてやるさ」

 そう言って俺は、『エクスプロード・ライトニング』を発動させて、鉄格子を破壊する。派手に、俺達の力を示すように。
 崩れた床と、融解した鉄格子の間を俺とリーンは潜り抜けると、ニヤリと子供達に笑いかける。

「じゃ、少し懲らしめて来るからオヤツでも食べて待ってな」

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