Creation World Online

かずみ

96話

「それじゃ、話してもらおうか」
「ああ、わかったヨ。約束だからネ」

 未だに痛みが残るのだろうか、自身の股に視線を落とすクレートはそう答えると、視線だけでエアディスプレイを展開する。

「まず、我々の正体について話しておこうカ。我々【Slaughter Works】の幹部達は、現実にあるゲーム会社【TINE】の開発部の人間達ダ」

 クレートは、エアディスプレイを反転させて俺に見せる。そこには、数人の男女が写っていた。

「我々の目的は1つ、世界初のVRMMO、それに利用されているAIやシステムの情報を手に入れることだったんだがネ」

 首を横に振るクレート。おそらく、情報を手に入れるために潜り込んだのに、デスゲームに巻き込まれて当初の予定が狂ったというところだろうか。

「ログアウトが出来なくなった我々は当初の目的を変更することにシタ」

 一拍置いたクレートは、口の端を持ち上げてニヤリと笑う。

「このゲームを奪うこと、それが我々の次の目的となっタ。だが、またもや想定外のことが起きてネ」
「想定外?」
「そうだヨ。鬼畜、君の仲間、我々が『器』と呼ぶあの少女だヨ」

 アンリの引き起こした想定外、それは─

「メインクエストの強制終了か」
「その通りだヨ。本来、メインクエスト発動時、運営が干渉できないタイミングで、GM権限を奪う予定だったんだガネ」

 方法を聞いてみると、この世界を管理しているAI通称【マザー】にウイルスを感染させ、支配権を手に入れるというものだった。

「メインクエストが強制終了された後、また侵入しようとしたんだがネ。どうやら、内側からではなく、外側から鍵をかけられたようでネ。どうもシステムの根幹まで辿り着けないんだヨ」

 その理由を俺は知っている、あの日メインクエストが始まった日。アンリのスキルにより、メインクエストは封じ込められた。
 だが、実際はメインクエストを封じ込めたのではない。この世界を管理するAIを封じ込めたのだ。
 なぜメインクエストを停止させるだけに止まらず、世界の管理者とも言えるAIを封じ込めたのか、それはAIの持つ特性によるものだ。
 このゲーム【Creation World Online】には、他のゲームでも行われる現象、効果の減衰、弱体化。俗に言う『ナーフ』と呼ばれるものが存在する。本来ならこれは運営により行われるものであり、その間プレイヤーはログイン不可能となる。
 しかし、これはデスゲームであり運営もプレイヤーをログイン不可能状態にするなどあり得ないと思ったのか、はたまたただ面倒臭かっただけなのかはわからないが、このゲームにおけるナーフなどの調整は全てAIが行なっているのだ。
 つまり、例えメインクエストを封じたとしても、AIがこの世界と繋がっているのならその封印はすぐに解かれてしまう。そのため、アンリはAIごと封じ込め、これによりAIはゲームに干渉することが不可能となった。

「目的はわかった、それでお前らの拠点を教えてもらおうか」
「すまないネ、それは言えな─待て待て待て待て!それを取り出すナ!事情があるんだヨ!」

 例の自白剤(呪)を懐から取り出すと、クレートは焦ってそう言いだす。

「じゃあ、なんで言えないんだよ」
「それは大丈夫みたいダ。我々【Slaughter Works】のボスはえらく用心深くてネ。自身の居場所に関わる事を言えば頭が…ボンってネ」

 聞いてみれば、それはどうやら【Slaughter Works】ボスの固有技能らしい。
 とはいえ、スキル効果として一度完全に支配下に置いたものでなければ使用できないらしい。

「ふむ…協力に感謝する。しばらくお前はここに居てもらう。なに、アルカトラよりはマシだろ」
「それは願ったりだネ。アルカトラなんて頭のおかしなやつらが沢山いるだろウ?」
「違いないな」

 そう言って笑い合うと、エアディスプレイにメッセージが表示される。相手はキョウジ、どうやら手伝って欲しいことがあるそうだ。

  ☆

「相変わらずバカでかいな…」

 67界層の主要都市【エラン】郊外に建っている巨大な城の前で俺はそう呟く。
 ここはキョウジがギルドマスターを務めるギルド『蒼緑の槍』のギルドホーム、【エラン・キャッスル】
 『エラン領主の裏の顔』というエクストラクエストの報酬で手に入った城をギルドホームとして使っているらしく、中々に合成だった。
 城門の前には2人の見知った顔の男達が立って居た。

「よお、元気か?」
「なっ!鬼畜!?」
「なんの用でござるか!」

 そう言って武器を構えるのはガリガリのメガネと肥満体型のござる口調の男、2界層攻略時に絡んできた姫パーティーの内の2人だ。

「あの日の雪辱を晴ら─ぐぅ!」
「許さんでござ─ぎゃふん!」
「全く貴様らは…キョウジ様のご友人に無礼な口を叩くなと何度言えばわかるのだ!」

 腰に6本の細剣レイピアを帯びた女性騎士が2人を殴った拳を握ってそう言う。彼女の名前は『リル』といって、現在の彼らの上司でもある。
 あのパーティーの一件以降、姫と呼んでいた女に4人は『あんな情けないなんて信じられない!みーの前に顔を見せないで!』と捨てられたらしい。そして、そんな4人を見かねたキョウジの部下であるリルが4人を半ば強引に引き入れたのだという。

「リルさん助かったよ」
「何を言うんだ。シュウ殿、この度は私の監督不行き届きでこのようなことになってしまい─」
「ストップ、そんなに長々と謝らなくていいよ。それより、キョウジのところまで案内してくれるか?」
「ああ、任せてくれ!」

 そう言って前を歩いていくリルにしばらく着いて行くと、黒魔樹と呼ばれる木材で作られた扉の前に案内される。
 リルがコンコンと扉をノックすると、中からキョウジが『入っていいぞ』と許可を出す。

「失礼します。キョウジ様、シュウ殿がお見えです」
「ん、ああ。ご苦労さん、下がっていいぞ」

 キョウジがそう言うと、一礼して去っていくリル。

「流石魔王様だな。配下の使い方を心得てらっしゃる」
「…その口調は勘弁してくれ…」

 疲れたような顔で掛けていた眼鏡を外したキョウジは、ソファに座るように促す。
 キョウジが座った対面に座ると、キョウジがアイテムボックスから茶菓子を取り出す。

「まあ、食いながらでいいから聞いてくれ。先日ウチの配下のパーティーが新たなダンジョンを発見したんだ。で、そこの調査に付き合って欲しい」
「なんで俺なんだ?」

 そこが不思議なのだ、確かに俺は盗賊なので罠解除のスキルを取っているが、俺より優秀な盗賊、例えば天和之國の【義賊】やダスク連合国家の【怪盗】など、盗賊のトップとも言えるプレイヤーは沢山いる。特に、キョウジも付き合いが長い天和之國ならば、そこに所属している【義賊】の力も借りることが出来ただろう。
 俺がそれを伝えるとキョウジは首を横に振る。

「どんなダンジョンかわかっていない現状では、どの国も動いてくれないんだよ。それに…友達と冒険っていうのもたまには悪くないだろ?」

 少し恥ずかしそうに、小っ恥ずかしいセリフを言うキョウジ。そんなキョウジに対して俺は─

「ダンジョン内で見つかった宝は?」
「山分け」
「乗った」

 真面目な顔で報酬を話し合う俺達、ダンジョンの情報よりも長く話したんじゃないか?

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