Creation World Online

かずみ

81話

「シオリィイイイ!」

 そう叫びながらシモンがシオリと呼ばれた女性を刺している男に斬りかかる。
 シオリを刺していた男は素早く剣を引き抜いて距離を取ると机の上に着地する。
 そしてシモンを見てニヤリと笑う。

「なんだ、オリジナルのご帰還かナ?ただ少しばかり遅かったみたいだネェ?」

 ぐにゃりと、その男の顔が歪むと黒髪の腐った目をした男に姿を変える。

「やあやあやあ!初めまして!俺は…んー、あー。【カメレオン】とでも呼んでくれヨ」

 カメレオンと名乗った男は何が面白いのかニヤニヤと笑っていた。
 なんかアイツすげえムカつくな。

「ここまで来たご褒美に遊んであげヨウ!…と思ってたんだけどネェ。時間切れみたいだネ」

 そしてカメレオンの背後の壁が爆発する。
 散弾の様に飛んでくる壁の破片を風魔法で散らしていると、砂煙が晴れる。
 そこにはカメレオンの横にもう1人、真っ黒なフード付きコートを来た三白眼の男が立っていた。

「おい、時間を掛け過ぎだ。例のものは?」
「当然回収済みだヨ。ただ…器は見つからなかったネ」
「上出来だ、早く帰るぞ」

 男はそう言うと踵を返し、カメレオンも「じゃあネ」と笑いながらこちらに手を振っていた。

「逃すかよ!」
「…ふん。下らんな」

 俺はナイフを数十本生成し、コート男に投擲する。
 しかし、コート男が手をかざすとコート男の目の前で全て弾かれる。
 そこに浮かんだ文字を見て俺は目を見開く。

「『破壊不可能設置物オブジェクト』だと…?」
「そう言うことだ。小僧、システムを制しているのはお前だけではない」

 そう言って男とカメレオンが瓦礫と化した壁の穴から飛び降りると羽ばたく音と共に巨大なドラゴンが空へと登って言った。
 その背中にはコート男とカメレオンの姿があった。

「ああああ!シオリ!シオリ!しっかりしてください!」
「うる…さい、わね…」

 シモンがシオリを抱いて泣き叫ぶと苦しそうにシオリはそう言った。

「ポーションを!クリフェル!」
「無駄、よ…コレはポーションじゃ治らない…」

 そう言ってシオリは自分の腹部に空いた穴に指を這わせる。

「何を言っているんですか!バカなことを言わないでください!」

 シモンはそう言いながらポーションを傷口に振りかける。しかし_

「治らない…なぜ、なぜだ!」
「だから言ったでしょ…。私の身体を貫いた剣、あれは武器じゃない」
「まさか…」
「ええ、そのまさか。奪われたのよ」

 そう溜息を吐いたシオリはこちらを見るとクスリと笑った。

「貴方が…アンリの友達ね」
「まあ、そうだな。あんたはアンリとなんの関係があるんだよ?」
「私は…あの子、アンリの姉よ」

 なんだと、確かにそう言われればそう見えなくもない。
 その時、ガタリと音がして部屋に設置されていたクローゼットの中からアンリが飛び出して来た。
 俺の顔を見て、次にシオリの腹に空いた穴を見るとみるみるうちに青ざめてシオリに駆け寄る。

「姉さん!姉さん!しっかりしてください!」
「アンリ。そんなに叫ばなくても聴こえてるわよ。聞いてちょうだい」
「な、なんですか?私、なんでもします!だから、だからどうか死なないで!」
「ふふ…あなたは優しいのね。私はあなたを見捨てたというのに…」

 シオリは優しく微笑むとエアディスプレイを操作して一本のメイスを取り出す。

「アンリ、見なさい【顕現せよ】」

 シオリがそう呟くと、メイスから炎が噴き出し、クネクネとまるで生き物のように動く。

「アンリ、あなたの普段使ってる武器は…杖だったかしら?」
「そうですが…」

 アンリがそう言うと、メイスを炎が包み込む。
 そして、炎が晴れるとそこには一本の赤い杖があった。
 シオリはそれをアンリに渡すとアンリの頬に手を当てる。

「いい?あなたは何としても生き抜いて、恐らくあなたに成りすましたのはカメレオンと名乗ったあの男よ」
「なあ、シオリ。1つ聞いてもいいか?」
「何かしら」
「器って…なんだ?」

 俺はカメレオンが言っていたことを口にする。
 するとシオリは、少し渋い顔をすると、溜息を吐く。

「私達の計画、この世界の攻略する為に必要な力を得る。それはアンリ、あなたにしか出来ないことなの」
「具体的にはどうやって?」
「奴らに奪われたデータ…AI_No.2【Di】をアバターに取り込んでメインAI【Re】を破壊することよ」

 俺は耳を疑った。
 なぜこいつらがこのことを知っているのか、これは俺とおっさん、もしくはゲームの関係者しか知らないはず…。

「なあ、誰にそれを教わった?」
「…わからないの。朝起きたら枕元にそのデータと方法を書いた紙があっただけだから」

 そう言うと突然シオリが苦しみ始める。
 支えるアンリとシモンにシオリは弱々しく笑いかける。

「そろそろ時間みたいね…アンリ、強く生きなさい。そしてシモン…」
「…はい」
「ふふっ、なんて顔してるのよ」

 そんなシモンの顔は今にも泣きそうになっていた。

「ねえ、シモン?私はあなたに感謝しているわ」
「やめてください」
「また…貴方と28層の花畑に行きたかったわ。そして、そこでご飯を食べて、遊んで、笑って、眠るの。素敵でしょう?」
「…っ!何度だって連れて行く!だから!だから死なないでくれッ!」
「ふふっ、なんで泣いてるのよ。せっかくの男前が台無しよ」

 シオリはそう言ってシモンの涙を指先で拭う。

「私は貴方の笑顔が好きよ。だから…笑って頂戴?」

 シオリがそう言うとシモンは不格好ながらも笑顔を作る。

「不格好ね…。ねえ、シモン。愛しているわ」

 シオリはそう言うと目を閉じる。

「なんだか眠いわ。おやすみなさい」
「待て!待ってく_」

 最後にそう言い残すとシオリの身体が弾ける。
 降り注ぐ紫の光の粒子、シモンは掌に落ちたそれを握りしめる。
 シモンの号哭が周囲に響き渡った。
 見ればアンリも杖を抱いて大声で泣いていた。

「許さん…絶対に許さんぞ!【Slaughter  Works】のクソ共が!」

 シモンがそう叫ぶ。
 何か知ってそうだな。

「シモン、何か知っているのか?」
「ええ…奴らもまた同じくAI_No.2【Di】の力を欲する者共です。そして…我々から裏切ったクソ野郎共の集まりです」

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