Creation World Online

かずみ

第66話

 あれから2年後、攻略は着実に進み遂に攻略界層80の大台に乗っていた。
 だが、この2年で犠牲者もかなり増えた。
 何よりも問題だったのは70界層から現れ始めた【無効】持ちのボスやモブの存在だろう。
 その他にも即死、猛毒、超高火力、システムロックなどなど攻略難度がハードを飛び越え、エクストラに到達したような奴が多数現れていた。
 そもそも低界層の管理者クラスが雑魚と同じくらいの頻度で出現するとかどんな無理ゲーだよ。
 しかし、強くなったのは敵だけではない。
 プレイヤー達もそれらに対抗するように強くなっていった、具体的に挙げるなら固有技能、固有武器、固有職業の覚醒だろう。
 さらにそれらの中でも系統が分かれていき、システムに潜り込みシステムロックの解除や、一時的な地形の変化を引き起こす操作系。
 地形を無視した攻撃と、無効を無効にする攻撃系。
 この2つに分かれていった。
 とはいえ、覚醒を使用できるプレイヤーはごく僅かで今のところ確認されているだけでも100人に満たない。
 ちなみにアンリが使っていたあの覚醒とは別物で、プレイヤー達が使用している覚醒がシステム上のものなら、アンリの覚醒はシステム外に若干届いているらしい、その代償のせいかアンリの元々の固有技能であった【爆発系魔法】は消滅しており、代わりに【スキルA:p】というものに差し変わっていた。
 他にこの2年間で変わったものは、国家システムによって作られた国々だろう。
 大小様々な国家があるが、CWO内で大国と呼ばれるのはたったの4国だけだった。
 まず、天議会が中心となり作られた議会制国家『天和之國』国のエンブレムは円卓と重なった槍である。
 ゲーム上に存在する神を崇める宗教国家『聖リジェアッタ皇国』エンブレムは祈りを捧げる聖女と鎖。
 金とモノと人、そしてそれらの欲望を体現する商業国家『ダスク連合国家』エンブレムは金貨を咥えた白蛇だ。
 剣一本で生み出され、周囲を高い山に覆われた戦士国家『イグニクス』エンブレムは重なり合った剣と旗である。
 この4国の他にも国はあるのだが、大抵はこのどれかの属国、もしくは同盟国なので勢力はこの4つに分けられる。
 俺達は特に興味もなかったので、無所属のままで来ている。
 そして、俺達は今64界層の主要都市である【ミス】にやってきていた。
 なんでも最近この街の路地裏に強盗が現れるそうだ。
 襲われる時間帯は深夜で襲われたのは、皆最前線で戦っているようなプレイヤー達ばかりで被害者達によると相手はかなりの手練れらしい。
 そこで、天和之國から直接依頼で俺達にその犯人を捕まえて欲しいと言われたのだ。
 理由としては、ナクのスキルが捕縛に最適だから、と言われたが事実は違う。
 一番の理由はアンリだった。
 アンリの固有技能【スキルA:p】はスキルのセーブ、コピーが出来るため大量の飽和攻撃が可能となる。
 しかし、権能はそれだけではない。
 スキルA:pの最大の権能、この依頼が俺達に回ってきた最大の理由、それはコンティニュー出来るという一点だろう。
 つまり、アンリはデスゲームという枠に囚われない存在というわけだ。
 なので、アンリを囮にしてナクの固定魔術で捕獲しようということになったのであった。


「と、言うわけでアンリお前は囮だ」
「嫌ですよ!?何やらせようとしてるんですか!こんなか弱い女の子に!」
「大丈夫だ、お前は死んでも蘇るだろ?俺達は蘇れない、そう言うことだ」
「死ななくても痛いんですよ!?絶ッ対嫌です!」


 なんて強情な…いや、でもまあ確かにそうだよな。俺が同じ立場でもそう思うわ。


「わかった、それならこうしよう。お前がこれを受けてくれるなら…報酬に新しい杖を作ってやる」
「…マジですか?」
「マジマジ、最高品質の黒竜素材で作った杖をくれてやる」
「ふ、ふ〜ん。それなら仕方ないですね!やってやりますよっ」


 そう言うとアンリは鼻歌を歌いながら路地裏に向かって歩き出した。


「ちょろいな」
「ん、アンリちょろい。それと…」


 ずいっとナクが顔を近づける。
 相変わらず無表情でなにを考えているのかわからんぞ。


「私も頑張るからご褒美くれる?」
「わかったわかった、取り敢えず早く行くぞ。置いて行かれて取り逃がすと色々面倒だ」


 アイテムボックスから取り出した『透蜥蜴の皮套』を被ると、俺とナクの姿が半透明に変化する。
 これでマップには映らなくなった、加えてこの暗さだ物陰から見て、コッソリと近づくなら問題ないだろう。
 エアディスプレイの時間を確認するとそろそろ被害時刻になりそうだった。


「やあやあ、お姉さん。夜中に一人でこんな暗い路地裏を歩くなんて感心しないなぁ。強盗されても文句は言えないよ?」


 そんな声が突然路地裏に響き渡った、周囲を見渡すと建物の屋根の上に人影が1つあった。
 月光が逆光となって、見た目からは判別できないが声は女性のようだった。
 その人影はヒョイっと地面に飛び降りると、しなやかな着地を披露する。
 暗闇に入ったことで俺の暗視スキルが発動し、相手の姿を捉える。
 女性と言ったが、背格好からして年齢は14〜5歳といったところだろう。
 まあ、このゲーム内ではプレイヤーの見た目はログインした日から固定されているため実年齢は+2歳といったところか。
 黒のフード付きのコートを羽織り、笑顔を模した仮面をつけているせいで顔は見えないが、くり抜かれた仮面の目部分から覗く双眸は青く輝いていた。


「ねえ、お姉さん。ボクが何を言いたいのかは…わかるよね?」
「お金ですか?ふんっ、冗談じゃありませんね!寝言は寝て言いやがれです!」


 それと同時に、アンリは思考詠唱していた火魔法【ラピッドフレア】を発動。
 その瞬間、路地裏を埋め尽くすような勢いで炎がアンリの掌から射出される。
 発動までのタイムラグが短いこのスキルは思考詠唱で放たれた場合、完全な初見殺しとなるのだ。
 加えて、アンリは最前線で戦うプレイヤー、それも最近ではあるが2つ名も会得するほどの強者である。
 そんなアンリの攻撃を防御なしに食らえば、例え最前線のプレイヤーでもひとたまりもないだろう。
 しかし_


「アハッ♪お姉さんやっるぅ。でもさ、足りないんだよねぇ」
「きゃっ!な、なんで?」


 炎の中を突っ切って走ってくると仮面女はアンリの背後に回り込み、腕を背後に掴み上げ、首筋にナイフを当てがった。


「で、そこにいる人達もコソコソしてないで出てきたら?」
「チッ、バレてたのか」


 透蜥蜴の皮套を脱いで仮面女の前に姿を現わす。
 仮面女はアンリの首筋にナイフを当てがったまま、後ろに一歩下がる。


「届きそうか?」
「無理、ギリギリ範囲外」
「ねえねえ、お兄さん達ボクと取引しない?」


 何も手を出せずに睨んでいると、そわな俺達を笑うように刃をギラつかせながら仮面女はそう言った。


「なんの取引だよ」
「アハッ♪いいねいいね、そうこなくっちゃ!簡単だよ、このお姉さんの命を助ける代わりにボクにお金を渡せば良いんだよ。ねっ?簡単でしょ?」


 仮面で表情は伺えないが、目の前の女の声色は楽しそうだった。


「その必要はありませんよ」


 捕まっていたアンリはそう言うと、強引に首を動かしてワザと女の持っていたナイフで自身の首筋を切り裂いた。
 この行動は流石に想定外だったのか、女の力が緩む。
 その瞬間アンリは頭突きをかますと、そのままこちらに向けて駆け出して_倒れる。
 その背中には月光を浴びて鈍く光る一本のナイフが突き刺さっていた。
 アンリの姿が崩れ、光の粒子に変わる。


「あーあ、反抗するから殺しちゃったじゃん。はあ…もう面倒だしお兄さん達も死んで、よっ」


 仮面女はそう言うと数本の白色のナイフと艶消しされた黒塗りのナイフを投擲してくる。
 俺はそれを剣術スキル『八連斬』で弾き飛ばすと、そのまま風の槍を放つ。
 当然のように仮面女は、槍の範囲外へと跳んで回避する。


「いやぁ、お兄さん中々強いね」
「そりゃどーも、ところでそろそろ降参してくれね?」
「はぁー?お兄さんの冗談面白ーい。する訳ないじゃんバーカ。お兄さんこそ、そろそろお金出したら?」
「それこそ冗談じゃない」


 俺がそう言うと仮面女はクスクスと笑う。


「これならどうだ?」
「えー?何が_ッ!?」


 『法則介入』で仮面女の足を貫くように石畳を変形させたのだが、強引に身体を捻って躱される。
 しかし、いい具合に体勢が崩れたので次々と石畳を変形させて攻撃するが、どれもこれも躱されてしまう。
 ならばと、背後の石畳を変形させて攻撃するが、仮面女は背後に目があるかのように避ける。
 ああ…なるほど。


「固有技能か?」
「ぴんぽーん♪ボクの固有技能『目視録もくしろく』を使えばお兄さんの攻撃なんて見え見えなんだよねっ」
「そうか、だったらコレでもくらっとけ!」


 アイテムボックスから煙幕瓶を取り出すと地面に叩きつける。
 瓶が割れ、中から白色の煙が立ち上り路地裏を包み込む。


「おい、ナク!逃げるぞ!アンリ!そろそろ出てこい!」
「ん、わかった」
『はあ…わかりましたよ』


 ガラスが割れるような音と共に空間に極彩色の切れ目が現れ、その中からアンリが飛び出してくる。
 一先ず街の方へ…
 しかし、次の瞬間肌を刺すような殺気を感じた俺は後ろを振り向く。
 振り向いた俺の目に映るのは、迫り来る3本のナイフだった。
 振り向きざまに剣を振るい、2本は叩き落とすことが出来たが1本は弾き損ない未だ立ち込める煙幕の中に飛んで行く、そして一瞬の間の後に仮面女の苦しそうな呻き声が聞こえる。


「すごーい、まさかボクに傷をつけるなんて…お兄さんやっぱり強いね」


 肩からナイフを生やしたまま、煙の中から仮面女が歩いてくる。
 ここで俺は1つの疑問を覚えた。
 なんであのナイフは避けられなかったんだ?
 避けなかったという考えも浮かんだが、直前に聞こえた呻き声と仮面女の最後のセリフを合わせるとワザとってわけじゃなさそうなんだよな。
 そして、ある考えに至った俺は立ち止まる。


「なになに〜?お兄さん達ついに諦めちゃう?」
「いーや?お前をとっ捕まえる算段が整ったんだよ」          

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