Creation World Online
第18話
その後は特に大したイベントも起こらず、俺たちが街に到着したときはすっかり辺りが暗くなっていた。
どこか適当な飯屋にでも入ろうと装備を普段着に変更しながら周囲を見渡しているとぐー、という間抜けな音が隣から聞こえた。
隣を見るとアンリが恥ずかしそうに頬を染めながらこう言った。
「あ、あの、ごめんなさい。お腹すきました」
「わかってる、とりあえずあの店に入るか」
俺は通りの向こう側にある、大衆居酒屋感あふれる店を指差した。
アンリはなんでもいいとでも言うように頷くとパタパタと走って行ってしまう。どんだけ腹減ってんだよ。
呆れながらアンリを追いかけて店に入ると店の中は結構込み合っていて、店員たちが「いらっしゃいませ」と言う。しかし、崩れすぎて「いらっしゃいませ」じゃなくて「しゃーしゃーせー」って聞こえるぞ。
俺たちが店内を眺めていると店員らしきNPCが俺たちに話しかけてくる。
『いらっしゃいませー!2名様でよろしいですかー?』
「ああ、それで頼む」
『2名様ご案内でーす!それではこちらへお願いしまーす!』
俺たちは店員NPCに案内されて現実の居酒屋っぽい造りの部屋に通される。ていうかまんま居酒屋だな。
俺たちが席に着くと目の前にメニューと料金が書かれたARウインドウが現れる。しかしどうやって注文するんだ?
俺がチラッと店員NPCを見るとそれだけで彼は察したらしくARウインドウを指しながらこう言った。
『当店でのご注文はタッチパネル方式となっております。ご注文の際はメニューの中から品物をタップしていただいてその後個数を選んでください!』
「なるほど、ありがとな」
『いえいえ!それではごゆっくり!』
そう言うと店員NPCは去っていく。できる男だったな…
さて、注文のやり方もわかったことだし何食うかな…
「なあ、アンリ。何食べたい?」
「んー、これなんてどうです?」
「お、唐揚げか。いいな、そうだな…これとかどうだ?」
「サラダですか?えー、シュウくんだけ食べてくださいね?」
そんな子供みたいなことを言うアンリに意地でも野菜を食べさせようと思いながら俺はアンリと共にどんどんと注文をしていったのであった。
☆
『お待たせ致しましたー!』
料理が来たのは俺たちが注文して5分ほどしてからだった。早いな、さすがゲームだ。
俺たちは目の前に並んだ料理の放ついい香りに耐えきれずに「いただきます」と言うとすぐに食べ始めた。
俺がまず手につけたのは鶏肉の手羽元唐揚げである。
これは箸では食べにくいので少々行儀が悪いかもしれないが指で摘んで食べることにする。
顔に近づけるとスパイシーな香りが漂い俺の食欲を刺激する。そしてその身にかぶりつくと口の中にスパイスの味と熱々の肉汁が広がる。なんだこれ美味すぎる!
夢中になって身を食べると身がなくなってしまった。
アンリの方を見るとそのまま骨を骨入れに入れているが実に勿体無い。
俺は少しニヤッとすると手羽元の端、つまり軟骨を骨から引き剥がし口の中で何度も噛む。
コリコリコリコリコリコリ
うん美味い。
そして同じように幾つかの手羽元を食べて次に俺が手をつけたのはアッツアツの山芋の鉄板焼きである。
見ると熱々の証拠に山芋の上で鰹節が踊っていた。
俺は大きめのスプーンで山芋を掬うと、取り皿の上に乗せる。
箸を使って一口食べる。するとソースの味とマヨネーズの味がトロトロの山芋の食感と絡み合い絶妙なハーモニーを醸し出していた。
「なあ、アンリこれも食べてみろよ」
「山芋ですか…いただきましょう!」
「あとサラダも食えよ」
「あーあー、聞こえないー」
アンリはワザとらしく耳を押さえながら料理を食べるという器用な技を発揮する。
そんな風に俺たちは騒ぎながら食事を取り終えたのは完全に夜中と言っていい時間だった。
☆
「ふう、美味かったな」
「そうですね、あの店は当たりでした。また行きましょう!」
俺たちが食事を終えてそれぞれの宿へ向かっていると教会の前でアンリが立ち止まる。
「ん?どうしたんだ?」
「シュウくん…私、帰りたくないな」
「そうか、じゃあお疲れ様。明日もここに集合な」
「あ、お疲れ様です…って!違う!」
俺が帰ろうとするとうがーっとアンリが怒る。なにがいけないんだ。
「なにが違うんだ?」
「女の子が帰りたくないって言ってるんですよ!?宿に連れて行くくらいの甲斐性はないんですか?」
「本心は?」
「宿の更新手続をしてなかったことを今思い出しました」
「そうか、じゃあ今夜は野宿だな。がんばれよ」
やれやれ、世話がやけるやつだ。まあ、これで明日は遅刻しないだろう。
俺が帰ろうとすると服の裾が引っ張られる。
「はなせよ!伸びたらどうするんだよ!」
「お願いします!またあんなことになるかもしれないじゃないですか!」
あんなこと?ああ、おっさん共に襲われた時か。うーん、確かにそうなると可哀想だな…
チラッとアンリを見ると今にも泣きそうな顔でこっちを見ている。
…仕方ないな、同じパーティーメンバーとして宿に連れて行ってやるか。
「仕方ねえな、連れてってやる。感謝しろよ?」
俺の言葉にアンリは顔を輝かせて「はい!」と頷くと俺の手を引っ張り出した。まったく…まあ、たまにはこんな風に親睦を深めるのも悪くない、か。どうせしばらくの間お別れだしな。
そう考えた俺はアンリに手を引かれながら自分の宿へと帰っていくのであった。
☆
「ここがシュウくんの泊まってる宿ですか…」
「ああ、いいところだろ?」
アンリが眺めている建物は俺が普段使っている宿である。店名を【銀の月】という。
全体的に木造で所々レンガというこのゲーム内でよく見かける建築である。
俺たちが内開きの扉を開けると元気な声で「いらっしゃいませ」という声が聞こえる。
そして奥からパタパタとスリッパの音を鳴らしながらやってきたのはこの宿屋の看板娘ミラーナさんである。年齢は20代前後で綺麗な銀色の髪を腰まで伸ばしており、美人な部類に入る顔立ちをしている。それでいて冷たい印象はなく、寧ろ親しみやすさを感じるようなあらうふ系の女性プレイヤーだ。
そんなミラーナさんは俺たちを見ると途端に極寒の眼差しを向けながらこう言った。
「うちの宿はそういう宿じゃないんだけど〜?」
「違うから!そういうのじゃないから!」
なに考えてんだこの人は!
俺が全力でツッコミを入れると、ミラーナさんはいつもと同じ優しい目になって頬に手を添えて笑う。
「あらー、そうだったの〜。てっきり私はシュウ君が中学生に手を出したのかと…」
「私高校生ですよ?ねえ、私高校生なんですけど」
「まあ、そんなことは置いといてシュウ君この子をどうするの〜?」
「ああ、俺の部屋に泊めようと思って。料金は払うから、いくら?」
「ねえ、私の訴えは無視ですか、そうですか」
俺が料金について尋ねるとミラーナさんは「うーん」と斜め上を見ながら唸る。それにしても相変わらず一挙一動が綺麗だなこの人。
「うーん、そうねえ…料金は取らないでおいてあげるわ!」
「え!マジで!?いいの!?」
まさかタダにしてくれるなんて思わなかった。
俺の反応を見てミラーナさんは笑いながらこう言った。
「料金は取らないけど明日の決勝戦で優勝して、その報酬のお肉を少し分けてくれればいいわよ〜」
「ふっ…任せとけ!今の俺は勝つ気しかしないぜ!」
「あら〜、頼もしいわね〜。ところでその子大丈夫?」
ミラーナさんに指摘されてアンリの方を見るとアンリはむすーっと頬を膨らましていた。
「おーい、アンリどうしたんだ?」
「…」
無言である。
「おーい、アンリ?」
ちょっとイラっとしながらも俺はアンリの肩に手を置いて優しく問いかける。
するとその手をアンリに叩かれる。あー…無視したことを怒ってるのか。仕方ない、謝ってやろう。
「悪かったよアンリ、無視したりしてごめんな」
「…違う」
一瞬こっちを見たアンリだったがまたすぐにそっぽを向いてしまう。違うって…無視じゃないならなんなんだ?
「なあ、ミラーナさん。あれどういうことだと思う?」
「さあ?私にはわからないわ〜。なのであとはお部屋でごゆっくり〜」
「あ、ちょ!待て!」
「あはは〜」と笑いながらミラーナさんは奥へ引っ込んで行った。
その場には俺とアンリだけが取り残される。くそっ、気まずい…
「あー、なんだ、取り敢えず部屋に行くか」
「…」
アンリは無言のまま頷いた。
そして俺が歩き出すとそれについてくるように歩き出した。
あー、面倒なことになったなあ…
俺はそんなことを考えながら窓の外に広がる街灯りを眺めて、アンリに聞こえないように小さく溜息を吐くのであった。          
どこか適当な飯屋にでも入ろうと装備を普段着に変更しながら周囲を見渡しているとぐー、という間抜けな音が隣から聞こえた。
隣を見るとアンリが恥ずかしそうに頬を染めながらこう言った。
「あ、あの、ごめんなさい。お腹すきました」
「わかってる、とりあえずあの店に入るか」
俺は通りの向こう側にある、大衆居酒屋感あふれる店を指差した。
アンリはなんでもいいとでも言うように頷くとパタパタと走って行ってしまう。どんだけ腹減ってんだよ。
呆れながらアンリを追いかけて店に入ると店の中は結構込み合っていて、店員たちが「いらっしゃいませ」と言う。しかし、崩れすぎて「いらっしゃいませ」じゃなくて「しゃーしゃーせー」って聞こえるぞ。
俺たちが店内を眺めていると店員らしきNPCが俺たちに話しかけてくる。
『いらっしゃいませー!2名様でよろしいですかー?』
「ああ、それで頼む」
『2名様ご案内でーす!それではこちらへお願いしまーす!』
俺たちは店員NPCに案内されて現実の居酒屋っぽい造りの部屋に通される。ていうかまんま居酒屋だな。
俺たちが席に着くと目の前にメニューと料金が書かれたARウインドウが現れる。しかしどうやって注文するんだ?
俺がチラッと店員NPCを見るとそれだけで彼は察したらしくARウインドウを指しながらこう言った。
『当店でのご注文はタッチパネル方式となっております。ご注文の際はメニューの中から品物をタップしていただいてその後個数を選んでください!』
「なるほど、ありがとな」
『いえいえ!それではごゆっくり!』
そう言うと店員NPCは去っていく。できる男だったな…
さて、注文のやり方もわかったことだし何食うかな…
「なあ、アンリ。何食べたい?」
「んー、これなんてどうです?」
「お、唐揚げか。いいな、そうだな…これとかどうだ?」
「サラダですか?えー、シュウくんだけ食べてくださいね?」
そんな子供みたいなことを言うアンリに意地でも野菜を食べさせようと思いながら俺はアンリと共にどんどんと注文をしていったのであった。
☆
『お待たせ致しましたー!』
料理が来たのは俺たちが注文して5分ほどしてからだった。早いな、さすがゲームだ。
俺たちは目の前に並んだ料理の放ついい香りに耐えきれずに「いただきます」と言うとすぐに食べ始めた。
俺がまず手につけたのは鶏肉の手羽元唐揚げである。
これは箸では食べにくいので少々行儀が悪いかもしれないが指で摘んで食べることにする。
顔に近づけるとスパイシーな香りが漂い俺の食欲を刺激する。そしてその身にかぶりつくと口の中にスパイスの味と熱々の肉汁が広がる。なんだこれ美味すぎる!
夢中になって身を食べると身がなくなってしまった。
アンリの方を見るとそのまま骨を骨入れに入れているが実に勿体無い。
俺は少しニヤッとすると手羽元の端、つまり軟骨を骨から引き剥がし口の中で何度も噛む。
コリコリコリコリコリコリ
うん美味い。
そして同じように幾つかの手羽元を食べて次に俺が手をつけたのはアッツアツの山芋の鉄板焼きである。
見ると熱々の証拠に山芋の上で鰹節が踊っていた。
俺は大きめのスプーンで山芋を掬うと、取り皿の上に乗せる。
箸を使って一口食べる。するとソースの味とマヨネーズの味がトロトロの山芋の食感と絡み合い絶妙なハーモニーを醸し出していた。
「なあ、アンリこれも食べてみろよ」
「山芋ですか…いただきましょう!」
「あとサラダも食えよ」
「あーあー、聞こえないー」
アンリはワザとらしく耳を押さえながら料理を食べるという器用な技を発揮する。
そんな風に俺たちは騒ぎながら食事を取り終えたのは完全に夜中と言っていい時間だった。
☆
「ふう、美味かったな」
「そうですね、あの店は当たりでした。また行きましょう!」
俺たちが食事を終えてそれぞれの宿へ向かっていると教会の前でアンリが立ち止まる。
「ん?どうしたんだ?」
「シュウくん…私、帰りたくないな」
「そうか、じゃあお疲れ様。明日もここに集合な」
「あ、お疲れ様です…って!違う!」
俺が帰ろうとするとうがーっとアンリが怒る。なにがいけないんだ。
「なにが違うんだ?」
「女の子が帰りたくないって言ってるんですよ!?宿に連れて行くくらいの甲斐性はないんですか?」
「本心は?」
「宿の更新手続をしてなかったことを今思い出しました」
「そうか、じゃあ今夜は野宿だな。がんばれよ」
やれやれ、世話がやけるやつだ。まあ、これで明日は遅刻しないだろう。
俺が帰ろうとすると服の裾が引っ張られる。
「はなせよ!伸びたらどうするんだよ!」
「お願いします!またあんなことになるかもしれないじゃないですか!」
あんなこと?ああ、おっさん共に襲われた時か。うーん、確かにそうなると可哀想だな…
チラッとアンリを見ると今にも泣きそうな顔でこっちを見ている。
…仕方ないな、同じパーティーメンバーとして宿に連れて行ってやるか。
「仕方ねえな、連れてってやる。感謝しろよ?」
俺の言葉にアンリは顔を輝かせて「はい!」と頷くと俺の手を引っ張り出した。まったく…まあ、たまにはこんな風に親睦を深めるのも悪くない、か。どうせしばらくの間お別れだしな。
そう考えた俺はアンリに手を引かれながら自分の宿へと帰っていくのであった。
☆
「ここがシュウくんの泊まってる宿ですか…」
「ああ、いいところだろ?」
アンリが眺めている建物は俺が普段使っている宿である。店名を【銀の月】という。
全体的に木造で所々レンガというこのゲーム内でよく見かける建築である。
俺たちが内開きの扉を開けると元気な声で「いらっしゃいませ」という声が聞こえる。
そして奥からパタパタとスリッパの音を鳴らしながらやってきたのはこの宿屋の看板娘ミラーナさんである。年齢は20代前後で綺麗な銀色の髪を腰まで伸ばしており、美人な部類に入る顔立ちをしている。それでいて冷たい印象はなく、寧ろ親しみやすさを感じるようなあらうふ系の女性プレイヤーだ。
そんなミラーナさんは俺たちを見ると途端に極寒の眼差しを向けながらこう言った。
「うちの宿はそういう宿じゃないんだけど〜?」
「違うから!そういうのじゃないから!」
なに考えてんだこの人は!
俺が全力でツッコミを入れると、ミラーナさんはいつもと同じ優しい目になって頬に手を添えて笑う。
「あらー、そうだったの〜。てっきり私はシュウ君が中学生に手を出したのかと…」
「私高校生ですよ?ねえ、私高校生なんですけど」
「まあ、そんなことは置いといてシュウ君この子をどうするの〜?」
「ああ、俺の部屋に泊めようと思って。料金は払うから、いくら?」
「ねえ、私の訴えは無視ですか、そうですか」
俺が料金について尋ねるとミラーナさんは「うーん」と斜め上を見ながら唸る。それにしても相変わらず一挙一動が綺麗だなこの人。
「うーん、そうねえ…料金は取らないでおいてあげるわ!」
「え!マジで!?いいの!?」
まさかタダにしてくれるなんて思わなかった。
俺の反応を見てミラーナさんは笑いながらこう言った。
「料金は取らないけど明日の決勝戦で優勝して、その報酬のお肉を少し分けてくれればいいわよ〜」
「ふっ…任せとけ!今の俺は勝つ気しかしないぜ!」
「あら〜、頼もしいわね〜。ところでその子大丈夫?」
ミラーナさんに指摘されてアンリの方を見るとアンリはむすーっと頬を膨らましていた。
「おーい、アンリどうしたんだ?」
「…」
無言である。
「おーい、アンリ?」
ちょっとイラっとしながらも俺はアンリの肩に手を置いて優しく問いかける。
するとその手をアンリに叩かれる。あー…無視したことを怒ってるのか。仕方ない、謝ってやろう。
「悪かったよアンリ、無視したりしてごめんな」
「…違う」
一瞬こっちを見たアンリだったがまたすぐにそっぽを向いてしまう。違うって…無視じゃないならなんなんだ?
「なあ、ミラーナさん。あれどういうことだと思う?」
「さあ?私にはわからないわ〜。なのであとはお部屋でごゆっくり〜」
「あ、ちょ!待て!」
「あはは〜」と笑いながらミラーナさんは奥へ引っ込んで行った。
その場には俺とアンリだけが取り残される。くそっ、気まずい…
「あー、なんだ、取り敢えず部屋に行くか」
「…」
アンリは無言のまま頷いた。
そして俺が歩き出すとそれについてくるように歩き出した。
あー、面倒なことになったなあ…
俺はそんなことを考えながら窓の外に広がる街灯りを眺めて、アンリに聞こえないように小さく溜息を吐くのであった。          
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