女神の加護を持つ死神

つうばく

聖女と妖精族 11

「ここ400年程前の話なのだが、魔族がこの大陸を占領しようとしてきた」

アル達も俺が出した椅子に座り、落ち着いたところでデメテルがそう言った。

……この話は流奈に聞いたことがある。

確か妖精族は攻め込んできた魔族と戦ったが負け、そして大陸の半分を奪われてしまったと。

「……その様子ではキラリ殿達は知っている様だな」
「ああ」

俺らの表情を見て読み取ったデメテル。

「キラリ殿達が知っているとあれば話は余計かも知れないが、この大陸の半分は魔族との戦いで奪われてしまった。それでもわらわ達は諦める事はしなかった。そのお陰でこの里は残っておる」

淡々とデメテルは俺たちに向かって話す。
どこか苦しそうな表情だったが、それでも話を止めようとはせず、また話を続ける。

「魔族の方も戦いで損傷を負った。その為かそれから暫くの間は魔族はこの大陸には来てない」
「暫くって事は……」
「そうだ。ここ最近、一年か二年程前にまた魔族が大陸を襲った。1度目の魔族襲撃から童達は魔族に対しての対策を練ってきていた。だから苦労をせず勝てると思っておった。……だが、今回は違う事があった所為で無残に敗北した」

大陸を半分失った妖精族が行う対策が、知恵のない魔族に対処できるほど生半端な訳がない。

……ということは。

「知恵のある魔族が、それも魔王軍四天王率いる何万もの軍団が攻め込んできたのだ。そして童等は四天王達の前に手も足も出ず負けた」

〝魔王軍四天王〟

その言葉に俺は、いや俺らは反応をしめした。
だが、それは少しだけ。

まだなんとか理性を保つことが出来た。

「今も四天王達はこの大陸に残っておる。……そしてまた奴等が童等を攻撃してこようとしている」

デメテルは辛そうな顔をしながら言った。

そんな言葉を聞き俺は、この溢れ出る苛立ちを隠せなかった。
……また魔族の仕業なのかと。

『キラリ様。落ち着いてください。その気持ちはわかりますが』
『……そうだな。もうちょっとしたら怒りに呑み込まれる所だった。すまん』

魔王軍四天王。

それは俺の妹でもあるエル。
そのエルを傷つけ、死ぬ寸前まで追い込んだルニウスという魔人と他3名の、普通の魔物の中でも知恵を持った魔人よりも知恵があり、戦闘力が優れて高い者達の呼び名である。

死ぬ寸前まで傷つけられ、無限の様に広がり、高レベル(地上では)の魔物達が住む砂漠の上に飛ばされたエルと偶然にも出会い、そして家族となったエルと俺はある約束をした。

ーールニウスを倒すと。

……まぁ、これよりもこの後にしたもう一つの約束の方が大事なんだけど。

『へぇ〜それは初耳なのじゃ』
『だろうな。誰にも言ってないしな』

エルと俺しかしらない約束。

それは。

魔族や魔王軍四天王、それに魔王、魔神によって被害を受け困っている人を助ける。
そして魔族を滅ぼす。

そんな約束だ。

俺らしくない事は分かっている。

だが、この約束を頼んできたエルの目が本気だった事。
それにその時のエルが言った言葉ーー

「エルの様に魔族によって被害を受けた人は絶対いっぱいいるのです。それにこれから会うかも知れないという人達も。そんな人達にエルと同じ様な悲劇を受けて欲しくないのです」

ーーだから、俺に助けてほしい、と。

このエルの説得があったから俺はこの約束をのんだ。

エルの優しさが十分俺には伝わってきた。
というか、そんな優しさを聞いただけで俺には充分だった。

その言葉だけで俺は約束を呑むことを決意した。

そして。

絶対にこの約束を遂行してみせると。

デメテルは言う。
「無理を童が言おうとしているのは承知しておる。だが、童の言葉を聞いてほしい」

息を吸う間なくデメテルは言った。

「童達、妖精族を魔族の手から助けてほしい。……キラリ殿。お願いします」

デメテルは地面に座ると、手を床についた。
そして頭を下げた。それも床に擦り付けるように。

デメテルは妖精族の現王だ。

神相手、それに家臣やメイドが出て行っているからとはいえ、簡単に頭を下げて良い立場ではない。

そのデメテルが頭を下げている。

もう本当に為すすべが無い。
それがこの大陸の現状なのだと伝えてきている。

「…………」

これを俺が呑もうと、俺には何の得も無いのだろう。


……いつもの俺ならこんな行動しないんだけどな。



「アル。魔族がいる位置は分かるか?」
「もちろんじゃ。既に居場所も数も分かっておるのじゃ。魔族らは四つの群となってる様じゃ。この里の結界から数十キロ離れた所に囲む様にして待機しておる。この様子だと今日の夜にも襲撃してくるのじゃろうな」
「そうか、サンキューな」

俺は横に顔を向ける。

「もちろん準備は出来てる。合図でもしてくれたら行ける」
「ありがとな、ヘーニル」

俺は頬に涙を垂らしているデメテルを見た。

ーー本当にこの大陸を愛してるんだなぁ

そんな思いがデメテルからは伝わってくる。



……きっとエルはこんな状況を無くしたいって思ったんだろうな。
俺でも腹が立ってきた。



俺は一歩前に出て、そして手を伸ばす。

「ほら、泣き止んでそんで、立てよ。この大陸の王がそんなんじゃ、ここはもうお終いだぞ」
「えっ……」
「この大陸は今日以降も存続することが決まったんだから、もっと王らしくしろって。じゃねぇと他の妖精族に笑われるぞ?」

まだ立とうとしないデメテルの手を無理矢理取り、俺はデメテルを立たせた。
俺はデメテルに向かって言う。

「俺達に後は任せとけ。お前は他の妖精族にでも伝えておいてくれ。『この大陸は魔族の襲撃から守られた』ってな」

俺はデメテルの手を離してアルとヘーニルが立っている場所まで移動した。

「デメテル。お前の依頼を受けてやる。……だからしっかりと報酬は用意しとけよ」

横にいるアルとヘーニルが苦笑しているが、そんなの知らん。
今は、ひとつの答えだけを聞きたい。

「……分かったのだ! キラリ殿が喜ぶ様な最高ぉ〜〜の報酬を用意しておく!」

涙を袖で拭ったデメテルが笑顔で言う。

……やっぱり笑顔が一番デメテルには似合う。


……その為にも俺がすることは、決まってるな。


「じゃあ明日の朝までには終わってると思うから、それまでに頼むぞ。んじゃー行ってくる」

俺はヘーニルの用意していた転移魔法で移動した。


◇◆◇◆◇◆


「……凄いお方だな。キラリ殿は」

そんなデメテルの声が一人残された部屋に響いた。

「惚れましたかぁ?」
「いや、そう言うわけでは……って、何でナスタニアがいるのだ!?」
「そんなのどうでも良いですからぁ〜……ほらほら〜どうなんですか〜?」

どこからか現れたナスタニアがデメテルに尋ねる。
デメテルは少し照れているのか、頬を赤らめる。

「あ、あっ……そ、そ、そういえばキラリ殿は最高の報酬を用意しておいて欲しいって言ってたなっ! ナスタニアよ。至急全妖精族を集めるのだ! もちろん精霊神もだぞ!」
「……そうですねー。はいはい。集めますよ〜」
「…………」

なんだか、はぁ〜つまんね〜、と言う様な雰囲気を醸し出しているナスタニアに、デメテルは少々怒りを覚えた。

だが、拳をグーにあいているのはナスタニアは気にしない。

痺れを切らしたのかデメテルが拳を緩める。

「はぁ〜、もう〜。……とりあえず広場にでも集まらせろ。精霊神は童が相手する。広場はナスタニアに任せるぞ」
「かしこまりました。デメテル様」
「『この大陸は魔族の襲撃から守られた』と伝えておいてくれ。それと魔族に対して攻撃を仕掛けようとしている者達は止めておいてくれ。もう必要はないとな」
「ふふふ。かしこまりました」

ナスタニアは「では、デメテル様。精霊神方はよろしくお願いしますね」と言いここから出て行った。

「……後は任せたぞ、キラリ殿」

一人きりになったデメテルは上を見上げ呟いたのだった。

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