女神の加護を持つ死神

つうばく

二度目の依頼は最高難易度

「よろしく頼むぞ」
「……?」

 突然のギルマスの頼みに困惑する俺。
 ……だって、顔が超必死だもん!
 困惑誰でもするわ。というか怖ぇよ!

「……もしかして、読んでいないのか?」
「えっ? なにが?」
「超重要依頼の案件だよ」
「超重要依頼? 何それ?」

 名前だけだとなんだか面白そうだ。
 まぁ、重要の前に超までもが付くんだしヤバそうな依頼だとは分かるんだけど……。
 読んでないのか? ってどういう意味なんだ?

「ギルドからでもあるが、言って仕舞えば国からの依頼だからしっかり中を読めよ。って言って渡しただろ手紙」
「……」

 おっさんからのラブレターなんてキモいわ! 
 とか言ってやぶり捨てた気が……。

『……誰か拾ってないか?』
『知らんのじゃ。そもそもその場に私はいなかったのじゃからな』
『エルも知らないのですぅ〜。後からヘーニルお姉ちゃんに聞いただけなの〜』
『我は見ていたが……あれは流石に拾えないぞ』
『そうなのだ。ご主人様怒りに身を任せて、魔法使って塵に変えてたのだ』
『あれは、拾うの次元ではないですよね。だからそこまでしない方が良いですよって止めたんですよ』

 未来視してたんなら、先に止めてくれ。
 ていうか、俺が拾えなくなるまでしたんだよな……。

「おい、じゃあどういう内容かも知らないっていうのか?」

 こういうのは絶対にテンプレ感のプンプンする様なのが来るよな。
 うん、間違いないそうだろう。
 で、あれば、ひとつしかないな。

「……あ、あれだろ? ドラゴン倒せだろ」
「違うわ。そんな低レベルの依頼だったら俺もここまで怒らねぇよ」
「……マジで、やばいやつなのか?」
「ああ。マジでだ」

 そして、もう一層の事全て吐き出したい、とか思ってそうなぐらい深刻そうな顔をするギルマス。
 しかし、それをなんとか耐えたのか、少し顔に落ち着きが出てきた。
 それでも深刻そうな事は物凄く伝わって来る。

 ……というか、ドラゴンの依頼が低レベルってどういう事だよ!?

 なに、この世界ではドラゴンって低レベルなのか!?
 依頼にあっても初級でもクリア出来るぐらいに低レベルなのか!

『いえ、そうでもありませんよ。ドラゴンと言えば中級冒険者が100人集まっても倒せないと言われています。ドラゴンが通った街はどこも壊滅しているとも。それぐらいドラゴンは強い生き物です』
『なんで、こいつ低レベルとか言っちゃってんの? 頭いかれてんじゃねぇーのか?』
『いかれては無いかと思いますが……。それぐらいにこれは凄い案件だってことを言いたかったんじゃないですか?』
『あぁー』

「で、どういう案件なのか聞いても良いか?」
「分かった。依頼主は国でもあるって言っただろ」
「ああ」
「そんでもってもう一人いんだよ、依頼主は」
「……誰なんだ?」
「聖女様だ」
「へ?」
「聖女様なんだよ。そして依頼の内容はーー聖女様の護衛だ」

 ………?
 セイジョサマ?
 せいじょさま?

 聖女様?

「……聖女様っていたの?」
「はっ何を言ってーーそうか。お前転移してきたばっかって言ってたな」
「ああ」

 実際はこの世界にだけど。
 流奈の創った場所と試練で約2年ぐらい居てたしな。
 日本から離れてというなら長いと言えるだろう。

  「この世界には聖女と呼ばれる存在がいてな、聖女様は世界を旅されている。なんでも、数多くの人に神を信仰してもらう為らしい」
「神って女神のことか?」
「ああ。あの俺たちを転移させてくれたな、女神だ」

 ギルマスも流奈に転移させられたのか。
 てか、流奈って全員の転移に関わってたのか?
 もしそうだとしたら、すっげぇ大変だったんだろうな。

『愚痴愚痴言われてますけれども、一応はやられますからね、仕事』
『そういうところあるよな、あいつ。意外と根は真面目だしな』
『ああ、なられたのはほぼほぼキラリ様の所為ですけどね』
『アハハ。ナンノコトカワカラナイナー』

 そんな会話を念話でソラとしているとも知らず、ギルマスは、話を続けた。

「そんな聖女様が、この国アルベルトの冒険者に護衛を頼み、こことは別の大陸……それも妖精が住む大陸に行くそうだ」
「あれ? 妖精族ってここ400年ぐらい姿を表してないって聞いたんだけど?」
「ああ。大陸の妖精族だけだがな」
「……大陸以外にもいるのか?」
「そうだ。妖精族って言っても大陸から出ている者とそうでない者がいるんだ」

 妖精でも働きに出掛けたりするのだろうか?
 ……妖精の大陸が文明が進んでいないとかはありそうだしな。

「じゃあ大陸に残っている奴の安否を確認しに行くとかなのか?」
「いや、その出ている者によると、妖精族ってのは特別な能力があって、どこにどの妖精族がいるっていうのが分かるらしい」
「えっ、じゃあ何の依頼なん?」
「詳しくは俺も話されてないんだ。すまん」

 ギルマスでも話されていないなんて、一体どんな依頼なんだよ。
 ……まぁ、知らないって言うんだし、今は良いだろう。

「……それで、俺達を指名したのか?」
「ああ。パーティー全員があの鑑定付きの水晶を割る程の実力者だしな。……あれ、勇者でも普通に測れたんだぞ。……まぁ、そう言うことで俺は十分過ぎるだろうと思ってるぞ」

 十分なんだろうけど。
 てか、勇者……。

 勇者に流奈がちょっとした加護をあげたとか言ってたけど……流石に弱過ぎるだろ。
 なんだったら、加護なしのエルの方が強いのではないだろうか?

 ……いや、絶対に強いか。
 この前に、俺達と同じステージにまで登りつめたんだし。

『じゃあその勇者っと会ったら戦わせてみたらどうなのじゃ?』
『おいおい。それはいくらなんでも……』
『エル、勇者と戦いたいの〜!』
『よし、今度お兄ちゃんが勇者を拉致してきたあげるよ』
『拉致って……』

 その様な会話を少しして、俺は念話を切った。

「……まぁ、しっかりと護衛は勤めれると思うけれども……」
「けども?」

 訳がわからない様にギルマスが聞いてくる。
 ……なんとなくで察して欲しいんだが。

「最近冒険者登録した俺達みたいな奴にそんな重大な責任を任せても良いのかなって、思って」
「良いに決まってるだろ」

 ギルマスは即答で答えた。
 ……そこまで胸張らなくても良い気がするんだが。

「一応は俺も見る目があると思っている。お前達は超良い奴とは言えないが」
「いや、そこは言えよ」
「冗談だ。お前達の事を良い奴等だと思ってる。その信頼から任せてるんだ」

 ……は、恥ずかしいぃぃ。
 けど、そう思われる様になったというのは俺達がそう見られる様な事をして来たから、という意味でもあるんだろうし、恥ずかしさと同じくらい嬉しい。

「分かった。ギルマスがそう思って俺達に依頼してきてくれたんだしな。断る訳ねぇだろ」
「そうか。……はぁー良かった」

 ギルマスはピリピリしていた気を解き、肩の力が抜ける様にしてリラックスした態勢をとった。
 そこまで緊張とかしてたんかよ。

「いやぁー、これで断られたらどうしようかと思ってたぞ」
「そこまでか?」
「断られてたら、俺があいーー聖女様に殺されていた気がするしな……」
「えっ? 今なんて」
「あ、ああ。……気にすんな」

 そう言って、ギルマスはソファーからたち、部屋から出て行こうとした。
 俺がこんな場面で逃す訳ないと分かっているだろうに。

 あんな、台詞を言われては気になって仕方がない。
 てか、聖女様に殺されるって何事だよ!

「やめろ、この手を離してくれ」
「嫌だ。さっきの言葉の意味を教えてもらおうか?」
「……依頼完了後にな」
「はっ。そんなのが通用するとでも思ってんのかよ」

 ギルマスはそれを聞き、諦めた様な顔つきをし暴れるのをやめた。
 初めからそうしてくれていれば良いのに。
 まぁ、俺がその立場だったら暴れまくるのだろうけれども。

「……分かった。話す。だからこれを解いてくれ」
「二言はないな?」
「ああ」
「……うん、じゃあ分かった。離すぞ」

 俺は掴んでいたギルマスの両手を離した。

 なんでそんな簡単に離すのかって? 逃げられるかもしれないだろう?
 そんなの、俺のスキルでどうとでもなる。
 今だって、ギルマスの言葉が真実かどうか見たし。

 ……てか、これ冷静に考えたら凄い事じゃん!?

 もう、本格的に人間やめて来てんなぁ俺……。

 落ち込む俺を放っておき、ギルマスはソファーにもう一度座ると、訳を話し始めた。

「初めの方で俺は国からの依頼って言っただろ」
「ああ。それは覚えてるぞ」
「国からでもあるが、本当の依頼主は違うんだ」
「えっ、違ったのか?」

 てっきり、マジで国からの依頼だと思ってた。
 だから、依頼受けるならちゃんとやらないとなぁーって思ってたんだが……。
 そうかー、違ったのか。

『それでもしっかりやるのじゃぞ、キラリ』
『ちっ……気付いたのかよ』
『カカカッ。誰でも気付くじゃろ。手を抜こうとしているのは儂から見ても一目瞭然なのだった』
『やっぱり分かりやすいのじゃぞキラリ』

 はぁー……。まぁ、仕方がない。
 手を抜くという思いは諦める事にしよう。
 まっ、やるからには全力でだがな!

『ほどほどにしてくださいよ。私の後始末は出来るだけ少なくしてくださいね』
『出来るだけ頑張ってみます』

 出来るだけだけどね!

「本当の依頼主はだな……」
「…………」ゴクッ
「聖女様からだ」
「へ?」
「だから、聖女様本人からのお前当ての依頼なんだよ」

 ……?
 ……いやぁー、今日はびっくりすることばかりだね。

 ……マジで聖女様からの依頼なのかよ!?
 なに、俺宛なの!?
 聖女様、俺のこと知ってんの!?

「これが証拠だ……」

 そう言って、書類の束から一枚の紙を取り出して来た。
 その紙の下にはーー

『横井キラリに聖女の護衛を頼むものとする』

 と書かれていた。

「…………」
「マジだろ」
「…………マジだな」
「ああ」
「……でも、なんで俺の名前知ってるんだ? そこまで有名ではない気がするんだけど、俺」

 今までして来たことなんて、自分のしたい事だったしね。
 テンプレ的な人を助ける事なんて全然して来た事なかったよ。

 ……有名になれる要素がひとつもないな。

「ああ、それなんだが。なんでも、女神から神託が降ろされて、それでお前の名前が挙げられたって聞いてたんだが……」
「ああー。納得がいった」
「……まぁ、お前達も何か事情があるんだろうし、何でとかは聞かないが」
「すまん。助かる」
「だからと言ってはなんだが……絶対に失敗しないでくれよ」
「そうだな。失敗したら俺も殺される……女神からだけれども」
「あははー……」

 ギルマスはそんな乾いた声をあげた。
 ……俺も上げたい。

 はぁー。多分今、俺と同じ思いをギルマスはしてるんだろうな。
 結構、聖女様とはなんだが知り合いっぽい感じだし。

「じゃあ明日、ここに聖女様の乗っている馬車が来るから。しっかり時間を守って来てくれよ」
「そうだな。時間は守ることにする」
「装備とかも完璧に来てくれよ。あと食料とかも各自で持って来てほしい」
「うん。了解」

 ジャージ姿で行ったらふざけているとか思われそうだしな。
 ケーレス・ローブを来てでの最強装備にしておこう。

「じゃあ、明日な」
「ああ。よろしく頼むぞ」

 俺達はギルマスに見送られ、ギルドを後にした。
 ……明日から辛い日になりそうだ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品