女神の加護を持つ死神

つうばく

転生者の話

 私、桃井風夏は二人兄弟の妹として地球に生まれた。
 兄のキラリと母、父の四人家族だった。
 とても裕福という訳では無いが、ある程度のお金はあり、殆ど不自由なく過ごせていた。

 ーーあんな事が起きるまでは……







 私は子供の頃から運動神経が良かったり、勉強が出来たり、そして運がとても良かった。
 だが、逆に凄い確率で怪我、病気になったりした。
 それは、とても名前が関係している。

 ここの世界ーー地球では名前の運勢が生き方を決める。
 私の名前の運勢は、才能があり、運がありと良い方向ではとても良い。
 悪いのでは、トラブルに巻き込まれたり、怪我や病気を負う事になるという運勢だった。

 そのお陰か、私は言われた事が何でも出来た。
 勉強をしろ、スポーツをしろ、芸術をしろ、など色々言われたが、それを全て完璧にこなした。

 だがこれは、時間が経つごとに悪化していく。

 この子は天才だ、将来はきっと有名になる、と騒ぎ立て私に過大な期待をかけた。
 これがどんなに辛かった事か。

 何もせずにここまでこれた訳では無い。
 血もにじむ様な努力を全てにおいてしてきた。
 それが結果となっただけ。
 ただ、それだけの事だったのに、いつの間にかそうなっていた。

 無論、学校に行く事になっても常に注目され、そして一歩引かれる。
 そうなれば、友達などはできない。
 もっと言えば、友達などをつくる暇があるなら、私は努力をしなければいけない。

 そして、私の小学校生活は、周りに人がいるものの、孤独に終わった。

 中学校、高校と周りの者からの期待に応えなければいけない。
 その重圧を背負いながら、また努力した。
 何度も何度も、心が折れそうになっても、泣きたくなっても、病気になっても、怪我をしてでも。

 そうして、期待に応えた。
 そして、高校の入学式。

 私は首席としての学年挨拶を終え、クラスへと入った。
 勿論、クラスのみんなは私から一歩引いている。
 それは三年生になるまで続いた。

 三年生でのクラス替え、ここで私は運命が変わった。
 例えるなら、蕾でも綺麗だったのに、そこに花が咲き、より一層綺麗になったと感じだろうか。

 それは同じクラスになった白風早希しらかぜさきと会ったところから始まった。
 この少女は、とても優しくとても想像力豊かで、そして可愛かった。
 私は初めの内は気に掛けているだけだろうし、直ぐにどこかに行くだろうと思っていた。
 これまでもそうだったから。
 だが、少女はずっと一緒にいてくれて、私には本当に掛け替えの無い、存在へと変わっていった。

 少女と仲良くなっていってから、映画に行く事やボーリングに行く事、カラオケに行く事や買い物行く事をしたりした。

 そして明日に迎えた卒業式。
 私達は行く大学が違い、この高校が最後なのでお別れ回をする事となった。
 街では、他の高校生が溢れるようにいた。
 みんな考えている事は同じなのだろう。
 そう思いながら、道を歩いていた。

 しかし、前に誰かが幅立ち前へと進めなかった。
 私達はそいつらを見た。
 そして、運が悪かった。
 ただそれだけを感じた。

 そこにいたのは、学校で問題なっている不良グループ。
 全員、ギャルみたいな格好をしており、そこを注意されたが、逆に前よりも酷くするという、行為をしていた人達だ。

 そいつらは何故か少女の肩を持ち突き飛ばした。
 そこで、少女の事をぼろ糞言い、最後には「生きていなければ良かったな」そう言った。
 私は見ている事しか出来なかった。
 周りは避けて通って行くだけ。
 誰も助けようとしない、それどころか存在を無視しているかのよう。

 少女は立ち上げると、向こうのほうへ走り出していった。

 少女が何をした、何故、あんなにも優しい人にあんな事をした、こいつらは許していい存在なのか、いや、違う。

 私は怒りのあまりこの不良等に対して怒鳴っていた。
 そして、あまり覚えていないが殴ったりしたのだろう。

 気付いた時には不良等は立っていなかった。
 全員、目を白眼にして寝ているかの様になっていた。

 この時、私は全く罪悪感は感じていなかった。
 そして、一刻も早く少女を追いかけなければ。
 その思い一心で私の身体は走り出していた。

 どこを探しても見つからない。
 どこか、どこか、どこか。
 私は鼓動が早くなっているのなどは全て無視し、少女を探す事だけに集中した。

 ある交差点に来た時、少女を見つけた。
 下に顔を向け、とても暗い雰囲気だった。

 そして、信号は黄色から赤へと変わった。
 だが、少女は下を向いていて気が付かない。

 気が付いた時には、既に私の身体が動いていた。
 横断歩道に飛び出し、少女に向かう私の身体。

 名前を叫んでも全く見向きもしない。
 まるで、何も聞こえていないかの様に。

(私じゃ間に合わない……この間までは少女が……)

 私は一瞬諦めかけた。
 しかし、この時少女との色々な思い出を思い出した。
 一緒にクレープを食べた事や、プールで泳いだ事、お化け屋敷に行った事やクリスマスパーティーをした事。
 数々の思い出が私の頭の中を駆け巡った。

 この全ての思い出が、この少女と出会ってからの出来事。
 私の思い出は、いや、人生は少女と出会って変わった。

 なら、少女が私を救ってくれた様に、私も少女を救わなきゃーー

 私は走っては間に合わない、そう思い、ジャンプをした。
 ギリギリ、指先が少女にあたり、少女の身体は歩道へと行った。
 その直後、私の身体はブレーキを掛けれず、全く止まらないトラックに跳ね飛ばされた。

 ーー意識が消える前に少女の声が聞きたい

「どうして……どうして! 私なんかを助けたのっ!!」

 最後に聞きたかった声だ。
 私は声が出ているのかは知らないが、少女に向かって言った。

 ーー貴方が私を救ってくれたから、私からの恩返し

 そう言った後、私の意識はどこかへ消えていった。








 ◇◆◇◆◇◆








 寒い、痛い、苦しい。

 何故かそんな感情を感じた。
 私は死んだ筈なのに……。

 私は考えに考えたが、全く思いつかない。
 いや、頭が回らない感じだ。
 どんだけ考えても答えが思い浮かばない、私はそもそもこの状況の答えを知らない。

 周りを見ようにも目が開かない。
 身体を起き上がらせ様にも、上手く動けない。
 声を出そうにも出せない。
 何かが詰まっているこの様に。

 これはマズイ状況だと悟り、私は懸命に叫んだ。

「あー、うー、あー」

 私は自分の出した声に驚く。
 口に出てきたのは呻き声とも喘ぎ声とも言える様な声だったからだ。

 流石にこの状況は私でも理解できない。
 さっきのは何かの間違え、そう思いまた喋ろうとしても、出てくるのは同じ様な声。
 下が上手く動かず、全く違う声が出せない。

 何でも良いから、大きな声を出そう。
 そう思い、思いっきり空気を吸い、叫ぼうとすると、どこからか足音が聞こえた。

 私の声を聞き、助けが来たのか?

 と思った直後、私は抱きあげられた。
 苦しい。
 だが、それを声に出そうにも出ない。

 どうにか頑張るものの全く出来ない。
 そして、更には足音が増え、私は囲まれた。

「・・・・・―――・・・―――」

 少なくとも日本語では無い声で、喋りかけられた。
 そして、私の意識はまた消えたーー








 ◇◆◇◆◇◆








 あれから一年の月日が流れた。

 どうやら私は〝転生〟というのをしたらしい。
 それが一年を通して理解できた。

 私は赤ん坊に生まれ変わった。
 それが分かるまでは辛かったが、分かると状況が直ぐに理解出来た。

 まず、私を抱きあげた時の人が父親で後から来たのが母親であるらしい。
 父親の年齢は二十代前半だろうが、母親は私の予想だが年齢は十代後半と思える程の若さだった。
 とても若い夫婦だろう。
 日本ではあまり想像が出来ない。
 そしてこれに子供持ちとは……単純に凄いと褒め称えたい。

 当たり前かも知れないが、どうやらここは日本ではないらしい。
 日本語に似ている言語だが、日本語ではなく、両親共に日本人ではない。

 私は違う世界の文化に興味を持ち、ハイハイ出来る様になると家の中を歩き回った。
 そこで気付いたことは、この家は裕福だという事だ。
 建物はレンガの三階建で地下まで付いてあった。
 窓からは遠くには栄えた街が。
 しかし周りにはこの家ほどではないが大きな家などが建っていた。
 多分、私の予想だが、ここは都とか王都などだろう。

 家の話に戻るが、部屋は三十個はあった。
 日本では考えられない広さだ。

 そして、メイドをこの家では雇っていた。
 最初は家族かと思ったが、明らかに顔付きが違った事と、同じ様な服を着た人が十五、六人いた事でメイドだと分かった。
 その時、人生で初めてメイドを見た事で、物凄く興奮した。
 それに私専属のメイドがいた事にも興奮した。

 あと、ここの世界の言語は分かりやすかった。
 全てが規則的に作られており、私しが覚えるのには、三日も要らなかった。
 なので今は赤ん坊なので、幼稚的にしか喋らない様にしているが、本当は両親よりもしっかりと喋れる。

 そしてこの世界は、魔法というのが存在しているのがこの一年の中で一番の驚きだった。
 それが知れたのはある日の時の事だ。

 私はいつもの様にハイハイで階段を下りようとしていた。
 しかし、メイドの人が水拭きをしようとしていたのだろうが、水が拭き取られていなかった。
 その水を踏まない様に気を付けて下りようと私はしていたが、それでも運悪く水を踏んでしまった。
 そして、下に勢いよく転がりながら私は階段の一番上から落ちた。
 元の身体ならこれぐらい平気だっただろう。
 しかし、今の身体は赤ん坊の身体だ。
 耐えられる訳無く、腕の骨だろうか、多分そこら辺の骨が折れた。

 落ちた時、どしんと鈍い音が家中に響いた。
 その音を聞き、母親が真っ青な顔で駆けつけて来た。
 そして母親が私を抱き上げた。

「あらら、腕が……ごめんね、私には気休め程度しか出来ないけど……神の癒し、力失い者に再び立ち直れる力を分け与えよ≪ヒール≫」

 詠唱をやり終わった、そう思った瞬間、母親の手が青く輝き、一瞬にして腕の痛みが消えた。
 それに腕をブンブン回しても何も感じない。
 痛みどころか骨まで回復している。

 この事態には直ぐに理解出来た。
 魔法を母親が使ったという事に。

 それがこの世界には魔法が存在していると分かった日だ。

 私はこれから、魔法が使える様になりたい。
 そう思い、片言の喋り方で母親に頼んでみる事にした。

「おかあさん、わたし、まほう、を、つかい、たい!」

 私は子供の武器、愛らしい可愛さというのをしながら頼んだ。
 母親は「まだ早いわよ」そう言って笑った。
 また今度にするかそう思ったのだが、母親は「けど……」と言い私は気になり、もう一度母親の方を向いた。

「魔法をするためには言葉を読んだり、お話しないといけないの。だから、まず言葉を覚える事からだよ」
「じゃあ、ことば、が、おぼえ、られたら?」
「そうなったら魔法を教えたあげる」
「わたし、がんばる、のぉー!」

 そう言って、母親は一つの本をくれた。
 そこには、何かが書いてあるが全く読めない。
 今まで覚えた言葉では無かったのだ。

「これは魔法の詠唱の言葉だよ。言い方は一緒の言葉だけど、書き方が違うんだよ。覚えやすい方だけど、エルにはこれぐらいが丁度良いと思うんだよ。ほら……」

 そう言って、読み方を教えてくれた。
 書き方が違うが、言い方は全く一緒だった。

 これを毎日持ち歩いて、暇があったら読むというのを私は毎日繰り返した。
 そして、二歳の誕生日、私は遂にこの詠唱の言葉をマスターした。
 私一人では出来なかっただろう。
 母親に分からないと言ったら、その単語を丁寧に分かりやすく教えてくれた。
 そのお陰で規則性に気付き、一年で全て完璧に覚えれた。
 母親の話だと普通は十年は最低でも掛かって完璧になれるらしい。
 だから、私は天才と褒められた。
 これはとても嬉しかった。

 そして両親から誕生日プレゼントを貰った。
 魔法の本とペンダントだ。

 魔法になるためにはという題名の本には初級と中級が書いてあった。
 そこには文字がびっしりと書いてあってそれを読むだけで魔法が使えるようになるそうだ。

 因みにこの世界では本は貴重だ。
 印刷技術があまり発展しておらず、殆ど手書きの様な物だ。
 なので、自然と値段は高くなる。
 その中でも魔法についての本は物凄く高いらしい。
 だって、それを読むだけで魔法が使えるのだから。

 なので、この本は本当に物凄く高かった筈だ。
 それを買ってくれたという事は私にそれだけ期待していてくれるのだろう。
 少し嬉しい。

 ペンダントはMP三倍増加というスキルが付与されているらしい。
 アクセサリーで付与されているのも本と同等に高い。
 中でも倍増加のスキルは特別に高い。
 魔法の本を越すのもあるぐらい。

 どんだけ私に期待してくれてるのか。
 これは絶対にでも期待に応えなければ。

 そして、翌日から魔法の練習を始めた。
 まずは初級の中でも簡単な基本属性の技からだ。
 母親と一緒に練習して、私が分からない時にはあれやこれやとアドバイスをしてもらい、練習をしていった。









 ◇◆◇◆◇◆









 私は八歳の誕生日を迎えた。
 ここまで来ると私の今の名前、両親の名前あと専属のメイドの名前を知ることが出来た。

 私の名前はエルザ・エリファス
 父親の名前はジーク・エリファス
 母親の名前はテレス・エリファス
 メイドの名前はアーシャ

 そして、この家の凄い秘密も知れた。
 それは、この両親は名のある貴族だという事だ。
 王家の次に偉い貴族との事。

 色々な人が訪ねて来たが、その中でも後から知って驚いたのが、この国の王様が家に訪問して来ていた事だ。
 普通の叔父さんかと思った人が、まさかの王様だったと知った時は、椅子から転げ落ちそうになった。
 王様が訪ねて来るぐらい本当に凄い家だとこの時にやっと実感した。

 魔法の方はというと、少し伸び悩んでいた。
 五歳の時に上級魔法まで使える様になり、七歳で全属性魔法を習得できた。
 そして、それから半年間で《無詠唱》というのを使える様になった。
 これで、私は全ての属性を無詠唱で使える様になった。

 だが、上級の次、ましてや無詠唱の次など存在しない。
 そして私の成長は止まった。

 これを両親は知っているが、対処が出来ない。
 この国には私以上の魔法の使い手がいないのだ。
 いや、大陸にもいないだろう。

 そしてそれから今までの半年間は何一つ変わらない日々を過ごした。
 MPが増えていくだけで、これ以上の強い魔法は出来ない。

 私は今日両親に私は何をしたいと聞かれた。
 何も答える事が出来なかった。
 いや、なりたいものの夢はある。
 それは魔導士だ。

 だが、それを教えてくれるところがない。
 そもそも、私が覚える事などもう無い。

 だが、そんな時アーシャさんが、溜息まじりにある提案をした。

「何も無いというのであれば、お嬢様の実力ならばアルベルトにある学校に通われてはいかがですか?」

 この時、初めてこの世界にも学校がある事を知った。
 詳しい話を聞くと、そこはオリエント魔術学校というところで、最近創立されたところらしい。
 そして、現校長の名がオリエントという名だそうだ。
 何でもこのオリエントという人には色々な噂があり、天候を操るとか、地形を変化させるとか、中でも一番有名なのが、上級魔法の次の魔法を使えるというのだ。
 私は全属性の上級魔法が使える。
 そのせいで、何をしようにも次には進めない、そう思っていた。
 だが、この噂が本当で上級の次をオリエントが使えるのだったら、私にはここに行くしか道が残されていない。

 なら、私はここに行くしか無いだろう。

「お父さん、お母さん、お話があります」
「なんだい、エル」
「あらら、もしかして……」

 私は悩みに悩み……という事は無く、即決で覚悟を決め、両親に話す事にした。

「お父さん、お母さん、迷惑を掛けると思いますが、私をオリエント魔術学校に通わせてください。私はそこで学びたいです。いえ、正確に言えば、そこで上級魔法以上の魔法を学びたいのです。私はこれ以上は独学では伸びる事は無いでしょう。ですがここに行けば、私は更に強くなれると思うのです。なので、どうか」

 本音を全て言い、私の気持ちを両親に伝えた。

「いや、お前の歳では、まだ危険だ。怪我をするところなど見たく無い」
「ーーと、お父さんは言ってるけど、それは一人だった場合よ。お父さんもお母さんも貴方が行く事には反対していない。けど、親になると子供がどれだけ強かろうが心配はするのよ」

 親としての当たり前の態様だろう。
 しかし、これでは駄目だ。

「けどね、さっきも言ったけど、それは一人だった場合よ。本当に行きたいのなら、アーシャと一緒ならば私達は構わない。でしょう」
「まぁアーシャが一緒ならばな。それならば、安心できる」
「じゃあ、お父さん、お母さん……」

 なんて優しい両親なんだろう。
 やっぱり、この世界に生まれ変わって良かった。

「ああ、行っておいで」
「頑張ってね。まずは試験からだけど」
「あっ! そうだった。そうなれば、エル、今から試験勉強だ! 魔法の試験は余裕だろうが、筆記をどうなるか分からん。今からもう勉強をしなければ!」
「大丈夫だよ、お父さん。お母さんと一緒にやるから」

 私がそう言うと、「ガーン」と言いながらお父さんは崩れ去った。
 これにはアーシャさんも混じってみんなで笑った。








 ◇◆◇◆◇◆








 そして、十二歳になる誕生日の前日、私はオリエント魔術学校の試験を受けるために、アルベルトへと引っ越しした。
 十歳になってから試験を受けるのは、あんな会話をしておきながらまさかの試験条件が十歳になってからというものだったからだ。
 まぁこの試験までの時間があった事で私は色々とする事が出来た。

 使える魔法の再練習や、筆記についてなども改めてする事ができ、感覚的には今日まではあっという間だった。

 今住んでいる家は売らずに残しておいて、別荘とするらしい。
 いや、あれは元々別荘で、それに住んでいたらしいので、始めから別荘だったという方が正しいのだろう。

 それでアルベルトにある家が本当の家なそうだ。
 それは一言で言えばお城だった。
 真ん中に家があり、周りには塔が何個も。
 とても広い庭は走り回ってもあまりきるほど。
 後から聞くと、この家の敷地は十キロは端から端まであるらしい。

 私が感じた事。
 それは現実的だった。

 日本にはここまでの城は無いよ。
 多分、世界で探しても無いよ。

 との事だった。

 ……多分、これを見ればみんな現実的になると思う。
 いや、思うでは無く絶対にだろうな。








 ◇◆◇◆◇◆









 試験当日。

 アーシャと一緒に行った。
 因みに、アーシャは付き添いなので受けない。
 試験会場の端っこにいるだけだ。

 午前は筆記テスト。

 なんというか、暇だった。
 私はお母さんと一緒にやった様な難しい言葉などが出てくるかと思ったが、全く違い、詠唱の言葉をかけなどだけ。
 あまりにも予想外で、切り替えが遅れたが、いざやろうとすると、一瞬で出来た。
 残り時間はあと三時間ほど。
 なんで、こんなにも長いんだろうか。

 それを永遠と考えていた。

 そして実技試験が始まった。
 試験は室内練習場と呼ばれる場所で行われ、設置された的を魔法を使って破壊するだけと至って簡単な試験だ。
 しかし、破壊できなくても魔法の錬度を見るだけなそうなので良いらしい。
 試験会場前で渡された受験番号順に三十人ずつ、室内練習場に入っていき、その番号が早い者から一人づつ魔法を披露して、的を壊していくシステムなそうだ。

 私が最後だったらしく、中へ入ると扉が閉められ、試験官が「では、魔法試験を始める。順番通り並び、一人づつ各々の全力をあの的へぶつけろ」その言葉と同時に試験が始まった。

 最初の奴が、試験官に受験票を渡していた。
 試験官は「それでは、自分の一番得意な魔法を力の限り放ちなさい」と最初の奴に言い、一歩後ろに下がった。

「全てを焼き尽くす業火。我が手に宿り、全てを萌え尽くせ! ≪ファイアアロー≫」

 最初の奴が打つと下がり、試験官は評価シートに記録を取った。
 それも、その最初の奴はドヤで下がった。

 あれは引いたな。
 私はそう感じ周りの人々の顔色を伺った。
 誰一人として引いていない。
 もっと言えば、凄いと評価している人までいる。

 受験生は必死に自分が打てる最高の魔法を的へ放つ。

「荒地の如く佇む大地! 全てを瓦礫の如く蹴散らせ! ≪サンドブレイド≫」

「風よ舞、我に従え! 全てを薙ぎ払え! ≪エアカッター≫」

 などの厨二病といえる詠唱を二十九人分聞いた。
 辛かった、初めてこんなのを聞いたが、ここまで心が痛くなるものとは知らなかった。

 そして、遂に私の番が来た。
 今まで生温いものを見させてもらったので、そのお礼をしようと思う。

 ーー本気という名の魔法を

「最後ですね。三十番。あの的に自分の一番の攻撃を撃ちなさい」

 試験官がそう言い、私が魔法を放とうとした時、ある人物が室内練習場に入って来た。
 試験官はその人物を確認した瞬間、急いで頭を下げた。

「私の事は気にするな。なに、気になる覇気を感じてな。それも凄い魔力持ちの」
「そうですか。ですが、学園長、この者で試験は最後です。来るのが少し遅いかと」
「私はその子が気になっているのだ。だから、遅くはないよ」
「そうですか」

 この人があの噂に聞いていたこの学校の校長らしい。
 その人が私の事を見に来てくれた。
 ここは……全力出すしかないでしょ!

 私の得意属性は雷だ。
 それの私が使える一番の大技!

「≪天照雷覇シャイニングボルト≫」

 この魔法は範囲五キロ以内ならどこにでも雷を落とせるのだ。
 それも爆発と雷が合成したものなので、威力は元のよりも倍以上ある。
 因みに五キロ範囲に残らず雷を落とすことも可能だ。
 その場合、大量のMPを使うこととなるが。

 この超速度で飛ばされた魔法が当たった的は、跡形も無く、塵も残さず消え去った。
 あと、地面にクレーターができ、それと室内練習場の壁が結界を突き破り大きな穴があいた。
 これには、みんながぽかーんとしていた。

 ーーただ一人を除いて。

「……ふははは! 素晴らしいぞ! 私でもこれは予想外だったわ。面白いものを見せてもらったぞ」

 そう一人で笑って室内練習場から立ち去っていった。
 なんだったのだろう、本当に。
 まぁこれで良い感じだっただろう。
 試験は結構良い点数だと思う。

 試験が終わり、私を含めた受験生達は家に帰った。
 学校からそう遠く無い距離なので、感覚的には一瞬で家についた。
 お父さんとお母さんは二人揃って「試験はどうだった? 良い感じだった?」と聞いてきた。
 それはもう物凄い鼻息をしながら。
 私は多分良かったよ、と言った。
 するともう受かったかのようにおおはしゃぎしていた。

 まだ受かった訳では無いのに……まぁ期待されてるって事だよね。
 それだけで嬉しい。








 試験から数日経った。
 今日は合格発表の日だ。
 しかし、今は家の中で、家族総出でそれもメイドも全員リビングに集まっていた。
 その中で私は駄々をこねながらソファーに座っていた。

 そもそも、合格発表なのに家にいるのはおかしいだろう。
 それで私は怒っているし。
 家にいる訳は、今日の合格発表は……というか合格発表というものは一般人が行くものらしく、私の家は貴族、それも名のあり位も高い。
 そんな家の人物が行ける訳は無く、そいう人達には家に合格発表と順位が書かれた紙が送られるらしい。

「……行きたかった……」
「お嬢様、先程も言いましたが、どれだけ駄々をこねられてもそれは出来ません。ゆっくりと家で待ちましょうよ」
「……えぇえ〜」

 そんなこんなで過ごしていると、やっと手紙が届いた。

 結果は……

『エルザ・エリファス様、あなたはオリエント魔術学校試験の結果、合格となりました。つきまして詳しい順位表と制服、教科書などは後日送らさせて頂きます』

 まぁ要するに、合格だった。
 順位不明だけど。
 それでも嬉しい、高校の受験を合格した時よりもだ。

 お父さんとお母さんは順位が分からないのに、喜びに喜びまくった。
 あとメイドさん総出で食料の買い出しをしてくれて、パーティーを開催した。
 と言っても家族だけでだが。




 そして後日。
 送られた物を見てまたパーティーをした。
 そこにあった順位表を見て。

『エルザ・エリファス様。順位一位。
 新入生代表挨拶があるので考えておくように』

 うわっ! マジかよ。
 その順位を見て咄嗟に出てきたのはこの言葉だった。








 ◇◆◇◆◇◆








 そして入学式。
 ーーこの日、人生最後の日となるかもしれなかったが、そんな事を今の私はまだ知らなかった


 緊張で眠れない、そう思ったのだが、高校でもこんな事があったのでそれを思い出すと、自然に昨日はよく眠れた。
 なので、体調は凄く良い。
 この日の為に考えていた挨拶がしっかりと読めそうだ。

「緊張してないか? ちゃんと挨拶は覚えてるか?」
「あらら、お父さんは心配し過ぎですよ。それに多少は緊張していた方が良いのですから」
「ありがとう。お父さん、お母さん。じゃあ、行ってくるね」
「「行ってらっしゃい」」

 私はお父さんとお母さんと別れ、待機場所へ向かった。
 そこは、クラスごとに分かれていて、そのクラスは順位表と一緒に入っていた。
 因みにクラスはDCBASと別れており、成績が良かった順にSクラスから順番に入っている。
 私は主席なので勿論『Sクラス』だ。

 私の待機場所の所では、他に来ていた何人かの生徒がお話をしていた。
 そこで私も挨拶をすませると、初めはこんなところにいる人達だから物凄く真面目で喋りにくい人かと思ってたが予想以上に話しやすく、直ぐに仲良くなった。
 やっぱり、これも早希のお陰だろう。
 感謝、感謝。

「もう直ぐ式が始まるぞ。順位ごとに一列に並べ」
「「「「「はーい」」」」」

 待機場所に来た先生の言葉により、速やかに並んだ。
 この『Sクラス』には十二人いるそうなので、まぁまぁな列になっているだろう。

「今から式に行くぞ。しっかりと列を崩さず並べよ」

 その先生の声と共に、私達は式が行われる会場へと移動した。
 体育館の様な場所で、先生がドアを開け、私を先頭に会場へと入った。
 そして、在校生、教師、保護者、来賓の方々の拍手に迎えられた。
 式は来賓や、在校生代表、学院長の挨拶などが行われた。
 しかし、流石に少しは緊張をしてきた。
 話が全くという程でもないが、ノイズが掛かった様に聞こえて、耳に入ってこない。
 自分でも知らぬ間に集中をしていたのだろう。

 そして、最後の最後で、とうとう時が来てしまった。

 何という人かは知らないが、多分、副校長とかそんな人が「新入生代表挨拶。今年度入学試験主席合格者、エルザ・エリファス」と言った。
 私は、はいと返事をし、壇上の上へと上がった。

『ご紹介に上がりました、新入生代表エルザ・エリファスです。今日この素晴らしき良き日に、保護者、御来賓の方々に見守られ、教師、在校生の方々に迎えられ、このオリエント魔法学校に入学出来たことを大変嬉しく思います。私はエリフーー」

 ーードゴォォォォォンっっ!

 私は何かが飛んできたのを咄嗟に氷属性魔法で固めようとした。
 しかし、氷がその何かを覆った瞬間、遠くまで響く音がなり爆発した。
 これは完全に私を狙っての魔法だ。

「みなさん。早く逃げてください。何者かがここにいます」

 私はこんなにも人がいると本気が出せないと感じ、この場から全員逃す事にした。
 大慌てで逃げていき、勿論在学生や新入生も。
 こいう現場には遭遇して来なかったのだろう。
 そもそも、ここは貴族がやたらと多いし、仕方がないと言えば仕方が無いが。

 それでも残ったのは、私、在校生代表挨拶をしていた人、多分この学園の主席の人だろう。
 それと、学園長だけだった。

 ……お父さんとお母さんは無事に逃げさせたよね。
 残っていないし大丈夫だよね。

 そんな心配が頭から離れなかった。



「何者だ! 姿を現せ!」

 学園長が魔法が撃たれたと思われる方向に向かって叫んだ。
 だが、返事は無い。

「現さないのだったら、こっちから行くぞ」

 そう言って、学園長は水属性魔法をその方向目掛けて使った。
 だが、ある程度いった所で消えた。
 あれは魔法障害結界でも張られているのだろう。

 いや、そうであって欲しい。

 もし、あれを消したのだとしたら、この何者かは凄く強い事になる。
 それも私が勝てない程の。

『……ふむ、お前も中々の腕をしている。だが、お前らには今は用は無い。ーー失せろ』

 何者かのその言葉によって、学園長、それに在校生の方も倒れた。
 それも、何者かは何かをした様子は無いので、言葉だけで倒したということだろう。
 魔法が使われた感じもしなかった。
 本格的にヤバイ。
 これは私が勝てる相手じゃない。

『いい判断だーーしかし行動に移すまでが遅い』

 私はその声を聞いたのと同時に身体が飛んでいた。

 ーー痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。

 ありえないほどに、お腹が痛い。
 今……私は何をされたのだ。

 そんな事よりも、早く着地を。
 震える足を何とか動かし、足が地面に付くのと同時に威力を地面に流し着地をした。
 上手く出来たので足への痛みは無いが、お腹が痛い。
 口からは血が少し出て来ている。
 これで済んだのはまだいいほうだろう。

 早く、逃げる方法を考え無ければ。

『そう警戒しなくて良い。さっきのは……まぁなんだ、挨拶ってやつだよ』

 言葉が聞こえた方向を見るとそこに何かはいた。
 が、何なのかは分からない。
 その何かは顔に仮面を付け、魔力を纏っていた。
 それも普通に目で見える程の量を。

『我はお前を勧誘しに来たのだよ。いや、正確にはお前の力が欲しくてだがな』

 何を言っているのだ……こいつは。

『来る気は無いか? 魔王軍、もとい魔神軍に。お前はここに来れば確実に今よりも強くなれる』

 魔王軍、魔神軍? なんだその冗談は。
 いや、この状況で冗談は言わない……では本当に?

『本当だとも。この魔神軍幹部ルニウスが言っているのだから。ああ、お前にはそもそも拒否権は無いからな。もし拒否したら、バーンだ』

 そう言いながら指を開けてパーの形だった拳をグーになる様に握った。
 冗談かの様に言っているが、この話が冗談なわけ無い。
 冗談ならば、ここまでする必要は一切無い。
 しかし、ここまでの行動をしている。
 ならば、これは現実と受け止めた方がいいだろう。

「……そこに入るなら、あなたは、全てを置いて行けと言うのか」

『ああ、家族、友人、そんな者必要無い。絶対的な力だけあれば良いのだから』

「ふふふ。それならば、貴方には、いえ、魔神軍には入らない。私は家族を見捨てる事は出来ない!」

 そう言って、駄目元だが、雷属性魔法の試験でも使った≪天照雷覇シャイニングボルト≫の全力を使った。
 だが、それはルニウスの前で消えた。
 彼には魔法は通じないのか。
 なんだよ、マジで。あれが本物って事かよ。

『本当にこないのか? 今ならば、さっきのは許してやるぞ。来ないのなら、処分するしかないな』

「さっきも言っただろうが! 私はお前らなんかに付いていかない! 家族を見捨てれない!!」

 きっぱりとそう宣言した。
 これで良かっただろう。
 後は少しでも、長く戦うだけだ。
 勝とうと思わなくても良い。

『そうか……ならその家族が居なくなればくるとことか』

「何を言ってーー」

 そう私が言い終わる前に、こいつは何かの魔法を使った。
 向こうの方で鼓膜を突き破る様な、爆発音が何回も聞こえてくる。

「なっ、何をしたんだ!!」

『ふはははははっっ!! 何、逃げ出した者達に爆裂魔法を食らわせただけだ。……まぁ、最上級のだから、生き残りはいないだろうがな』

 嘲笑いながらこいつは私に言い切った。

 ………………嘘だろ。
 嘘だと言ってくれ。

『お前の家族はこれで死んだだろ。さぁ、我と一緒に来い』

「……はっ!!」

 身体が軋むが、そんな事は知らない。
 私は今出せるおもいっきりの叫びをあいつにした。

「誰がお前に着いて行くかぁっっ!! 絶対にお前をーー殺すっ!!」

『……そうか、非常に残念だ。お前は良い素材になれただろうにーー』







『ーーでは、用済みになった者は処分しないとな』

 来る! こいつは私を狙って、いや殺しに来る。
 私は覚悟を決め、構えた。
 だが、それは殆ど意味がない事だった。

 私の周り、三百六十度に黒く細長い槍が一瞬にして現れ、対処しようとした時には消えていた。
 それは、私に刺さって。

 槍はもう消えていたが、全身から血がだらだらと流れ、口からは大量の血が。
 内臓などの器官は抉れ、殆ど活動が停止している。
 しかし、自然と痛みは感じ無い。
 いや、痛みを感じる事さえも私は出来無いのだろう。
 痛みの信号が伝わる、神経線維が活動を停止し、脳から痛みが感じることが出来無い。

 これがどれだけ苦痛か。
 痛みを感じ無いのに、血がだらだらと身体から溢れ出て、唯一分かっているのは、死が近づいていることだけ。
 正直もう耐えられない……。

『もう、あと十分程か。これは、ほっといても死ぬだろう。しかし、我は優しき者だ。どこかに転移させてやろう。そこで助けてもらえる事を願うんだな』

 ルニウスは手を天に掲げた。
 空には大きな白く光り輝く魔法陣が浮かび上がった。
 私はあの魔法陣にされている魔法を知っている。
 あれは、転移の魔法だ。

 あれでルニウスは私を何処かに飛ばすのだろう。
 そして私は死ぬだろう。

『さらばだ。もう二度と会う事はないだろう』

 私の身体は一メートルぐらい宙に浮き、そして光り輝く白色の光が消えると共に、消えた。

コメント

  • アルビレオ・イマ

    主人公の姓って横井じゃないの?

    2
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