黒銀の精霊マスター ~ニートの俺が撃たれて死んだら異世界に転生した~

中七七三

第七一話:デトックス

「もうね、なに勝手に殺してんのよ! 私が禁呪で殺してやる予定だったのよ!」

 エロリィが刺すような視線でシャラートを見つめる。
 パンパンと足で地面を叩きながらブンブン両手を振り回す。
 北欧の美の極致が激オコ状態だった。

「私の攻撃の方が先でした。やったもの勝ちです」

 面倒くさそうに、シャラートは言った。
 身もふたもない言い方だ。

「あんたね、いつか絶対に殺してやるのよ。もうね、ガチホモを片付けたら、次はアンタなのよッ!」

 ビシッとエロリィがシャラートを指さす。

「上等です。ただ、今はガチホモ殺しが優先です。皆殺しにするのです」

 そう言うと、シャラートはふわりと前にでた。長い黒髪がサラサラと流れていく。俺の頬に柔らかくそれが触れる。
 いつもの、シャラートのいい匂いだった。
 まるで大気の流れに身をまかせ、風の中を舞うよな動きだった。

「どうしたんだい? 俺とやりあうんじゃ不満なのか?」

 ホモ・リンゴがエロリィの前に進んできた。
 コイツもでかい。プリプリとしたケツが目立つが、やはりガチホモだ。
 全身は筋肉の鎧。シャラートの倒した木冬木風に勝るとも劣らない強敵だろう。
 
 エロリィは「フン」と鼻を鳴らした。そして、目の前に進んできたホモ・リンゴを見やった。
 強い光を放つ勝気な碧い瞳が、これから倒すべき敵を捕らえていた。

「もうね、分かっているわよ。いいわよ! このプリケツのガチホモをぶち殺すことで我慢してやるのよ!」

「チビガキが言ってくれるな」

「なによッ! もうね、私は禁呪の天才で、プリンセスなのよ。アンタなんか一瞬で殲滅してやるのよぉ!」

 桜の花びらのような色の唇を開くエロリィ。そこにはチョコンとした八重歯が見える。

「ほう…… 面白い。どうやってやってくれるのだ」

 キュッとホモ・リンゴの目が細くなる。針のような視線でエロリィを睨んだ。
 全身から、暗黒の「ガチホモ闘気」ともいえるものが、噴出してきているような気がした。

「アンタなんかね。禁呪で瞬殺なのよぉ。もうね、殲滅なのよぉ!」

 蒼白い魔力光を身にまといながらエロリィが言い放った。
 鮮烈ともいえる光の中、金色の長いツインテールがゆらゆらと揺れていた。

「禁呪だと? ふん、所詮は、稚技にすぎぬわ――」

 ホモ・リンゴがバカにしたような顔をする。

 もはや、戦いはエロリィ対ホモ・リンゴという雰囲気になってきている。

 ライサもシャラートも、異論がないようだ。
 2人とも、戦いの場からは少し間を空けて立っている。 

 緋色の髪の美少女ライサは、真剣な顔でエロリィを見つめていた。
 あの、殲滅と虐殺の申し子で、美少女の形をして打撃兵器が、エロリィが先でいいと認めている。
 
 またしても、アイテムボックスから釘バットを出したのか。
 いつ間にはその手には、そいつが握られていた。

 そして、シャラートは油断なく、周囲を警戒している。
 メガネの奥の瞳が油断なく光っている。

 あれ…… ずいぶんと右目が充血しているけど……
 どうしたんだろ?

「ほう、そこまで、気を練って意識の糸を飛ばせるか……」

 金属製の鍵付ふんどし。電気アンマと掃除機を握りしめた変態野郎がシャラートを見て言った。

「アインに手を出したら、楽に殺してあげません。そこのデカ物のように、って……」
 
 シャラートの切れ長の目が大きく見開かれていた。
 発情して痴女モードになっているときはともかく、戦闘中にこれほど驚きの顔を見せることはめったにない。
 氷点下の暗殺マシーンなのだ。おっぱいは柔らかくて弾力があり、プルンプルンでモミ心地が最高なのであるが。

 俺もシャラートの視線を追った。

「な! なんじゃこれ!」

 びっくりした。シャラートが斃したガチホモ。木冬木風という奴。
 そいつが、とんでもないことになっていた。
 先ほどまで血を噴出していたのに、今は、なんか白濁液を全身から垂れ流していた。
 目、鼻、口、耳、ふんどしの隙間。ドクドクと白濁液を流している。
 ピンク色だった、白濁液はなんか黄ばんできている。

「これは……」

 そして、どんどんと身が細くなっていく。
 体重200キロありそうな巨体が小さくなっていった。
 身長まで縮んでいく。

 そして、いきなりだった。
 むっくりと上半身を起こした。
 そして、ヌルヌルとした白濁液を振り落としながら、立ち上がる。

「ははッ! まるで、生き返ったような気分です」

 白濁液に包まれた物体が口をきいた。

「な…… マンドラゴアの毒ですよ! 1滴で10頭のカオスドラゴンを葬る毒なのに……」

 シャラートが驚きの声を上げた。
 そして、キッと歯を食いしばって、刺すような視線を、復活した木冬木風に向けた
 暗殺者としてのプライドを傷つけられたのかもしれない。

「カオスドラゴンって、あのカオスドラゴン?」

「そうです。アインが2歳の時に瞬殺したドラゴンです」

 やっぱりそうだ。あのでっかいやつだ。
 俺が2歳の時にサラームに頼んで、首チョンパしたドラゴンだよね。
 あれデカイよ。まるでビルみたいな大きさだよ。
 あんなでっかいの10頭分? そんな毒を食らって死なないのか?

 ここにいる全員が白濁液にまみれた物体を見つめていた。
 そして、その物体はまるで、水にぬれた犬のようにプルプルと体を震わせた。
 飛び散る白濁液。そして、ツヤツヤした肌が露わになる。
 なにそれ?

「いやーすっきりしました。デットクスってやつですかね? 体も軽くなった感じです」

 つま先でリズムを取るように、トントンとジャンプするガチホモ。
 ふんどし一丁は変化ない。
 確かに変化ないんだが…… なんなの、この爽やかな物体。
 ニカッと笑って、歯かキランとか光っているし。
 誰だよこれ?
 なんなのこれ。
 
 デットクスで、体内の毒素が抜けたの?
 シャラートのぶち込んだ毒以外にも色々出て行ったんじゃないの?
 すんげぇ質量が減っているんだけど。
 
 もとは体重200キロ以上あって、全身傷だらけで、瞳孔開いて、涎と白濁液垂れ流しだよ?
 それが、なんかふんどし一丁の爽やかな好青年だ。
 知性らしき光がその瞳に宿っている。死ぬ前まで、そんなものは絶無だったのに。

 ふんどし一丁以外の面影が全く無い。
 身長は230センチくらいから180センチくらいになってる。
 体重は70キロもないだろう。かなりスリムだ。
 すごいな…… デトックス……

「アイン、これは、デトックスではないな――」

 エルフの千葉が、思案気に細い顎に指をやって言った。

「まあ、そうだろうね……」

 デトックスでこんなに痩せるなら、世界の女性は苦労しないだろう。

「おそらく、逆パンプアップではないかと推測できる――」

「なんだよそれ?」
 
 おれは疑わしさ満載の視線をエルフの千葉のおくる。
 聞いたことない言葉出てきたよ。これ。

「つまりだ、普段のこのガチホモは、体内で白濁液を大量生成。それを筋肉にまで流し込み、肉体の強大化を行っていたのだ! 体中を白濁液で常にパンパンにしていたに違いない」

 すっと嫋やかな指をガチホモに向けた。

「いやぁ、ばれちゃいましたかぁ。はははは! まあ、死にそうだったんで、一気に抜かせてもらいました。すっきりしましたよ」

 キラキラと光のこぼれる白い歯を見せ、ガチホモがいった。
 ほんとかよ?
 白濁液で体の中をパンパンにしてあんなになってたの?
 それだけで、全然別人になってんだけどぉ!

「でも、こうなっちゃうと、しばらく戦闘力はないんで、見学させてもらいます」

 そういうと、木冬木風は、隅っこの方にいって体育座りをした。
 完全に、見学の体勢に入っていた。
 なんだか、凄いんだが、すごくないんだかさっぱり分からねーよ。
 じっと、こっちを見つめる瞳には、ある種の真理に到達した賢者のような輝きがあった。

 茫然とした空気の中、エロリィが真っ先に立ち直る。

「きゃはははははは!! シャラートの毒も大したことないのね! やっぱ、私が殺してやるのよぉ! この天才の禁呪のプリンセス様がぁぁ!」

 金色の光のこぼれる。金色のツインテールが甲高い絶叫の中をたなびく。
 
「おい! お前の相手は、この俺だ。このホモ・リンゴが相手をしてやる」

 ケツをプリンプリンさせながら、ホモリンゴが刃のような言葉を突きつける。
 そして、グッとふんどしからはみ出ている剣の柄のような物を握りしめる。

「いけぇぇぇ!! 魔剣アナル・ビーズ!」

 ニュルニュルと湿った嫌な音をたて、ふんどしの隙間からリンゴくらいの大きさの玉が連結された物が出てくる。

「お、おぉ、お、お、お、お、おおおおおお~ いい、この抜くときの感触がぁっぁぁああ」

 腰をガクガクと震わせながら、ホモ・リンゴは「魔剣アナル・ビーズ」を抜き去った。
 それを右手にもってエロリィに対峙する。
 ただ、すでに目がとろぉーんとしており、焦点があってない。
 口の端から、涎を垂らしている。

「ふ、あの表情―― ホモ・リンゴのガチの表情だ。もはや勝利は動かん」

 デンマと掃除機を握しめたガチホモ四天王の1人、アナギワ・テイソウタイが言い放った。

「まったく、いつみても、恐ろしくも、羨ましい武器ですね」

 アナール・ドゥーンが言った。
 いや、オマエの武器も、「恐ろしい」という意味じゃ同じレベルだから。
 そんなところからホース生やして、弾丸を撃ち出すんだよ。

「ふふーんだ! 関係ないのよ! そんなけがらわしい物なんかに、触らないでも、殺してやるのよぉ!」

「あああ、穴がひらっきぱなしでぇぇ…… 空気が、空気がぁ……」

 なんか、ホモ・リンゴが歩くたびにパフ、パフと空気が抜けるような音がする。
 どこに空気が入って、どこに抜けているのは深く考えたくもない。

「らめぇぇぇ~ あああん、もっと、もっとガンガン突き上げてぇぇ、もっと激しくていいのぉぉ、私の魔力回路の中にもっといっぱいドピュドピュして欲しいのぉぉ~ やぁぁぁぁ~ん、らめぇぇ、魔力が出来ちゃうお部屋に、どんどん魔素が入ってくるのよぉぉぉ~ 熱いのよぉぉ、ああ、んんくぅぅぅッ…… キツイのぉぉ、ガンガン突かれると、魔力回路がぁぁ~ ああ、そこは、そこは――」

 ビクンビクンと痙攣しながら、禁呪を唱えるエロリィ。
 全身が眩い魔力光に包まれていく。
 頭上に巨大な複層魔法陣。そして広げた両腕、両脚にもリングのような魔法陣が展開されていく。

 しかし――

「ああ~ なにがぁ~ あ、あ、あ、あ、あ、殺してやるぅ」

 ホモ・リンゴが突っ込んできた。
 トローンとした顔のまま、魔剣アナルビーズを振り回す。
 長さが2メートル以上ある得体の知れない武器だ。
 剣というよりは、ボールが連なった鞭のようなものだ。

 風を切り裂き、禁呪詠唱中のエロリィを襲った。

「エロリィ! 危ない!」

 俺の叫びと同時だった。
 エロリィが禁呪の詠唱を中断。
 大気を切り裂き吹っ飛んできた「魔剣アナル・ビーズ」を後ろに飛んでよけた。
 前の方に流れた金色の髪の毛の何本かが、剣風に巻き込まれ、切れて飛んでいく。
 まるで、光の粒子のように見える。

「もうね、禁呪の途中で妨害とかやってくれるわね!」

 エロリィは苦しそうだった。
 ゲホゲホと咽っている。白濁液が口から吐きだされていた。
 逆流した魔素だ。
 大気中に存在する魔力の素となる物質を体内で濃縮したものだ。
 凄く苦くて、嫌な臭いのする白濁液なのである。

「あ~ よけちゃうんらぁ、よけるのぉぉ? ああ、これでもっと楽しくやろうよぉぉ」

 ビュンビュンと魔剣アナルビーズを振り回し、迫るホモリンゴ。
 プリプリとしたケツが動くたびに、空気が抜けるような音がする。
 聞きたくない。

「ふん、ガチホモ相手に、もったいないけど、ここで見せてやるのよ――」

「はぁ、なにを見せてくれるんだぁ? クソ牝豚が、あああああ、殺してやるぅ」

「神聖ロコーン王国秘伝―― 『スカンジナビア拳法』」

 エロリィはピンクの唇を小さく動かし、その言葉を風に乗せた。

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