黒銀の精霊マスター ~ニートの俺が撃たれて死んだら異世界に転生した~

中七七三

第四四話:魔力充填率120%!

「どぉぉぉずんだよ゛ぉぉぉぉ゛~ うおぉぉおップ」

 強烈な吐き気が襲う。腹がパンパンに膨れ上がっているのが分かる。
 吐きたいのに吐けない。意識が遠のく。腹を銃で撃たれたときよりキツイんじゃないかと思った。あれ、一瞬だったし。
 サラームに言って、風を操りとりあえず、城壁のところにおりた。
 魔素をゲロしながら、無重力遊泳するのはさすがに避けたかった。

『ねえ、アイン、魔力回路が結構回っているわね! 凄い魔力! 私もパンパンになりそうだわ』
『おげぇぇぇ! もういいから、なんでもいいから。く、ぐるじぃぃぃ、なんとかしてぐれぇぇ』
『えー、しらないわ。でも、魔力使えば魔素も消費されるんじゃないかと思うわ』
『おげげげぇぇぇ~ ぞうかぁ…… おぇっぷ。死ぬ、もう死ぬ。2度目の死が見えてきた――』

 俺の腹は切れそうなほどパンパンになっている。もはや皮膚の表面張力の限界にちかい。

 エメラルドグリーンの瞳でエルフの千葉が心配そうに俺を見つめている。

「大丈夫なのか? アイン――」
「これが、大丈夫なように見えるなら、頭か目が狂っとる…… おげぇぇぇ~」

 なんとか正常に話すことができたが、息が苦しい。

 サラサラとした髪の毛が俺の腹に触れた。この感触は――
 やはり、シャラートだった。
 彼女は、俺のパンパンになった腹を愛おしそうにスリスリしている。

「ああ、このお腹に、私とアインの愛の結晶が――」

 なに言ってんですか? お姉様。
 頭おかしいんですか? まあ、それはデフォルトなのは知ってますけど。もう、小さい時から知ってますけどね。

「あはッ! 腐れでか乳メガネの魔素なんかより、私の魔素の方が美味しかったよね?」

 ライサも俺のパンパンに膨れ上がった腹に唇をよせてきた。
 舌を伸ばして、ツーーと舐めてくる。なにやってんの? 気持ちいいけど、それどころじゃないから。
 そんなことやられると、俺どうかなっちゃうよ?
 つーか、魔素の味なんてどれこれも最低だから。味云々の問題じゃないから。

 このねっとりと喉とか舌に絡みつく、ドロドロした食感。最悪だ――
 鼻から噴出した魔素の臭いで、頭が狂いそうになってくる。
 似たような臭いを嗅いだことあるが、それを連想すると更に気分が悪くなる。

 なんで、異世界の美少女たちは、こんな理不尽なヌルヌルの液体を生成するのだ?
 超絶的なドアホウな異世界に対し、俺は怒りを覚え、吐き気の中で全身をプルプルさせた。

「もうね、アインの初めては私なのよ! もうね、最初に魔素を飲んだのは私のだからね!」

 ポーンとエロリィが無重力の中飛び上がり、俺の腹の上に乗っかってきた。
 無重力でなければ死んでいた。
 ラッコの子どものように、俺の腹にしがみ付くエロリィだった。

「パンパンになっても私の愛のこもった魔素を全て飲んだのですね」
「あはッ! 私のも、残らず飲んだよね! やっぱ、アインは凄いね」 
「もうね、なに言ってんのよ! アンタら強制的に流し込んだんでしょ!」

 俺の苦しみとは関係なく、ガールズトークを始めだす俺の婚約者たち。
 どーすんだよ。
 宇宙空間に放り出されて、俺は婚約者の生成した魔素でパンパンで死にそうになるし――
 なんちゅーか、もう何がなんだか、わからんよ。どーすんの?

「アイン許嫁メンバーの美少女の皆さん――」

 星の光を反射してキラキラの髪の毛をふわりとなびかせ、エルフの千葉が言った。

「アインが苦しんでいるようです。ここは自重した方がいいかと――」

 クイッとエアメガネを持ち上げるポーズを極め言葉を続けた。
 さすがに心の友だった。千葉よ……

「そうなのですか? アイン」
「なんだよ? アイン、苦しいのか?」
「もうね、アインのお腹が気持ちいのよ」

「いや、さっきから、苦しいと、死にそうだと言っているんですけど……」

 パンパンの腹を揺らして俺は言った。もしここに重力があったら、俺はもう死んでいたのではないかと思う。

「ここは、不肖! エルフの千葉にお任せください!」

 ビシッと居を正し、エルフの千葉が宣言したのだった。コイツの宣言とか、意見具申はろくなことが無い。
 なにをする気だ? 千葉よ……

「アイン――」
「なんだよぉ……」
「俺は、異世界に来てもPCにため込んだ情報にだけ頼るのは危険だと思っていた」
「はぁ?」
「つまり、俺の脳の中にはこのような事態に対する対処方法もインプットされているということだ」

「フッ」っと勝ち誇る様な笑みを浮かべ、エルフの千葉が言った。

「アイン! 『ヒッ・ヒッ・フー、ヒッ・ヒッ・フー』だ! 『ヒッ・ヒッ・フー、ヒッ・ヒッ・フー』しかない!」
「なんで、異世界で、男の俺がラマーズ法をやらなきゃらないんだ? 俺孕んでねーよ!」
「異世界では男が孕む危険性もある―― 俺の修めた『血破・覇極流』ではそのような事態も想定していた――」
「すげぇ、通信教育だな! 感心するよ! でも、それ意味ないから!」

「いえ、この際、なんでも試してみるのが、よろしいかとこの私めは愚考いたします」
 セバスチャンが読み上げソフトのように言った。
 黙れよ。爺さんの晩ごはんの準備でもしてろよ。本当に、ろくなもんじゃねぇよ。

 俺は手足をジタバタさせて、転がる。
 手足までパンパンに膨らんでるじゃねーか。どーすんだよ。もう、風船人間だよ俺。

『ああ、魔素が濃すぎるわ! 暑いの! アインの中、魔素の密度が濃すぎて、凄く暑くていられないわ!』

 アンビリカルケーブルに繋がったままの精霊様が俺の体から飛び出してきた。
 パタパタと俺の腹の上でホバリングする。
 精霊のサラームは俺にしか見えないのだ。

『サラーム、なんとかしてくれぇぇぇ』
『ねえ、アイン、やっぱり魔法を使って、魔素を消費した方がいいわ』
『魔法だぁぁ?、どんな魔法を使えば…… おげぇぇぇ』

 またしても吐き気がぶり返してくる。

『私に考えがあるわ』

 羽虫並みの脳みそしかないんじゃないかと思える精霊様の考えを聞くのはどうかと思ったが、俺には他に選択肢がありそうになかった。
 ラマーズ法よりまともなら、それでいい。

『アインの魔力回路をフル回転させて、魔素を一気に魔力変換するわ』
『ほう、魔力回路のフル回転って…… どーすんだよ』
『回転しろぉぉぉ! 見たいな感じで! 「動け! 動いてよ! 今動かなきゃ、今やらなきゃ、 俺死んじゃうんだ! もうそんなのいやなんだよ! だから! 動いてよ――!」って感じで叫ぶのよ』
『意味分からん! 動くのか? それで動くのか? 魔力回路は?』
『アインが信じれば、動くわ』

 会話が無意味な方向に流れそうなのでもういい。
 俺は、話を先に進める。

『分かった動かして、魔力を作るよな。それでどうなるんだよ?』
『魔力を充填率120%まで貯めたら、私がなんとかするわ』
『その「120%」という言葉だけで不吉な予感しかしないんだけど』
『アイン―― 魔法波動方程式によって構成される特殊解に導かれた……』
『てめぇ、適当なことぬかすなよ! このヲタ精霊!』
『適当じゃないわ! この特殊解で導かれた、圧縮された16次元多層時空間をコンパクト化して…… ああ、あとどうだっけ?』
『しらねーよ! てめぇの脳内設定なんかしらねーよ!』

 アニメ見過ぎて、頭が変になった精霊がなにかよからぬことを考えているのは分かった。

『まあいいわ! とにかく、体内の魔力回路で生成した魔力を軸線上に放出! それによって発生した余剰次元がマイクロブラックホールを空間に展開! 更に、マイクロブラックホールの高速回転によるホーキングふく射を使って時空間断層を生み出し、軸線上に存在するありとあらゆるものを破壊し、次元断層の裂け目に叩きこむんだわ! それしかないわ!』
『人を次元爆宿兵器にする気かよ! 恐ろしいよ、俺は! いろんな意味でお前が恐ろしいわッ!』
『我々には、テストをしている時間はないわ――』
『テストの有無とかそんなもんは問題にしてねーよ! アホウか!』

 ウィィィーーーン――
 甲高い金属音が俺の体の奥底から響いてきた。

『なんじゃこれ?』

 ドドドドドドドドドドドドド――

 なんかものすごい重低音が響くんだけどぉ?
 凄まじいパワーユニットが俺の体の中でフル稼働しているような音なんだけど?

『あああああ、なにした? なんか体の奥でぇぇぇ!! なんか、すんごい音がしてるんだけど?』
『しらないわ。魔素が濃すぎて勝手に動き出したんじゃないの?』
『なにが?』
『アインの魔力回路――』
『なんでじゃぁぁ!』
『しらないわ。でも、もうやるしかないわ。覚悟を完了させなきゃだめだわ! アイン』
『ちょぉぉぉ!』
『発射は私が制御するわ』

 サラームはどこから取り出したのか、ゴーグルのような物体を装着する。精霊様よ。一体何をする気なんだ?

『セイフティーロック解除、魔力圧力、発射点へ上昇中―― ターゲットスコープオープン!!』

 続けて空間に引き金のようなものが出現する。
 それを握りしめるサラーム。

『ちょぉぉぉ!』
 脳内で叫ぶ俺。

「逃げろ! シャラート! ライサ! エロリィ! 千葉ぁぁぁ! ここから逃げろ! 早く逃げるんだぁぁぁ!」

 凄まじくろくなことにならない予感がひしひしするわ!
 宇宙に出て、魔素でパンパンになって、こんどは魔力充填120パーセントかよ!
 なんだよこれ?

 俺の叫びを無視して、ポカーンとしている許嫁たち。

「アイン? いったいなんですか?」
「あはッ! 逃げろって? どこに逃げるんだよ? 外はでられないぞ」
「もうね、なに変なこといってんのよ?」
「アイン、苦しいのか『ヒッ・ヒッ・フー、ヒッ・ヒッ・フー』だ! 『ヒッ・ヒッ・フー、ヒッ・ヒッ・フー』しかないぞ」

『魔力装填! 魔力回路より魔力生成中! 内圧上昇 100、110、魔力充填率120%!!』

「わーーー!! 間に合わん! もう間に合わん! みんな! 対ショック、対閃光防御だ! 死ぬぞ! 早くしろ!」

 俺は叫んだ。俺の予想通りだとすると、大変なことになりそうな確信がぁぁぁ!

『サラーム! やめろ! 人類はそれを手にしてはいかんのだ!』
『私、人類じゃないわ。精霊だし!』
『やめろぉぉぉ! あががががああああああああああああああああ!』

 顎開いたまま、関節がカクンと固定された。
 俺の口の周囲にポッポッポッポッポッ―― と、フォトンの粒子が集まってくるのが分かった。
 やばすぎる。

『5.4.3.2.1…… 「ラマーズ砲」発射!』

 なんだそのネーミング!!
 俺の魂の叫びともに、なにかが俺の尾てい骨から脳天に向け突き抜けた。
 今までの苦しさから一転して、凄まじい快感が俺の全身を支配していた。あががががががあああああああああああ!!!

「「「「アイン!!!」」」」

 俺の眼の前が閃光に包まれる。
 婚約者たちの叫び声が交錯する。

 凄まじい閃光が走っている。
 俺の口から発せられた稲妻を束ねたような魔力光は、特に何かを破壊することもなく、すぅぅーーと消えていった。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…… あああ、腹が、腹がへっこんでる……」

 俺は自分の腹を見た。元の状態に戻っている。
 更にだ。吐き気も気分の悪さもなくなっていた。
 俺の体内でパンパンになっていた魔素は吐きだされたのか? 今ので?
 無事か? みんな!

 シャラートもライサもエロリィもそして、千葉も無事だった。
 なんか、心配そうに俺を見ていた。
 まあ、知り合いがいきなり口から閃光を発射したらそりゃ、心配になるわ。

「なあ、アイン?」
「なんだ? 千葉」
「あれはなんだ?」
「あれ?」

 エルフの千葉はゆっくりと細く嫋たおやかな指をすっと上げた。
 俺はゆっくりと立ち上がり、その方向を見た。

「なにあれ?」
「いや、今、オマエが吐きだしたものだが……」

 そこには真っ黒いというか、漆黒というか、深淵の闇の色をした楕円形の物体が宙に浮いていた。
 さらに、その物体の周囲には複雑な幾何学的な紋様を刻んだ、環が何本もクルクルと回っている。
 真っ黒いラグビーボールのような感じだ。大きさも同じくらい。 

「なんだこれ?」
 俺はもう一度言った。

『アンチマター? すごいわ! すごいわね! アイン!』
『アホウか! これがアンチマターだったら、俺ら宇宙の塵(ちり)だ! いや、このあたりの星ごと木端微塵だ!』

「なによこれ? もうね、アインは変なの生むのよぉ、アインの卵?」
 ふわりと金髪のツインテールをなびかせ、エロリィ首をひねる。

「卵なら、私とアインの赤ちゃかもしれません」
「俺、男だし、哺乳類だし、卵産まないから物理学的にも、生物学的にも」

 無茶苦茶なことをのたまう俺のお姉様兼婚約者のシャラート。
 おっぱいでかいが、頭の方は色々問題が多い。

「そうですか―― アイン」

 ちょっと残念そうにシャラートは言った。

「あはッ! ぶっ叩いてみればわかるだろ?」
「ちょぉぉぉ!! まて! ライサ待て!」

 ライサがすっと釘バットを構えた。
 アホウか! ばか、もしアンチマターなら死ぬぞ! 触るな!

 俺の忠告が聞こえなかったのか、ガン無視なのかライサは一気に釘バットを振り下ろした。

 がががああああああああああああああああああーーん!

 魔法の物理結界で守られたパンゲア城全体がビリビリと震えた。青白い閃光が走った。
 魔力光に似た閃光だった。

 縦に円柱のような魔力光の柱が出来ができた。
 眩い光の中、その輪郭だけがなんとか確認できた。
 ブォォォーーンと羽音のような音が響いている。

「あ~!、なんじゃこれ?」

 徐々に青い光が収束していく。

「おい…… 千葉……」
「ああ、アイン……」

 青い光の中――
 なんか見覚えのある形が見えた。
 俺と千葉はじっと見つめていた……
 俺たち2人はこれを…… いやこの人…… いやこの生物か…… それをよく知っていた。

 金髪のショートの髪の毛。
 その髪の毛を貫き、螺旋を描く角が生えている――
 黒いボンテージの服に、強烈なおっぱい。巨大な2つの凶器が激しく自己主張していた。
 おそらく背中では小さな羽がパタパタしているのだろう。

「あああん、いきなり呼び出すなんて…… 天成君って結構強引なのね。でも、大人の女を本気にさせるなんて、いけない生徒さんね、うふ(ああん、ダメよ、いきなりなんて…… ううん、本当はダメじゃないかも、あたしの女の部分が喜んでいる…… ああ、分かるの。これは、天成君…… アナタが私を必要としているってことなのね。うふ)」

 その存在は言葉を発した。内面描写もダダ漏れ。

「先生―― 池内真央先生……」

 聖職者(性色者)の帰還であった――

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